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「発症直後から生活復帰を目指すには」── 第4回慢性期リハ学会・シンポ1

Posted By araihiro On 2017年3月20日 @ 8:00 AM In 会員・現場の声,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会は3月18、19日の2日間にわたり、横浜市内で「第4回慢性期リハビリテーション学会」(学会長=熊谷賴佳・京浜病院理事長)を開催し、6つのシンポジウムが開かれました。初日のシンポジウム1は「発症直後から生活復帰を目指すには ─ 急性期~回復期の時期を中心に ─」をテーマに開催。座長を木戸保秀氏(松山リハビリテーション病院院長)が務めました。
 
 シンポジストは、高橋秀寿氏(埼玉医科大学国際医療センター運動呼吸器リハビリテーション科教授)、橋本康子氏(千里リハビリテーション病院理事長)、仲井培雄氏(地域包括ケア病棟協会会長)──の3人です。高橋氏は高度急性期病院の立場から、橋本氏は回復期病院の立場から、仲井氏は地域包括ケア病棟を有する病院の立場から講演。続く討論では、「在宅における看取り」などがテーマになりました。
 

■「諦めることなくチャレンジすることが大事」── 高橋氏

01_高橋秀寿氏 最初に登壇したのは、埼玉医科大学国際医療センターの高橋秀寿氏。高度急性期病院の立場から、早期リハビリテーションの必要性について「急性期病院におけるリハビリテーションの現状とアウトカム」をテーマに講演しました。

 高橋氏は冒頭、「急性期リハビリテーションにおける一番のポイントは廃用症候群であり、実は急性期病院でも一番の問題点ではないか」と問題提起。できるだけ発症早期から積極的なリハビリを実施する必要性について、同センターの事例などを踏まえながら私見を述べました。

 高橋氏は「たとえ車椅子で自走できない人でも、とにかく離床してみる。30年前から言われていることだが、一つ上のことをやること、それを実践しようとしている」と現在の取り組みを紹介。脳出血で右の片麻痺だった40代(ステージ1)の患者の事例を挙げ、「3カ月もリハビリすると、ご自分で歩くようになる。短下肢装具で歩くようになり、最終的には通勤ができるようになって会社に戻った。仕事の調整は必要だったが、最終的には歩けるようになった。だからステージが重いからといって、決して諦めることなく、チャレンジすることが大事だ」と強調しました。

 高橋氏は最後に、動物実験における脳卒中の超早期リハビリ効果を紹介。「ラットでもやはり運動したほうがよかった。つまり脳の血流が増えた。だから、やはり動いたほうがよいということは、このようにいろいろな実験でも言われている」と指摘し、「ずっと安静にしていると廃用症候群になり、筋力だけでなく、骨粗しょう症や肺炎、床ずれ、認知症が進行するので、リハビリをしなければいけない」と述べました。
 

■「家に帰ってもしっかりとリハビリはできる」── 橋本氏

02_橋本康子氏 千里リハビリテーション病院理事長の橋本康子氏は、回復期病院の立場から「回復期リハビリテーション病院におけるリハビリテーションの現状とアウトカム」と題して講演。同院のコンセプトである「リハビリテーションリゾート」を踏まえ、「生活の場としての病院」の取り組みを紹介しました。

 橋本氏は最初に、「生活の場が刺激とトレーニングの場になる。科学的な根拠あるプログラムをつくらなければいけない」との考え方を示し、近隣や院内における在宅復帰の取り組み事例を紹介。「在宅入院」の在り方にも迫りました。

 橋本氏は、回復期リハビリテーションの目的について「在宅で暮らすことが目的であるとすれば、回復期にそれほど長くいる必要ないのではないか」と指摘。「回復期で、きちんとした診断と数値に基づいた予後予測がきちんとできて、リハプログラムが立てられれば、それを持って在宅へ戻り、PT・OT・ST、看護、介護がすべて在宅へ行き、必要ならば毎日でも日常生活の場でリハビリトレーニングをすればいい。病棟に入院しているだけではなく、家に帰ってもしっかりとリハビリはできる」と力を込めました。

 在宅でのリハビリ、すなわち「在宅入院」について橋本氏は「毎日行くような訪問リハビリは入院と同じぐらい、またはそれ以上の効果がある。在宅でのリハビリは実践的で社会参加も実現できる」と強調。さらに、「施設での入院を続けるよりも医療費も低減できる。早期のリハビリ介入によって回復が早まる」と指摘し、今後の課題に言及。「リハビリ提供量や訪問看護に制限があるので、現在の診療報酬体系ではあまりできないのが実際だ。しかしこういったデータを重ねていって訪問リハをもう少し濃くすれば、在院日数を短くできるのではないか」と述べました。
 

■「病院と地域を一体と考える多職種協働が今後の勝負」── 仲井氏

03_仲井培雄氏 地域包括ケア病棟協会の会長を務める仲井培雄氏(芳珠記念病院理事長)は、地域包括ケア病棟における発症直後から生活復帰を目指す取り組みについて、同協会の「地域包括ケア病棟の機能等に関する調査」結果などを踏まえて講演しました。

