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見えてきた新類型! 介護施設との共存で時代は開ける ── 第25回日本慢性期医療学会②

Posted By araihiro On 2017年10月20日 @ 11:30 AM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 「地域が創る慢性期医療 ──新たな医療への挑戦──」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月19・20日の両日、仙台市内で開いた「第25回日本慢性期医療学会」の1日目のシンポジウム2は、「見えてきた新類型! 介護施設との共存で時代は開ける」と題して開かれました。厚労省の老人保健課長や介護給付費分科会で分科会長を務める大学院教授、日本医師会の常任理事、慢性期病棟の経営者がそれぞれ講演し、同協会理事の江澤和彦氏が座長を務めました。
 

■「病床とは機能が違う。生活施設としての機能を明確化した」── 鈴木氏

04_鈴木健彦(厚生労働省老健局老人保健課長) 厚生労働省老健局老人保健課長の鈴木健彦氏は、療養病床のこれまでの経緯を踏まえ、新類型の介護医療院に期待される役割を説明するとともに、今後の論点などについて整理しました。

 鈴木氏はまず療養病床に関する経緯について「1973年の老人医療費無料化により、老人病院、社会的入院が増えたことに端を発している」と述べ、特例許可老人病院の制度化を経て療養型病床群の創設、2001年の医療法改正における「療養病床」の創設までの流れを説明しました。

 続いて2006年の医療保険制度改革と診療・介護報酬同時改定における介護療養病床の23年度(2011年度)末までの廃止と老健等への転換に言及。一方で転換が進まなかったため、同年の介護保険法改正で介護療養病床の廃止・転換期限を平成29年度(2017年度)末まで再延長したことにも触れ、「現在まだ6万床の介護療養病床が残っている」と報告しました。

 また、介護保険法改正の附帯決議により設置された「療養病床の在り方等に関する検討会」で療養病床の利用者像について整理した結果、①平均在院日数が長く、死亡退院が多い、②特養や老健よりも、医療必要度や要介護度が高い─などの特徴が示されたことにより、「医療機能を内包した新たな施設類型が提案された」と説明しました。また、上記の状態像から、新たな施設類型に必要な機能として、「住まい」機能の強化と日常生活上必要な医療処置や充実した看取りを実施する体制を挙げました。

 鈴木氏は「新たな施設は1つではなく柔軟なパターンが必要」との観点から、慢性期の医療・介護ニーズへ対応するためのサービス提供類型として、「1つは容態の急変等のリスクが高い方への対応。もう1つは比較的安定しているが多様なニーズに対する日常的な医学管理」と述べ、医療機能を内包した施設系サービスの2つのパターンを紹介しました。また、内包型とは別に医療は外から提供する、いわゆる「医療外付け型」の考え方についても説明しました。

 そのうえで介護療養病床相当のⅠ型と老健相当のⅡ型、そして医療外付け型の主な利用者像や施設基準のイメージを示し、そのなかで「Ⅱ型の人員配置は低くていい。老健相当プラスαのところで検討したらどうか」と私見を述べました。
また、介護保険法の介護医療院の根拠条文(第8条)を示し、「最初のところが療養病床と違う、つまり生活施設としての機能をもっている、ということを法律上に位置づけた」と説明しました。

 今後のスケジュールについては、「介護給付費分科会で人員配置や施設基準、報酬などを議論していただいて具体的に決まるのが2017年度末。それをみていただいて転換するところは順次転換していただく」と述べるにとどまりました。

 一方、各計画における介護医療院の位置づけにも言及。「どれだけ介護医療院を整備するかは都道府県が介護保険事業計画で決めるが、医療計画や同時改定が行われる今年はベストのタイミング」と指摘し、各計画が連携を図りながら進めていくことの重要性を強調。関連して、介護保険事業計画の第7期において医療療養病床および介護療養病床が、介護医療院、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、特定施設入居者生活介護に転換する場合は「総量規制の対象外。つまり転換を受け入れてください通知をしている」と付け加えました。

 最後に鈴木氏は、介護医療院について「病床とは機能が異なる。生活施設としての機能を明確化した」と改めて強調。「最終的には、そういう機能が担えるようにしていきたいと考えている」と締めくくりました。
 

