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認知症 新オレンジプランの実践 ── 第24回日本慢性期医療学会④

Posted By araihiro On 2016年10月29日 @ 1:00 PM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」の2日目のシンポジウム④は、「認知症 新オレンジプランの実践」をテーマに開かれました。厚生労働省幹部が新オレンジプランについて説明するとともに、地域で認知症の医療・介護に取り組む医師が日ごろの実践などを報告。当会の松谷之義副会長が座長を務めました。
 

■ 認知症にやさしい地域づくりで地域再生を ── 宮腰氏
 
 厚労省老健局認知症施策推進室室長の宮腰奏子氏は、厚労省が12省庁で共同策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を基に話しました。

 宮腰氏は同プランの“七つの柱”の最後に、「認知症の人やその家族の視点の重視」が掲げられたことについて、「これまで政府が定めた戦略では明示的に書いていなかったが、今回は最後に全体の横串を貫くものとして入れた」と指摘。「七つめの柱がきちんと書かれたのは、すごく意義あるもの」と述べました。

 宮腰氏はまた、二つめの柱の「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」を挙げ、「医療・介護のところで、一番われわれが言っているのが、その方々の容態に応じてふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組み」と強調。その上で、「認知症サポート医の養成等」や「認知症初期集中支援チームの設置」などに関して説明しました。

 このほか、宮腰氏は「認知症カフェ」について、「(病院に行くより)ハードルが低く専門職と接することができる場所として最近は活躍しているという話も聞いている」として、認知症カフェへの参加を呼び掛けました。

 最後に、認知症高齢者等の行方不明問題などに対応する地域での見守り体制づくりの重要性も挙げ、「認知症高齢者等にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではない。コミュニティーの繋がりこそがその基盤。認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じ地域を再生するという視点も重要」との考えを示しました。
 

■ 高齢者施策においては性差を考慮する ── 北村氏
 
 石川県かほく市の県立高松病院院長の北村立氏は「地域で循環型システムを定着させるには」とのタイトルで、日常の実践を踏まえながら話を進めました。

 北村氏は自院での認知症医療などを紹介した後、「認知症高齢者に対する事前の精神科訪問看護が入院期間や退院先に与える影響について」調べた結果を説明。「家族介護力の不足しているケースでは、早期から訪問看護を行っていれば、一旦入院しても自宅へ退院するまでの期間が短縮し、施設へ退院する場合でも入院期間が短くなることが判明した。早期から介護と精神科が連携することが重要。新オレンジプランに掲げられた循環型のシステムを有効なものにするためにも精神科訪問看護は有効な手段」などの認識を示しました。
 
 北村氏はまた、「超高齢認知症入院患者の臨床的特徴」を挙げ、「85歳以上の人たちは認知症があってADLが低く身体の病気が多くあるため、一般病院でも精神科病院でも介護施設でも難しい超高齢男性の一群があると思われる。循環型の仕組みを考えた時、精神科病院で身体を診ることができるようにするか、特養ホームに医師を常勤させるか、療養型の病床をうまく使う、そういうことしかない」と指摘。「高齢者施策においては性差を考慮する必要がある」と問題提起しました。
 
 さらに、北村氏は「認知症入院患者における性差の検討」の結果を挙げ、「認知症の性差モデル」として、「女性は今行われている精神障害者支援モデルみたいなグループホームやヘルパーなどでいいと思うが、男性は終末期医療モデルで療養型の病床やレスパイト入院など、そういう話が必要ではないかと考えている」との考えを表明。最後に、「認知症医療で重要なこと」を5つ示しました。
 

■ 地域を支え、笑顔で暮らせるまちづくりを ── 田中氏
 
 群馬県沼田市の医療法人大誠会と社会福祉法人久仁会の理事長を務める田中志子氏は冒頭、「私たちは認知症の患者さんたちを守るだけではなく、そうした視点を超えて、まちづくりを考えているグループである」との考えを示しました。
 
 田中氏は大誠会グループの特徴などを紹介した後、平成17年から取り組んでいる「認知症にやさしい地域づくりネットワーク」の活動を報告。ポイントとして、行方不明者の発生と同時に、警察から医療・介護事業所や消防署、郵便局などの関連機関などにも一斉に連絡が入る仕組みを作っていることを挙げました。
 
 ネットワークについて田中氏が特に強調したのは、「認知症の人の見守り」や「安全確保」にとどまらず、その一環として19年に始めた「模擬徘徊捜索訓練」に4回目から地域の児童も参加するようになり、「命の宝探し」として広がりを見せていることで、この「命の宝探し」について田中氏は娘との会話を振り返り、「命は宝。認知症があって迷惑な行方不明という行動ではなく、宝として探すことを子どもの時から伝えたい」と感じたことがきっかけだったと紹介しました。
 
