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平成27年1月8日定例記者会見のご報告

Posted By araihiro On 2015年1月9日 @ 7:10 PM In 会長メッセージ,協会の活動等 | No Comments

 平成27年1月8日、日本慢性期医療協会は定例記者会見を開催し、会見に臨んだ武久洋三会長と池端幸彦副会長は、2015年度に向けた対応として7つの項目を提示しました。武久洋三会長は、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」における議論を踏まえつつ、慢性期が担うべき医療機能について持論を展開。日本慢性期医療協会が進むべき今後の方向性を強く打ち出しました。
 
 以下、武久洋三会長の発言の要旨をお伝えします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページに掲載しておりますのでご参照ください。
 

[日本慢性期医療協会 2015年度に向けての対応]

1.地域医療構想策定ガイドラインへの対応(C1・C2・C3への対応)
2.医療療養病床25対1への対応
3.介護療養病床への対応
4.リハビリテーション提供体制への対応
5.在宅療養促進政策への対応
6.認知症への対応
7.平成28年度診療報酬改定への対応
 

1.地域医療構想策定ガイドラインへの対応(C1・C2・C3への対応)
 
(1)2025年における慢性期の医療需要について
 まず、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」等の資料を中心にお話ししたい。この検討会は厚生労働省医政局地域医療計画課の主管であり、私も構成員として出席している。昨年12月25日に開催された第6回検討会では、2025年における「慢性期の医療需要」を推計する根拠として、療養病床の都道府県別入院受療率と平均在院日数が示された。この入院受療率と平均在院日数に基づいて厚生労働省から提案された「慢性期の医療需要」の考え方は、次のとおりである。

 「在宅医療等へ移行する患者数については、在宅医療の充実等により、現在では療養病床で入院している状態の患者は、2025年には在宅医療等での対応となる(療養病床の入院受療率の低下)ものとして、推計する」

 すなわち、地域における在宅医療や介護施設の整備を見込んで、現在療養病床に入院している患者はすべて在宅医療等の対象としていこうという考え方である。
 療養病床の入院受療率には、最大の高知県と最小の長野県とで約5倍の大きな開きがあった。そのため、このような地域差を補正しながら医療需要の検討を進めようというのが厚生労働省の方針である。入院受療率と必要となる病床数は完全に一致するわけではないが、都道府県によってなぜこれほどの大きな落差があるのかという点に着目したということであろう。

 療養病床の入院受療率を補正する設定案には、A案とB案とがある。A案は、入院受療率が最小の長野県の水準に合わせるという案で、B案は、入院受療率が最大の高知県を全国中央値の水準まで低下させ、他の地域については最小の長野県との差を等比的に低下させるという案である。A案ではあまりに極端に過ぎるということから、B案を基本としながら今後の検討が進められることになっている。

 私は、次のような理由から、療養病床の入院受療率をベースとした「慢性期の医療需要」を推計する考え方に疑問を呈している。まず、人口に対する療養病床の病床数は地域によって大きく異なるということである。また、療養病床の少ない地域では、本来は療養病床に入院すべき患者が一般病床に入院しているということもある。もう1点は、平成26年度診療報酬改定において、特定除外制度の原則廃止という大きな変化があったことである。つまり、一般病床の患者で90日を超えた患者は療養病床と同じ診療報酬とすることとなったため、改定前のデータが現在もそのまま通用するとは考えられないということである。これらの理由から、療養病床の入院受療率だけを取り出して「慢性期の医療需要」を推計するのは、現実に合致した提案とは言えない。
 
(2)病床の機能別分類の境界点(C1~C3)の考え方について
 「高度急性期」「急性期」の医療需要については、DPCデータの分析により、1日あたりの医療資源投入量と入院経過日数の推移を踏まえて推計することとなっている。具体的には、発病後、間もないときには医療資源投入量の点数は高いが、日数が経過するにしたがって医療資源投入量の点数が低くなっていくという関係性をEBMに基づいてグラフ化し、医療資源投入量の点数にC1、C2、C3というボーダーラインを設定するという手順である。このボーダーラインを基準として、C1より上に該当する延べ人数の合計を「高度急性期」の医療需要、C1からC2までの間に該当する延べ人数を「急性期」の医療需要、C2からC3までの間に該当する延べ人数を「回復期」の医療需要、C3以下に該当する延べ人数の合計を「慢性期の医療需要」とする考え方である。
 
