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地域包括ケア病棟と創る地域包括ケアシステム ── 第24回日本慢性期医療学会②

Posted By araihiro On 2016年10月29日 @ 9:00 AM In 会員・現場の声,協会の活動等,官公庁・関係団体等 | No Comments

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」の1日目のシンポジウム2(地域包括ケア病棟協会後援)は、「地域包括ケア病棟と創る地域包括ケアシステム」をテーマに開かれました。各地域で地域包括ケア病棟にかかわる3人の医師が講師を務め、同協会の猪口雄二副会長が座長を務めました。
 

■「療養病床を地域包括ケアシステムで活かす」取り組みを紹介 ──小笠原氏
 
 札幌市の医療法人尚仁会真栄病院の理事長・院長を務める小笠原俊夫氏は、「慢性期の療養病院を経営し、一部を地域包括ケア病床に転換して何とかやっているが、全国で療養型の病院が地域包括ケア病床を運営するのは例が少ない」と説明。「一例として、なぜ療養病院が地域包括ケア病床を営むようになったのか。経緯と実態をそのままお伝えできれば」と前置きして話を進めました。

 小笠原氏は、自院の医療圏の特徴や将来の医療・介護の需要予測を示した後、医療制度・医療環境の変化に対応してきた病棟の機能変遷を紹介。一部を地域包括ケア病床に転換した平成26年7月以降の稼働状況も説明しました。

 その上で、小笠原氏は自院の地域包括ケア病床に関し、「患者受け入れ機能としての『ポストアキュート』『サブアキュート』『その他受け入れ』は、一般病床を合わせた病棟全部で、この機能を担っている」と指摘。一方、稼働率の深刻な低下に直面したことも明かし、その改善に向けた取り組みにも言及しました。

 具体的には、稼働率の改善に向け、①入院判定の迅速化、②入院判定時に退院支援をイメージ、③医師の入院前面談の実現、④断わらない入院受け入れ、⑤在宅・施設からの円滑な入院受け入れ――に、病院を挙げて取り組んできたことを報告。

 その上で、「療養病床を地域包括ケアシステムで活かす」ために私達が考えたこととして、「急性期に依存している」・「入院患者が重症化してきている」などの背景を基に、▼急性期治療後(ポストアキュート)の受け入れでは、退院支援の早期発動、病状再燃時や予想される急変時の対応の共有など。 ▼在宅・施設の急変時受け入れ(サブアキュート)では、対象となる医療機関や施設を限定、病状増悪時の対応を想定など。 ▼在宅支援機能の拡大――を挙げ、「慢性期の療養病床の病院がサブアキュートを受け入れるには、このような形で何とかやっているという一つの手法としてお伝えしたいと思った」と述べました。

 そして、地域包括ケアシステムについて「医療者に望まれるもの」・「地域住民に期待されるもの」を挙げ、「医療者と地域住民のお互いで、地域で何が大切かという目的をつくっていくことが期待されている」との思いを語りました。
 

■「入院前、入院直後から始める在宅復帰支援はますます重要に」── 森氏
 
 今年4月の熊本地震で被災した熊本市の青磁野リハビリテーション病院で副院長を務める森孝志氏は冒頭、協力や支援などへの感謝の意を表明。「急性期病院との連携を主体とする病院の地域包括ケア病棟」を中心に話を進めました。

 森氏は同院に着任する前に勤務した平成とうや病院(同市)と青磁野リハビリテーション病院の地域包括ケア病棟の患者の流れなどを紹介。「当院と平成とうや病院のように高度急性期病院とのアライアンス連携に基づいたポストアキュートケアを中心にした病院では、合併症の多い患者を早めに受け入れられる体力も必要。退院困難な症例も多い」と指摘し、「治療やリハビリテーションのほか、入院前の訪問から始め、入院当日から退院支援を開始する。そして住み慣れた地域で医療・介護を完結できるよう働きかけることが大事」と述べました。

 森氏はまた、熊本地震で自院など医療機関が受けた被害も報告。その教訓を踏まえ、大規模災害時の問題点として、▼急性期への救急患者が増加。▼回復期・慢性期の医療機関もサブアキュートやポストアキュートの入院が増加。▼どの医療機関も退院先が見つからない――を挙げ、「すべての医療機関、どの機能の病院であれ、患者のフローがうまくいかなくなっている」などとして、「どの地域でも『明日は我が身』と思って準備していただければ」と呼び掛けました。

 森氏は続いて、地域包括ケア病棟について、▼“特定のあるべき病院像”はないのではないか。 ▼地域の実情に合ったフレキシブルな病棟を開設すればいい。 ▼国立病院機構や公的な医療機関でも届出が相次いでいる――と指摘。「どの機能の病院に開設した地域包括ケア病棟であっても、自院の機能や地域における自院の立ち位置を考慮し、その地域で必要とされる“地域包括ケア”を維持・提供できるように努めるべき」との認識を示しました。

