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「転換奨励金」の制度を提案 ── 5月21日の記者会見

Posted By araihiro On 2015年5月22日 @ 6:48 PM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会は5月21日、定例の記者会見を開催しました。武久洋三会長は、平成27年3月4日の中央社会保険医療協議会の資料より、受入れ条件が整えば退院可能な患者が約115,000人いるという点に言及し、社会的入院の患者を退院させ、在宅復帰が進められていくべきと意見を述べました。

 そして現在は20~30万床の病床が過剰であると述べ、過去に病床を住宅代わりに用いてきた清算を行うためにも、適切な病床削減は必要だが、それによって地方の病院がつぶされ、医療提供が立ち行かなくなることは避けねばならないと強調しました。
 また、医療機関が過剰な病床を施設へと移行させる際に、地域医療介護総合確保基金などとは別に補助金をつけるべきであるとし、「転換奨励金」の制度を提案しました。

清水副会長0521 同日の会見には、武久会長のほか清水紘副会長、池端幸彦会長が出席しました。
 
 清水副会長は、4月28日付の「平成27年度介護報酬改定における介護療養型医療施設に関するQ&A」で療養機能強化型Aの算定要件が見直されたことを受けて、日本慢性期医療協会が行ったアンケートの結果を解説し、この見直しが療養機能強化型Aへの移行を促したとの意見を述べました。

 池端副会長は、地域医療構想ガイドラインの策定について、自身が委員として出席する平成27年度入院医療等の調査・評価分科会においても、慢性期医療のデータが圧倒的に不足であるとし、平成22年度に厚生労働省が実施した「医療施設・介護施設の利用者に関する横断調査」と同様の調査を協会でも6月に行い、調査結果を分科会に提出すると述べました。

 以下、会見での発言要旨をお伝えします。
 

■日本慢性期医療協会 介護療養型医療施設・療養機能強化型の要件見直しに伴う移行の状況に関するアンケートについて
 

[清水副会長]
 厚生労働省老健局老人保健課の4月28日付の事務連絡「平成27年度介護報酬改定における介護療養型医療施設に関するQ&A」において、下記のQ&Aが掲載された。

挿入した資料_01
 
 上記のQ&Aは、4月1日の時点では「1人と数える」との回答だった。しかしその数え方では算定が非常に困難との声が多く、4月28日のQ&Aにおいて変更となった。
 
 これを受けて、当協会では介護療養型医療施設の施設基準の届出変更状況の調査を行った。集計結果は下記の通りとなった。
 
挿入した資料_02 

 4月28日以降、療養機能強化型Aは30病院増え、それに伴い療養機能強化型Bおよび介護療養型医療施設のその他については減少した。我々は、この増加は4月28日の算定要件の見直しによるものと考える。療養機能強化型Aへ届出変更を行う医療機関は、今後も増加していくと思われる。
 

[武久会長]
 集まった回答をみると、AかBを取らなければ生き残れないという必死さが強く感じられた。だが、現実問題としてはA、Bに届かないといったところが多かった。アンケート結果は、理想と現実の間の厳しさが表れた結果だと理解している。
 

■ 社会的入院等について
 

[武久会長]
 第292回中央社会保険医療協議会(平成27年3月4日)の資料によると、一般病床のうち「受入れ条件が整えば退院可能な患者」の数が約72,000、療養病床と併せれば115,000もいる。明らかに、社会的入院である。医療機関が自主的に回答する調査の結果でこれならば、実態はこの倍の数となるだろう。

挿入した資料_03
 
 日本では、まだ20~30万の病床が過剰だと言われている。20対1の医療療養病床では、医療区分2・3の患者の8割以上の入院が算定要件となっているので、社会的入院は少ないだろう。だが、それ以外の一般病床や25対1の医療療養病床、介護療養病床ではどうだろうか。上記の調査結果には、自院の入院患者の病態をみた病院経営者たちの本音が反映されている。将来的に、レセプトデータがオンラインで提出されるようになれば、入院が不要な患者はすぐに洗い出されてしまい、困った状況に陥る医療機関が出てくるだろう。

 こうした現状は、過去に病床を住宅政策に代用してきた結果である。諸外国と比較して日本の病床数が異常に多いと言われるのは、その後片付けがまだ済んでいない証であり、病床数の是正は当然である。

 一ヶ月間病院にいるのに、検査をせず、処方せんの変更もなく、リハビリも一日にほんの少ししかしない患者がいたら、データによって間違いなく入院は必要なしと判断される。急性期病院も慢性期病院も、病院らしくない病院は退場すべきである。