 私は、各病床の医療機能の分化をDPCの治療日数と1日あたりの診療報酬の推移だけで決めるのは早計であると考えている。また、「慢性期」に該当するであろうC3の表記が「居住施設等医療」とされていることにも恣意的な誘導を感じている。なぜなら、順調に回復する患者もいれば後遺症が残る患者もいるので、発病日からの入院経過日数と患者の重症度は直接関連するものではなく、病期と重症度とは全く別物だからである。さらに言えば、医療資源投入量と入院経過日数の推移を示したグラフはあくまでDPC病棟だけを反映した調査結果であって、それを「地域包括期」や「慢性期」に無理矢理結び付けようとするのはどう考えても理解し難い。
 
 「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の各医療機能については、「病床機能報告制度」においていちおう定義されており、「慢性期」は次のような内容となっている。
 
 ○長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
 ○長期にわたり療養が必要な重度の障害者(重度の意識障害者を含む)、筋ジストロフィー患者又は難病患者等を入院させる機能
 
 この定義は、「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」によるものだが、残念ながらその検討会に慢性期医療の代表は誰も参加していなかった。そのためかはわからないが、「病床の機能別分類の境界点」について、C3すなわち「回復期と慢性期・在宅医療等の境界点」の個所を見ると、次のような記載がある。
 
 基本的考え方:「療養病床または在宅等においても実施できる医療やリハビリテーションの密度における医療資源投入量」

 患者像の例 :「輸液管理や術後のドレーン管理が不要となり、定期薬以外の治療は終了」
 

 一体誰が考えた提案なのか。療養病床の実態をきちんと把握した上での考案とはとても思えない。

 「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」では、「病床機能報告制度」における機能別病床数の報告状況も速報値として示された。驚くべきことに、70%近い病床が自らを「高度急性期」または「急性期」であると報告している。そして、6年経過後においても「高度急性期」または「急性期」を担っていると報告した病床が約65%あった。どのような判断なのかはわからないが、これが現在の全国の病院経営者の自意識である。

 医政局地域医療計画課の北波孝課長より、「療養病床の診療報酬は包括算定のため、医療行為を出来高換算して分析することができない」との説明があった。しかし、平成26年度の診療報酬改定によって、療養病棟も「DPCデータ提出加算」の対象となったことを見過ごすことはできない。当協会の会員病院においても、概算ではあるが、およそ100病院が「DPCデータ提出加算」の届出をしているものと推定される。「DPCデータ提出加算」とは、厚生労働省が実施するDPC調査に準拠したデータ(退院患者1人ひとりの治療実績)を継続して提出することを評価するという加算である。これらのデータをいち早く集計し、療養病床の現場の実態を可視化するのが先決であろう。

 また、「慢性期の医療需要」を考える上で療養病床の検討をするにあたっては、20対1と25対1とを分けて考えなくてはならない。なぜなら、20対1には「医療区分3の患者と医療区分2の患者の合計が8割以上であること」という施設基準があるため、25対1とは患者像が大きく異なるからである。したがって、入院受療率を検討するというのであればやはり、20対1と25対1とを分けて考察するべきである。また、以前の定例記者会見でもお話ししたように、25対1の多くは7対1や10対1とのケアミックス病院であることも、別個に検討すべき理由の一つである。慢性期機能単体の病院と同じラインで論ずることはできないからである。

 冒頭にも述べたように、厚生労働省が示す「慢性期の医療需要」の考え方は、次のとおりである。

 「在宅医療等へ移行する患者数については、在宅医療の充実等により、現在では療養病床で入院している状態の患者は、2025年には在宅医療等での対応となる(療養病床の入院受療率の低下)ものとして、推計する」

 要するに、在宅医療等が充実していけば療養病床はそれほど必要ではない、という短絡的な思考である。療養病床に対する蔑視も甚だしい。非常に大きな問題を孕んでいる。ここにはどうやら、重症患者は急性期病院だけに入院しているのだという錯覚、思い違いがあるようだ。
 当院の100床の療養病床には、31人の人工呼吸器患者が入院している。同じ状況の療養病床は他にも複数あろう。果たして、在宅医療の現場に人工呼吸器患者はどのくらいいるのか。療養病床の多くは、一般病床から転院してくる重症患者に対応するために医師や看護師を加配して取り組んでいるのである。入院患者の全員がいずれ必ず在宅に復帰できるという考えは、現実に目を背けた過度の期待でないか。「急性期」での治療後、どうしても在宅に復帰することができない重症患者を守り続ける最後の砦は絶対に必要である。