■「介護医療院の4機能を明示し、看取りの場となることに期待」── 田中氏
 
02_田中滋(慶應義塾大学大学院 名誉教授) 慶應義塾大学大学院名誉教授で介護給付費分科会の分科会長を務める田中滋氏は、「介護医療院の将来展望」をテーマに講演。「介護分野にはさまざまな機能があるが、介護分野における機能組み合わせの新しい類型」として介護医療院を捉え、そのあり方について持論を展開しました。

 冒頭、田中氏は介護医療院に将来像について「利用増につながるか、経営的に良くなるのか、報酬も施設基準もまったく決まっていないのでわからない」としながらも、「シンポジウムタイトルの『見えてきた』というのは1つではなく、答えの群が見えてきたということ。良い方向にいくのかどうかは皆さま次第だ」と現場の奮起に期待を寄せました。

 続いて「介護は生活なので、さまざまな機能の組み合わせによって成り立っている」との認識を表明。高齢者の安心感を支える機能の例として、介護やリハビリテーション、医療・看護、住まい、食事、生活支援、楽しみ・生きがい、看取りなどを提示。そのなかで「『住まい』が安定していないと継続的な安定的な医療・介護を提供できない」と住まいの重要性について言及しました。

 そのうえで、「介護医療院は住まい。住まいである以上、どういう機能をもつか」と問いかけ、①医療・介護サービスの利用について安心できる住まい、②孤立させない、地域とつながる住まい、③看取りの場所になりうる住まい─の3つを示し、「これらの機能が必要ではないか」と指摘しました。

 田中氏は、さらに「機能の組み合わせに違いがなければ、新しい施設をつくる意味がない」と述べ、介護医療院の組み合わせについて「住まい」「生活支援」「医療」「介護」の4つを提示。「医療」がない介護老人福祉施設、「住まい」がない介護療養病床などとの違いを明らかにしました。

 一方、介護医療院が必要になってきた日本の高齢化の現状についても解説。各国の80歳以上の人口推移を比較するなかで、日本は1950年から27倍に伸びていることを示し、「日本の医療、公衆衛生、栄養管理などが成功し、すごい勢いで増えた。そのなかで特養や在宅を整備し、老健も変わるなかで介護医療院が必要になってきた」と振り返りました。

 加えて、年間死亡数が2040年頃にピークになるデータを提示して、「焼き場を増やすとかいう問題ではない。亡くなる日、亡くなる前の3日間をどこですごすか。どこで亡くなるかも重要。それは介護医療院が果たしていく宿命」と看取りの役割に期待を寄せました。

 最後に田中氏は、各国の1980年に対する2050年の高齢者増加率予測を示し、欧米や日本の増加率が鈍化するのに対してアジアの新興国の急速な高齢化を指摘したうえで、「かれらは日本に大変注目している。介護保険制度、地域包括ケアシステム、機能分化などを進める日本はアジアの高齢化のリーダーであり、責務を負っている」と強調しました。
 

■「納得してもらえる、最後は笑顔で迎えられる施設に」── 日医・鈴木氏

05_鈴木邦彦(日本医師会 常任理事) 日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏は、「地域包括ケアシステムの構築に向けて~介護医療院の創設と今後の介護保険施設の在り方について~」をテーマに講演し、主に地域医療構想の視点から介護医療院のあり方を提言しました。

 鈴木氏は、2013年の「社会保障制度改革国民会議報告書」をベースに「病院完結型」から「地域完結型」への改革が必要との認識を示したうえで、「しかし、現状は必ずしもそうなっていない。病院完結型になっているのではないか」と問題提起。一方で、今後わが国に必要な医療として、「高度急性期医療」よりも「地域に密着した医療」を挙げ、後者を支える「中小病院や診療所などの既存施設の活用が重要である」と指摘しました。

 また、大病院を頂点としたピラミッド型の垂直連携から、地域包括ケアシステム型の水平連携への転換が重要であるとし、「水平連携で急性期病院は最後の砦。病床は少なくていいし、それができるかどうか。地域医療構想が成功するかどうかの鍵を握っている」と強調しました。

 医療提供体制については、日医と四病協で2013年に「地域急性期型病院」「地域医療・介護支援病院」を合同提案したことを踏まえ、「2016年の地域包括ケア病棟の創設につながった」と紹介。同病床については「大病院は1病棟までにした。空床対策に使われるのは本来の趣旨とは異なる」と釘を刺し、「500床以上の病院は高度急性期に特化すべき」と主張しました。