 森氏はまとめとして、「私どもの病院はポストアキュートを中心にやっているが、急性期後早期や合併症の多い患者を受け入れる総合診療病棟としてのさらなる体力強化を図りたい」と強調するとともに、「近隣の診療所、老健、居宅系の施設などとの連携でサブアキュート機能や周辺機能も一層強化したい。また、入院前、入院直後から始める在宅復帰支援はますます重要になってくる」と述べました。
 

■「時々入院、ほぼ在宅」がケア病棟を中心に行われることが理想 ── 石川氏
 
 愛媛県四国中央市の社会医療法人石川記念会HITO病院の理事長・院長を務める石川賀代氏は「急性期病院の立場からケアミックスで地域包括を運営しているが、急性期の中でどう運営しているか」に焦点を当てて話を進めました。

 石川氏は「今、地域包括ケア病棟がなぜ必要か」として、▼75歳以上の高齢者の入院割合が多く、生活に戻るための生活支援型のリハビリの体制が必要。 ▼自宅に戻る過程で、多職種協働の退院支援や、在宅での生活の支援体制を整える時間が必要。 ▼高度急性期・急性期の診療に専門医が集中出来る環境作りと、治療方針決定後、退院に向けてのスムーズな多職種の連携が必要――などを提示。自院の地域包括ケア病棟での取り組みや稼働率の推移などを紹介しました。

 石川氏は地域包括ケアシステムの実現に関し、「まちづくりにもかかわってくる」と指摘。それに向けた地域包括ケア病棟の役割について、「医療・介護の架け橋というところで、病院の機能としてケア病棟の活用は非常に重要」と強調し、「市内の医療機関と種まきをしている段階。まずどこにいても医療・介護がきちんと受けられる体制づくりが必要」と述べました。

 また、自院の30事業のうち地域包括ケア病棟にかかわる事業として、▼在宅医療の人材育成研修会(地域)、 ▼リハケア勉強会(同)、 ▼IHG(石川ヘルスケアグループ)リハビリ事例検討会、 ▼ケア病棟振り返りカンファレンス(院内)――を紹介しました。

 これらを踏まえ、石川氏は「医師の連携も含め、もっと地域に開かれた病棟としての機能が非常に重要と思うし、サブアキュートの機能とポストアキュートの機能を持っているので、急性期と在宅をつなぐ、訪問看護、訪問医療と在宅をつなぐということで、『時々入院、ほぼ在宅』がケア病棟を中心に行われることが理想」と説明。一方、「その前にいろんな準備が必要で、その中で最大で最強の病棟になるために、地域の中でそれぞれの形が必要」との認識も示しました。

 最後に「四国中央市で地域包括ケアシステムを実現するには、いろんなハードルがある」として、「病院はいろんな意味で頭の中も変わっていかないといけない。その過渡期と感じる中、私たちが外に出て行って行政、他の業種と交わりながら、一緒にまちづくりも含め地域包括ケアシステム実現に向け、病院を利用していただけたら」との思いを語りました。
 

■「地域包括ケア病棟を、多様性を持った懐の深い病棟に」── 猪口座長
 
 この後のディスカッションでは、猪口座長による3人への質問に加え、会場の参加者からも質問や提案が出るなど活発に展開。それを受け、猪口座長はシンポジウムのテーマを改めて示し、「地域の中でどのようにこれから地域包括ケアシステムにかかわっていくか」との視点で意見を求めました。

 これに対し、小笠原氏は「現在、人生の最終段階における決定に関し、厚労省も考えているようだが、地域であまりされてこなかった気がする」として、「そこをみんなで考えていくこともとても大切な一つの機会と思っている。そのチャンスを入院相談の時に改めて家族と共に共有していくことが一つの私どもの手法と考えている」と述べました。

 森氏はまた、「その患者の居場所としてどこがふさわしいか。どこの医療機関に行くのがいいのか。地域包括ケアシステムの中でどこにいるのがいいのか。在宅が無理な方を在宅に帰していいのかという問題もあるし、どこの居場所がその人にとってベストポジションかということを考えたい」との問題意識を表しました。

 石川氏は「地域の中でどのように患者を支える仕組みを、それぞれいろんな団体と協力しながら構築していくのかというところで、自分たちができることは何かということを一緒に考えさせていただくことになると思っている」との考えを示しました。

 こうした発言を受け、猪口座長は「地域包括ケア病棟はまだまだいろんな使い方がある。それは地域包括ケアシステムが全国さまざまな条件の中でつくられていく中、地域包括ケア病棟をどうやって生かしていくかというのは、われわれにとっては大きいテーマになっていくだろう」と指摘。「いかに地域包括ケア病棟を、多様性を持った懐の深い病棟に、そして病院として育てていくかということを念頭に置いて、地域包括ケア病棟を育てていきたいと思っている」とまとめました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 



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