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「入院医療費の大幅な削減が可能」 ── 1月12日の会見で武久会長

Posted By araihiro On 2017年1月13日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会は1月12日、今年最初となる定例記者会見を開きました。テーマは「医療費の効率化について」です。会見で武久洋三会長は、「重度や緊急性の高い疾患以外の後期高齢者の軽度中度の疾病については、地域包括ケア病棟や慢性期病棟のケアミックスなどのバックベッドに入院すれば、後期高齢者の入院医療費の大幅な削減が可能となる」と指摘。急性期の効率化によって浮いた財源については、「高度急性期や在宅医療の評価に使っていただければいい」との考えを示しました。

 武久会長は、厚労省が示したデータなどから75歳以上の入院医療費を平均約4万5,000円(1人1日)と試算。一方、療養病棟入院基本料1や地域包括ケア病棟1を算定している病院については、当協会の調査から平均約2万5,000円(同)とし、両者の差額2万円に着目しました。

 そのうえで、後期高齢者の入院患者数を約70万人とし、このうち高度急性期病院を除く一般病床や療養病床に入院している患者数を約50万人と仮定。「1日2万円が50万人、これに365日を掛けると、1年間になんと3兆6,500億円というお金になる。これを必要な経費と見るか」と問いかけ、「地域包括ケア病棟に地域急性期の患者さんが入院すれば、これだけの医療費が節減できるということをわれわれが現場から発信したい」との意向を示しました。

 以下、会見の模様をお伝えいたします。会見の資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170112.html)をご参照ください。
 

■ 慢性期だけの病院はこれから厳しくなる
 
[武久洋三会長]
 新年1月の記者会見を始めさせていただく。本日は会見の後に新年会を挙行する。皆さま方にもたくさんおいでいただき、ありがたく思う。
 
 本日は、「医療費の効率化について」というテーマでご説明を申し上げる。まず、資料の1ページをご覧いただきたい。近々に日本の病院は、▼ 高度急性期病院(広域急性期)、▼多機能型地域病院──の2つに大別されるであろうと考えている。私どもの理事会では、この内容を全員一致で承認していただいている。

 現在、病床機能報告制度などでは「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4つの機能に区分されている。しかし、やがては「高度急性期」と「多機能型地域病院」の2つに大別されるだろうと日本慢性期医療協会では考えている。すなわち、慢性期だけの病院はこれから厳しくなるであろう。慢性期だけの患者を診て、急性期の患者は診ないという選択肢は少なくなっていくと思う。
 

■ 効率化に向けた提言をしていく責任がある

 2ページをご覧いただきたい。2025年の出生数は78万人である。昨年の出生数は98万人だが、2025年には78万人に減少すると言われている。2060年には50万人を切る。このような状態の中で出生率がどんどん下がり、死亡率がどんどん上がっていくと、税金を払うべき人が減って税金を使うべき人が増える。単純に考えるとそうなる。

 このため、現在のように毎年約5,000億円の予算の上積みが果たして20年後にできるか。これは非常に厳しいのではないか。医療費は効率化される運命にある。人口がどんどん減っていく日本において、毎年確実に医療費が上がるのは現実的ではない。

 そうすると、われわれ現場にいる者は行政から一方的に指示されるのではなく、効率化に向けた提言をしていく必要がある。効率が悪い所がどこかあるのではないか、ここをこうしたら日本の医療は効率化される、国民にとっていい医療体制が組めるのではないか、ということを提言していく責任があると思う。
 

■ 後期高齢者の入院医療費、「急性期か慢性期か」
 
 3ページをご覧いただきたい。年齢階級別の1人当たり医療費と平均収入について。これは平成28年9月29日の社会保障審議会・医療保険部会で示された資料である。

 それによると、「1人当たり医療費」と「1人当たり平均収入」について、このようにまとめられている。

 ○ 1人当たり医療費は高齢になるほど上昇し、70歳代までは入院外の割合が高いが、80歳代以降は入院の割合が高い。
 ○ 75歳以上で国民医療費の約35%を占める。
 ○ 一方で、1人当たり平均収入は50~54歳をピークに、高齢になるほど減少。

 人間には寿命があるので、亡くなる前に医療費が多いのは当然であるが、一方で、1人あたりの平均収入は50~54歳をピークに高齢になるほど減少する。

 同部会でこの資料が出たとき、私は「この入院医療費は急性期の入院医療費か、慢性期の入院医療費か」と質問した。これに対し厚労省の担当者は「今すぐには分からない」と回答し、後ほど資料を出してくれることになった。

 75歳以上になったら入院医療費が増えるのは分かる。100歳になっても当然増えるであろう。しかし、90歳以上の人口はそんなに多くないはずである。85~90歳ぐらいの人が非常に多い。その年齢層が平均寿命に当たる。後期高齢者になると、外来より入院医療費が多くなるとの結果が出ているが、その入院医療費は、急性期病院と慢性期病院でそれぞれどれくらいかという報告がない。

