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介護医療院への転換、「厚労省の強力な指導が必要」 ── 7月18日の定例会見で武久会長

Posted By araihiro On 2019年7月19日 @ 5:17 PM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は7月18日の定例記者会見で、介護医療院への転換について「厚労省老健局の強力な指導が必要だ。全国担当者会議などを開いて周知しないと現場が動いていかない」と述べた。同席した日本介護医療院協会の鈴木龍太会長は「自治体職員向けのセミナーを開催してほしいという意見も出ている」と説明した。

 この日の会見は、①介護医療院について、②老健の多機能な施設への転換について──の2項目をテーマに開かれた。

 ①については、現状の問題点を挙げた上で、6項目の要望を示した。②については、過疎地域などの単独型老健が厳しい運営を強いられていることを説明した上で、「多機能な施設への転換を認めてほしい」と訴えた。

 武久会長の説明は、以下のとおり。同日の会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
  → http://jamcf.jp/chairman/2019/chairman190718.html

2019年7月18日の定例記者会見
 

[司会:池端幸彦副会長]
 ただ今から日本慢性期医療協会定例記者会見を開催したい。早速だが、会長からプレゼンしていただく。
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療養病床改革のスピードが非常に遅い

[武久洋三会長]
 本日は、介護医療院への移行を中心にお話しさせていただく。現在、移行がなかなか進んでいないことは日本慢性期医療協会にとっても非常に大きな問題である。

 介護医療院は4月末の統計で全国に150施設あり、ベッドは約1万床であることが公表されているが、介護医療院が1施設もない県もある。地域的な偏りもあり、全然移行が進んでいない状況である。

 厚労省が計画して大々的に進めてきた療養病床改革のスピードが非常に遅くなっている。こうした現状について、厚労省もヤキモキしているのではないか。
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療養病床が多い道府県は開設数も多い

 5ページを見ていただくと分かるように、医療療養病床と介護療養病床のバランスに地域差がある。

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05_2019年7月18日の記者会見資料

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 都道府県によって、医療療養病床が非常に多い一方で、介護療養病床は少ない所がある。また、いずれの療養病床も非常に多い所があるし、非常に少ない所もある。療養病床の総数は、どちらかというと西高東低になっている。

 6ページは、介護療養病床数と介護医療院の開設状況である。

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06_2019年7月18日の記者会見資料

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 ブルーが介護医療院。オレンジが介護療養病床。人口当たり療養病床が多い道府県は開設数も多い。スパイクみたいになっている所は、介護医療院が開設されていない。表を見るだけで分かる。
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介護医療院への転換意向、療養病棟入院料1は少ない

 7ページは、今後の届出の意向。入院医療等の調査・評価分科会に出された資料である。

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07_2019年7月18日の記者会見資料

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 療養病棟入院料1は、地域包括ケア病棟に移りたい所が多く、介護医療院への転換意向は少ない。これに対し、療養病棟入院料2や経過措置の病棟では、介護医療院への転換意向が多い。
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介護医療院への転換について、現状の問題点

 介護医療院への転換について、現状の問題点を示す。

 1、介護医療院への転換に際し、役所の担当部門が慣れていないので、時間がかかっている。

 2、介護医療院への転換に際し、求められる書類が莫大である。

 3、だから介護医療院への転換の申請をしてから許可が下りるまでに都道府県によっては時間がかかるところもあり、期間がまちまちである。

 4、介護保険施設でない医療療養病床から介護医療院への申請を拒否している市町村が多発している。

 5、結果として令和3年3月31日までに予想される介護医療院への移行量10%にも達してない現状を憂慮すべきである。

 6、厚労省は担当部署が幾つも分かれているが、介護医療院への転換がスムーズに進むように、省内で協力して連携し、改善してほしい。

 7、介護医療院には医師が常駐している。看護職員も多くいて、施設としては医療機能が充足している。レントゲン撮影もできるし、緊急時対応もスムーズであるので入院希望が多いと思われる。

 8、要するに、介護保険施設としてはベストな施設であると考えている。

 9、医療制度改革によって急性期の絞り込みが進行し、慢性期は治療病棟しか認めない方向が示されている。20対1では医療区分2・3が8割以上である。従って、それらの受け皿として、介護医療院への転換は喫緊の課題である。

 10、医療療養病床からの転換などによって、医療介護にかかる予算は全体で効率化されるのであるから、迅速に対応すべきである。
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介護医療院への転換について日慢協の要望