 患者が重症であるということは、人工呼吸器が外れたり、医療機器が上手く作動しなかったりするだけで死亡に至ることが高い確率であり得る。家族からの責任追及により、訴訟となる事案も非常に多い。その場合、当院は慢性期病院だから責任はない、などという抗弁が通じるか。通じるはずがない。たとえ急性期病院であろうと慢性期病院であろうと、適切な治療を行うことができない病院だというレッテルが貼られることになる。そうなれば、病院の経営はたちまち立ち行かなくなる。慢性期病床にも、ICU(集中治療室)の入院患者と変わらない症状の患者が数多く入院しているのである。

(3)看取り・ターミナルケアの実施状況について
 看取り、そしてターミナルケアについても触れたい。平成25年度老人保健健康増進等事業の調査結果に基づいてお話しする。平成24年9月1日から1年間の100床あたりの看取り実施人数は、医療療養病床55人、介護療養病床29.2人、介護老人保健施設6.1人、介護老人福祉施設9.5人であった。医療療養病床については20対1と25対1とを合わせた数値となっているので、20対1だけで見ればさらに多くの人数を看取っているであろう。人間は病気になったときも重症であるが、亡くなる直前もまた重症である。この視点が往々にして抜け落ちているきらいがある。亡くなる前の重態に対して何も治療をしないでおくことが果たしてできるだろうか。皆さん方の両親が重態に陥ったとして、回復する見込みがあるにもかかわらず在宅医療と同じレベルの医療を施されて、果たして納得できるだろうか。

(4)医療区分について
 医療療養病床の診療報酬体系である医療区分について、あらためて説明しておく。先ほど、20対1には「医療区分3の患者と医療区分2の患者の合計が8割以上であること」という施設基準があるとお話しした。例えば医療区分3であれば、「24時間持続点滴」や「中心静脈栄養」「人工呼吸器使用」「発熱を伴う場合の気管切開・気管内挿管」等の医療処置を必要とする患者がこれに該当する。このような医療必要度の高い患者に対して行っている医療と在宅における医療とを同一視するのか。言語道断である。

(5)「地域包括ケア病棟」と「一般急性期」
 平成26年度診療報酬改定における「地域包括ケア病棟」の新設は、「高度急性期」と「地域急性期」とを分離する厚生労働省の見事な作戦である。ここで私が言う「地域急性期」とは、とりたてて特徴のない普通の急性期、いわゆる「一般急性期」のことである。そこで提供される医療は、「高度急性期」に比べて明らかにレベルは落ちる。「地域包括ケア病棟」には二次救急指定または救急告示病院の指定を受けることという施設基準があり、この点から推し量ると、救急医療体制の指定を受けている「一般急性期」は「地域包括ケア病棟」に誘導されているのだと言える。“自称急性期病院”にとって「地域包括ケア病棟」は、まさに“終着駅”なのかもしれない。

(6)慢性期医療として今後必要となる機能
 慢性期医療として今後必要となる機能には、次の5つがある。

 ①急性期医療の後始末機能
 ②強力なリハビリ機能
 ③Sub acute機能
 ④慢性期治療機能
 ⑤在宅療養総合支援機能

 ①急性期医療の後始末機能については、首を傾げる向きもあるかもしれない。しかし、回復して在宅に復帰する入院患者もたしかにいるが、すべての患者というわけにはどうしてもいかない。残念ながら快方に向かわない患者も多くいる。それらの患者の重症状態が継続しているからといって、1か月から2か月あるいは6か月も「高度急性期」に入院することとしていたら、日本の医療体制は崩壊してしまう。「急性期」における手術や処置後の重篤な患者の治療は、「慢性期」ですべて引き受けていくという決意表明である。
 ④慢性期治療機能については、「療養」ではなく、あくまで「治療」であるということを強調したい。

 資料の26ページから28ページは、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」における中川俊男先生(日本医師会副会長)との激論の経過である。急性期医療を代表する中川俊男先生との丁々発止のやりとりを対論形式で掲載しているので、私が今日お話ししている問題提起をリアルに感じ取っていただけると思う。

 以上、慢性期医療を侮蔑しているのにも等しい厚生労働省医政局の提案は到底受け入れられないということを、当協会の地域医療構想策定ガイドラインへの対応としてはっきりと述べさせていただく。

