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財務省の提案、「お金のことばかり」 ── 5月17日の定例会見で武久会長

Posted By araihiro On 2018年5月18日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は5月17日の定例記者会見で、財務省が示した社会保障に関する考え方について「お金のことばかりで制度についての提案がない」と苦言を呈しました。武久会長は、急性期病院の長期入院を優遇する特定除外制度などを「医療費の無駄」と指摘し、「初期治療が終われば直ちにリハビリの充実した『地域多機能型病院』に転院させるような提言をしていただければ、みるみるうちに医療費の増大が抑制される」と主張しました。
 
 財務省は4月11日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の財政制度分科会を開き、「社会保障」を主な議題としました。財務省は同分科会で、「社会保障について」と題する93ページの資料を提示。今後の医療・介護について「対応の方向性(案)」などを示しました。19日には、経済財政諮問会議の社会保障ワーキンググループ(WG)で今後の社会保障改革の考え方を示し、11日の資料の「続編」を公表。25日の財政制度分科会では、19日のWGに示した資料を一部修正して「社会保障について②」としています。

 この日の会見では、11日と25日の分科会で財務省が示した資料を踏まえ、日慢協としての見解を武久会長が説明しました。

 以下、同日の会見要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2018/chairman180517.html)に掲載しておりますので、こちらをご参照ください。
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5月17日の定例記者会見2
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財務省の提案、「いずれもお金のことばかり」

[武久洋三会長]
 同時改定の後、どのようにしたらいいのか。各病院が一生懸命に対応しているところであり、本日の理事会でも、いろいろな意見が出た。総体的にはよい同時改定なのではないかということで、皆さんの意見が大体一致している。

 今月の記者会見のテーマは、財務省の社会保障についての考え方に対する日慢協のスタンスである。4月11日と25日の財政制度等審議会・財政制度分科会で、財務省が社会保障について今後の方針を提案した。それに対して日本慢性期医療協会としてのスタンスを皆さま方にお伝えしたく、今回はこれに絞ってお話しする。

 まず1ページをご覧いただきたい。「改革工程表上の主な制度改正等の検討項目」について、2017年度改定後、「既に対応済みのもの」と、「一部対応したが、引き続き対応が必要なもの」が挙げられている。財務省らしく、いずれもお金のことばかりで、患者にさらなる負担を求める項目が並んでいる。
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 2ページをご覧いただきたい。「今後対応していくもの」をこのように挙げている。やはりお金のことばかりで、制度についての提案がない。
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寝たきり率をどうにかする発想がないのだろうか

 11日の分科会で財務省は、医療・介護に関する保険者の負担がどんどん増えているという資料を出した。協会けんぽ、健康保険組合のいずれも年々、保険料負担が増えている。また、人口が75歳以上で非常に増えているとか、社会保障給付費が2025年には148兆円になるとか。資料によると、日本の「総医療費対GDP比」はOECD加盟国の中で6番目ぐらいである。

 一方で、「我が国の医療提供体制の問題点」も示している。日本の平均在院日数が「29.1」(日)と赤字で書いてある。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカの4カ国と比べて非常に長い。人口1,000人当たりの総病床数は「13.17」となっており、イギリスやアメリカと比べて5倍違う。このように財務省は、「違うのだ」というデータを示しているものの、これに対してどうするかは一切書いていない。

 9ページをご覧いただきたい。日本は、寝たきり率がアメリカの5倍、スウェーデンの10倍となっている。このような寝たきり率をどうにかするという発想が、財務省にはないのだろうか?
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地域別の診療報酬、「大変なことになるだけ」

 1人当たりの医療費には地域差がある。厚労省の「平成27年度医療費の地域差分析」によれば、最大が福岡県の64万円で、最小が新潟県の47万円と、両者には17万円の格差がある。また、10万人当たりの病床数の最多は高知県の2,522床、最小は神奈川県の810床で、両者の開きは3倍である。財務省は11日の同分科会で、このようなデータを示した上で、地域別の診療報酬を提案している。

 しかし、都道府県の中でも地域差があるので、地域別の診療報酬などを導入すれば大変なことになるだけである。私は社会保障審議会の医療保険部会で提案したのだが、基本的には診療報酬は全国統一にして、同じ都道府県の中でも、都市部と過疎地では全く違うので、特別な基金を使うことで対応するほうがいいのではないかと考えている。
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医療費の無駄遣いの視点、「財務省にも必要ではないか」

