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2040年の社会保障費、「予想を見直したほうがいい」 ── 医療保険部会で武久会長

Posted By araihiro On 2018年5月26日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,審議会 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は5月25日、厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会に委員として出席し、2040年度の社会保障給付費などについて「予想を見直したほうがいい」と意見を述べました。武久会長は、2040年に現在よりも患者数などが減少することを指摘。「患者さんの数はほとんど変わらないし、外来はむしろ減る。それなのに医療費がどんどん増えるというのは齟齬がある。どういうことか」と厚労省の見解をただしました。

 厚労省は同日の部会で、「2040年を見据えた社会保障の将来見通しと政策課題」を議題に挙げ、委員の意見を聴きました。この日の会議に示されたのは、21日の経済財政諮問会議(議長=安倍晋三首相)に出された資料と同じ内容です。それによると、医療・介護給付費は2018年度の「49.9兆円」から、2040年度には「92.5~94.3兆円」に上昇する(計画ベース)と見通しています。
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01_2040年を見据えた社会保障の将来見通し

                        同部会の資料「1-1」P1から抜粋
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一体改革から6年、「計画通り進んでいるのか」との質問も

 意見交換では、委員から「社会保障の将来の方針が約6年ぶりに示されたことを評価したい」との声が上がる一方で、「社会保障と税の一体改革から6年経ち、計画通り進んでいると厚生労働省は考えられておられるのか」との質問もありました。同日の資料によると、2012年以降は医療費の推計よりも実績が下回っています。
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02_「参考資料1-4」P18

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一体改革と今回の推計、「性格、やり方が違う面がある」

 厚労省の担当者は「社会保障・税一体改革時の社会保障給付費の推計は2012年の状況を足元にし、かつ国において一定の改革のシナリオをつくって推計したもの。今回の『計画ベース』というのは、一体改革の取組を具体化していく中で、各都道府県や市町村がいろいろな計画をつくって具体的に進めているというプロセスも想定に入っており、今回はそれらの計画を積み上げたものをベースに推計したので、その性格というか、やり方がだいぶ違う面がある」と説明しました。

 その上で厚労省の担当者は、一体改革で示した見通しよりも実績が下回ったことに言及。「一体改革時における『改革シナリオ』の社会保障給付費は119.8兆円だったが、実績の社会保障給付費は114.9兆円で、5兆円程度低くなっている」と指摘した上で、「この内容の精査、分析はなかなか難しい面がある」と述べました。

 実績が下回った要因については、「一体改革後の状況として、例えば診療報酬改定や介護報酬改定が一体改革で想定した前提よりも低めであった。結果として全体の伸び率が低かった。あるいは医療では、一体改革時に推計していた外来の患者数よりも実際の患者数のほうが少し低かったことなど、要するに2012年以降のいろいろな適正化とか、毎年いろいろと工夫して取り組んでいくわけなので、そうした影響が出ている」との認識を示しました。
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0525_医療保険部会
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「実際に下がってきたのなら、予想も見直したほうがいい」

 この説明に続き、武久洋三会長が発言。推計と実績との乖離を指摘し、「(実績が)実際に下がってきたのならば、予想も見直していただいたほうがいい」と提案しました。武久会長と厚労省担当者との主なやりとりは以下のとおりです。
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0525_医療保険部会事務局

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質疑の要旨

[遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)]
 では武久委員、どうぞ。

[武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)]
 今の議論にも関係するのだが、何点か教えていただきたい。資料「1-1」の棒グラフを見ると、医療費がどんどん上がる。

01_2040年を見据えた社会保障の将来見通し

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 一方、参考資料「1-2」の5ページを見ると、患者さんの数はほとんど変わらないし、外来はむしろ減るということになっている。

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03_シミュレーション結果(医療・介護の患者数・利用者数および就業者数)

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 また、参考資料「1-1」の18ページでも、利用者はそんなに増えない。

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04_医療・介護の患者数・利用者数および就業者数

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 介護はどんどん増えても、医療についてはさほど増えない。しかし、最初の棒グラフでは医療費もどんどん増えるということになっているが、このへんの齟齬がある、差があるのはどういうことか。

 それから、参考資料「1-4」の18ページを見ると、紫色の「実績」というのが2012年頃からかなり下回ってきている。

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02_「参考資料1-4」P18

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 この推計を何年にしたのかは別として、このように医療費は減る傾向が見られる。健康寿命は少しずつのびている。改定の影響もある。今回の同時改定を私は非常に評価している。アウトカム評価などによって患者さんが良くなれば医療費は減る。参考資料「1-3」の5ページを見ていただきたい。

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05_医療費の伸び率の要因分解

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 2016年度の改定で、医療費の伸び率は、実に初めてのマイナスといってもよい「マイナス0.4%」となった。医療費が伸びていない。むしろ減っている。私は今回の同時改定を非常に評価している。今回の改定によって2016年よりも伸び率が下がるのではないかと、良くなるのではないかと思っている。

