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急性期病院が機能アップを図るための戦略とは ── 第23回日本慢性期医療学会②

Posted By araihiro On 2015年9月12日 @ 9:51 PM In 会員・現場の声,協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 9月10日の第23回日本慢性期医療学会では、「急性期病院が機能アップを図るための戦略とは~急性期医療と慢性期医療の機能分担と連携を考える~」と題するシンポジウムが開催されました。シンボジストには、地域医療計画を担当する厚生労働省の幹部のほか、中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会長らが出席。日本慢性期医療協会からは池端幸彦副会長が参加し、急性期医療と慢性期医療の連携や地域包括ケアシステムの構築に向けた課題などについて議論しました。

01_有賀徹氏 最初に登壇した昭和大学病院病院長の有賀徹氏は、厚生労働省のチーム医療に関する検討会や、看護師の特定行為、救急医療に関する検討会などで座長を務めた経験なども踏まえながら、急性期病院の救急受け入れを円滑に進めるための多職種連携のあり方について今後の方向性を示しました。

 有賀氏は、救急搬送件数が急増している現状を紹介したうえで、社会的な背景によって退院できない患者が存在することを指摘。救急医療をめぐる課題を解決して急性期病院の機能アップを図るためには、「多職種が混ざり合ってチーム医療を実践し、円滑なコミュニケーションや職種間の相互理解を深める必要がある」と述べました。

02_池端幸彦氏 続いて、日本慢性期医療協会副会長で福井県医師会副会長の池端幸彦氏は、慢性期医療からみた機能分担や連携のあり方を中心に講演しました。

 池端氏は、多くの病気を治せなくなる時代にあって「癒やすこと」や「支えること」に医療の重点が移りつつあることを指摘し、「これからの循環型地域連携システム」などを提言。「生活支援の中に医療的マインドを吹き込み、医療と介護の融合を図っていくべき」と説き、今後の慢性期医療に必要な機能として、「在宅復帰・在宅医療支援機能」「リハビリテーション機能」「看取りを含めた終末期医療機能」を挙げました。福井県の地域医療構想の課題や自院の取り組みなどを具体的に紹介し、「やりたい医療より、求められる医療を。地域住民が、最後の砦」と力を込めました。

03_北波孝課長 厚生労働省医政局地域医療計画課の北波孝課長は「地域医療構想と医療の機能分化」と題し、地域医療構想ガイドラインや病床機能報告制度に関するこれまでの検討状況などを丁寧に解説。今後の医療機能について「回復期の需要は増えてくると思われるが、『回復期機能』の概念がいまだ整理されていない」と指摘し、機能分化に向けた「回復期」の位置付けを課題に挙げました。

 長期入院が必要な患者が存在することにも言及し、生活環境や地域性によって在宅復帰が困難となっている社会的要因を取り除く必要性を指摘し、「どこかにボトルネックがないかを考える必要がある」と問題提起。慢性期についても急性期と同様に「患者像」を軸にした見直しを進めていく意向を示すとともに、「新たなサービス提供の形も必要ではないか」との認識を示しました。

04_小山信彌氏 一方、中医協の診療報酬調査専門組織であるDPC評価分科会の座長を務めている東邦大医学部医療政策・渉外部門特任教授の小山信彌氏は、「大学病院が取り組んできた地域連携──超急性期病院維持のため──」と題し、高度急性期病院の立場から地域連携のあり方を論じました。

 小山氏は、東邦大学大森病院内の地域連携室や医療社会事業室などを統合した「地域医療支援センター」の設立を契機に連携の強化が図られたことを紹介。「後方病床との間で、目に見える連携が進んできた」と評価しました。小山氏は、これからの地域連携室について「急性期病院の命運を握っていると言ってもよいほど重要な役割を担っている」と強調し、「急性期と慢性期双方の機能分担と連携が非常に重要であり、地域完結型の医療をさらに進める必要がある」と締めくくりました。

