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療養病床でも重症患者の治療

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年7月22日 @ 9:14 PM In 役員メッセージ | No Comments

 「療養病床」という言葉を聞くと、治療の必要性が少ない患者さんを寝かせている病床だと勘違いする人はいませんか?

 日本慢性期医療協会の常任理事で、医療法人錦秀会(大阪府大阪市)理事長の籔本雅巳氏は、「医療療養病床においても悪性腫瘍から神経難病まで幅広く対応しており、現在DPCが広く適用されている急性期病院からの受け皿として、かなり重症の患者の治療に当たっている」と言います。

 日本慢性期医療協会の機関誌(JMC)の2011年10月号「論壇」に掲載された「日本慢性期医療協会の現実に即した提言に期待~長期急性期病床の制度化の必要性~」(籔本雅巳氏)をご紹介します。

■ 日本の高齢者医療の歴史に伴った療養病床再編の経緯

 平成18年の小泉内閣の医療制度改革において、療養病床が大幅に再編されることが決定し、平成23年度末までに、介護保険適用の療養病床(当時で約13万床)を全廃し、医療保険適用の療養病床(当時で約25万床)を約15万床に削減することが決定した。

 日本の高齢者医療の歴史を振り返ると、昭和30年代に高齢者の増加に伴い、経済の高度成長を背景に国民皆保険が実現し、その流れの延長線上として昭和47年の老人福祉法改正により、老人医療費無料化が実施された。その結果、高齢者の受療に対する抑止はなくなり、必要以上の投薬・点滴・検査が行われ、医療の必要性が低い患者を長期に入院させる「社会的入院」も蔓延した。

 その後、医療費の増加が社会問題化し、昭和58年に70歳以上の高齢者にも一定の自己負担を求める老人保健法が施行され、長期の慢性疾患の多い高齢者の心身の特性にふさわしい診療報酬を設定するという観点から、「特例許可老人病院」および「特定許可外老人病院」という制度が設けられた。

 しかし、依然として一般病院に長期入院する高齢者が多く存在する状況が続き、病院の機能分化が十分進まない中で、平成4年の第二次医療法改正により「その他の病床」に「療養型病床群」という類型が設けられた。

■ 介護療養型医療施設廃止と転換への誘導

 平成12年4月に介護保険法が施行され、介護保険施設の一つとして介護療養型医療施設が位置づけられた。本来はすべて介護療養型医療施設に移行する建前であったが、介護保険料への跳ね返りという問題への配慮から、介護療養型医療施設に移行するものと、従来通り医療保険適用のものに分かれ、結果的に介護保険適用の療養病床は療養病床全体の3分の1程度にとどまり、介護保険、医療保険両者の療養病床の位置づけは不明確なものとなった。

 介護保険法施行と同年(平成12年)の第四次医療法改正により療養型病床群を廃止し、従来の「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に区分された。その選択は医療機関の判断に委ねられ、平成15年8月末までに各都道府県知事に届け出ることとされた。

 その後、冒頭で述べた通り、平成18年の健康保険法等の一部を改正する法律により、介護療養型医療施設の廃止を内容とする介護保険法の改正が盛り込まれた。

 介護療養型医療施設を有する医療機関は転換先をどうするかという決断を迫られたが、結果的に平成18年4月から22年3月までの転換状況は、転換型老健施設へはわずか4%のみで、医療療養病床への転換が85%、一般病床への転換が7%となっている。

 つまり、介護療養型医療施設から一般病床や医療療養に転換するという「逆流現象」が生じており、その流れは止まらない状況である。

 
■  転換型老健施設から医療機関への「逆戻り現象」が発生

 われわれ医療法人錦秀会では、全病床数3,200余床のうち約2,800床が療養病床で、その約半分の介護療養病床すべてを医療療養病床に転換した。

 また、転換型老健施設の利用者の53%が、入所中に容態に変化を来たし、医療機関に入院する「逆戻り現象」が生じており、同施設では診られない高齢者が多く存在している実態が明らかになっている。

 錦秀会グループにおいても、すべての介護療養病床が医療療養病床に転換した後の医療区分2・3の患者の割合は94%であり、医療療養病棟(20:1)の全国平均の87%を大幅に上回っている。

 医療療養病床を運営する医療機関にとって、医療区分2・3の患者をなるべく多く確保することが絶対条件であり、医療区分を重くする方向にインセンティブが働くことは自明のことである。

 医療費削減の方策として国が政策決定した介護療養型医療施設廃止の結果として、転換先がより平均単価の高い医療療養型施設が圧倒的に多かったことは、実に皮肉な話である。

■ 「長期急性期病床」の制度化は理に適った提言

 今回、日本慢性期医療協会が、急性期医療を提供できる機能を併せ持つ長期入院の受け皿として「長期急性期病床」の制度化を提言した。

 武久会長は「結局、重度の後遺症を持った患者を診るのはわれわれ慢性期医療の現場だ。長期だけれども急性期的な機能を持った病床をつくらなければならない」と、その必要性を訴えている。

 錦秀会グループの医療療養病床においても、悪性腫瘍から神経難病まで幅広く対応しており、現在DPCが広く適用されている急性期病院からの受け皿として、かなり重症の患者の治療に当たっている。

 同協会では、長期急性期病床のほかに、従来の「長期慢性期病床」、医療と介護サービスを同時に提供する「介護療養病床」の3類型に分類すべきと提言している。非常に理に適った提言である。

 また、高齢化が進む状況の中で認知症問題が深刻化していくのは必至である。当然、BPSDが顕著な患者を精神科病院だけで対応するのは困難であり、医療療養病床においてもその受け皿として対応が迫られ、それに対する評価も必要であると考える。

 今後とも、日本慢性期医療協会の現実に即した提言を期待する。



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