 仲井氏はまず、地域包括ケア病棟の患者像に言及。「人口減少、少子化、超高齢社会、地域格差の時代におけるマインドは『ときどき入院、ほぼ在宅』である。『従来型医療』から、治し支える『生活支援型医療』に転換がどんどん進んでいる状況である」と指摘し、「従来型医療」と「生活支援型医療」について具体的なケースを示しながら解説しました。

 そのうえで仲井氏は、リハビリを必要とする患者像について「以前は発症する前には生活支援を必要としない人が多かったが、最近は発症前から生活支援を必要とする人が多い時代へと変化している」と指摘。そのため、発症直後から生活復帰を目指すために「発症前の生活の状況を知る必要がある。在宅・生活復帰時のゴール設定に使うからである」との考えを示しました。

 今後の課題について仲井氏は「院内・地域内の多職種協働の連携の評価」を挙げ、「病棟と訪問を兼務するリハ療法士や看護師らを育成して、切れ目のない医療・介護を多職種協働で提供する『パーソン・フロー・マネジメント』を充実させてはどうか。そして医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーが立案した在宅・生活復帰や在宅生活に対する支援プランを評価できる人材として活用してはどうか」と提案。「病院と地域を一体と考え、パーソン・フロー・マネジメントをいかにうまく回せるようになるかが今後の勝負だと思っている」とまとめました。
 

■「院内に『小さな地域包括ケアシステム』ができる」── 仲井氏

 3人の講演に続く討論では、在宅での看取りが議論になりました。橋本氏は「高齢化が急速に進んできている。都会もそうだが、地方では独居世帯が増えているので、在宅に戻しても在宅で看取ることがなかなか難しいケースもある」と指摘。そのうえで、「何か特別な形の制度が必要なのではないか。『地域包括ケア』の考え方では、在宅での看取りまで進めていくことになるのか」と問題提起しました。

 これに対し仲井氏は、介護療養病床の新たな転換先となる新介護保険施設(介護医療院)の創設などに触れ、「いわゆる『在宅』には自宅だけではなく施設も含まれることになる。そうすると、病院の中に、例えば地域包括ケア病棟と、そういった新類型の施設が併設されていれば、それはもう『小さな地域包括ケアシステム』ができていると言えるのではないか」との考えを示しました。

 そのうえで仲井氏は「今後、急性期病院が地域包括ケア病棟を持ち、そして一生懸命に回復期のリハビリに取り組む。そのときに今度は急性期のリハビリにも取り組むとさらによいことが分かるので、そうしたら、ますます回復期に移ってくる人、慢性期に移ってくる人が減ってくる」と指摘。「地域包括ケア病棟を持って、サブアキュートの患者さんを受け入れ、そしてまた在宅に返すことをすれば非常によい。『在宅』は病院の中にあってもいい」と述べました。
 

■「本人との距離が一番近い人にご理解いただく」── 橋本氏

 会場からの質疑応答では、理学療法士から「在宅入院について、どのタイミングで本人やご家族に説明をされているのか。入院早期なのか、2週間、1カ月経過した後なのか」との質問がありました。

 橋本氏は「入院されてから2~3日の間にご説明している」と回答。説明方法については、「ご本人はなかなか理解できる状態ではない場合が多いので、ご家族の方にまずは話をするが、それで決まってしまうわけでもなく、『在宅入院』に関する取り組みについてご理解いただくように努めている」と答えました。

 そのうえで橋本氏は「ご本人との距離が一番近い人に話をして、ご理解いただく。患者さんの状態もあるし、ご自宅までの距離と患者さんのご家族の理解度もある」と指摘。「一定期間まで入院できることを『権利』とまでは言わないが、『入院してリハビリを毎日してもらうほうがいい』という感じのことを言われることも多いので、理解を得るのもなかなか大変だ」と悩みを見せました。
 

■「地域包括ケア病棟が回復期の中で重要な立ち位置に」── 木戸座長

04_座長(木戸保秀)氏 討論を受け、座長の木戸氏は「回復期病棟ができる前の時代というのは、患者さんにも医療者側にもゆとりがあった」と振り返ったうえで、「今はもう回復期病棟の日数制限などもあり、非常にせかされている時代であるような感じがしている」との認識を示しました。

 そのうえで木戸氏は今後の課題に言及。「回復期の療法士の専従が始まる前には、療法士を退院後に在宅の訪問に行かせることなどができていたが、今度の改正でそれが難しくなって、現在は中断してしまった」と制度上の問題点などを指摘しました。
 
 木戸氏は、「やはり急性期から回復期、そして在宅に向けて継続した、安定した関わりの環境を整えることが、患者さんに対してのゆとりを与えていくことになるのではないか」と指摘。発症直後から生活復帰を目指す取り組みについて、「地域包括ケアシステム、あるいは地域包括ケア病棟が今後の回復期の中では、重要な立ち位置になるのではないか」と期待を込めました。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 



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