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第2回慢性期リハビリテーション学会 ── シンポジウム

Posted By araihiro On 2015年3月16日 @ 12:56 PM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等 | No Comments

 第2回慢性期リハビリテーション学会では、5つのシンポジウムが開催されました。学会1日目の3月14日は、「慢性期リハビリテーションの展望」「地域包括ケアを支えるリハビリテーション」をテーマに2つのシンポジウムを開催。厚生労働省の介護保険担当者を招き、医療・介護提供体制の在り方も含めた幅広い観点から慢性期リハビリテーションの方向性を探りました。2日目は、「食」「精神と心」「歩行」をキーワードに3つのシンポジウムを開催。現場の取り組みが多く紹介され、実践的な課題に迫る内容となりました。
 

■ シンポジウム① ──「慢性期リハビリテーションの展望」
 
 シンポジウム①は「慢性期リハビリテーションの展望」と題し、厚生労働省老健局老人保健課の迫井正深課長、日本慢性期医療協会の武久洋三会長が参加。座長を橋本康子学会長が務め、今後の慢性期リハビリテーションの方向性を語り合いました。
 
シンポジウム1

 最初に登壇した橋本座長は、リハビリ算定上限を超えても粘り強くリハビリを継続した結果、大幅な機能回復に導いた症例を写真や動画で報告し、「慢性期リハビリテーションは、日常生活機能を維持するだけではない。回復に向けて攻めていく医療であり、攻めのリハビリテーションである」と訴えました。リハビリスタッフの根気強さに支えられて回復していく16歳の少年の姿に、会場は静まり返りました。
 
 続いて武久会長が「新しいリハビリテーションが始まる」と題して基調講演。これまでのリハビリテーションのあり方に疑義を呈し、「リハビリはあきらめてはいけない。見捨ててはいけない。これまでのリハビリ提供体制から脱却しなければいけない」と主張。具体的なデータを示しながら、リハビリスタッフらの自由裁量を重視した新しいリハビリ提供体制の必要性を説きました。
 
 橋本学会長、武久会長の講演に続き、平成27年度介護報酬改定をリードした厚労省の迫井課長が「リハビリテーションの理念と自立支援」と題して特別講演。迫井課長は「今回の介護報酬改定の中で、生活期のリハビリの立て直しが大きなテーマだった。改定の3本柱のトップにリハビリを位置づけた」と振り返りました。そのうえで、「リハビリの理念は単なる回復ではない」と指摘し、「今回の介護報酬改定で対応した、新しいリハビリテーションを活用していただきたい」と呼びかけました。
 

■ シンポジウム② ──「地域包括ケアを支えるリハビリテーション」
 
 シンポジウム②は、リハビリ関係団体の代表者らが一堂に会し、地域包括ケアシステムを支えるリハビリテーションの在り方を議論しました。現場の取り組みや課題なども多数提示され、それぞれの職種がどのような役割を果たすべきかを考える場となりました。
 
03_シンポジウム②

 座長を務めたのは、地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏。「人口構成や人口動態は地域によって格差があるので全国一律の施策はもう通用しない」と指摘し、「ご当地ごとの社会保障システムとして必要になったものの1つが市町村ごとの地域包括ケアシステム。『障害者』という言葉は入っていないが、地域リハビリテーションの概念とほぼ同じ」との考えを示しました。そのうえで仲井座長は、今回の介護報酬改定を振り返り、「今改定にもICFの概念が多く取り込まれている。本日は、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、リハビリテーション科の医師と共に、リハビリテーションが地域包括ケアをどう支えるかを考えたい」と問題提起しました。
 
 最初に登壇したのは、日本理学療法士協会会長の半田一登氏。「地域包括ケアを支える理学療法士」と題して講演し、「リハビリテーションの理念、原点は何か」と問いかけました。半田氏は、自身が理学療法士になった当時を振り返り、「昭和46年頃、リハビリは理念優先であるとよく言われた。最近、まさにこのリハビリテーションの理念が再び問われている」と指摘。医療・介護を取り巻く環境の変化に触れながら、理学療法士の役割として、「活動・参加を支えるための移動機能の維持・向上」などを挙げ、「変化していく強い意思を持たないと地域包括ケアシステムの中で理学療法士が生き残るのは難しい」とし、時代のニーズに対応できる理学療法士の重要性を訴えました。
 