 続いて、介護医療院への転換について日慢協の要望を述べる。

 1、1日930円の移行定着支援加算の令和3年3月31日までの算定期限を2年ほど延長してほしい。

 2、介護医療院への転換の事務手続を迅速に行ってほしい。

 3、都道府県への地域医療介護総合確保基金の適用範囲を拡大し、介護医療院へのさらなる補助金としてほしい。

 4、国保の保険者同様に、介護保険の保険者を都道府県にしてほしい。

 5、介護保険サービスの提供料とも関係するが、全国の市町村でそれぞれ介護保険の保険料がばらばらである。将来高齢化が進み、介護保険料が一部の市町村で高騰するようなことがないように対応してほしい。

 6、病院は治療して、病気を治すところである。病院と介護施設の機能を明確化して運用できるように、病院や介護施設だけでなく、財務省をはじめとする各省庁や国民も協力して事に当たってほしい。それぞれが自分たちの損得を主張していては、よい方向には進まない。医療と介護の担当範囲の大幅見直しが必要である。

 これらが介護医療院への転換についての要望である。
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老健から多機能な施設への転換を認めてほしい

 次に、老健についての要望である。老健から多機能な施設への転換を認めてほしい。

 近年、老健の入所率が昨年の同時改定以来、下がってきている。一部では80%を下回っている施設もある。老健自体では運営の継続は難しいので、なんとか対応してくれないかという意見が会員の中からも増えてきている。

 老健は場所によっては短期入所滞在型の入所施設としてのみの運営が不可能な施設がかなりある。日慢協の会員施設では、約600以上の老健を運営している。その中で、人口の少ない地域にある単独老健は、特に近隣にその老健以外に介護関係施設などがなければ、地域住民から多機能な機能を果たすことを求められる。

 すなわち、ショートとか従来の老健の機能のほかに長期入所、要するに特養の代わりや介護医療院、リハビリ機能を求められるというのが現状である。

 病院や介護施設などは、地域の中で必要な場所に適材適所に配置されていることが当然であるが、今、地方では人口が減少し、病院や介護施設が新設される可能性はほとんどない。さすれば、既存の施設を多様化させるしか、地域に応える道はない。

 特養の運営母体のほとんどを占める社会福祉法人はかなり制約があるが、運営母体のほとんどが医療法人である老健を、重度要介護者が入所する特養が介護医療院の代わりに、そして「要支援」「自立」の方が入所するケアハウスやサ高住の代わりに多機能型老健として、その地域に1カ所しかないのであれば多機能化して、そこへ入所できるように検討してはどうか。

 2008年には病院から施設への転換を認め、「転換型老健」がつくられた。この過去の実績を踏まえ、老健から多機能な施設への転換を認めてほしい。地方の単独型老健は空床が増大して、赤字経営状態の老健が増えている。喫緊に検討してほしい。

 続いて、日本介護医療院協会の鈴木会長から補足していただく。
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人口千人当たりの療養病床は都市部で少ない

[日本介護医療院協会・鈴木龍太会長]
 5ページを見ていただきたい。75歳以上人口千人当たりの医療療養病床数と介護療養病床数をグラフ化したもので、赤い所が介護療養病床、青い所が医療療養病床である。

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05_2019年7月18日の記者会見資料

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 これを見ると、やはり都会は療養病床の総数が少なめで、西高東低となっている。京都は介護療養病床の占める割合が高いが、都会なので療養病床の総数はそれほど多くはない。全体として都会は少なめである。
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介護療養病床の総数は東京が一番多い

 6ページを見てほしい。

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06_2019年7月18日の記者会見資料

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 青い棒グラフは2018年12月末の介護医療院の開設数なので、ちょっと古くなるが、やはり人口当たりの介護療養病床が多い所に介護医療院ができている。

 オレンジは介護療養病床で、特に高い所がある。実は、介護療養病床の総数は東京が一番多くて、約4,000床ある。皆さん、そういうイメージはあまり持っていないと思う。特に、23区内には介護療養病床があまりないというイメージを持っていると思う。

 調べてみたところ、東京の介護療養病床のうち半分くらいが23区内にある。多摩地区が約2,000床、23区内が約2,000床ということで、東京の23区内にも全国有数の数がある。人口比率で言うと、そうでもないが、総数は東京が一番多い。
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東京では、4,000床の一部しか開設していない

