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在宅医療の充実へ、「保健所と医師会の連携が重要」── 在宅WGで池端副会長

Posted By araihiro On 2018年6月28日 @ 11:11 AM In 協会の活動等,審議会,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は6月27日、在宅医療の充実に向けて開かれた厚生労働省の会議で、「やはり保健所と医師会の連携が重要である」と述べました。都道府県における在宅医療の取組をさらに進めるためには、「病院の後方支援」「訪問看護の大規模化」「ACPに関する普及・啓発」の3点を重点項目として指摘しました。

 厚労省は同日、「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」(WG、座長=田中滋・埼玉県立大理事長)の第5回会合を開催し、当協会の池端副会長が委員として出席しました。

 厚労省はこの日のWGで、在宅医療の充実に向けて「都道府県が取り組んでいくべき事項(案)」を示すとともに、島根・鹿児島・富山・滋賀の4県の担当者を招いてヒアリングを実施。「在宅医療の充実に向けた先進的な取組事例」として紹介しました。

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02_20180627在宅医療WG全体風景

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「都道府県が取り組んでいくべき事項(案)」を提示

 厚労省はまず、在宅医療の充実に向けて「都道府県が取り組んでいくべき事項(案)」を提示。「今後、各都道府県が、管下の在宅医療を充実させていくため必要な実施体制や方策について、下記のとおり整理してはどうか」とし、「在宅医療の取組状況の見える化」や「住民への普及・啓発」などを挙げました。

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資料1在宅医療の充実に向けた保健所の取組について_ページ_04

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現時点で活用できるデータを上手に使うべき

 この論点の中で、池端副会長は「在宅医療の取組状況の見える化(データ分析)」に着目。「現時点で活用できるデータを上手にどんどん使って、『見える化』に対するエネルギーを少しでも減らし、在宅推進に向けたエネルギーを使えるようにしてはどうか」との考えを示しました。

 この意見に対し、稼農和久委員(全国健康保険協会本部企画部長)は「既存データの活用で手間をかけることを大いに省略できる」と賛同。「都道府県の担当者が変わると、引き継ぎがなされずにデータが横展開されないこともあるので、それも大事な視点ではないか」と述べました。

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病院が後方支援、そして積極的に在宅へ

 このほか厚労省が示した論点では、「在宅医療の提供体制の整備」と題して、「後方支援病院等との連携ルールの策定、運用」も挙げられています。

池端副会長_20180627在宅医療WG 池端副会長はこの項目に関連して、「いくらいろいろな政策を進めても、在宅を提供する側の高齢化等によって在宅医療を提供できる診療所の先生方が増えていかない」と今後のマンパワー不足を懸念。「私は病院が後方支援プラス、場合によっては一定規模の病院が積極的に在宅にも入っていって核になり、そして診療所の在宅の先生と連携をする。これしか、もうない。特に地方の在宅推進はそれしかないように思う」と述べました。

 この発言に続いて越田理恵委員(金沢市保健局担当局長)も開業医の高齢化を指摘。「最近では、開業よりも勤務医志向になっているので、病院の訪問看護や訪問診療などにフトしていくような政策が今後必要ではないか」とコメントしました。

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ACPの普及などを含めて住民への啓蒙を

 論点の最後に掲げられた「住民への普及・啓発」について池端副会長は、人生の最終段階での対応などについて医療・介護関係者らと患者・家族らが繰り返し話し合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」の重要性を指摘し、 「ACPの普及などを含めて、住民への啓蒙を進めていく必要がある」と述べました。

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03_20180627在宅医療WGヒアリング参加者

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2025年に在宅医療の需給ギャップが拡大(島根)

 また、この日のWGでは4県の担当者を招いてヒアリングを実施。最初に意見を述べた島根県高齢者福祉課・地域包括ケア推進室の陶山崇氏は冒頭、二次医療圏ごとに医師数などの状況が異なることを説明しました。その上で、現在の対応策として二次医療圏ごとに「県型保健所」を設置していることなどを紹介し、保健所を基軸にした在宅医療の推進体制を伝えました。

 陶山氏はまた、医師会などの協力で実施した「在宅医療供給量調査」の結果を紹介。「2025年において全県で在宅医療の需給ギャップが拡大する」と危惧し、関係者などと協議して取りまとめた対応案などを解説しました。

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在宅ケアの質向上が図られつつある(鹿児島)

 続いて、鹿児島県・くらし保健福祉部の医療審議監などを務める宇田英典氏も、二次医療圏ごとの格差を指摘。訪問診療を実施している医療機関の割合を30.7%から35.7%に引き上げるなど、在宅医療に関する目標値を達成するための取組を紹介しました。

 その中で宇田氏は、介護保険の適用が考えられる退院患者情報を漏れなくケアマネジャーにつなぐ「退院支援ルール」の作成や普及に向けた活動を伝え、「医療・介護の相互理解や情報共有による患者の在宅ケアの質向上が図られつつある」と評価しました。

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クラウドやモバイルに対応した情報共有へ(富山)

 富山県・新川厚生センター(保健所)の大江浩氏も、入退院支援を積極的に進めていることを紹介。管内全病院の看護部長らを集めた連絡会議などを通じた医療・介護連携の取組などを伝えました。

 大江氏はまた、保健所が実施した調査結果などのデータを活用して、在宅医療の進展状況などを具体的に把握したデータを提示。管内の病院や診療所、薬局、訪問看護ステーションなど約60施設が参加する情報共有システムの活用などを挙げ、2018年度基金によってクラウドやモバイルに対応した情報共有システムに発展させる意向を示しました。

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精神・難病・小児にも在宅医療を(滋賀)

 大津市保健所所長の中村由紀子氏は「7つの保健福祉ブロック体制」を医療・介護の連携拠点とし、地域のネットワークづくりや市民への啓発などを進めていることを紹介しました。

 中村氏は「このような拠点を保健所や訪問看護ステーションが担うことによって、今後、在宅医療を高齢者のみならず精神・難病・小児のほうに伸ばしていける」と述べました。中村氏はまた、病院併設の訪問看護ステーションに市が補助金で支援して運営の安定化を図り、同ステーションを市の在宅医療拠点に育て上げている取組を紹介しました。

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行政主導で訪問看護を大規模化、「素晴らしい取組」

 4人の意見陳述を踏まえ、意見交換が行われました。池端副会長は「大変参考になった」と謝意を示した上で、「やはり保健所と医師会の連携が重要であると私自身も常々思っていて、いろいろな所でお話しさせていただいているが、4人のお話を聴いて、その意を強くした」と感想を述べました。

 池端副会長は、大津市が主導して訪問看護ステーションの底上げを進めている点に注目し、「訪問看護ステーションの大規模化に向けて行政がアプローチしたのは素晴らしい取組だと思う」と評価。「私も訪問看護が非常に大事だと思っているが、訪問看護ステーションの大規模化を進めるべきであり、訪問看護ステーションが雨後の竹の子のように出てもなかなかうまくいかないのではないか」との認識を示しました。

 池端副会長は最後に、「病院が在宅を支援する、あるいは在宅へ入っていくことと、訪問看護の大規模化、そしてACPにおける啓蒙、この3つが重要ではないか」と述べました。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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