 続いて日本作業療法士協会会長の中村春基氏は冒頭、「作業療法士を見たことがない」と苦笑し、「『公助』や『共助』の場面で作業療法士は活躍しているが、『自助』や『互助』では不足している」と指摘。「これからの課題は、こうした所に作業療法士をいかに配置していくか」と述べ、地域住民の暮らしを支える身近な所で作業療法士が果たすべき役割を示しました。中村氏は、作業療法士の介入によって生活機能が改善していく事例を具体的に示しながら、「病院にいる間から在宅生活をイメージし、本人のニーズを引き出すことが作業療法士の役割」と説きました。
 
 日本言語聴覚士協会副会長の内山量史氏は、冒頭で言語聴覚士試験の合格者数や配置状況などを示し、「介護保険関係の従事者は8.8%にとどまっている」と指摘。高齢者に多い障害を支援するうえで、「言語聴覚士の供給量に大きな問題がある」との課題を挙げました。言語障害を抱える高齢者らのコミュニケーションを支援する言語聴覚士の役割をさらに充実し、向上させていく必要性を述べたうえで、「高齢者が閉じこもりに陥ることなく、地域の中で生きがいを持って生活できるように、言語聴覚士の人材確保・育成に向けてさらに努力していきたい」と意欲を示しました。
 
 こうしたリハビリ専門職の提言を受け、永生病院TQMセンター長で医療技術部長の野本達哉氏は医師の立場から各職種の役割に言及。「オーケストラにたとえれば医師が指揮者であると言えるが、リハビリ職種が指揮者になってもいい。重要なことは、ピラミッドをつくらないこと。フラットな関係をつくっていくことだ」と述べました。野本氏は、高齢化が進む東京・八王子市で地域リハビリテーションを展開する自院の取り組みを紹介しながら、「医師の役割として重要なことは多職種との情報共有や連携であり、そのために自由な対話を通じて各職種の役割を理解し、決してパターナリズムに陥らないことが多職種連携の秘訣ではないか」と提案。職種の上下関係のない関係を構築することが医師の最大の役割であるとの考えを示しました。
 

■ シンポジウム③ ──「食を支えるリハビリテーション」
 
 学会2日目は、シンポジウム③からスタート。人が生きていくうえで欠かせない「食」をリハビリがどのように支えるかを現場の視点で論じました。嚥下リハビリに携わる言語聴覚士や看護師、口腔ケアに関わる歯科医師、在宅での栄養指導に取り組む管理栄養士らが参加し、各職種の立場からから「食を支えるリハビリテーション」を考えました。
 
04_シンポジウム3

 座長は、リハビリテーション栄養を専門とする医師の若林秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が務めました。冒頭のあいさつで、若林氏は「食事がリハビリテーションを支えている面もかなり大きい」と指摘。「食事・栄養とリハビリテーションはどちらか一方が他方を支える関係ではなく、お互いが支え合うことで最高のパフォーマンスを引き出せるのではないか」とし、「食を支えるリハビリ」と「リハビリを支える食」の両面から議論が展開されることを期待しました。
 
 言語聴覚士の太田智樹氏(博愛記念病院リハビリテーション科係長)は、「摂食嚥下訓練の患者1人当たり1日9単位実施への挑戦 ~経口摂取への早期移行を目指して~」と題して講演。摂食嘘下障害の患者を中心に、言語聴覚士のみで患者1人当たり1日平均4~9単位に相当する訓練(多単位介入)を紹介しました。「多単位介入」によって摂食嚥下機能が向上したり早期退院につながったりした成功事例を示し、「言語聴覚士の『多単位介入』が果たした役割は大きい」と述べました。
 
 一方で、今後の課題として「患者や家族の不平等感」「介入終了のタイミング」「マンパワーの問題」などを挙げ、「言語聴覚士のみでは限界があるので、多職種との連携を密にする必要がある」とまとめました。若林座長は「新規性のある取り組みだが、課題も多い」とコメントしました。
 
 JCHO湯布院病院・看護師長の木本ちはる氏は、「あきらめない看護」の視点を提示。大学病院の脳神経外科など急性期医療から回復期、慢性期までの幅広い経験を踏まえ、早期発見と予防に向けた日々の取り組みを具体的に紹介しました。木本氏は、「現場での実践力の向上や家族を含めた指導、地域との連携などが求められている」と指摘し、病院から地域へつなぐ連携システムによって「食」を支える必要性を説きました。若林座長は「多方面からのアプローチができるのが看護師であると受け止めた」との感想を述べました。
 
 続いて歯科医師の立場から、陵北病院・歯科診療部長の阪口英夫氏がリハビリテーションに関わる歯科の役割について講演。阪口氏は「口腔ケアの専門医がいないために放置されているケースもある」と指摘し、慢性期病院に歯科を併設することによって、きめの細かいケアが可能になることを伝えました。阪口氏は研究データなどを踏まえながら、「食べる行為は、単に食物を身体に取り込む機能だけではなく、味や食感を楽しむことによって喜びを実感する」とし、適切な口腔ケアによって味や食感を回復させることも「食を支えるリハビリテーション」の役割であるとの考えを示しました。
 