 12ページをご覧いただきたい。1990年頃はブルーの帯の中に入っていたが、ほんの3年ほど前、ここからはみ出した。
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 将来はずっと上へ行くということで、「国民の負担率が低いからこうなるのだ」ということを言いたいようであるが、もっと根本的なことを考える必要があるのではないか。13ページをご覧いただきたい。日本の医療費の無駄遣いについて、私はこのように考えている。
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 われわれがいつも言っているから、皆さま方もよくお分かりだと思う。このような無駄遣いが日本にはあるという視点が財務省にも必要なのではないか。日本の病院の平均在院日数や人口当たりの病床数はアメリカの5倍である。

 入院期間が短いはずの一般病床が慢性期病床の3倍もあるのはどういうことか。自称「急性期病院」において慢性期の患者を長期間入院させることで、より高い医療費がかかっている。特定除外制度をどうするのか。一般病床に90日以上も入院している患者への優遇策がいまだに残っている。

 諸外国と比べて、日本の一般病床における入院日数は5倍、寝たきりも5倍。そのため、医療・介護サービスの費用が5倍かかるのではないか。
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入院期間2週間のはずのベッドが療養病床の3倍近くある

 急性期病床が慢性期病床の3倍もある。15ページをご覧いただきたい。

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 赤い線が引いてある部分が一般病床と療養病床。これを見ると、一般病床は89万1,548床、約90万床である。これに対して療養病床は32万5,222床となっている。このように、急性期といわれる一般病床は療養病床の2~3倍近くになっている。これはおかしいのではないか。急性期とは、入院から2週間程度の期間をいうのではないか。それなのに、ベッド数は3倍近くもある。

 現在、一般病棟の入院基本料の稼働率は75%に限りなく近づいている。ベッドがどんどん空いている。以前より申し上げているように、余っている病床を介護医療院にしてはどうか。

 日本は世界一の長寿国である。日本人が外国人よりも多くの病気をわずらっているわけではないのに、どうして病床数が多いのか。病院病床のうち25~28万床が空いている、ここ15年で約120万床の居住系施設ができている。そうなると、病院病床はもっと少なくてもよいのではないか。ますます空いてくるのではないか。そうした中で、居住系の施設が増えている。
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財務省は、国民に負担を押し付けて医療費を適正化

 財務省の見解をまとめた。人口減少や経済成長に連動して窓口負担を自動的に上げるという制度にしたいようであるが、年金は人口減少などに応じて給付を抑制するように、「マクロ経済スライド」方式にしたいようである。
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 また、地域別診療報酬を都道府県ごとに設定し、75歳以上の窓口負担を1割から2割にする。介護サービス利用者の負担も1割から2割にしたいようである。軽度患者の少額受診で追加負担をさせたいとも考えている。

 すなわち、国民に負担を押し付けようとしている。これによって医療費を適正化していこうという考えであるが、根本的なことを財務省は考えていない。

 国民に負担を押し付けるのはどうかと思うし、まずは制度や政策などの根本的なところを見直してはどうか。例えば、特定除外制度の問題や、急性期医療の定義の甘さなどがある。入院期間2週間程度の急性期病床が、慢性期病床の3倍もある。

 このような観点から、「患者負担増でどうにかなるものではない」ということを日慢協として助言させていただきたい。これは現場からの発信である。
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初期治療後は「地域多機能型病院」に転院させるべき

 大胆な考え方の転換が必要である。寝たきりの患者さんをせめて現在の半分にできれば、医療費は大幅に削減できるはずだ。

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 急性期病院に長く入院させていることが寝たきりをつくっているのだから、ここを改善すれば医療・介護の費用を大幅に減らすことができる。十分なリハビリができない急性期病院での入院期間を大幅に短縮させる必要がある。急性期病院は、初期治療が終われば直ちにリハビリの充実した「地域多機能型病院」に転院させる。このような提言をしていただければ、みるみるうちに医療費の増大が抑制されるのではないか。

 一方で、慢性期病院の中に残っている社会的入院も削減させないとおかしい。現実には、居住系のベッドが120万床も増えているのだから、病院にいるよりは居住系の所に行ったほうがいいという人もたくさんいる。慢性期病院での社会的入院の削減は可能である。特別除外制度の経過措置も非常に問題がある。

 以上、4月11日と25日に出された財務省の基本的な考え方について、日慢協として同意するところもあれば、そうではないのではないかというところもあったので、日慢協としての考え方を述べさせていただいた。この件については、先ほどの理事会において全員の賛同を得て、今日皆さま方に提供することになった。説明は以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 



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