 入院患者に感染症などの他の新しい病変があらわれても治療をしないような病院は、病院ではない。老人収容所にすぎない病院など、存在し得ない。施設より病院に入院しているという方が聞こえが良いなどと考えるような人達の数は、以前より少なくなってきている。

 良くなる見込みがない重度の症状ならターミナルを考えるべきであろうが、少なくとも、QOLを高く保ちながらターミナルを希望するような患者の居場所は、病院ではない。間違いなく施設である。
 病院とは病気を治そうとする人達の来る場所であり、治療の場である。ターミナルや看取りを行う場は、病院とは別に考えたほうがよい。

 重度心身障害や難病の人達のための病床は必要だが、介護施設への入所が可能な患者であれば移行すべきであるし、さらに、介護施設からサービス付高齢者向け住宅のような人為的在宅に移行すべきであろう。

 しかし病床を介護施設やサ高住に転換するといっても、そこに入院している患者は多くいるのだし、それらの病床を運営することで経営が成り立っている病院も多い。いくら病床の転換が必要といったところで、そうした病院を一方的に崩壊させるわけにもいかない。もはや病床移行は診療報酬による誘導だけではなく、医政局による政策誘導が必要と考える。
 

■病床から施設へ移行する医療機関のための「転換奨励金」の提案
 

[武久会長]
 これまでも現在も、医療の現場は、政権の意向のもとに医業を営んできた。病床の住宅代用、そして病床数の減少・移行が必至となった現状は、医療の現場が悪いからではない。医療人は、皆誠実に医療を行っている。病床を急性期から慢性期に移行させたり、慢性期から施設へと移行する流れを促したいなら、転換奨励金といった形の補助金をつけるなどして移行しやすくすべきである。加えて、移行後も、医療人や患者が路頭に迷わないよう考えていただきたい。政府は、力ずくのガイドラインではうまくいかないことを認識すべきである。
 

 結局、地域医療介護総合確保基金は、都道府県がコントロールしており、個別の病院に対してや、まして機能転換の補助に使用するといった例はない。最終的には、公的な取組に配分される等、広く使って終わりということになるだろう。これとは別に、個々の病院が病床を転換させるための補助として、「転換奨励金」を提案したい。

 転換奨励金をつけるような方法は、一見、予算が増えて大変なように思えるが、一時的なものにとどまるだろう。将来の日本のため、一日も早い改革が必要である。現状維持にとどまりたがる声もあるが、国の将来がかかっているということを認識し、医療の現場も考え方を変えていかねばならない。

 もはや国民は、病院に入院したらできるだけ長く居座ろうなどとは考えない。入院したら、すぐに退院の時期を知りたがるのが普通である。国民の意識の方がはるかに進んでいることを感じなければならない。

 時は待ってくれない。地方では、すでに2025年に到達しているのだ。
 医療の改革なくして、日本の改革は進まない。
 

■地域医療構想策定ガイドライン等について
 

[武久会長]
 下記の資料「厚生労働省 病院報告より」をみると、12月の一般病床利用率が急激に落ち、翌1月には11月時点の数字よりも上がっている。これは、平成26年度診療報酬改定の経過措置が9月で終了し、その後の2ヶ月程はこれまで通りの運営でも何とか病床利用率70パーセント台を保っていられたが、ついに12月に結果があらわれ、病床ががら空きになったというところだろう。各医療機関がこの結果に焦り、あわてて在院日数を延ばした結果が、翌月の病床利用率上昇に出ていると考える。

挿入した資料_04

 2枚目の資料では、平成26年1月と平成27年1月を比較すると平均在院日数が1日分短縮されている。

挿入した資料_05 

 3枚目の資料でも、同時期の1年間における病床数の大幅な減少が示されている。

挿入した資料_06 

 この調査結果には、地域急性期を担う病院が、患者の退院をどのように決めていくべきか迷いながら運営している姿が浮き彫りになっている。平成26年度診療報酬改定で提示された流れの中でどのように自院を運営していくか、多くの医療機関が錯誤しているのである。

 診療報酬改定ひとつで、全国の医療機関の運営が大きく左右される。こうした状況下においては、地域医療構想策定ガイドラインも「あくまでも参考として」といった程度で考えるわけにはいかない。やはりこれは法律なのであり、医療機関や医療人の動きに大きく影響を与えるものである。