 後期高齢者が軽度や中度の疾病であっても、高度急性期または急性期の病院に入院すると、1日約20万~5万円の入院医療費がかかる。慢性期の病院ならば1日約2万円で済む。そこで私は「この入院医療費は急性期の入院医療費か、慢性期の入院医療費か」と質問したのである。
 

■ 7対1病院、「実はこんなものだ」

 6ページの資料、「医師による指示見直しの頻度別の患者の割合別医療機関分布」をご覧いただきたい。これは、平成28年度の診療報酬改定に向けた審議の中で、厚労省が平成27年10月14日の中医協総会で示した資料である。
 

1月12日会見資料006
 

 それによると、7対1入院基本料の届出医療機関であっても、医師の指示見直しは「週1回程度」またはそれ以下に該当する患者が50%を超える医療機関も存在するという。こういう衝撃的な内容の資料を厚労省保険局医療課が中医協に出した。

 7対1といえば看護師さんが最も多い病棟であるが、「実はこんなものだ」ということを当の医療課が示した。この資料は、「そんな落ち着いた軽い人が半分近くもいるんだったら、スタッフはこんなに要らないじゃないか」ということを暗に指している。

 7ページをご覧いただきたい。年齢階級別の在院日数と退院できない理由に関する資料。それによると、7対1入院基本料の届出医療機関において、年齢が高くなる程在院日数が長くなる傾向が見られた。
 
 また、「医学的には外来・在宅でもよいが、他の要因のために退院予定がない」患者が退院できない理由として、年齢が高くなる程、「入所先・入院先の施設が確保できないため」や「家族の希望」と回答した割合が高くなる傾向が見られた。退院できない理由について、まるで慢性期病院のような理由が並んでいる。
 

■ 平均4万5,000円、「2万5,000円でちゃんと治療できる」

 8ページは、後期高齢者医療の1日当たり医療費別の医療費分布について。これは私の質問に対して示してくれた資料である。これを見ていただけると分かるように、75~79歳は1日当たり5万円以上が43.4%を占めている。40数%は、そういう高い医療費の所に入院している。
 

1月12日会見資料008
 

 ここに書いてあるのは、実は急性期も慢性期も含めた入院患者である。後期高齢者医療について年齢階級別に1日当たり医療費(入院+食事)別の医療費分布を見ると、高齢になるほど1日当たりの医療費の低い者の割合が大きくなる。「1日当たり医療費が3万円未満の割合(総医療費に占める割合)は、75~79歳では3割弱」と書いてある。

 この8ページの下のほうに二本の棒グラフがある。このうち、下の棒グラフは健保組合である。これを見ると、なんと5万円以上のところに入院している75歳以上の入院患者さんが64.5%もいる。3~4万円を含めると、ほとんど9割である。こんなに高い所に軽度や中度の患者さんも入院している。75~80歳、80~85歳のあたりの患者さんの数が非常に多い。平均すると、75歳以上の患者さんは1日当たり平均4万5,000円ぐらいの病院に入院しているということが分かる。
 

1月12日会見資料009
 

 一方で、2万5,000円のラインがある。これは医療療養病棟と地域包括ケア療棟のちょうど中間になる。こういう患者さんの半分が慢性期の医療療養病棟に入院し、急性期は地域包括ケア療棟に入院したとしたら、1日当たり2万5,000円でちゃんと治療できるということである。

 以上のことを10ページにまとめた。75歳以上の人口は現在1,641万人である。75歳以上の入院受療率は10万人に対して4,205(4.2%)なので、70万人ぐらいが入院している。
 

1月12日会見資料010
 

 病院の病床数は156万1,510床で、精神病床の約33万床を除くと約120万床である。この精神病床を除く病院病床のうち、一般病床は約90万床。この入院率はだいたい70%、63万床ぐらい。療養病床は33万床の9割として約30万床となる。90数万床に約70万人の後期高齢者が入院している。精神病院にももちろん入院している。

 75歳以上の患者の入院費の平均が4万5,000円として、これが2万5,000円で済むとしたら、差は2万円になる。例えば、70万人の患者さんのうち20万人は高度急性期病院の治療が必要と仮定して、それを除いた50万人全員が重症者であるわけではない。高度急性期病院に適切な患者さんの20万人を引いて、1日2万円が50万人、これに365日を掛けると、1年間になんと3兆6,500億円というお金になる。これを必要な経費と見るか。

 地域包括ケア病棟に地域急性期の患者さんが入院すれば、これだけの医療費が節減できるということをわれわれが現場から発信したいところである。

 次のページを見ていただきたい。入院患者1人1日当たりの平均請求金額は、療養病棟入院基本料1が2万397円、地域包括ケア病棟1が3万849円となっている。すなわち、両病棟における1人1日当たりの入院費の平均は約2万5,000円である。だから、これらの病棟に半分半分に入院すれば、4万5,000円が2万5,000円で済むことになる。
 