 一方、介護医療院への転換に関して、「第7期の介護保険事業計画においては廃止に伴う話なので療養病床からの転換のみにするべき。一般病床は総量規制の対象だが、やはり順番というものを考えていく必要がある」と指摘しました。また、病院全体を介護医療院に転換した場合の名称の問題に対しては「都道府県の判断になるが、私は転換が進むような方向で議論してほしい」と述べるにとどまりました。

 さらに介護医療院の創設により、「介護保険施設内の機能分化と医療機関との役割分担が必要。介護医療院もある程度の医療はカバーしつつ、対応が不十分なところについては地域の病院や有床診療所との連携が重要」と指摘しました。

 最後に鈴木氏は、「2006年の介護療養病棟廃止のときは、大変な憤りを感じた。不幸なおいたちを持つ介護医療院だが、今回はみなさんに納得してもらえる、笑顔で迎えられるものにしていきたい」と抱負を述べました。
 

■「2つの視点」を軸に療養病床からの転換優先等を要望 ── 清水氏

06_清水紘(日本慢性期医療協会 副会長) 嵯峨野病院理事長で、日本慢性期医療協会副会長を務める清水紘氏は、「介護医療院は『魅力ある選択肢』となるか」をテーマに講演し、「歴史的な経緯」と「多死社会への対応」という2つの視点から介護医療院の可能性について探りました。

 まず「歴史的な経緯」については、「介護医療院は、療養病床の転換支援策である」という視点を提示。その観点から、「一般病床からの転換は否定しないが、まずは療養病床からの転換を優先していただきたい」と要望しました。
 
 また、療養病床廃止の根拠とされた慢性期入院医療実態調査に対して「『医療の必要性がほとんどない患者が療養病床にたくさんいる』といった印象操作が可能なデータに仕上がっている」と指摘し、「『医師の指示の見直し』の必要がないからといって、『医療や医師の必要性がない」とは決して言えないはず』と主張しました。

 そのうえで、今回の介護医療院の創設に関して「こうした誤解がきちんと解消され、まずは、国の療養病床に対する考え方を転換していただく必要がある」と促すとともに、介護療養病床からの転換に対して経営が成り立つようにすることや、入院患者や家族が困らないような措置を講じていく必要性を指摘しました。

 2つ目の「多死社会への対応」では、「人生の最終段階を支えるための病床」という視点を提示。2060年に総人口は9,000万人を割り込み、高齢化率は40%近くになるなどのデータを示して「多死社会」の到来を予測するとともに、「2015年の自宅での看取り率は12.7%。在宅死をこれから大幅に増やしていくのは難しい」との見解を示しました。

 一方、介護療養病床については「医療の必要な患者さんが多く入院されており、また人生の最終段階にある患者さんも少なくない」と特徴を述べ、「死亡に至るまでの数週間、あるいは数ヶ月間の人生をいかに支えてさしあげられるかが重要」と強調しました。加えて「介護医療院には、医療的な処置だけではなく、患者さんやご家族のお気持ちに寄り添うことも重要な役割」と付け加えました。

 そのうえで「多死社会への対応」のまとめとして、「介護医療院は“住まい”の機能を持つ長期療養を目的とした施設であり、在宅復帰を目的とした施設ではない」と重ねて強調しました。

 清水氏はこうした2つの視点を踏まえて、①円滑な転換が最優先ということ、②安定的な運営の確保、③国民に対する広報の充実──の3つを提言。なかでも国民に対する広報の充実については、「介護医療院に対しては、“老人収容所的な病院の行き先である”との誤解がある。そのような誤解を解いたうえで、増え続ける国民ニーズに適切に対応できる病床であることを知っていただく必要がある」と強調したうえで、自信を持って「介護医療院」の看板を出せるよう、広報活動の充実を訴えました。
 

■「選択肢が増え多様な医療・介護のニーズに応えられる」── 木村氏

07_木村宗孝(南昌病院 理事長) 南昌病院院長の木村宗孝氏は、「医療・介護連携の現状と実践―“新類型”との関わり―」と題して講演し、自院の取り組みを踏まえ、介護医療院の導入についての考え方を示しました。

 木村氏はまず、岩手県の人口や高齢化の現状、9つある医療圏について触れたうえで、同院のある盛岡医療圏の紫波郡(矢巾町、紫波町)を紹介。そのうえで南昌病院の特徴について「医療・保健・福祉の三位一体となった医療施設で、リハビリテーションに積極的に取り組み、早期在宅復帰に力を入れている」と説明しました。

