- 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト - http://manseiki.net -

「大きな視点を持って将来を考えてほしい」」── 社保審分科会で武久会長

Posted By araihiro On 2018年10月16日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は10月15日、介護職員の処遇改善について議論した厚生労働省の会議で「大きな視点を持って将来を考えてほしい」と訴えました。武久会長は、病院併設型の介護施設など医療と介護の一体的な提供が進んでいることを指摘し、医療保険と介護保険との整合性について「同じ省内で連携を取っていただいて、5年、10年、20年先の計画を立てていただきたい」と述べました。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大理事長)を開き、当協会からは武久会長が委員として出席しました。

 この日の主な議題は、①介護保険サービスに関する消費税の取扱い等について(事業者ヒアリング1)、②介護人材の処遇改善について、③平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査の進め方について──の3項目です。

 このうち議題①では、日本医療法人協会、全国個室ユニット型施設推進協議会、日本認知症グループホーム協会の3団体から意見を聴取。②では、前回の議論を踏まえた「論点」と「対応案」が示されました。③では、同分科会下部の委員会でまとめた調査票案が示され、分科会長一任の形で了承されました。
 
.
02_会議の模様_20181015

.

連携を取って、5年、10年、20年先の計画を

 武久会長は②介護人材の処遇改善に関する意見交換の中で、将来を見通した政策の必要性を指摘しました。

【武久洋三会長の発言要旨】
 高齢者を取り巻く保険には介護保険と医療保険がある。患者さんは医療保険にいったり介護保険にいったり、または両方を使うこともある。しかし、1人の患者さんについて保険上は分けられている。
 それぞれの事業者が行っている介護の業務に対して、このように処遇改善の交付金が与えられることは非常にありがたい。本来であれば、われわれ事業者が自分の経営の中で人件費を上げていく経営努力が必要である。しかしながら、IT化はどんどん進んでも、医療や介護の事業は労働集約型産業であるのでIT化がなかなかうまく進まない。
 そうした中で、介護や看護の人材がどんどん減っている。1年間に生まれる子どもが約94万人。そのため担い手不足が深刻で、10年後、20年後は非常に厳しい状況になる。
 人材不足をIT化で補いたいと思っても、なかなかうまくいかない。介護の産業をロボット化するのは非常に難しい。どうしても人材がたくさん必要になる。
 では、今回の介護処遇に関する交付金は一体何か。介護報酬を全部上げていただいて、総収入の中からそれぞれの事業者が考えて給料を出せばいいのだが、そうすると人件費に回さない事業所が出てしまう恐れがある。そこで公的な費用として、人件費に充ててくださいと指定して、処遇改善交付金が用意された。われわれは感謝している。
 とにかく、人材の数が減ってくることは事実である。東京都では特養を開設しようとしても介護職員が半分も集まらないので定員どおりに開設できないことも起こっている。2025年には、これがものすごく顕著になる。外国人を期待しても、今後の人材不足を補えるだけの数を確保することは難しい。
 経営者は、土地を買って建物をつくるが、建築費が高い。たくさんの費用が必要になる。その中から人件費に回していかなければならない。人件費に回さないと人も集まらず、ベッド稼働率が低下する。これは医療保険も介護保険も同じで、トータルの収入が減って経営がうまくいかなくなっていく。
 そういう事業者が増えてくると、サービスが低下する。医療・介護のサービス低下は、国民の健康や暮らしに大きな影響を及ぼす。政府の責任にもなってくる。これからの近い将来、5年後、10年後に東京都はどうなるのか、過疎地はどうなるのか。だいたい予想がつく。
 こうした中で、慢性期医療にも関わる介護職員の処遇改善について、このような場で検討していただいている。やはり、目先のことだけではなく、大きな視点を持って将来を考えて、いろいろなことを考えてもらいたい。収入の多くは保険や公費から来る。現場が非常に厳しい状況になっている。
 前回の会議でも申し上げたが、介護療養型医療施設の処遇改善加算については、申請が非常に少ない。病院と介護施設を併設しているケースが多いので、そこまで出せないということもあるとは思う。
 診療報酬については中医協で検討してくれる。介護職員が集まらないからどうするのかについては、この場での議論になる。ぜひ、同じ省内で連携を取っていただいて、5年、10年、20年先の計画を立てていただきたい。以上、意見として申し上げる。

03_事務局_20181015

.