(7)2025年における病棟別医師・看護職員・介護職員の配置予想について
 現在の療養病床の職員配置数は、医療療養病床では、看護職員20対1ないし25対1、医師48対1、介護職員20対1ないし25対1となっており、介護療養病床では、看護職員30対1、医師48対1、介護職員30対1となっている。これを踏まえ、2025年における職員配置数を予想した。
 まず、「急性期」の看護職員の配置数は5対1ないし7対1と高く設定され、医師の配置数も5対1ないし10対1が要求されるであろう。

 次に、「回復期」に該当する病期は、病棟種別の名称に合わせて「地域包括期」とされ、看護職員の配置数は10対1ないし13対1となる。この配置数は、現在の「地域包括ケア病棟」とイコールである。
 療養病床については、「地域包括ケア病棟」となることが1病棟に限って許容されている。しかし、医師の配置数が48対1のままでは重症患者を診ることはかなり難しい。16対1から48対1までの幅の中で、実質的には20対1ないし32対1に加配しているのが現状であり、このレベルの医師の配置が求められることになろう。
 「慢性期」における看護職員配置は15対1ないし20対1となり、現在の25対1は介護施設への移行を迫られると予想する。2年ほど前のデータによると、当協会の会員病院では16.8対1の看護職員配置がすでに主流となっており、この傾向からすれば、現在では15対1に近くなっているのではないか。

(8)療養病床に占める25対1の割合について
 療養病床に占める25対1の割合についてもお話ししたい。平成22年の厚生労働省のデータから全国の状況を見ると、25対1は61.2%を占めていた。一方、平成24年の当協会会員病院の状況では、25対1は30.1%に留まっている。この大きな差は何を意味しているのか。これはやはり、全国で療養病床を持つ約4,200の病院のうち、“良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない”というスローガンのもとに結集した約1,100の会員病院は、それだけ意識が高いということではなかろうか。今後も25対1に固執するような病院は、やがて、介護施設や在宅への移行を迫られることになると腹を括っておくべきである。

(9)日本の医療体制のあり方 2025年における病床数について
 2025年の日本の病床数は、現在の160万床から120万床に圧縮されるであろう。その内、「急性期病床」は「高度急性期」に集約され約20万床となり、全日本病院協会が掲げる「一般急性期」は「地域包括期」として「地域包括ケア病棟」に包括されて約40万床になると予想する。
軽度の患者を主な対象とするような療養病床は、介護施設や在宅に移行することになる。その一方で、「慢性期病床」には「急性期病床」や「地域包括ケア病床」から絶え間なく重症患者が転院してくることになり、約35万床と予想する。
 わが国における「精神病床」は世界各国に比較して病床数が多いことから、病床数削減の圧力を強く受けることは避けられず、約25万床と予想する。

(10)社会保障審議会医療保険部会 医療費適正化計画の見直しについて
 社会保障審議会医療保険部会では、医療費適正化計画の見直しが大きな論点となっている。毎年1兆円規模で増加する社会保障費を見込んだ予算を今後も組むことができるのか。私が安倍首相であったとしても組めるとはとても思えない。いくらアベノミクスと言っても、人口の激減と国力の衰退は抑えようがない。医療費適正化計画の見直しは、介護や医療にかかる社会保障費の抑制を強く示唆している。

 平成20年から平成24年の第1期医療費適正化計画では、平均在院日数の短縮が進められた。たしかに、平成20年に31.6日であった平均在院日数は、平成24年には29.7日とはなっている。しかし、このわずかな平均在院日数の短縮に5年もかかっているのである。

 第2期医療費適正化計画は平成25年から平成29年までの計画であるが、いかにも業を煮やした厚生労働省保険局は、医療費の適正化を急速に進めてくるであろう。これは、平成26年度診療報酬改定における7対1施設基準の厳格化や在宅復帰率の導入、特定除外制度の原則廃止など、地域の中途半端な機能の中小民間病院が非常に厳しい洗礼を受けていることからも明らかである。
 
