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「地域包括ケアにおける看護のスキルアップ」── 第26回学会シンポ3

Posted By araihiro On 2018年10月12日 @ 1:13 PM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 第26回日本慢性期医療学会のシンポジウム3は、「地域包括ケアにおける看護のスキルアップ~看護師特定行為研修が活躍の場を広げる~」と題して開催された。シンポジストには、厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室の習田由美子室長をお招きし、最近の検討状況などを伝えていただいた。当協会からは、看護師特定行為研修委員会の委員長を務める矢野諭副会長がシンポジストとして参加。座長は、当協会常任理事で、次期学会長の井川誠一郎氏(平成医療福祉グループ診療本部長)が務めた。

 シンポジウムの冒頭、座長の井川氏は特定行為研修をめぐる課題が山積していることを指摘し、導入のあいさつとした。

 最初に登壇した厚労省の習田室長は、就業したまま受講できるなど同制度のメリットを紹介しながら、今後の普及に向けて「特定行為のパッケージ化」など、受講しやすい環境整備を進めている状況を伝えた。

 矢野副会長は、特定行為研修を修了した看護師が十分に活躍できていない状況を指摘し、研修終了後のフォローアップ研修などに注力していく意向を示した。

 両氏はともに、特定行為研修に関する調査結果をそれぞれ提示。こうしたデータなどを踏まえながら、今後の普及に向けた方策を探った。

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 【座 長】
  井川誠一郎 (平成医療福祉グループ診療本部長)

 【シンポジスト】
  習田由美子 (厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室長)
  矢 野 諭  (日慢協看護師特定行為研修委員会委員長)

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特定看護師の数がなかなか増えない

[井川誠一郎座長(平成医療福祉グループ診療本部長)]
 私と矢野先生は、日本慢性期医療協会の中で特定看護師を育成する立場として頑張っている。看護師特定行為研修が2015 年10 月にスタートして既に約3年が経過しているが、特定看護師の定着が進まない。なかなか数が増えない。いろいろな問題が出てきている。

 そうした中で、厚生労働省はシンポジウムなどをかなり広範囲にわたって開催するようになり、さまざまな問題点などを洗い出している。そこで、本シンポジウムでは行政側と育成側とのトップであるお二方にご登壇いただき、今後の展望などを語り合いたいと考えているので、よろしくお願いしたい。

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高度急性期から在宅医療まで、チーム医療の推進で

[習田由美子氏(厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室長)]
 特定行為研修制度は平成27年から始まり、4年目に入ろうとしている。同制度は、施行後5年を目途に必要に応じて見直しをすることとなっており、その5年後が平成31 年になる。それに向けて9月に医道審議会の「看護師特定行為・研修部会」を再開し、今後の特定行為研修制度をどのように見直していくかについて検討を始めた。

 この制度ができた時は、2025年に向けてまずどういう仕組みをつくっていけばよいのかを考えていた。2025年には団塊の世代が75 歳以上になり非常に高齢者も増え、サービスを提供する相手の特徴も変わってくる。慢性疾患や複数の疾患を抱える患者さんが増える。治療を受けたら、その後のリハビリも必要になる。経過が長くなってくる。

 そうすると、施設だけでは受け止められない。在宅で暮らしながら医療を受ける患者さんたちが増えていく。こうした状況の中で、医療・介護提供体制の改革が急速に進められている。

 その中心になるのが、医療機関の分化・連携、在宅医療の充実であり、また医師・看護師等の確保対策、勤務環境の改善、そしてチーム医療の推進である。このチーム医療の推進という流れの中で、特定行為研修制度ができた。

 こうした改革をすることによって将来的には、高度急性期から在宅医療まで患者の状態に応じた適切な医療を提供できるよう、地域において効果的かつ効率的に提供する体制を整備する。そして、患者ができるだけ早く社会に復帰し、地域で継続して生活を送れるようにする。こういったことを目指して、さまざまな改正が行われた。