 また、社会福祉法人敬愛会を運営して介護施設を断続的に整備していくなか、2013年に街の中心に医療福祉多機能ビル「ケアセンター南昌」を開設し、訪問系サービス、通所系サービス、入所サービスを一体的に提供していることを紹介しました。さらに地域の医療介護連携に関して、紫波郡内にある医療機関と介護施設を束ねて連携の推進を図ってきたことも付け加えました。

 一方、岩手県の平成37年度の介護人材の需要数(推計)を示して、「需要は3万人、供給数は2万5,000人で、介護職員は約5,000人が不足することが見込まれており、人材不足が深刻化していく」と述べたほか、地域医療構想における慢性期病床の過剰や高齢化の進展(2025年に27%)などの地域の状況について説明しました。

 そうした状況を踏まえ、同院の病床機能について、「医療療養病床20対1の入院基本料の要件の、医療区分2、3に該当する入院患者が80%以上確保できるかどうかが鍵」とポイントを挙げました。

 木村氏はさらに医療療養病床26床を介護医療院などに転換した場合のシミュレーションを紹介。「報酬や基準が決まっていないなか、あくまでも目安だが」と前置きしたうえで、利用料収入から人件費を引いた収益は、「医療療養病床(20:1)」約620万円、「医療機能内包型Ⅰ」約550万円、「医療機能内包型Ⅱ」約390万円、「医療外付け型」約430万円という結果を明らかにしました。

 最後に、新類型について、①地域医療構想で慢性期病床は過剰、②介護療養病床等の6年後の廃止、③新類型への転換は費用が少なくて済む─などを挙げてから、「これらを勘案し、回復期リハや地域包括ケア病床への転換も含め検討していきたい。いずれにしても介護医療院の新設は、選択肢が増えることで多様な医療・介護のニーズに応えられる素地ができた」と期待感を示しました。
 

■ 新しい施設づくりで問われる事業者側の姿勢は

01_座長 質疑応答で座長の江澤氏は、田中氏に対して「介護医療院の機能を示されたが、介護医療院の理念についてお伺いしたい」と質問。これに田中氏は、「介護保険では尊厳と自立支援といっているが、看取りまでを含めての尊厳。したがって要介護度の方を立ち上がらせるということだけではなく、尊厳をもって接していくことが大切」と指摘しました。

 田中氏はまた、「介護医療院は生活の場である」という視点を重ねて強調し、「介護医療院に親御さんを預ける、そのときに医療ニーズだけでなく、生活面のニーズに応えていく。あるいは地域とのつながりも大切。住まいと生活を支えていくというところを前面に出していただかないと介護医療院の存在意義がない」と転換を検討する方々にアドバイスしました。

 続いて老人保健課長の鈴木氏は、介護費用の問題に対して、「どれだけ設置するかは自治体によって異なってくるが、費用については最終的には介護保険料に跳ね返ってくる。介護保険料自体は今回の新類型だけでなく、相対的にいろいろなサービスがあるのでそのなかのバランスをきちんと考えていきたい」と述べました。

 また、江澤氏が「自治体によっては医療と介護の調整があまり進んでいないのではないか」との懸念を示したことについて、厚労省の鈴木氏は「第一に押さえてほしいのは、医療外付け型は介護医療院ではないとうこと。既存の施設から転換して外から医療を提供する。だから今の病院を完全に生活の場にしていただくというのが前提」と指摘し、そのうえで「そういった施設形態を経営者の方々が地域のなかでどう位置付けていくのか。あとはそれを地域のなかでどう受け止めていくのか。それは自治体のなかできちんと考えていただきたい」との見解を示しました。

 日医の鈴木氏は、介護医療院を選択する医療機関について「地域に密着した病院でつくっていただくのがいいのでは。追い込まれて転換するのではなく、きちんとした施設をつくっていただきたい、そう考えている」と介護医療院への期待を述べました。

 最後に江澤氏は、「皆さんのお話を聴いて、事業者側がどういう姿勢で新しい施設をつくっていくのかが問われていると思った。そういう点では介護医療院に大きな可能性があるのではないか。国民のために、また地域や社会に貢献できる施設にしていけるようにしていきたい」とまとめました。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

(了)



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