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高度急性期から慢性期への最高のバトンタッチを ── 第23回日本慢性期医療学会①

Posted By araihiro On 2015年9月12日 @ 1:04 PM In 会員・現場の声,会長メッセージ,協会の活動等,官公庁・関係団体等 | No Comments

 日本慢性期医療協会は9月10、11日の両日、名古屋市内で「第23回日本慢性期医療学会」(学会長=小林武彦・医療法人愛生館小林記念病院理事長)を開催しました。学会初日に開かれた「シンポジウム1」では、厚生労働省の担当者や関係学会の幹部が一堂に会し、今後の医療提供体制のあり方などについて語り合いました。シンポジウムのタイトルは、本学会のテーマである「慢性期治療力を高めよう~高度急性期から慢性期への最高のバトンタッチを~」。座長は、兵庫県立大大学院経営研究科教授の小山秀夫氏が務めました。

01_上西紀夫氏 最初に登壇した日本長期急性期病床研究会会長・公立昭和病院院長の上西紀夫氏は、「高度急性期病院から手渡せるバトンの現状と問題点」と題して講演。救急搬送が年間8,000台を超える中で、どのように後方病院を連携しているかを具体的な事例に則しながら解説しました。
 
 上西氏は、「Allianceの会」と称する各種の勉強会などを通じて多職種が「顔の見える関係」をつくり、早期の退院支援につなげていく取り組みなどを紹介。関係職種による多様な勉強会が地域包括ケアにつながることや、医療・介護に関する緊密な情報交換が地域医療構想の策定に影響することを挙げ、「急性期から慢性期へのスムーズな連携を進めるために、きめ細かな協力体制をつくっていきたい」と結びました。
 

 02_吉田学審議官 続いて、厚生労働省・医療介護連携担当の吉田学審議官が「地域包括ケアシステムと慢性期医療」をテーマに講演。我が国の医療・介護を取り巻く環境が急速に変化していることを指摘したうえで、患者の視点や患者の流れを踏まえた機能分化のイメージを示し、地域包括ケアシステムが目指す姿に迫りました。

 吉田審議官は、厚労省が中心となって取り組んでいる「地域医療構想」「医療制度改革」「診療報酬改定」など幅広い政策の柱に「地域包括ケアシステムの推進」を位置付ける必要性を説き、医療・介護の未来に期待を込めました。

03_坂本すが氏 日本看護協会会長の坂本すが氏は「看護の将来ビジョン」をメインテーマに、副題には「いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」を掲げました。日本看護協会が2015年6月に公表した「看護の将来ビジョン」を中心に、2025年に向けた看護の在り方、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みなどを紹介し、看護が果たす役割や機能について理解を広げていく意向を示しました。

 坂本氏は在宅医療の充実を今後の重点課題の一つに挙げ、在宅医療に携わる人材の確保や養成の必要性を指摘。同協会が10月に開設する無料職業紹介サイト「とどけるん」などを通じて潜在看護職の活用などを進めていくことも紹介しました。
 

 04_武久洋三氏 日本慢性期医療協会会長の武久洋三氏は、これからの慢性期医療に求められる役割として、①急性期医療の後始末、②リハビリ力、③慢性期治療力──の3点を挙げ、その中で特にリハビリ提供体制の改革を強く訴えました。

 武久氏は、「硬直化したリハビリを自由なリハビリ提供体制に変えるべき」と主張し、具体的な事例や調査結果などを紹介しながら解説。ST(言語聴覚士)の多単位介入によって嚥下機能などが大幅に改善した結果などを紹介したうえで、新たな取り組みを今後も積極的に進めていく意向を示しました。「患者が入院したらできるだけ早く適切に治療し、治して地域に帰すことが最大の責務。老人収容所にすぎない病院は存在し得ない」と説き、現状を改革していく必要性を強調しました。
 

 05_横倉義武氏 日本医師会会長の横倉義武氏は「慢性期医療と地域連携の今後」と題して、関係団体や厚生労働省の検討状況などを紹介しながら医療制度改革の流れを丁寧に解説。日本医師会と四病院団体協議会が2013年8月に公表した合同提言「医療提供体制のあり方」が制度改革に大きく寄与したことを挙げ、「病床機能報告制度や地域医療構想、地域医療介護総合確保基金の創設などにつながった」と評価しました。

 今後の医療提供体制について横倉氏は「画一的な方向性を目指すのではなく地域の実情を踏まえて構築されるべきであり、そのためにも合同提言の基本理念をこれからも堅持していかなければならない」と強調。関係団体の協力や多職種連携の重要性を指摘し、「高度急性期、急性期からバトンタッチを受ける慢性期医療や療養病床の重要性は今後さらに高まる」との認識を示しました。
 