 管理栄養士の中村育子氏(福岡クリニック在宅部栄養課課長)は、管理栄養士がリハビリ職らと連携しながら在宅患者を支えていく取り組みを伝えました。中村氏は、在宅患者のリハビリテーションについて「必要栄養量が不足している状態が続くと低栄養となり、リハビリテーションの効果が得られにくい」と指摘。栄養状態を改善する必要性を早期に発見することが管理栄養士の重要な役割であり、「食事内容や口腔内の問題、精神的問題、経済的問題が食事量の低下に関与していないかなどの問題点を抽出し、問題解決に結び付く栄養ケアを考え、多職種が連携して解決できるように努める」と述べました。
 
 若林座長は、「在宅訪問管理栄養士がどんどん増えて活躍してほしいが、中村先生のように生活を見ることができてリハの視点もある管理栄養士が回復期リハや慢性期病院、施設にもっと増えたら心強い」と述べました。
 

■ シンポジウム④ ──「精神と心のリハビリテーション」
 
 シンポジウム④は、高次脳機能障害や認知症、発達障害などに焦点を当て、各職種の立場から今後の課題などを抽出しました。座長を務めたのは、札幌西円山病院副院長の横串算敏氏。本シンポジウムのテーマに「精神と心」という言葉が使われていることに横串座長は、「精神と心を中枢神経系の一体的な働きとしてとらえ、その障害に対して慢性期リハビリがどうあるべきかを考えたいという学会長の思い」と評価。今回のシンポジウムについて、「リハビリ関連職らが現場でどのように高次脳機能障害や認知症に関わっているかを議論したい」と期待を込めました。

シンポジウム4

 最初に、千里リハビリテーション病院のセラピー部作業療法士チーフの森涼子氏が「小脳性認知情動症候群(CCAS)」への対応について講演。具体的な症例を丁寧に報告し、「チーム一丸となったアプローチ」の重要性を指摘しました。CCASがあっても変化を期待できるケースがあるため、それに応じてアプローチを変える。森氏は、「療法士だけでできることには限界がある。日常生活の支援に積極的に携わる看護師や介護士らと情報を共有し、チーム一丸となった関わりができるかが大切」と述べ、改善できる可能性をチームで探る必要性を指摘。「抑え込むよりも、患者さんとスタッフがうまく協調できる関係をつかむことによって改善する可能性がある」と述べました。
 
 一方、看護の立場から精神科病棟看護主任の髙野ルミ氏(順天堂大医学部附属順天堂越谷病院)は、「日常生活そのものがリハビリにつながる」との視点を提示。「日常生活場面を活用し、認知症の人の『今ある力』を大切にすることが必要」と述べ、多職種連携による認知症ケアの取り組みを紹介しました。髙野氏は「看護の視点だけでは認知症の人への支援は困難」とした上で、他職種の役割を理解した上で連携していく必要性を指摘。「認知症の人や家族としっかり向き合い、そこから得た情報や経験をチームで共有し、きめ細かな看護につなげられるように努めていきたい」とまとめました。
 
 言語聴覚士の中村晴江氏(甲府城南病院・言語聴覚療法科科長)は、「高次脳機能障害のリハビリテーションを考える」と題して講演。冒頭で中村氏は、「単に障害としての高次脳機能障害を回復させるリハビリテーションではなく、人に近づいた、人の尊厳を守っていく高次脳機能障害リハビリテーションについて考える機会になれば幸い」とあいさつ。意識障害との鑑別や、急性期での注意点、回復期の役割など幅広い側面から考察し、「連続したケア」の重要性を指摘しました。高次脳機能障害へのアプローチ法がいまだ十分に確立されていない現状を伝え、長期的なケアの中で「家族をはじめとする関係者への理解・支援の啓発」を進めていく必要性を強調。「地域での患者会の活動を下支えしていくことも、私たちに課せられた新たな命題だろう」と述べました。
 
 討論を踏まえ横串座長は、「患者さんが在宅や地域に帰り、コミュニティの一員として参加できるようにするための継続的なリハビリテーションはもちろんだが、地域への啓発や社会資源の掘り起こしなど、私たちがもっと目を向けなければならない問題がある」と指摘。そのための専門職の在り方として、「地域にもっと出て行き、地域包括ケアシステムを支えていくという関わりが必要ではないか」と締めくくりました。
 