 このシンポジウムの座長は、中医協の診療報酬調査専門組織である入院医療等の調査・評価分科会の座長を務めている国際医療福祉大大学院教授の武藤正樹氏が務めました。

 パネルディスカッションでは、病床機能報告制度における地域包括ケア病棟の位置付けなどが焦点となりました。以下、討論の概要をご紹介いたします。

06_第23回日本慢性期医療学会②-2

■「回復期」の概念、広くとらえていく
 
○座長(武藤正樹・国際医療福祉大大学院教授)
05_武藤正樹氏 では、討論を始めたい。フロアーから、何かご質問があれば挙手をお願いしたい。

○会場
 「回復期」という言葉についてお尋ねしたい。最近、厚生労働省の資料などを拝見すると、医療の密度と時間軸で「回復期」が論じられているように思う。

 診療報酬上、「回復期リハビリテーション病棟入院料」があるが、そこに示された診療報酬上の「回復期」という狭い範囲にとどまるものではないと思うが、いかがだろうか。具体的には、以前であれば急性期病床に入院している患者で、現在は地域包括ケア病棟に入院しているような患者は、「回復期」に入るのか。そういう方向で地域医療構想が進められていくのか。

○厚労省医政局地域医療計画課・北波孝課長
 診療報酬上の「回復期」と、地域医療構想でとらえる「病期」とは必ずしもリンクしない。私たちが考えているのは、診療報酬上の「回復期」よりももっと広い概念。病態が一定程度安定している所、落ち着いた状況になった所は、ある程度、広くとらえていいのだろうと思う。高齢者らの軽症急性期を受け入れる機能も含めていい。

 現在、病床機能報告制度における報告が4分類になっているので、そこをもう少し分かりやすいようにするためにどうしたらいいのか、いま検討している。

 ご指摘のように、診療報酬で「回復期」と付いているものだけではなく、もう少し広い概念として私たちはとらえている。

○座長
 現在、病床機能報告制度は「病期」のステージで分けているが、今後はもう少し「機能」で区分していくような工夫が必要になってくるだろう。
 

■ 高齢者救急の受け入れ、財政面も次の課題

○座長
 ほかに、ご質問はあるだろうか。

○会場
 救急医療に関する「MC協議会」(メディカルコントロール協議会)を慢性期の領域に広げていくべきか。そのためには、どのようにすればいいか。慢性期領域の関係者が「MC協議会」に幅広く参加できるようにするにはどうしたらいいか。

○有賀徹氏(昭和大学病院病院長)
 「MC協議会」は、何らかのハンデキャップを持った弱者を救う人たちが集まり、その地域でどのように支えられるかを議論してきた。従って、今後はもっとみんなで話し合う仕組みにしていけたらいいと思っている。最近、介護に関係する人たちも運営委員会に参加するようになった。

 私が紹介した東京のケースがそのまま全国に当てはまるかは分からないが、地域の医師会がプラットフォームになって進めていくという仕組みは広げられるのではないか。「郡市区医師会レベルでのプラットフォームをつくる」という考え方で進めれば、これはいけるのではないか。

○座長
 地域の高齢者救急を自分たちの地域で話し合ってコントロールする試みはとてもいい。予算措置があればいい。

○有賀氏
 財政面が次の課題になると考えている。

○北波課長
 地域医療再生基金が終了した後、どのようにすべきかについて各都道府県の課題になっている。国としても何らかの手だてを考えていきたい。
 

■ 地域包括ケア病棟、診療報酬上のインセンティブを
 
○座長
 ほかに、ご質問は。

○会場
 地域包括ケア病棟の在宅復帰機能について教えていただきたい。地域包括ケア病棟は、急性期と慢性期をつなぐために新設されたと理解している。当院のある福岡には地域包括ケア病棟を持つ病院が多い。