現行の介護職員の処遇改善とは別の加算で対応

 この日の会合では、議題②「介護人材の処遇改善」が議論の中心となりました。厚労省は9月5日の前回会合で「主な論点」を提示。「重点化」と「柔軟な運用」との考え方を示し、勤続10年以上の介護職員だけでなく、他の職員にも配分する構えがあることを示唆しました。

.

04_主な論点(前回の資料)

.

 今回の会合では、これまでの主な意見を紹介した上で、「論点」を2つに分割。それぞれについて「対応案」を示しました。「論点1」は財源の配分方法に関する内容で、「その他の職員の処遇改善にも充てられるようにする」「現行の介護職員の処遇改善とは別の加算で対応する」などの方針を示しました。
 
 「論点2」は、職場環境の改善など介護職員の定着促進に関する内容で、「介護人材確保に向けた取組の支援に更に取り組む」との意向を示しました。

.

05_論点1(今回の資料)

.

06_論点2(今回の資料)

.

「単なるばらまき」を懸念する声も

 厚労省が示した「論点」や「対応案」について、保険者を代表する立場の委員は「職場定着が新たな加算の要件として、きちんと設定されるべきで、そうでなければ言葉は悪いが『単なるばらまき』になってしまう」と苦言を呈した上で、「新たな加算は現行の加算よりも厳しい職場環境等の要件などを設定することも必要なのではないか」と注文を付けました。また、「今回は例外的かつ経過的な取り扱いであり、恒久的な措置ではないことをきちんと明文化していただきたい」と求めました。

 加算という形で手当てする方針については、「消費税など、通常の介護報酬とは別途の財源投入により対応するのが基本である」と改めて主張。経団連の委員からは「そもそも処遇改善を介護報酬による対応で引き続き行うべきなのか、次回の通常の報酬改定を見据えて、根本的に検討すべきではないか」との意見書が提出されました。

 介護系団体の委員からも「加算で本当にいいのか」との意見がありました。委員は「現場にはなかなか分かりにくい。国民にも分かりにくい。加算にすると介護職員の給与の中に入れ込まれてしまうので、別枠でちゃんと見ていることが分かりにくい」と指摘。別の委員からも「簡素化した上で導入を検討してほしい。すでに多くの加算が創設されていて複雑化している」との声が上がりました。

.

新しい処遇改善は2,000億円の加算

 
 今回の更なる処遇改善について厚労省は「現行の介護職員の処遇改善とは別の加算で対応する」としています。これに対し、委員から「介護職員以外のための処遇改善加算を新たにつくるのか、その場合の財源は公費1,000億円を配分するのか」との質問がありました。

 厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「新しい処遇改善に関しては、公費1,000億円と保険料1,000億円で、全体的に2,000億円の加算である」と説明した上で、「これ(2,000億円)を財源とした加算として、別途、これまでの処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)(Ⅴ)とは別につくる加算として、ここでご提案している」と回答しました。

.

07_公費1000億円の考え方

.
.

介護分野に入る若者たちに魅力を

 この日の議論は、財源の配分方法や定着促進に関する意見が中心となりましたが、新規参入を促す取組の必要性を指摘する声もありました。厚労省によると、介護福祉士養成施設は近年、入学者数が定員数を下回る状態が続いており、平成28年度以降は充足率が50%を下回っています。

 委員からは「介護の仕事が魅力ある専門職であるということが伝わるような取組を進めるべき」「教育環境を整備して、専門性を発揮できるようにすべき」などの意見がありました。 

 この日の議論を踏まえ田中分科会長は「介護福祉士養成施設数の入学者数は危機的状況」と切り出し、「今回のさらなる処遇改善によって定着を促進することはもちろん第一目標になると考えるが、同時に、新規に介護分野に入ってくる若者たちに魅力ある環境をつくるべきで、『他の職種』以前に、まずは入ってくる若者に対する魅力についても考える必要がある」と述べました。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



Article printed from 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト: http://manseiki.net

URL to article: http://manseiki.net/?p=5671

Copyright © 2011 Japan association of medical and care facilities. All rights reserved.