 続くディスカッションでは、小山座長の問題意識に5人の演者が見解を示す形で進められました。会場からの質問もありました。以下、パネルディスカッションの概要をお伝えいたします。
 
第23回日本慢性期医療学会①-2
 

■ 財源を物から人へ移転させる
 
○小山秀夫座長
小山秀夫座長 現在、厚生労働省が中心となって様々な改革を進めようとしているが、皆さんのお話を聴く限りでは、何も対立軸がないような感じもする。最大の問題は国の財政状況が厳しいことである。

 来年4月に診療報酬改定が控えているが、財源の問題はいまどのような議論になっているのか。吉田審議官は、医療介護連携のほか、医政局や老健局の審議官も併任している。ぜひ、吉田審議官にこの点をまずお尋ねしたい。

○厚生労働省・吉田学審議官
 2つのことが言える。1つは消費税の問題。消費税は社会保障のためにご負担をお願いする。社会保障に必ず使うということ。2つ目は、社会保障の伸びを3年間で1.5兆円抑えること。減らすのではなく、伸びを抑える。そうした中で、必要なことは何か。見直すべきところは見直して、必要なところに財源を充てていくことではないか。その一つの切り口が診療報酬改定、あるいは基金をどのように考えるかということではないか。

 それらがどういう数字になるのか、現時点では全く答えを持っていないが、決して余裕のある話ではない。ここにお集まりの方々は、医療・介護の提供者として負担を求める側でもあるし、患者や利用者の立場で負担する側でもある。そうした中で、皆さま方が取り組まれていることへの理解を広げていく。私たち厚生労働省も一緒になって協力して理解を広げていきたい。

○座長
 恐らく、かなり厳しい状況にあることが予想される。しかし、医療費を大幅に削減してしまうのはいかがなものか。「削減ありき」という考え方があれば、それは疑問である。横倉会長、いかがだろうか。

○横倉義武氏(日本医師会会長)
 戦後、日本の社会が安定して成長できたのはなぜか。一つの理由は、国民皆保険の存在。病気になっても、安心して医療を受けることができる。すなわち、医療が国民に対して「安心感」を提供してきた。いま、私たちはその意識をもっと強く持つ必要がある。

 かつて、毎年2,200億円の社会保障費の機械的削減がわが国の医療に大きな影響を与えた。そうした苦い経験を踏まえ、今回は「削減ありきではない」ということを政府関係者から聞いている。しばしば、「3年間で1.5兆円だから、医療費の伸びは1年間で5,000億円しかない」というとらえ方をする人もいるが、それは間違いである。本当に必要で、手当すべき医療費はどこかという視点から考えなければいけない。

 実は、医療費の半分は人件費であり、4分の1が材料費などに掛かっている。最近、人件費率が落ちて、材料費などの比率が高まっている。物に掛かる費用が膨らんでいる。本来、物から技術に転換しなければいけないのに、逆の方向に進んでいる。もっと「人」に掛かる費用を充実すべきではないか。

 先ほど、武久会長がリハビリテーションの成績を発表された。それを初めて拝見して、われわれが今までやってきたリハビリは本当に良かったのかと反省している。24時間365日、リハビリをすべきではないか。しかし、そのためにはどうしても人が必要である。24時間、リハビリができるような慢性期医療にするためにも、やはり人に対する手当をしっかりしていく必要があるし、そう主張していきたい。その財源については、われわれも努力しなければいけない。高価な物を使いすぎているかもしれない。財源を物から人へ移転させるということが非常に重要である。

○座長
 ありがとうございました。地域医療構想策定をはじめとする医療・介護をめぐる大きな変革の流れの中で、これからの急性期医療、慢性期医療を考える時期に来ている。
 

■ 高齢になっても仕事を続けていける

○座長
 先ほど坂本会長から、地域包括ケアシステムの構築に向けた力強いお言葉を頂いた。私は
昨日、和歌山県の看護協会の方々にお会いした。私は救急の看護師さんたちに会うたび、「60歳を過ぎたらぜひ訪問看護をやりなさい」と勧めている。もちろん、若い看護師さんでも訪問看護を志す人はいるが、訪問看護の担い手はまだまだ不足しているように思う。地域包括ケアや在宅医療を進めていくうえで、訪問看護師の確保や養成は重要な課題である。

○坂本すが氏(日本看護協会会長)
 看護職は、高齢になっても仕事を続けていけるし、いつまでもずっと看護職に携わっていたいという声もある。現在、ナースセンターでは経験あるナースを集めて様々な活動を展開していこうとしている。慢性期医療や在宅医療に関わる訪問看護師の確保・養成にも力を入れていく。