 東京では、この4,000床が介護医療院になるかどうか悩んでいる。東京都が改修理由などをはっきり決めたのが今年の3月で、少し遅れていた。そのため、3月以降に申請し始めた。

 結局、改修しないで昨年度中に介護医療院が開設されたのが東京都は1施設のみ。改修の補助を頂いて開設できたのは現在、3施設ぐらい。トータルで4施設しか開設していない。詳細な数字はまだ出てきていないが、4,000床のうち、ほんの一部しか開設していない。

 東京都にお聞きすると、「いつでも受ける、ぜひ進めたい」という回答であり、受け付けはしている。けれども、先ほど武久会長がおっしゃったように、事務的な処理が本当に大変で時間がかかることもあって、なかなか進んでいない状況である。
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4,000床が一斉に申請したら間に合わない

 介護医療院への転換を進めるための「移行定着支援加算」は、来年4月に開設しなければ1年間フルではもらえない。しかし、今後を想像してみてほしい。4,000床の皆さんが一斉に東京都に申請を出したら、とても間に合わない。

 施設のほうが申請を躊躇しているだけではなく、申請をいつでも受け付ける姿勢を見せている自治体でも時間が足りないというのが現状である。

 こうした状況を踏まえ、ぜひ移行定着支援加算をもう少し延ばしていただきたい。事務的な処理にかかる時間などを考えると、とうてい間に合わない状況になっているので、加算を延長していただきたいと思っている。

[武久会長]
 最低2年は必要だろう。介護保険は3年単位だが、最低でも2年間は、この加算を残してもらわなければ厳しい。現実問題として動けない。
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療養病床には、医療の要素が低い所がかなりある

[司会:池端副会長]
 それでは、各社からご質問を受け付けたい。

[記者A]
 市町村の中には、介護医療院を設置することについての意義が十分に理解できていない所もあるのではないか。(介護保険財政を圧迫するという)お金の面もあるかもしれないが、そもそも、まず理解をされていないのではないかと感じた。

 要望の4番目に、「国保の保険者同様に、介護保険の保険者を都道府県にしてほしい」とあるが、これもそのような考えがあるからだろうと思ったが、いかがだろうか。

[武久会長]
 おっしゃるとおりだと思う。地方の役所としては、すでに人口が減り続けているので、「われわれの町の介護施設はもうこれで十分だ」という認識で、そのように考えている市町村も少なくないと思う。

 しかし厚労省としては、全体の病床数を減らしていきたいという思いがある。例えば、7対1の急性期病床を減らそうと考えても、(7対1病床に相当する)「急性期一般入院料1」の届出が90%以上になっている。病院側がかなり抵抗している。

 療養病床についても、介護の要素が非常に高くて医療の要素が低い所が、まだかなりあると思う。前回改定で医療区分2・3の患者さんを8割以上に限定したので、ここで余ってくる所は介護医療院に移行するだろうと考えている。

 このため、いわゆる国のマターを市町村に押し付けているのではないかと、市町村のほうも感じているのではないか。
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セットバックして、もう1回きちんとしてもらう

[武久会長]
 この問題については、厚労省の中でのいろんなセクショナリズムも関係しているので、地方の市町村と話し合いをして、ある程度まとめていく必要があるだろう。

 この20数年の間に、居住系施設が特養、老健、サ高住をはじめ120万床も増えている。特養では要介護度が3以上になるなど、介護施設に入所している重症者が非常に増えている。

 介護施設の要介護度が今までよりも重くなるということは、「要医療」も増えるということである。厚労省としては、全体の医療・介護政策の一環として介護医療院への移行を進めたいところだが、どうも厚労省の老人保健課だけがちょっと先走りをしてしまって、市町村に対する説明の徹底や、厚労省内でのスタンスの取り方などがまだ不十分ではないかという気もする。

 従って、ここで1回セットバックして、もう1回、きちんとしてもらわないといけない。おそらく今年の9月に申請を出しても、来年の3月までに転換を認められないような市町村も県もあるだろう。そう思うぐらい、時間的にも非常に厳しい。

 そのため、移行定着支援加算の延長などの具体的な要望を、この7月の段階で厚労省に提出したい。
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市町村内で、医療と介護がつながっていない

[日本介護医療院協会・鈴木龍太会長]
日本介護医療院協会の鈴木龍太会長_2019年7月18日の定例記者会見 私から少し補足したい。地域医療構想的に言えば、介護療養病床と医療療養病床を合わせて、介護医療院に10万床ぐらい移行するだろうとは予想している。