■ 地域の総合診療医にかかれば医療費は効率化

 後期高齢者は、1つの臓器だけが悪くなるのではない。いくつもの臓器が障害を受けている人が多い。急性期病院に入院すると、多くは臓器別専門医が診る。正確に言えば、4人も5人もの臓器別専門医が集団で診るか、1人の代表的な臓器別専門医が他の臓器も診るか、このいずれかであろう。

 これに対し、地域包括ケア病棟や療養病床であれば、総合的に高齢者を診ることに習熟した医師達が診察する。トータルとしてアウトカムが良くなる。すなわち、75歳以上の患者が地域の総合診療医にかかれば、医療費は効率化される。

 従って、重度や緊急性の高い疾患以外の後期高齢者の軽度中度の疾病については、地域包括ケア病棟や慢性期病棟のケアミックスなどのバックベッドに入院すれば、後期高齢者の入院医療費の大幅な削減が可能となる。急性期の効率化で浮いたお金は、きちんとした高度急性期の病院や在宅医療をさらに評価するために使っていただければいいと思う。

 高齢者の入院医療費が高くなるのは分かるが、これを急性期と慢性期で平均どのぐらいかを昨年の医療保険部会で質問し、まさかこんな値が出てくるとは思っていなかった。私は周りのお医者さんにきいてみた。「75歳以上の後期高齢者の人が入院している日本において、その後期高齢者の患者さんの1人1日当たりの医療費ってどのぐらいと思いますか」と。そうしたら、ほとんどが「3万円」と答えた。だから、日本の普通の医師はこんなにかかっているとは思っていないと思う。皆さん方も思っていなかったと思う。これは驚きだった。

 臓器別専門医の人たちが得意な患者さんであればいいが、彼らがさほど得意ではない高齢の患者さんが増えている。われわれ日本慢性期医療協会は、病院の経営収支がどうなろうと日本の医療をきちっと立て直すのが使命である。日本の将来に備えた医療提供体制を組んで、予算も適切に執行できるようにする。現場にいる者たちが協力してこそ、さまざまな医療政策が現実のものになる。

 官僚だけで、行政だけで、政治だけで無理やり歪めることはできない。現場から声を発して警鐘を鳴らしていきたいと思うし、われわれ日本慢性期医療協会の会員病院はこういう患者さんをちゃんとお受けして、誠実に治療して日常に返す努力をしたいと思う。

 以上で私の説明は終わる。続いて、池端副会長から、福島の災害を受けた病院についてお話をしていただく。
 

■ 被災した病院などを支援していく体制づくりも
 
[池端幸彦副会長]
池端幸彦副会長29170112 本日の理事会では、武久会長がいまご説明した内容のほか、新類型の問題、25対1の医療療養病床の問題、それから医療区分の今後の見直しの問題、認知症への対応やリハビリテーションの在り方、さらに介護職員の処遇改善加算の問題など、医療と介護の整合性の問題等々を含めてかなり活発な議論を行った。

 その中で、最後に理事の中から出てきた問題が、福島県広野町の高野病院の問題であった。新類型の問題など診療報酬と介護報酬に関係するものはもう少し煮詰めて、またしかるべき時期に発表させていただこうと思うが、高野病院の問題について、ここでご説明させていただきたい。

 被災地の福島で、長年にわたり80歳を超えた高齢の院長先生が1人で頑張っていた。報道によると、高野病院の高野英男院長は、東京電力福島第一原発事故で避難指示が出た後も福島県広野町に残り、患者の診療を続けた。昨年末、自宅の火災で亡くなった。双葉郡八町村で唯一診療を続けた病院で、高野院長はたった1人の常勤医だった。

 私たち協会は、今まで何ができていただろうか。ニュースを見て、はっと気が付いた。これほど頑張っている病院に対し、息を長く支援していくこともわれわれ協会の大事な役割ではないかという声が理事会で上がった。とりあえず4月までは病院の存続が決まっているが、それ以降は決まってないと伝え聞いている。
 
 今後の支援策等について理事会で議論した結果、具体的な内容は決まらなかったが、何らかの形でいろいろな支援ができないかを真剣に考えていくことで一致した。協会として、私たちにできることを探りながら福島県とも協力しながら進めていきたい。

 今後は、災害で大きなダメージを受けた慢性期を担う病院を息を長く支援していく体制づくりも検討していきたいと考えている。大きなテーマの1つとして取り組んでいこうということになった。まだ具体的な内容を発表できる段階ではないが、私たち日本慢性期医療協会の使命として取り組んでいきたいということを本日ここで発表させていただく。
 以上、ありがとうございました。
 

[武久会長]
 高野病院は日本慢性期医療協会の会員病院ではないが、われわれは公的な団体として、地域の医療機関が困っているときには医師を派遣したり、自ら現地に行って病院の立て直しをお手伝いしたりする使命があると考えている。こうした方針に理事が全員賛成し、全会一致で決定したということをお伝えする。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 



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