■ シンポジウム⑤──「生活の中の歩行支援」
 
 歩くことにサポートが必要な患者にどのように寄りそうか。学会最後のシンポジウムは「生活の中の歩行支援」をテーマに開催されました。座長は、世田谷記念病院副院長で回復期リハビリテーションセンター長の酒向正春氏が務めました。酒向座長は冒頭、「このシンポジウムでは、急性期、回復期、維持期において歩行機能が低下した患者さんをいかにして回復し、歩行機能を継続させるか。努力して継続が難しい患者さんに対し、より努力が要らない状態で歩行できるように導くか」と問題提起。「臨床やロボット工学テクノロジーの方向から議論したい」と述べ、幅広い側面から可能性を探る意向を示しました。
 
06_シンポジウム5

 最初に登壇したのは、理学療法士の増田知子氏(千里リハビリテーション病院理学療法士チーフ)。脳血管疾患による片麻痩者に対し、下肢装具を活用した運動療法を同院では積極的に進めていることを紹介し、具体的な改善事例を報告しました。歩行困難だった53歳の女性が入院35日目に杖を使って歩行できるまで回復したケースなどを挙げ、運動学や神経学などの各視点を踏まえた装具の活用法を提示。その上で増田氏は「根拠に基づいたアプローチで実行し、歩行機能を再び獲得させることによって、その人がその人らしく生きることを支援する、すなわち『生活の中の歩行支援』につなげられる」と述べました。
 
 続いて同じく理学療法士の小笠原尚和氏(世田谷記念病院リハビリテーション課課長)は、回復期から生活期における脳卒中片麻庫患者の実用歩行獲得に向けたリハビリテーションについて、同院の取り組みを具体的に報告しました。機能回復に向けた病院内での訓練として、それぞれの患者のADL場面に即した歩行練習を紹介し、トイレでの排世や食堂での食事など生活の場面に歩行訓練を導入して歩行機会を確保する必要性を伝えました。小笠原氏は「歩行機能が安定すれば、看護師や介護福祉士による食事歩行やトイレ歩行などの日常生活練習、言語聴覚士による移動時歩行などチームによる歩行練習の介入が歩行機能の早期向上を可能とする」と指摘。屋外では、機能回復のレベルに合わせたコース設定するなど、在宅復帰後の生活や社会参加まで見据えた機能訓練の在り方を示しました。
 
 名古屋工業大学教授の佐野明人氏は、昨年9月に発売されたばかりの無動力歩行支援機ACSIVE(アクシブ)の機能について、具体的な事例を示しながら紹介。30歳で交通事故に遭い、歩行がままならない状態をアクシブで改善したケースでは、「事後の人生を変えてくれた」との感想が寄せられたそうです。佐野氏は「シンプルな歩行支援機に出会うことによって、生活の中で使える環境が整ってきた。歩行を支援してくれる機器から、人生そのものを支援してくれる機器へと変わる可能性を秘めている」と指摘。今後について、「今までできなかった歩行ができるための何かがあるはず。日々の生活の中で改善に使えることがあり得る。そんな思いで研究を頑張っている」と結びました。会場から大きな拍手がわき起こり、酒向座長は「素晴らしい。ぜひ使ってみたい」とコメントしました。
 

■ 閉会式 ──「次回は予防リハビリにこだわりたい」と木戸氏
 
07_吉尾雅春氏 閉会式では、本学会の実行委員長を務め、開会式で総合司会を担当した吉尾雅春氏(千里リハビリテーション病院副院長)があいさつ。吉尾氏はまず、本学会の参加者が945名に上ったことを報告。学会の優秀演題を6月頃に日本慢性期医療協会のホームページ上で発表し、次回学会で表彰することを伝えました。
 
 続いて次回学会長を務める慢性期リハビリテーション協会副会長の木戸保秀氏(松山リハビリテーション病院院長)があいさつ。第1回学会の4倍近い参加者が今学会に集ったことに触れ、「非常に盛況で、熱い討論もあって感激した。来年の第3回もぜひ熱い会を催したい」と述べました。今後のリハビリテーションの在り方について木戸氏は、「地域に生きる、徹底的な予防リハビリテーションに取り組む。次回の学会では、予防リハビリにこだわりたい」と意欲を示しました。
 
08_次会学会

 次回学会に向け木戸氏は「近年、予防が重要視されている」と指摘したうえで、「リハビリテーションに関わるわれわれが何をしていくべきかを討論したい。ぜひ神戸にお集まりいただきたい」と呼びかけました。
 
 次回学会は2016年2月27(士)、28(日)の2日間、神戸市の神戸国際会議場で開催される予定です。
 



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