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慢性期におけるリハビリテーションのあり方 ── 第24回日本慢性期医療学会⑤

Posted By araihiro On 2016年10月29日 @ 1:00 PM In 会員・現場の声,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」の2日目のシンポジウム⑤は、「慢性期におけるリハビリテーションのあり方」をテーマに開かれました。地域で認知症のリハビリテーションに取り組んでいる大学教授やセラピスト、医師が講演し、慢性期リハビリテーション協会の橋本康子副会長が座長を務めました。
 

■ 褒めることの大切さなど「脳活性化リハ5原則」を紹介 ── 山口氏
 
 群馬大学大学院保健学研究科教授の山口晴保氏は冒頭、「『あなたが笑えば、私は幸せです』と思っている」と会場全体に笑顔で語りかけ、“笑顔の効用”を伝えました。
 
 山口氏は認知症の特徴的な症状を整理したチェックシート「山口式病型分類質問票DDQ43」に続いて、「認知症に気づくためのチェックリスト(認知症初期症状11質問票SED11Q)」を紹介しました。

 このリストの特徴として、認知症の本人と家族に同時に実施すると、軽度のアルツハイマーの場合、家族のチェックが6~7項目に対し、本人は2~3項目との例を挙げ、「本人の病識、自覚が分かる。病気が進むと、本人の自覚は減る」と指摘。「家族に本人の自覚のなさを理解していただき、できないことを指摘しないよう、そういう家族教育を早期からしっかりしていけば、BPSDを予防することができるのではないか。BPSDは予防することが一番重要。介護負担も減るだろう」と述べました。

 これに関して、山口氏は認知症の本質は認知機能の低下だけではなく病識の低下にあると指摘。「病識の低下をきちんと把握することが、認知症の人にかかわるときの基本で、一番重要なことだろう」と付け加えました。

 この後、山口氏は主に、10年間にわたって提唱し実践している「脳活性化リハ5原則」を紹介。具体的には、①快刺激が笑顔を生み意欲を高める、②褒め合うことがやる気を生む、認め合うことで生きがいが生まれる、③楽しい会話が安心を生む、④役割や日課が廃用を防いで生きがいを生む、⑤失敗を防ぐ支援で自己効力感を高める――を挙げ、その意義などを説明しました。

 特に②に関しては、リハの中心的なテクニックの一つとして取り組んでいるという「作業回想法」を紹介。認知症の人が“指導者”の立場も務めることで、「認知症の人が(リハスタッフ)から褒められる。そうすると自尊心が高まり、やる気が出てくる。自信を取り戻す。そういうことが生活力の向上に非常に役立つ」と述べました。また、リハでも褒めると効果が上がるという国際共同研究も紹介するなど、褒めることの効果やその大切さを強調しました。

 山口氏はこのほか、「体を動かすことは脳にとても良い」として、認知症のリハに運動を取り入れる必要性などについても言及しました。
 

■ 自分らしく復帰へ、離床・食事・排泄に着目したリハを展開 ── 池村氏
 
 徳島市の医療法人平成博愛会博愛記念病院リハビリテーション部の部長・池村健氏は、9都府県で同病院を含む98の病院や施設などを展開する「平成医療福祉グループ」の基本理念「絶対に見捨てない」の下、リハビリテーション部が重点を置いている8つの取り組みに焦点を当てる形で話を進めました。

 池村氏は、その中で「特に力を入れて全体的に進めている」取り組みとして、①離床促進の取り組み(集団リハ・RIDL含む)、②摂食嚥下障害に対するリハビリテーション、③膀胱直腸障害に対するリハビリテーション、④ホームワーク(自主トレーニング)――を示しました。

 このうち、①については「ただ座っているだけではなく、趣味や楽しみを目的として離床する(集団リハ)、さらに生活行為を目的として離床する(RIDL)。こういったところが大事」と強調。具体的には、今年4月から「離床コーディネーター」を各病棟に配置していることを挙げ、その役割として「離床に関する様々な取り組みを他職種も含めてコーディネートするリハビリテーション科所属の療法士で当該病棟のリーダー的存在」であると指摘しました。

 その上で、離床促進に向け、「主には集団でのリハビリテーションの部分と、トイレや更衣、移動などいろんな日常生活動作に(療法士が)ピンポイントで入っていくという取り組みを実施している」と説明。今後の課題などについても言及しました。また、②と③については、その概要や効果検証などを説明しました。

