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「看護師はレベルの高い、高等なことを」── 社保審分科会で武久会長

Posted By araihiro On 2018年11月1日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は10月31日、介護人材の確保策をめぐり議論した厚生労働省の会議で「看護師さんはレベルの高い、高等なことをやっていただきたい」と述べ、病院で働く介護職員のニーズが今後増大することを指摘しました。介護職の処遇改善について武久会長は「介護療養型医療施設の介護職員だけに処遇改善交付金が出ると、医療保険の病棟にも介護職員がたくさんいるので他の病院職員とのバランスが取りにくい」と改めて主張しました。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大理事長)を開き、当協会からは武久会長が委員として出席しました。また、当協会の江澤和彦常任理事も日本医師会の常任理事として出席しています。

 この日の主な議題は、①介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について(事業者ヒアリング2)、②介護人材の処遇改善について、③その他──の3項目です。このうちヒアリングは20分程度で終了し、処遇改善の審議に入りました。

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「新しい経済政策パッケージで考慮されている視点」を提示

01_全体風景20181031介護給付費分科会
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 この日の会合でも、前回と同様に「介護人材の処遇改善」が議論の中心となりました。厚労省は今回、新たな資料として「新しい経済政策パッケージで考慮されている視点」を提示。全体で2,000億円にも及ぶ財源の配分について、「①介護職員の更なる処遇改善」を最上位に掲げた上で、2番目に「②経験・技能のある職員に重点化」、3番目に「③柔軟な運用を認めること」を挙げました。

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02_資料2介護人材の処遇改善について20181031_ページ_08

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 一方、「事業所内での配分」については、「①経験・技能のある介護職員、②他の介護職員、③その他の職種の順に一定の傾斜の設定等を行うことを検討してはどうか」と提案しています。

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03_ページ9抜粋

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「経験・技能のある介護職員が多いサービスが高く評価」

04_事務局20181031
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 この日の会合では、前回よりも踏み込んだ対応案が示されました。厚労省は、「基本的な考え方」「事業所内での配分」「加算の取得要件」「各加算率の設定」「処遇改善加算の対象費用」──の各項目に分けて対応案を整理。このうち、「各加算率の設定」(10ページ)については、「経験・技能のある介護職員が多いサービスが高く評価されるようにしてはどうか」と提案しています。

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05_資料2介護人材の処遇改善について20181031_ページ_09

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 厚労省はこうした具体的な対応案を示した上で、これら各項目をまとめた全体像を11ページに示しました。

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「本当に必要な職種に限ってまずは実施すべき」と保険者

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 質疑の冒頭で、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「基本的な考え方について、まずは『介護職員の処遇改善』を優先すると考えており、『その他の職種』の処遇改善については、限られた財源であるので、その中で本当に必要な職種に限ってまずは実施すべき」と厚労省の考え方に賛同しました。

 その上で、安藤委員は「介護報酬改定において処遇改善を実施するのであれば、賃金水準がほかの産業と比べて遜色ないような職種について処遇改善を実施することについては、介護保険料を納める被保険者の理解は得られない」との考えを示しました。

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 安藤委員はさらに、「各加算率の設定についても同様の観点から、介護職員がいない事業所まで加算の対象とするということは適当ではないと考えている」と述べ、訪問看護を対象外とする考えを示しました。

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09_資料2介護人材の処遇改善について20181031_ページ_17

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「訪問看護が介護保険でしっかりとしたサービスに」と日看協

10_齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)20181031
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 一方、日本看護協会(日看協)副会長の齋藤訓子委員は「処遇改善については、介護職員の確保ということが前提だということは理解をしている」としながらも、これまでの処遇改善交付金や同加算などによって「辞めない体制づくり等々ができているのか。離職理由に変化がみられるかというと決してそうではない。働きやすく定着しやすい職場環境を考えていくと、サービスの質管理やマネジメントスキルを上げるために、事業所の中にいる管理職の方々に何らかのサポートをしていかなければいけない」と主張しました。

 その上で、齋藤委員は訪問看護に言及。「今回の資料を見る限りでは、訪問看護は対象外になるのではないか」と疑問を呈し、医療依存度の高い在宅患者らに対する介護保険サービスの需要が増加することを強調しました。

