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その人らしい暮らしを支える 多職種協働 ── 第24回日本慢性期医療学会①

Posted By araihiro On 2016年10月29日 @ 8:00 AM In 会員・現場の声,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会は10月27・28日の両日、金沢市内で「第24回日本慢性期医療学会」を開催しました。学会長を日慢協の仲井培雄常任理事(地域包括ケア病棟協会会長)が務め、厚生労働省幹部や大学教授らを招いたシンポジウムが開かれました。学会初日のシンポジウム1は「その人らしい暮らしを支える 多職種協働」をテーマに開かれ、大学教授や作業療法士、歯科医師、看護師が参加。座長は池端幸彦副会長が務めました。
 

■「多職種協働がポリファーマシー対策の鍵!」── 秋下氏
 
 東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病科)教授の秋下雅弘氏は、「ポリファーマシー(多剤投与)」に焦点を当て多職種協働について話を進めました。

 秋下氏は、日本老年医学会が昨年12月に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(GL)2015」を作成したほか、平成28年度診療報酬改定で「薬剤総合評価調整加算」などが新設されたことも挙げ、ポリファーマシー対策が着実に進んでいることを報告。その上で、ポリファーマシーの問題点として、「医療の質を損ねている」だけではなく医療経済にも大きな負担をかけていることも示し、多職種が協働して対応する必要性を指摘しました。

 秋下氏はまた、GLに掲載されている「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の代表的薬剤、その「使用フローチャート」なども交えて解説。その後、現場での取り組みにも言及し、「多職種協働がポリファーマシー対策の鍵!」との考えを示しました。

 具体的には、薬は医師が処方するものの、患者の服用に立ち会うことは少なく、「この薬は飲みにくい」や「飲むと体調が悪くなる」、「実際には飲んでいない」といった訴えは、医師ではなく看護師や薬剤師などに伝えられることが多いとして、「医師以外のメディカルスタッフがゲートキーパーであることを認識し、この問題に取り組んでいただきたい」と述べました。

 最後に、一般向けパンフレットを同医学会などのホームページで公開するとして、「患者さんや家族の啓発等に役立てていただければ」と呼び掛けました。
 

■ MTDLPの全国展開や多職種による自立支援の視点を強調 ── 中村氏
 
 日本作業療法士協会会長の中村春基氏は、作業療法士(OT)の立場から「その人らしい暮らし」や「連携」に関して話を進めました。

 中村氏は平成27年度の介護報酬改定を踏まえ、「生活機能全般をみる。これがリハビリテーション職に求められている。とりわけOTは活動と参加を中心にやっていくことが大事になってくる」と指摘。その上で「生活がみれるOT」の重要性を強調し、そうしたOTの養成に向けた同協会の活動を報告しました。

 具体的には「生活行為向上マネジメント(MTDLP)」を挙げ、マニュアルなども作って「全国のOTがこれをできるように取り組んでいる」と説明。MTDLPについては「利用者が『やりたい』『したい』と思っている生活行為に焦点を当てたマネジメントツール」として、MTDLPの研修を全国で進めていることも紹介しました。現在、会員のOT約5万3,000人のうち、基礎研修の修了者が1万7,684人、実践者研修の修了者が2,977人、指導者が90人に達していることも報告しました。

 その後、「その人らしい生活を支えるための取り組み」について、自らの実践例を基に詳しく説明。地域包括ケアシステムでの役割にも触れ、OTやPT(理学療法士)、ST(言語聴覚士)、医師などの多職種協働による「自立支援を繋ぐ」視点の重要性を強調しました。
 

■ 高齢化に伴う医科歯科連携の推進に向けた対応策を提案 ── 阪口氏
 
 東京都八王子市の陵北病院で歯科診療部長を務める阪口英夫氏は、医科歯科連携を中心に話を進めました。

 阪口氏は、年代別の歯科受診者数のピークが平成11年の50~54歳から23年には60~64歳へとシフトしているデータなどを挙げ、「年々、歯科を訪れる方が高齢化している」と指摘。歯科を取り巻く状況も変化している中、慢性期病院で医科の医師から依頼を受け、口腔ケアの指導管理や摂食・嚥下障害の評価などに取り組んでいることを挙げ、医科歯科連携を推進する重要性を強調しました。

 一方、全国的には連携が進んでいない実態を指摘。その理由として「歯科医師の受け入れ態勢が確保できていない」などの厚労省の調査結果を示しました。これに対し、厚労省は平成28年度診療報酬改定で「歯科医師連携加算」などを新設。阪口氏は「国も後押ししてくれている」と評価しながらも、「まだまだ進まない」として、今後、医科歯科連携を進めていくための対応策にも言及しました。