 まとめとして池村氏は、▼ポストアキュート・サブアキュートから生活期に至る慢性期医療の現場では、高齢で多くの疾患を有する患者が多い。それぞれのステージに応じた様々な形でのリハ提供が求められる。 ▼当院(当グループ)では、人間性(尊厳)の回復、人として自分らしく復帰することに主眼をおき、離床・食事・排泄などに着目したリハを推奨・実践し、一定の好感触を得ている。 ▼当たり前のことを全体でまずベースとして実施しよう。やるなら少しでも質の良いものを突き詰めて提供していこう。その上に療法士としての専門性を最大限発揮していくという考え方が重要。 ▼今後は実践・継続に併せて、確かなアウトカムを構築し、提言・発信を行っていきたい――などと述べました。
 

■ 地域包括ケア病棟で展開している「POCリハ」などを紹介 ── 上田氏
 
 石川県能美市の医療法人社団和楽仁芳珠記念病院リハビリテーション科部長の上田佳史氏は、「慢性期医療におけるリハビリテーションのあり方」と「当院の取り組み」を2つの柱に据えて話を進めました。

 上田氏は前者に関し、2025年には慢性期医療の対象者が大幅に増加することを指摘。「それに対し現在、地域包括ケアシステムの構築や新オレンジプランで対策を講じようとしている。その内容を踏まえ、個人的に(慢性期における)リハのあり方をまとめてみた」としてリハビリテーションに対する考え方を示しました。

 具体的には、▼慢性期医療では、障害を持った人や認知症の人すべてが、個人の尊厳を保ち、住み慣れた場所で、いつまでも、暮らせるように、「身体能力」の改善に偏らず、「活動」と「参加」にも目を向けたリハが求められている。 ▼急性期の早期からリハ介入することで、決して「廃用」を作らず、回復期にしっかり「身体能力」や「活動」を改善させることが前提となる。 ▼「活動」(日常生活行為全般)の回復を担う回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟では、高齢者や認知症の人のために、これまでとは違った関わり方を工夫する必要がある――などを挙げました。

 こうした考え方を踏まえて上田氏は芳珠記念病院の取り組みを紹介し、「おうちで暮らす心と身体をつくる」というコンセプトを提示。特に、地域包括ケア病棟で展開している「POCリハ」について、「病棟にリハ療法士1名が常駐し、病棟を巡回しながら、患者が必要なときに、個別で短時間、直接介入するリハビリ。患者の傍らでオンデマンドでリアルタイムに応じられるリハである」と説明した上で、OTによるPOCリハ(OT-POCリハ)とPTによるPOCリハ(PT-POCリハ)の具体的な取り組みなどを紹介しました。

 このうち、OT-POCリハについては、「疾患別リハ以上にADLに関わる、家族にも関わる、認知症者にも効果のあるリハである。その結果、患者や家族の不安を安心に変えることができ、在院日数の短縮が実現できているのではないかと考えている」と述べました。

 上田氏はまた、「栄養管理+リハ→リハ栄養」なども紹介。そのなかでも、OT-POCリハの効果を挙げ、「患者・家族を一員に加えた多職種連携を強め、認知症ケアやリハ栄養を支えることができ、これから迎える超高齢化により増加する認知症と低栄養状態を併せ持つ高齢患者に対して有効なリハの形ではないかと考えている」と強調しました。
 

■「効果あるリハとしてデータやエビデンスを出すのが役割」── 橋本座長
 
 この後のディスカッションでは、会場から池村氏と山口氏に質問がありました。
 まず池村氏に対しては、「離床コーディネーター」に関する質問がありました。池村氏は、重症者への対応について「コーディネーターの主な役割の一番重要な1つになるのが、主治医とのリスクのディスカッションと思う」と説明。これを補足する形で、「段階的に、時間を設定して、随時(離床の)時間を延ばしていくのか、現状でいくのかというところも、一番情報を得る手段としてはドクターからの見解になると思う」と述べ、医師との連携を強化することの重要性を指摘しました。

 山口氏は運動療法に関する質問に対し、「研究からは、ストレッチのような運動などではなく、有酸素運動が良いということは分かっている」と説明。その上で、「楽しくやるということが大切だと思っている。そのために、ジョギングとかではなくても、例えば日常の中の家事動作、掃除をするとか、そういうものもエクササイズとして含めて良いと思っている」などと答えました。

 橋本座長は、今回のシンポジウムのテーマである「慢性期におけるリハビリテーションのあり方」に言及し、「日本は今後どんどん少子高齢化が進んでいく上で、病院・施設だけではなく地域とか社会など、そういった所で支えていくことが必須になってくる」と指摘。慢性期のリハビリテーションに関し、「効果のあるリハビリをしていくために、データやエビデンスをどんどん出していかなくてはいけない。そうした取り組みも私たちの役割ではないか」とまとめました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 



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