 齋藤委員は「訪問看護が介護保険の中でしっかりとしたサービスになっていかないと、今後、利用者のサービスや健康管理、看取りなどにも対応できかねない状況が生まれてくる。介護保険の中で安定的に事業が形成できるように、すべての訪問看護と言わないまでもマネジャーに処遇の改善ができるように」と訴えました。

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「同一事業所、同一法人でなくても10年以上に配分を」

 
11_全体風景2介護給付費分科会20181031
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 委員からの意見が出そろった終盤になり、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)と武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)が意見を述べました。

 江澤委員は「職員の処遇改善なので、『同一事業所』、『同一法人』でなくても、10年以上、非常に貢献していただいた方には配分していくのが筋ではないか」と発言。

 江澤委員からは、資料9ページ「対応案」の一番下「事業所内での配分に関する論点」の、経験・技能のある職員については、勤続年数10年の介護福祉士を基本としつつ「同一事業所」「同一法人」だけでなく介護業界での経験を評価すべきか、についてですが、確かに、職場における従業員の定着率を評価するものであれば、あるいはそういった意味で施設を評価するものであれば、「同一事業所」や「同一法人」という考え方もあると思う。しかし、今回の趣旨は、いわゆる「介護業界を支える」ということが前提にあり、特に職員の処遇改善のため、「同一事業所」「同一法人」でなくても、10年以上、非常に貢献していただいた方には配分していくのが筋ではないかと思っている、と意見を述べられた。
 
 武久会長は「江澤先生と同じ考え」と同調した上で、「一生懸命頑張って、そして10年経ったということに対して勇断で出していただけることは、大変ありがたく受け取っている」と下記のように述べました。

○武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)
 前回と前々回において、介護療養型医療施設の介護職員が処遇改善給付金を取得している割合が少ないということについて、ご説明をさせていただきました。日本慢性期医療協会としては、医療施設と介護施設の両方を持っている会員が非常に多いので、そういう立場としてお話しをさせていただきます。
 まず、6年前にこの処遇改善交付金が始まったということですけれども、この処遇改善の交付金がなかったとしたら、今どうなっているかなと思うと、これを付けていただいた当時の厚労省の担当の方に、心からお礼を申し上げたいと思います。
 看護師とか医師とか薬剤師とか、医療関係の国家資格者は、医療の場で仕事をしている割合が非常に高いのですが、介護職員となりますと、ほかの会社や工場、あらゆるサービス業など、こういう業種と競合するんですね。だから、介護施設の介護職員として勤めていても他の所にサッと移る。
 ところが、この介護というのは、今もそうですけれども、他の一般的な職業と比べて給料があまり良くない。これを国を挙げてサポートしてくれるということは非常にありがたいと感謝の念が出てくるわけです。
 やはり、他の業種にイージーにいつでも移れる人たちが、状況によって介護施設や医療施設からどんどんシフトしていくと事業自体が成り立たないし、国としても非常に困ったことになると思います。
 しかしながら、介護療養型医療施設の介護職員だけに処遇改善交付金が出ると、他の病棟の中にも介護職員がたくさんおりますのでバランスが取りにくいということです。この問題は中医協で議論する話だとは思いますけれども、病院では看護師さんが主体で、介護職員は看護助手のように言われておりますが、むしろ看護師さんはレベルの高い、高等なことをしていただいて、現場でのお風呂介助やら、おむつ交換やら清拭などについては、むしろ医療界のほうにも介護職員にこれからどんどん入っていただく。これについては中医協のほうで評価していただくような議論をしていただきたいと思っています。
 今回の更なる処遇改善は介護業界にとって非常に良かったと思います。一方で病院にも高齢者が非常に多くなっておりまして、単なる医療だけで済むような状況ではないということです。そういうことからして、10年間、介護業界にいてくれたということのお礼として、また、介護福祉士の資格を頑張ってとって10年経ったということへのお礼として、8万円は非常に大きい。われわれも大変有難く受け止めております。
 本来は病院側でも給与を出せるように努力をすべきでありますが、診療報酬の担当の局にもお願いをしないといけないと思います。高齢者が多いということは、医療保険の病棟にも介護職員が看護師さんに負けないぐらい多くなる必要があるんですね。ぜひ、厚労省老健局長から、医政局長に、保険局長に、ご進言いただけると大変ありがたいと思います。
以上でございます。

 

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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