- 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト - http://manseiki.net -

「人工知能AIのリハビリテーションへの応用開発」 ── 第4回慢性期リハ学会・シンポ3

Posted By araihiro On 2017年3月20日 @ 9:00 AM In 会員・現場の声,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会が3月19日に開催した「第4回慢性期リハビリテーション学会」のシンポジウム3は、「人工知能AI(Artificial Intelligence)のリハビリテーションへの応用開発」をテーマに開かれました。座長は、本学会長の熊谷賴佳氏(京浜病院・新京浜病院理事長)が務めました。

 人工知能(AI)をどのように医療・介護・福祉分野に活用していくか。AIを活用した新しいリハビリテーションの在り方は何か──。AIに関する2人の専門家が今後の可能性について語りました。シンポジストは、東京工業大学イノベーション研究推進体特任教授の小杉幸夫氏と、セントケア・ホールディング株式会社執行役員・医療企画本部長の岡本茂雄氏の2人です。小杉氏は、「AIは人間を幸福にするか?」と題し、岡本氏は「AIを活用したケアプラン作成について」と題して講演しました。
 

■「介護ロボットをもっと成長させなければいけない」── 小杉氏

01_小杉幸夫氏 小杉氏はまず、人工知能の歴史を振り返り、感染症の原因を診断するAIがかつて存在したことを紹介。それによると、正答率は約65%、名医が実施した場合には約80%の結果を示したそうです。
 
 小杉氏は「初心の医師よりはよかろうというレベルに、1970年にすでに到達していた」と評価しながらも、実用化に至らなかった原因を指摘。「法律上の問題があった。誤診をしたら誰が責任をとるのかという問題が解決せず、結局現場では使われず、研究室レベルでの開発に終わってしまった」と伝えたうえで、「こういうことは日本の社会でも起こりうる。研究ではうまくいっていても、それが社会で実用化できるかという点では、いろいろな問題が存在する」と今後の課題に迫りました。

 小杉氏は、ヒトの脳とコンピュータの関係について詳しく解説したうえで、「AIは感情を持つか」と問題提起。この問いについて「かなり否定的である」と私見を述べました。小杉氏は「例えば我々が何か嫌な思いをした場合に活性化される脳の部分を人工知能がどう実現していくか。実現してもあまり意味はない。『これは嫌だよ』というコンピュータを作ることに、どんな意味があるのか」と指摘。感情を具体化するネットワークづくりなどにはさほど取り組んでいないことを説明し、「人間とは基本的に違う問題である。碁や将棋では人間に勝てるかもしれないが、感情を持ったコンピュータやAIというものは作ってもあまり意味がないから作られない」との認識を示しました。

 小杉氏は最後に、「最も重要であるのは、今回のテーマでもある超高齢化社会における労働人口の減少であり、介護分野の医師、介護者の深刻な人手不足を招く」と指摘し、介護ロボットの開発や実用化に期待を込めました。
 
 小杉氏は平成28年3月の厚生労働省の統計を示し、「毎年10兆円が介護費として使われているが、その中で介護ロボットに使われたお金は出荷レベルで2016年に34億円しか出ていない。だんだん増えてきてはいるが、10兆円の0.03%にしかなっていない。これから、もっともっと成長させなければいけないし、我々が頑張らなければいけない分野である」と抱負を語りました。
 

■「日本の介護にとって大いに手助けとなるツール」──岡本氏

02_岡本茂雄氏 岡本氏は冒頭、「具体的にAIが使える状態になってきているという理解をしている。では、どういう形で今、実際に使おうとしているか。実用化を目指した人工知能の現物をスライドに映し、どのように動いているかをご報告したい」と述べ、AIを活用したケアプランの作成過程などを紹介しました。

 現在の開発状況について岡本氏は「大体できあがった」と評価しながらも、「例えば栄養状態を改善するなど、ケアマネジャーたちがやっている目標設定はアセスメントによって作っているが、ここがブラックボックス化されている。この部分の開発をどうするかも検討中である」との課題を挙げました。

 今後については、「人工知能に予後予測をさせ、それをご家族と共有化することにより、ケアプランが適切に機能するということを2年以内に実現しようと考えている」と語り、「目指すものとしては、『お世話する介護』から『自立支援する介護』への移行であり、それは予後予測があるからこそ目指せる。共同研究しているスタンフォード大学の先生方と、ようやく介護の分野でノーベル賞を目指せるかなと話している」と意欲を示しました。

 岡本氏は現在の開発状況を示したうえで、「論理的にこれが正しいかどうかはこれから学ばせていくところであるが、とにかくここまで計算をすることが人工知能はできてきた」と評価。「人手が足りない地域で施設に預けきりのプランを実際のケアマネジャーが作っていたが、デイケアと訪問リハと訪問看護を中心に、6カ月後には改善がされるというプランを実際にこの人工知能が作ってきた。これを進化させればケアマネジャーや、日本の介護にとって大いに手助けとなるツールになるのではないか」と今後の開発に期待を込めました。
 

■「評価者がAIになる時代もすぐそこまで来ている」── 熊谷座長
 
03_座長(熊谷賴佳)氏 講演に続く質疑応答では、会場から小杉氏に「医療関係のどの分野でAIが入ってくる可能性があるか。あるいは現在、導入されているのか」との質問がありました。

 これに対し小杉氏は「医療分野での具体的な応用の話になるが、まず一つは診断技術を進化させるのにかなり有効である」と回答。認知症のケアの事例を挙げ、「認知症の程度がどのようになっているかについて、表情を見て名医の先生はこういった状況かなというのを判断されるが、表情の画像を撮っておけば、それから自動的に判断して、この患者の状態はこういう可能性が強いということが分かる。その場合には、どういうケアをしたらいいかを岡本氏のほうで提案していただくなど、そういうデータをセンシング(情報の収集・数値化)する。センシングされたデータを解釈するというあたりにAIは使えるのではないか」と説明しました。

 また、岡本氏には「実際の運用をするイメージを教えていただきたい」との質問がありました。岡本氏は「様々なものを自由に入れて、どんな方法でも判断をするほど、まだ人工知能は進化していない」としながらも、「3年ぐらい経てば、どの方法でデータを入れてもいいようになると思うので、最初の要介護認定の段階ではなくて、個々の事業者の段階でもできるようなものになるとは思うが、ちょっと時間がかかる」との認識を示しました。

 討論を受け、座長の熊谷氏は「今回の岡本氏の『ケアプラン』のところを『リハビリプラン』に置き換えていただければ、PT・OT・STが作るリハビリプランの課題分析を今後はAIが担当することになる。またケアカンファレンスに替わるところをAIがするようになると、PT・OT・STは入力をすれば、AIがきれいなリハビリプランを作ってくれる時代が来るかもしれない」と指摘。その効果については、「小杉先生がご紹介したような、喜びを判定するリハビリの効果であるとか、評価法の一つというものもAIが判定して、『それは患者さんは喜んでいるよ』とか、『快適に思っているよ』ということも客観的に評価してくれるという、評価者がAIになる時代もすぐそこまで来ている気がする」との感想を述べました。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 



Article printed from 日慢協BLOG —- 日本慢性期医療協会(JMC)の公式ブログサイト: http://manseiki.net

URL to article: http://manseiki.net/?p=4587

Copyright © 2011 Japan association of medical and care facilities. All rights reserved.