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あらゆる場で、最大限の力を発揮できるように

 チーム医療を推進するためには、それぞれの専門職が高い専門性を発揮し、それぞれの守備範囲を広く持つことが必要となる。チーム医療の推進によって、あらゆる場で患者さんの状態に応じた適切な医療を提供していくということがかなう。地域包括ケアの中で専門性を発揮できる看護師を養成することは、地域医療構想の実現にも資する。

 そのため、高度急性期・急性期・回復期・慢性期、それぞれの場で特定看護師が最大限の力を発揮できることが必要であると思っている。

 よくご質問されることがある。「特定行為研修制度は急性期の看護師さんのためのものですか」と。確かに、特定行為の区分の中には、急性期で非常に役に立つような行為が多い。しかし一方で、どの領域でも活躍できるような区分もある。従って、特定行為研修制度は急性期の看護師のためのものではなく、急性期も慢性期も、そして在宅においても、すべての領域で看護師が最大限の力を発揮できるようにするための研修制度である。

 ただ、特に急性期の大きな病院では研修を実施するための体制が整っていることが多い。小規模な医療機関では、なかなか研修に出しにくいということもある。このため、より一層この研修制度を広めていくために、全国の看護師が受講しやすい環境を整えるように、特にここに力を入れて進めていくという気持ちで取り組んでいる。

 具体的には、自院が指定研修機関にならなくても、協力施設として研修を実施するということができる。指定研修機関のe ラーニングを受けるような形でも受講ができるような制度になっている。長い時間、職場を離れて研修を受けなければならないという負担がなく、就業しながら受講できる。

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制度の推進に向けて、いくつかの課題がある

 研修を修了した方々は、すべての都道府県で働いておられる。就業場所は病院が多く8割強で、訪問看護ステーションや介護施設では少ない状況となっている。病院の内訳については、高度急性期や急性期の病院がまだ多いという実態がある。これからもっと回復期や慢性期分野で指定研修を修了して活躍していただける方が増えてくるといいなと考えている。

 年度ごとに修了生の数は増えてきている。特定行為研修で指導する先生方には研修を受けていただくことが望ましいという規定があり、今年は全国13 都道府県で行っていただいた。日慢協さんでも実施していただいた。

 制度の推進に向けて、いくつかの課題がある。組織的な合意をしっかり取っていくことが必要ではないかと考えている。研究報告によると、特定行為研修を実施した方々はチーム医療への影響や効果について7割以上が肯定的な回答だった。

 具体的には、患者さんのケアを強化するために医師のアセスメントを把握するようになったり、治療計画について医
師と話し合うようになった。また、患者さんの療養のゴールを設定していくために医師と話すようになったことなど、チーム医療に大きく貢献している。

 しかし、修了生の多くは「特定看護師の活動について組織的な合意を得ないと、なかなか活動しにくい」と回答している。このほか、活動による効果を示していくことや安全性の確保、フォローアップなどについて、修了者の方々は課題にあげている。特定看護師の制度を進めていく上で、こうした課題への対応策を考えていくことが重要であると考えている。

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頻度の高い特定行為をパッケージ化してはどうか

 こうした課題を踏まえ、厚労省では今後の方向性として論点を整理している。今後、この制度を見直していくために、①研修内容、②質の担保、③普及啓発──という3つの論点をあげている。

 まず、研修内容について何が必要か。特定看護師には、在宅や慢性期領域で活躍してほしいのだが、そうした現場の方々に受講していただけていない。

 ということは、訪問看護ステーションや施設の看護師が受講しやすい研修内容になっていないのではないか。ここについて、どう考えるか。さらに研修内容を今後検討するにあたって、共通科目の中には既修内容が含まれているのではないか。研修内容の重複があるのではないか。また、慢性期や在宅で活用されている「ろう孔管理」の中には胃ろうと膀胱ろうが入っているが、研修生のニーズが違うので、この区分を分割してはどうかなど、こういった細かいものから大きなものまで論点としてあげて検討している。