 続いて田中氏は「認知症の人の居場所、役割、楽しみを考えた時、認知症になっても認知症がなくても、生き生きとみんなが笑顔で暮らせるまちをつくりたいと考えている」と強調。園児や不登校の子どもも訪れる「生き生きラウンジ活動」のほか、今年度からスタートした活動「くやはら大学」についても説明しました。
 
 田中氏は最後に「最も伝えたいこと」として、「認知症の人を支えることは、これからは地域を支えることと一緒に考えていかないとうまくいかないのではないか。子どもたちが人の尊厳を守ることを当たり前に体験して大人になっていくまちをつくっていきたいと考えている」との思いを語りました。
 

■ 在宅のバックヤード機能を持った施設群を創る ── 熊谷氏
 
 東京都大田区の医療法人社団京浜会京浜病院の理事長・熊谷賴佳氏(蒲田医師会会長)は、①大田区の三医師会(大森・蒲田・田園調布医師会)でつくった認知症連携パスの体制の紹介、②三医師会独自で始めた大田区認知症検診、③蒲田医師会独自の「認知症予防のための生活習慣病診療」対策、④「大都市型地域包括ケアの実現のための複合施設創設の提言」――の4テーマで話を進めました。
 
 このうち、熊谷氏は②について、本人への検査と同時に、家族・介護者に実施しているアンケート(質問15項目)の結果を説明。そのうち、▼複数の仕事・作業を並行して行えない。 ▼お金等の計算ができない。 ▼季節にあった服装が選べない。 ▼同じものを何度も買ってくる(買い物をうまくできない)――を挙げ、「この4項目だけで認知症のスクリーニングテストができることが分かった」と指摘しました。
 
 それを受け、4項目の質問を聞き取るための補助アプリを作成したほか、今年度はレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症を疑わせる「はっきりしている時とボーっとしている時がある」や「睡眠時に大きな声の寝言や異常な行動がある」などの4質問を加えて調査していることも報告しました。
 
 また、熊谷氏は④について、蒲田医師会編著の「“地域包括ケア”を実現するための複合施設創設の提言―大都市に迫る超高齢社会の解決策―」を紹介。「小規模分散型の介護施設や認知症対応病院を一か所に集めて効率化を図り、在宅療養が可能になるように治すバックヤード機能を持った施設群を創る」必要性について、大田区に平成23年に提案していることを挙げ、その実現に向けた思いを語りました。
 

■ 中学校区で対応できるシステムの具現化が理想 ── 松谷座長
 
 4氏の発表に続くディスカッションでは、松谷座長が地域包括ケアシステムでの役割分担に関し、宮腰氏に質問しました。

 宮腰氏は「新オレンジプランができたのは昨年1月だが、国がこういう人たちにはこういう役割を担ってほしいと想定しているものはあるので、まずはそれをきちんと広めていくのがすごく大事だろうと思っている」と同プランの基本的な考え方を説明。その上で、「皆さんの話を聞いていると、各地域の状況によって国が決めたとおりの役割分担でいくかというと、決してそうではない部分もある。基本的な部分としてはこういう役割を担うようにつくられた制度と理解いただいた上で、各地域で相談し、どういう役割分担をしていくのが自分たちの地域で一番うまくいくかなど、そういうプロセスを踏みながらつくっていただくことが必要ではないか」と補足しました。

 また、会場から宮腰氏に対し、認知症サポート医の養成講座を県単位の医師会レベルで開催できるようにすることについての要望も出ました。これに対し、宮腰氏は「サポート医の養成は国立長寿医療研究センターですすめており、フォローアップ研修は各地域でやっていただくというシステムを取っている」と説明したうえで、「サポート医を引き続き増やしていこう、そういった役割を担っていただける方を増やしていこうということを検討する必要があると思っている。増やしていく方法として、今のシステムのままですすめていくのがいいのか、提案していただいたような形も含め、これから増やしていく中でどういうシステムを取っていくのがいいかを検討したいと思うので、いただいた意見も一つの方向としてあり得ることを含めて検討したい」と答えました。

 4氏の発表や会場との質疑を踏まえ、松谷座長は結論として、「認知症対策は地域包括ケアシステムという形で展開するしかない。展開の仕方は、中学校区で対応できるようなシステムをさまざまな知恵を働かせてつくっていき、それを具現化するのが一番理想ではないかと感じた」と締めくくりました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 



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