 法律とは、作った官僚をも縛る、恐ろしいものである。昭和61年の医療法改正の際、病院病床数の総量規制ということで、2次医療圏内の法定病床数が規定された。発効前は「自由主義国家で病床を国家が厳しく規制することなどできない」と言われていたにもかかわらず、発効した途端、病床過剰の地域では新しい病床が一切許可されなくなった。
 
 地域医療構想も、地域ごとに病床機能報告制度を基にした機能別病床が決められた瞬間から、法律自体が動きだすことになるだろう。

 2025年に向け、住まい代わりにされてきた社会的入院の病床は減少に向かい、帰れる患者はどんどん退院させていく流れになる。そうなると、経営が成り立たずにつぶれていく病院が間違いなく発生してくる。都会では困らないだろうが、地方で1か所しかないような病院がつぶれてしまうとなると、その地域には人が住めなくなるということになってしまう。
 
 現状では慢性期よりも急性期、特に、限られた地域の患者を見る地域急性期が非常に厳しい状況にある。地域医療の崩壊を懸念している。
 このままでは平成30年の同時改定の頃に、病床を絞りすぎたと反省することになるのではないか。まずは、平成28年にどのような診療報酬改定が行われるかを待ちたい。

 一方的に締め上げて病床数を減らしにかかることが、果たして本当に日本の医療のためになるといえるのか。地域によってはその地の住民の医療福祉を取り上げることになりかねず、人の住めない地域が出てきてしまう可能性もあるということを看過してはならない。
 

■日本慢性期医療協会による医療施設・介護施設の横断調査の実施について
 

[武久会長]
 「医療の提供状況(平成22年6月実施 厚生労働省「医療施設・介護施設の利用者に関する横断調査」速報値より)」を見ると、人工呼吸器、気管切開・気管内挿管、酸素療法、喀痰吸引、経鼻経管・胃ろういずれも、一般病床(13対1、15対1)に比べ医療療養病床(20対1)の方が、患者に占める割合が高いとの結果が出ている。

挿入した資料_07

 これは平成22年に実施した調査なので、ここ5年で状況がどう変わったか当協会で調査を行い、池端幸彦副会長が委員として出席している入院医療等の調査・評価分科会に提出したい。医療療養病床の患者の状態は、現在の方が重いように感じる。平成26年度の診療報酬改定で、データ提出加算の算定対象は、医療療養ほかすべての病棟へ広がった。
 
 いずれ慢性期においてもDPCデータの抽出はスタンダードとなり、患者の病態が細部まで明らかになっていくだろう。まずは当協会で会員病院を対象とした調査を行い、6月中の結果とりまとめを目指して準備している。
 

■平成27年度入院医療等の調査・評価分科会について
 

[池端副会長]
池端副会長0521 平成27年月4月30日、第1回入院医療等の調査・評価分科会が開催された。次回(5月29日開催)は、平成26年度調査の結果が資料提出されることになっている。

 平成27年度の調査項目は下記の通りである。

(1)入院医療の機能分化・連携の推進について(⑤一般病棟入院基本料等の見直しその2)
(2)入院医療の機能分化・連携の推進について(⑥特定集中治療室管理料の見直し)

 このように、平成27年度調査には慢性期医療に関する調査項目がなく、非常に危惧を感じている。

 平成27年度介護報酬改定において「療養機能強化型」が新設されたものの、この算定はかなり厳しく設定されているため、介護療養病床から医療療養病床に移行するケースもありうるだろう。

 また、平成26年度診療報酬改定で運営が厳しくなった急性期病院が、慢性期へと下りてくることも想定される。
 
 さらに、平成30年で経過措置が終了する療養病床25対1をどうしていくかといったことなど、慢性期医療をとりまく状況は多様である。
 
 また、地域医療構想ガイドラインの策定においては、現状、慢性期医療に関する詳しいデータがないため見込み数で検討するという形になったが、果たしてそれで有効といえるのだろうか。

 こうした中で、慢性期医療についての調査が行われないというのは、きわめて危機的な状況である。

 平成26年度診療報酬改定より、あらゆる病床でデータ提出加算が算定可能となった。療養病床からどの程度のDPCデータが提出されているか分からないが、まずは厚労省から現存するデータを出していただき、慢性期の機能を数字によって示してほしい。

 加えて会長のお話の通り、当協会では会員病院を対象に医療施設・介護施設の横断調査を行う。この調査結果を入院医療等の調査・評価分科会に出せれば、慢性期医療の議論の材料になるのではないかと期待している。

 慢性期医療に関するデータが足りない状況ではあるが、調査結果をもとにして更なる提案、提言をしていくことが出来るよう行動していきたい。
 



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