 さらに、医師の働き方改革に関する検討会のヒアリングでは、手術前後の病棟管理や術後の病棟管理など一連の業務を担うには不十分であるというご意見を頂戴している。

 こういったことを踏まえ、既に領域ごとのコース設定をされている例や、ある程度の区分をまとめて研修した方が現場での活用に資すると考えられるような各領域において、それぞれ頻度の高い特定行為をパッケージ化し、研修の質を担保しつつ受講しやすい学習内容としてはどうか。

 例えば、在宅、慢性期、外科、周術期管理などの領域においてパッケージ化をしてはどうか。その際、共通科目・区分別科目の研修内容について、科目間での重複や現場で広く行われている研修との重複があるとの指摘があることから、その部分についての時間数の縮小も踏まえ、検討してはどうか。

 特に在宅領域でニーズが高い「ろう孔管理関連」については、胃ろうカテーテルと膀胱ろうカテーテルを別々の区分としてはどうか。制度創設時の趣旨として、行為の類似性等から区分にまとめた経緯を踏まえ、その他の区分については、今後必要性等を踏まえて検討してはどうか。このような「対応の方向性(案)」をすでに示している。

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研修制度を広く知らせて、活用していただきたい

 質の担保については、指定研修機関がさまざまあって教育内容にばらつきが少しずつ出てきているところもあるので、一定程度、同じレベルの専門的知識と技術を担保する必要がある、現在は、共通科目と区分別科目だけに到達目標が示されているが、例えば行為別の到達目標を定めれば、もう少し教育内容の平準化が図られるのではないかと考えてい
る。

 普及啓発については、回数を重ねてシンポジウムを開催し、リーフレットを活用するとともに、ポータルサイトを充実させてはどうか。さらに、少し細かいことだが、申請書の様式について事務作業の軽減を図るため、今後見直すことも考えている。

 都道府県の取り組みについて、平成28年度は12府県が基金の活用の有無も含めて、特定行為研修を推進するための取り組みをしており、平成29年度については20県が計画をしている。平成30年は集計中だが、恐らく増えているのではないか。

 支援の内容についてはさまざまで、受講料の費用について受講生の所属施設に対する支援や、指定研修機関に対する支援、研修制度の普及・推進に対する支援などと取り組みはさまざまだが、こうした取り組みが進められており、特定看護師の制度が少しずつ普及してきている。

 さらに広めていくために活用していただきたいのは、労働者が自ら費用を負担して一定の教育訓練を受けた場合に、その教育訓練に要した費用の一部に相当する額を支給する「一般教育訓練給付金」などで、こうした制度をぜひ使っていただきたいと思っている。

 最後に、厚生労働省のホームページには、特定行為研修の看護師の研修制度を紹介するページもあるので、こうした情報などもご活用いただきながら特定看護師の研修制度を広く知っていただき、かつ活用していただきたいと考えている。

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医師と看護師の衝突は、ナイチンゲールの時代でも

[矢野諭氏(日慢協副会長、日慢協看護師特定行為研修委員会委員長)]
 日慢協の看護師特定行為研修の責任者をさせていただいている。自院でも特定行為研修の実習生を受け入れている。チーム医療を推進する中で、特に看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、歯科衛生士の4職種は、慢性期医療でも非常に比重が高い。チーム医療の推進の中で、それぞれが高い専門性を発揮している。

 そうした中で、「医師と看護師の衝突」という、ややショッキングな問題提起をしたい。ある調査によると、衝突の理由は、患者さんの治療方針に関することが最も多く、次いで病棟や外来の業務に関すること、それから患者・家族とのコミュニケーションに関することなどで、かなり衝突している。チーム医療は大丈夫かという不安がよぎる。適正使用でないと思われる抗菌薬の投与に関して尋ねたら、「看護師のくせに」と言われたという声も寄せられている。