 しかし、地域包括ケア病棟がうまく機能しているとは思えない。急性期病院のソーシャルワーカーらの話を聴くと、どうも地域包括ケア病棟の機能がよく分かっていない。ポストアキュートとサブアキュートの機能があるという認識が進んでいないように思う。

 そこで質問だが、地域包括ケア病棟が進まない原因はどこにあるのか、今後どのように進めていくのかをお尋ねしたい。

○座長
 池端先生、どうだろうか。

○池端幸彦氏(日本慢性期医療協会副会長)
 従来の亜急性期病床から移ってきた病院にとっては、地域包括ケア病棟の手術料が包括化されている点など課題がまだまだ多いのかもしれない。

 地域包括ケア病棟の重要な機能の1つに在宅復帰機能があるので、在宅復帰機能強化加算を取っている療養病床から今後どんどん参入することも考えられる。診療報酬上のインセンティブなどが高まることを期待する。

○北波課長
 病床機能報告制度において地域包括ケア病棟はどの医療機能に分類されるのか、見解が分かれるところである。いずれもまだ新しい制度であるので、今後さらに議論が進めば、地域包括ケア病棟の立ち位置が明らかになると思う。診療報酬での要件設定などで細部を詰めていけば、もう少しはっきりしてくると思う。
 
○池端氏
 地域包括ケア病棟では、リハビリが包括化されている。1日2単位以上が要件になっているが、早期の在宅復帰を目指し、1日4単位、6単位のリハビリを積極的に実施している施設もある。しかし、リハビリスタッフをはじめとするマンパワーの負担があるため、診療報酬上の評価についても検討する必要がある。

○座長
 私が担当している中医協の「入院医療等の調査・評価分科会」では、手術料を包括から外して出来高にすることが議論になっている。手術料を包括外にすれば、もっと幅広い患者さんの受け入れが進むのではないかとの問題意識だが、この点についてはどのように考えるか。

○池端氏
 ぜひ包括外にすべきである。在宅や施設の患者さんが急性増悪した場合の受け入れ機能を強化することにつながり、地域の救急医療にも貢献する病棟になることが期待できる。

○座長
 今後、中医協などで議論を深めていきたい。
 

■ 地域連携、早期から多職種の関わりを
 
○座長
 ほかに、ご質問は。

○会場
 先ほど、「回復期」の範囲を広めに考えるとのご発言があった。そうすると、回復期リハビリテーション病棟の患者さんを増やしていく方向なのか。今後の展望をお聞かせ願いたい。

○北波課長
 病床機能報告制度で各医療機関からご報告いただいている「回復期」の報告数と、2025年の医療需要としての「回復期」の患者数とを単純には比較できない。現在、「回復期」で報告している医療機関は、もしかしたら別の機能であるかもしれない。2025年に向けて高齢者が増えていくと、「回復期」の患者さんはもっと増えることも予想される。

○座長
 ありがとうございます。ほかにご質問は。

○池端氏
 小山先生にお聞きしたい。先生がご紹介された急性期病院の側から考える地域連携は非常に大切であると考えている。特に今後は退院直前ではなく、入院当初から退院支援に向けた取り組みを進める必要性を感じているが、この点について、どのようにお考えになるだろうか。

○小山信彌氏(東邦大医学部医療政策・渉外部門特任教授)
 まさにおっしゃるとおり。当院では、入院が長期化する可能性のある患者さんに対しては、入院当初から退院支援室の職員らがアプローチして、次の病院がスムーズに受け入れることができるように準備している。これはいま非常に重要な取り組みであると考えている。

○池端氏
 私もそう思う。慢性期病院や在宅で患者さんを受け入れる前に、担当ケアマネジャーが急性期病院に出向いて、経過を一緒に見るように努めているところもある。早期から多職種が関わり、円滑な退院支援につなげていくことが今後の地域連携に必要であると思っている。

○座長
 ありがとうございます。本日は、非常に貴重なご意見を頂戴した。以上で、「シンポジウム2」を終了したい。ありがとうございました。

 



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