○座長
 ぜひ積極的に進めて、訪問看護ステーションの充実を図っていただきたい。地域包括ケアシステムには多職種協働が必要である。そこで上西先生、先ほど多職種が連携するための勉強会などをご紹介いただいた。もう少し具体的にお聞きしたい。

○上西紀夫氏(公立昭和病院院長)
 病院の職員たちは、「地域包括ケアシステムを構築する」と言われても、具体的なイメージがつかめない面がある。例えば、急性期病院の看護師は慢性期医療についてあまりよく知らないし、慢性期病院の看護師も訪問看護や在宅医療についてよく分かっていない面もある。

 そうした中で、急性期病院の看護師が慢性期病院に出向いて勉強会に参加するなど、互いに交流して情報交換をする。そういう取り組みを進めていかないと、地域包括ケアシステムはなかなか進まない。こうした各種の勉強会を財政的に支援する仕組みも必要であると思う。
 

■ 在宅に帰れない重症患者を支援する

○座長
 高度急性期から慢性期へのバトンタッチを進めるために、様々なご提案を頂いた。現在、急性期と慢性期の連携が十分に進んでいるとは言えない。急性期病院に長く入院しすぎているのではないかと思われるケースもある。

○上西氏
 地域によって医療・介護体制の環境がそれぞれ異なるので、受け皿が十分に確保できない地域もある。訪問診療やターミナルケアに取り組む診療所が病院の周辺にたくさんあれば、急性期病院からの退院促進や在宅医療はもっと進むだろう。

○座長
 最近では、老人保健施設の在宅復帰率も高まっている。療養病床からの在宅復帰も進んできている。平成26年度の診療報酬改定では在宅復帰の促進が図られ、地域包括ケア病棟が新設された。その一方で、病床機能報告制度では高度急性期・急性期・回復期・慢性期──の4つの医療機能で報告する。これらの関係がまだ明確とは言えない。「回復期機能」と「慢性期機能」をどう切り分けていくのかも見えない。

○武久洋三氏(日本慢性期医療協会会長)
 病床機能報告制度が自主的な報告であるため、地域包括ケア病棟を有する病院は「急性期」「回復期」「慢性期」のいずれかで報告している。3つの機能に分散している現状がある。

一方、地域包括ケア病棟を創設した趣旨から考えると、同病棟の機能は急性期病床の後方を担う「ポストアキュート」と、介護施設や在宅の患者さんが急性増悪した場合に受け入れる「サブアキュート」という2つの機能が中心となる。しかし、病床機能報告制度は4つの機能に分かれている。そこで、3つの機能に再編して「急性期」「地域包括期」「慢性期」という3区分で報告するように変更すれば混乱しない。

 このうち、「慢性期」の病床は今後2つに分かれていくだろうと思っている。すなわち、どうしても在宅では診ることのできない重症患者さんがいるので、そうした患者さんを受け入れる病棟が必要となる。在宅復帰を進める一方で、在宅に帰れない患者さんを支援する病棟も必要である。

○座長
 ありがとうございました。ここで会場からご質問を受け付けたい。
 

■ 特効薬や決め球はないが、やれることはまだまだ多い
 
○会場
 先生方のお話をお聴きして、医療は大丈夫だろうと思うことができたが、介護はどうだろうか。地域包括ケアシステムを支えていくうえで、介護者をどのように確保していくべきか。

○坂本氏
 経済的な環境や雇用形態をきちんと整えていくことが必要であるし、キャリアアップの仕組みをつくる必要もある。看護職がこれまで歩んできた道を振り返ると、やはり専門職としての地位を確立していくことが必要であると思う。

○座長
 介護のプロフェッショナルを育てる仕組みとして、「介護キャリア段位」制度がある。この制度の活用によって介護職の定着や確保、人材育成などを図っていくことも重要である。
 
○吉田審議官
 お金よりも人が大切である。このままでは介護職員が2025年に30数万人が不足する。特効薬や決め球があるわけではないが、キャリアアップや介護職員の処遇など総合的な取り組みを進めることによって改善していくべきであると思っている。やれることはまだまだ多い。

 キャリアパスについても、資格を取ることがゴールではない。この分野にはまだ明確な答えがない。全体を見ながら、やるべきことを一つひとつきちんとやっていく。私どもも問題意識を共有しているので、いろいろな知恵を頂きながら、一緒に頑張っていきたい。

○座長
 ありがとうございます。本日は素晴らしいメンバーで議論を深めることができた。皆さま、どうもありがとうございました。
 



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