 看護師は「白衣の天使」と言われる。ナイチンゲールがクリミア戦争の時、夜中にランプを持って回ったことに由来するとされている。しかし、実は本人は「白衣の天使」と呼ばれることを喜んでいないとも言われている。天使とは、美しい花をまき散らすものではなく、苦悩する人のために戦う者だという考えだったらしい。

 クリミア戦争では、感染症によって多くの患者が病院内で死亡した。ナイチンゲールは科学的知識を基盤に感染対策を実施して、院内死亡率42%を6カ月間で2%に減らした。実は臨床指標の導入の最初がナイチンゲールだった。

 しかし、ナイチンゲールがこれを提案した時に医師は非常に反発して、医師との関係が悪くなったという。医師、看護師間の難しい関係は、ナイチンゲールの時代からあった。

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良質な慢性期医療を特定看護師が支える

 日慢協が今年7月に実施したアンケート調査によると、特定行為を実施できなかった理由として「医師の合意が得られない」「組織的合意が得られない」などの回答があった。

 特定行為を実施しなかった理由については、「管理業務中心で病棟業務に従事していないため」が最も多く、次いで「医師が常時院内におり、医師の管理のため」「特定行為実施体制が整っていない」などがあげられている。

 特定看護師制度実施上の問題点については、「特定看護師業務について医師の理解が得られない」との回答もあった。具体的には、常勤医師の理解は得られてきたが、非常勤・当直医師の理解が得られないとか、訪問看護の場合には外部医療機関の主治医などに理解してもらえないといった問題である。

 当協会が実施する看護師特定行為研修の指導体制については、「e ラーニング(自己学習)、レポート作成、スクーリング(講義・演習)、実習、グループワークとカリキュラムが充実しており、講師による直接の技術指導や他の病院の受講生との意見交換ができ、大変よかった」との声が寄せられたほか、「フォローアップ研修をしてほしい」との要望もあった。こういう意見も踏まえ、今後はフォローアップ研修などにも注力していく予定である。

 研修受講生を増加させ、特定行為の実践を推進していくためには、受講しやすい環境づくりや症例の選択、手順書内容の工夫・見直し・改良などが必要である。特定行為を実践して経験を重ねた「良質な」看護師が増加するか否かは、現場の医師の裁量・指導力によって大きく左右される。

 多職種が協働し、それぞれの専門性を生かして患者にアプローチする「チーム医療」の重要性が叫ばれて久しい。慢性期医療においては、リハビリや栄養管理に代表されるように、とりわけチーム医療の占める比重が大きく、それは医師へのサポート機能も有する。加えて、多くの医療・介護専門職から構成されるチーム医療には、「キーパーソン・コーディネーター」の存在が必要不可欠である。それは種々の意味で看護師が最もふさわしい。

 「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」というのが当協会の10年前からのメッセージ。チーム医療のキーパーソンは、やはり特定行為研修を修了した看護師である。良質な慢性期医療を支えるのは、良質な特定行為研修を修了した看護師といえる。

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特定看護師が活躍していける環境整備を

[井川誠一郎座長(平成医療福祉グループ診療本部長)]
 習田先生、矢野先生、ありがとうございました。特定行為研修が始まってまだ4年ぐらいだが、いろいろな課題が山積している。制度開始前から予想されたことではあると思うが、まずはどのように育成していくかという課題。続いて、育成した特定看護師がどのように活躍していくかという問題。すなわち、今後の課題は「育成前」と「育成後」という2つに大きく整理できると思う。

 両先生はそれぞれアンケート調査をもとにお話しいただいた。共通して言えるのは、やはり医師の理解が必要であるということ。習田先生は、特定看護師の活動について組織的な合意を得る必要性も指摘された。医師と特定看護師との間には、かなりのディスクレパンシーがあるというデータをお示しになられた。矢野先生は、ドクターの理解が得られていないことについて直球的におっしゃっておられた。

 そうした問題を今後どのように解決していくのか。せっかく特定行為研修を修了したのだから、特定看護師がこれから活躍していけるような環境を整備していきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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