 ただ、医療保険から介護保険になるということは、その市町村の中では介護の職員が担当する。そこで、医療と介護がつながっていない。これが1つの問題だろうと思う。

 市町村の介護担当としては、「ちょっと困るなあ」という話になってしまう。もちろん、総量規制の枠外なのだから、本来は断れないはず。しかし、そうした事情もあるので、「介護医療院の新設はいつでも受け付けますよ」と言いながら、なかなか動かない。そんな話も聞いている。

 従って、もう少し市町村内での医療・介護連携を進めて、地域医療構想については厚労省内での連携をうまくやっていただくということが必要ではないかと思っている。

[武久会長]
 早くしないと、日本の医療・介護が大変なことになるだろうと危惧しているので、今回、具体的な要望とし提示させていただいた。
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各市町村では、「横」を見ている状態

[池端副会長]
池端幸彦副会長_2019年7月18日の定例記者会見
 私からもよろしいだろうか。市町村が躊躇している原因については、主に2つ考えられる。医療療養病床から介護医療院に転換するということは、財源が医療保険から介護保険に移ることになるので、その分、介護保険料が跳ね上がることにつながる。だから、どうしても二の足を踏んでしまう。これが1つ。

 もう1点は、事務手続き上の問題が考えられる。例えば、介護療養型医療施設が介護医療院に転換する場合について言えば、どのような基準で申請を認めるかについて各市町村で多少違っていて、いわば「横」を見ている状態になっている。そのため、ちょっと遅れている。介護保険計画との関係で遅れている面もある。

 このように、主に2つの点で遅れているということでご理解いただければよろしいかと思う。
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厚労省の老健局の強力な指導が必要

[記者B]
 「現状の問題点」として、都道府県によって申請してから許可が下りるまでの時間が違うことが挙げられている。どれぐらいのタイムラグがあるのだろうか。

[武久会長]
 一番早くて2カ月、遅いと3カ月以上、4カ月、5カ月という所もあると聞いている。もう少し、全体が話し合って、スムーズにいくようにしてほしいところである。

[記者B]
 地域ごとに許可までの期間が違うということは、地域ごとに何か対応を変えていく必要があるということになるのだろうか。

[武久会長]
 やはり、厚労省老健局の強力な指導が必要だと思う。全国担当者会議などを開いて、こういうふうに進めて欲しいと、いろいろな所に周知していかないと、現場が動いていかない。

 確かに、医療保険から介護保険に移ると、その町の保険料はもっと上がるが、例えば「その分は基金でなんとかする」とか、何か具体的な解決策を示す必要があると思う。

 医療療養病床よりも介護医療院のほうの報酬が低く抑えられており、人員基準も緩和されているので、介護医療院への移行によって全体としては予算が減る。しかし、自分の町は上がってしまう。そこで、どうしても滞ってしまう。
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自治体職員向けのセミナーを求める声も

[鈴木会長]
 厚労省には開設を支援するための委員会がある。そこで自治体ごとにそれぞれ違うという議論をしている。秋に4つの地域を回って開設推進のセミナーを開く予定だと聞いている。

その後、自治体の担当者らを集めて、なぜ進まないのか、どうすれば進むのかなどを議論するという。やはり自治体に対する指導も必要なので、自治体の事務職員に対するセミナーを開催してほしいという意見が当協会の会員から出ている。

[池端副会長]
 ちょっと補足すると、転換ではあるけれども新設する場合のように、ものすごい量の書類を一から用意する必要がある。
 
 そのため、申請書類などをもう少し簡便化できないかという意見もある。例えば、古い図面なども全部出させて、もう1回、全て測り直さなければいけないということもある。自治体の担当者にとっても、非常に膨大な事務量になってしまう。

[鈴木会長]
 担当者としては新設と同じレベルという認識はあまりないのかもしれないが、結局はそうせざるを得ないところがある。

 もう少し簡便にしてほしいと言っても、どこを簡便にしていいのか、今のところまだ見えてこない。そうした部分も厚労省にもう少し詰めていただく必要もある。

[武久会長]
 都道府県が担当の役所になっていても、県庁の係員が市町村の介護保険担当者の所に必ず聞きに行く。そこがオーケーしないと、県としても許可を出せないというのが現状であろうと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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