 具体的には、医科側に対し、「病院の中への歯科受け入れ態勢は整備が必要」として、診療報酬整備など政策的な推進を要すると指摘。また、歯科への理解を深める必要性も挙げました。一方、歯科側には、むし歯を治療する従来型の歯科医療から脱却し、「口腔ケアや摂食・嚥下障害をもつ患者さんへ歯科的なアプローチができること、これらがこれからの歯科医師の大きな課題」と強調。加えて、歯科医師も医科に対する理解を深める必要性を挙げ、「全身疾患などの知識習得を追求していくべき」と述べました。
 

■ 医療やケアを在宅で受けられる環境へ特定看護師の役割は大 ── 安藝氏
 
 東京都八王子市の医療法人社団永生会の法人本部で統括看護部長を務める安藝佐香江氏は、「看護師特定行為研修を修了した看護師への期待」をテーマに話を進めました。

 安藝氏は昨年10月にスタートした「看護師特定行為研修」の趣旨や内容などを紹介した後、研修を修了した看護師(特定看護師)の現場での役割について説明。その一つに「マンパワーが不足する現場での役割」を挙げ、「医師の包括的指示により、行うことができる業務範囲が拡大する。そして少ないマンパワー、特に医師や看護師が少ない中でも患者の安全性を確保し、決まった内容を行うことができる」と指摘、「これはまさにチーム医療の推進、そして医師の業務負担軽減が強く打ち出されている」と述べました。

 また、「在宅療養支援の役割」も挙げ、「医師との協働で行う業務の役割分担、在宅医療現場の支え手として患者と家族の安全を守る、そういった役割を果たせるのではないか」と述べました。

 続いて、特定看護師の業務や制度を利用した看護師の活動例なども紹介した後、「2025年に向かって地域包括ケアシステムの推進をするうえで高齢者医療を担う、慢性期病院、在宅サービスはますます重要性を増していく」と強調。「多くの高齢者が安心して住み慣れた地域で生活することができ、医療やケアを在宅でも受けられる環境を構築するために特定看護師の役割は大きく期待も大であると思っている」と締めくくりました。
 

■ 多職種連携「互いに意識しやっていくことが利用者本位に」 ── 池端座長
 
 この後のディスカッションでは、池端副会長を座長に4人の発言への理解をさらに深める質疑が展開。それを受け、池端座長はシンポジウムのテーマに盛り込まれている「その人らしい暮らしを支える」を挙げ、そのためには「一番身近にいる介護職との連携が非常に大事」との視点で意見を求めました。

 これに対し、安藝氏は「慢性期の中で介護職の役割はすごく大きいと思っている」と強調した上で、「介護職に教育をきちんと行っていく、カンファレンスに介護職を入れて情報共有をきちんとしていく」ことの重要性を指摘しました。

 阪口氏は歯科医療と介護も非常に密接に関連しているとの視点で、「口腔ケア以外にも、食事介助も摂食・嚥下の場面では非常に重要なポイントになってくる」と強調。「今後も、歯科という特性も介護の方に理解していただきながら、より良好な関係を持って、直接、歯科医師から介護職に指示ができるような環境整備も行っていければ」と述べました。

 秋下氏はポリファーマシーに関連する残薬の問題を挙げ、「在宅ではヘルパーや介護福祉士、訪問看護師、訪問薬剤師、いろんな職種の方が見つけることができる」と説明。介護や医療の制度に詳しい社会福祉士の役割にも言及し、「それぞれの職種の方がポリファーマシー問題に深く関与できる、あるいは貢献できる職能、スキルを持っている」とあらためて指摘しました。

 池端座長はまた、認知症にかかわる多職種協働についても質問。これに対し、中村氏は「認知症と診断された時点で、その人を認知症の人で見てしまいがち」との問題点を指摘。「これには十分に気を付けないといけない」とした上で、「OTに大事なことは、たとえ認知症があっても、その人のできることを探す」と強調し、「OTはその人の生活を通し、その生活をいろんな職種の方に伝える役割もあると思っている」として、認知症に対する多職種協働の重要性を述べました。

 こうした意見を受け、池端座長は「多職種連携というのは、医療の質を上げるためにやっていくんだということをお互いに意識しながら、譲り合うところは譲り合ってやっていくことが利用者本位になるのかなと感じた」と締めくくりました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 



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