 ところが、最初の資料「1-1」の棒グラフを見ると、医療費・介護費給付費がどんどん増えていくことになっている。これらのご説明いただいた資料の差というのは一体どこにあって、実際はどのくらいが適当なのかということと、シミュレーションのやり直しをしたほうがいいのではないかということも含めてご説明いただけたらありがたいと思う。

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[厚労省保険局調査課・山内孝一郎課長]
 最初のご指摘のポイントは、「患者数はそんなに増えないのに医療費が伸びる。つまり、額が増えるのはなぜか」というご質問だと思う。医療費に関しては、いくつかの要因を分解すると、人口の増減とか人口の高齢化という「人口要因」と、それから医療については「その他」というか、高度化などの要因で伸びる部分と、そして改定で変動する部分というのがあると思う。

 「患者数が伸びない」ということについては、推計の方法として、将来の人口に年齢別の患者発生率みたいなものをかけて推計している。要するに人口要因でどうかという面だと思う。患者数が伸びないのは、日本の医療費の受療率の年齢別の構造と、それから将来の人口構成等を考えたときに、人口要因で伸びる分というのはこれからだんだん小さくなっていって、2030年頃を境にマイナスになっていく。こういう姿はすでに諮問会議等でもお示しをしている。したがって、そういう観点からみて患者数はあまり伸びない。

 けれども、医療費全体については、高度化であるとか、仮定ではあるがある程度の経済成長に連動して一定の報酬改定などが行われるということで、そういった経済の伸びを反映することも加味して、医療費の名目額は上昇していくという構造になっている。

 それから、もう1つ。2016年度改定では医療費があまり伸びなかったというお話があったが、参考資料「1-3」の5ページ目をご覧になりながらのご指摘かと思うが、それは「医療費の伸びの要因分解」という、よく使う資料である。平成28年度にマイナス0.4%の伸びであったということを指して、ご指摘されたのだと思うが、これには理由がある。改定の影響は、その下に「診療報酬改定等」と書いてあるところで、そこにあるとおりの改定の状況である。

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05_医療費の伸び率の要因分解

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 ただ、平成28年は、もう少し大きな特殊要因があって、平成27年の秋ぐらいから高額なC型肝炎治療薬がよく使われるようになり、結果として平成27年の伸びのほうを見ていただくと、3.8%という、それまでに比べるとかなり大きく一時的に上昇した。そこで、平成28年度はそのC型肝炎治療薬の薬価の改定などがあったことに加えて、使用量が27年に比べるとかなり落ち着いたという特殊要因で、平成28年はたまたまマイナスになっている、そういうことであるとご理解いただければと思う。

 それから、長くなって恐縮だが、もう1つ。「紫色(実績)のグラフがあまり伸びてない」というお話をいただいた。参考資料「1-4」の18ページだが、これはまさに、先ほどのご質問にお答えしたのと同じ話になるのだが、青い点線と赤い点線は、2012年に行った一体改革時の医療費の推計値ということであるので、当時、実績が出ていたのが、たぶん2010年頃までだと思うが、それを踏まえて延伸していったというのが一体改革時の推計であり、実際はその後、毎年毎年いろんな努力をしているわけなので、それが紫の実績に表れている。そういうものということでご理解いただければと思う。

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02_「参考資料1-4」P18

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[武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)]
 紫(実績)のほうが実際に下がってきたのだったら、2012年から予想も見直していただいたほうがいいのではないだろうか。

 それと、75歳以上の人がこれからまだ2025年までに500万人ぐらい増えるわけだが、現在は75歳以上の人の4.2%が入院されているということが分かっている。そうすると、500万人も増えるのだから入院する人も増えるのかなと普通には思うのだが、現実にはどんどん減ってくる。しかし単価は高くなる。このへんの判断がよく分からないので、教えていただきたいと思う。

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[厚労省保険局調査課・山内孝一郎課長]
 まず最初のお話だが、参考資料「1-4」の紫の線、まさに、これは2017年の実績見込みまで紫でプロットしているが、その先に2018年度予算というのがある。まさにその2018年度予算を足元にしてやり直したのが今回の資料の「1-1」ということでご理解いただければと思う。

 それから、入院患者数のお話を頂いた。参考資料「1-1」の18ページに患者数などを出しているが、一番上の行が入院患者数であり、入院患者数は実際、2018年から2040年にかけて増えていく。一応、人口構造の影響などを折り込むと、こういうことになる。

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04_医療・介護の患者数・利用者数および就業者数

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 そして2018年から2025年にかけて横ばいということになっているのは、これはまさに2025年の地域医療構想を土台としたということで、2018から2025はおおむね横ばいで、その後は、その2025年の状況を投影しているので、入院患者数は増加するという試算になっている。

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[遠藤久夫部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)]
 ありがとうございました。(後略)

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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