武久洋三会長(左)、池端幸彦副会長

2.医療療養病床25対1への対応
 
 先ほども述べたように、25対1は、平成30年の診療報酬・介護報酬の同時改定では病院病床ではなくなるであろう。そのため会員病院には、できるだけ速やかな看護職員の加配を強く呼びかけている。20対1にはすでに、16対1程度の看護体制でなければ対応が難しい重症患者が数多く入院している。老人収容所的な療養病床はもはや病院病床としては認められず、自ずと淘汰される。より良質な“慢性期治療機能”を備えなければ、介護施設や在宅と何が変わるのかと訝しがられても仕方がない。平均在院日数の短縮等により、「高度急性期」や「急性期」から重症患者が絶え間なく「慢性期病棟」や「地域包括ケア病棟」に転院してくることになる。我々は、発病からそれほど日数が経たない重症患者を引き受けていかなければならない。このような状況に対する備えを決して怠ることがないよう、会員病院に徹底していきたい。
 

3.介護療養病床への対応
 
 皆さんもすでにご存知だと思うが、平成27年度の介護報酬改定において、「療養機能強化型介護療養型医療施設(仮称)」が新設される。介護療養病床では、「療養機能強化型介護療養型医療施設(仮称)」の要件をクリアすることが今後の存続の条件となった。おそらく、平成30年の同時改定時に「療養機能強化型介護療養型医療施設(仮称)」となっていない介護療養病床は、病院としての機能を失うことになろう。したがって、介護療養型病床を有する会員病院には、何としても「療養機能強化型介護療養型医療施設(仮称)」の要件をクリアすることを要請していくことになる。
 

4.リハビリテーション提供体制への対応
 
 リハビリテーションは、出来高ではなく包括とするべきである。皆さんも考えてみていただきたい。脳卒中発症後、1週間でリハビリテーション病棟に転院してきた場合、勝負ははじめの1か月間である。社会復帰できるかどうかは、初期の段階でいかに集中的なリハビリテーションを実施するかどうかにかかっている。このことは誰でもわかる。しかし、現在の制度ではそのようになっていない。脳卒中を発症したその月も1日9単位まで、発症後6か月目も1日9単位までという何とも芸が無い制度となっている。最初の月は厚く1日20単位まで実施できるようにすればよいではないか。フレキシブルなリハビリテーションの実施を実現させたい。発症後すぐに集中的なリハビリテーションを実施する方が、発症後6か月目にも漫然と1日9単位のリハビリテーションを実施するよりずっと患者にとって効率がよい。
 

5.在宅療養促進政策への対応
 
 「在宅医療」への移行はいまや国是である。しかしながら、開業医の平均年齢は高く、真夜中に往診ができるかと言えばなかなか難しい。かりに往診できたとしても、翌日の診療に差し支えることになろう。我々は、「在宅医療」を慢性期病床でバックアップしていくと主張したい。慢性期医療は医療全体から高度急性期医療を除いたすべてであるとすれば、「在宅医療」も当然、「地域包括期」と「慢性期」の対象範囲だからである。我々が「在宅医療」を積極的に推進し、全面的にサポートしていく所存である。
 

6.認知症への対応
 
 認知症への対応も喫緊の課題である。従来ややもすると、認知症患者については精神科病院にまかせきりになっていた面がある。しかし今後は、「急性期」における手術や処置後の認知症患者は、すべて慢性期病床が積極的に引き受けていく。高度急性期病院や急性期病院では、認知症度が高く、BPSDによる暴力や暴言のある手術患者への対応に大変苦慮している。手術の間は麻薬の投与で眠らせるにしても、術後の止血もままならないほど攻撃的な患者もいる。当協会の会員病院には、認知症患者の入院を決して拒むことがないよう徹底していきたい。BPSDについてはたしかに、専門知識のある精神科医でなければ対応が困難な症例もある。そうであるとしても、BPSDの患者をすぐに精神科病院に委ねてしまうのではなく、むしろ、精神科病院に往診を依頼していくという発想の転換を促したい。このように急性期後の認知症患者への対応に全面的に協力していくことによって、会員病院のすべてが「在宅療養後方支援病院的機能」を達成することを期待している。
 

7.平成28年度診療報酬改定への対応
 
 最後に、本日のまとめも兼ねて、平成28年度診療報酬改定への対応について述べたい。平成28年度診療報酬改定に向けた準備はすでに始まっている。本年8月くらいまでには大方の骨子は固まるであろう。
 平成26年度の改定で7対1施設基準が厳格化された一般病床については、平均在院日数の短縮化によるさらなる追い討ちはとりあえず考えられていないだろう。しかし一方で、「重症度、医療・看護必要度」の基準を満たす患者は15%以上でよいとされていることはまったく解せない。これは、極論すれば、残りの85%は元気で走り回ることのできる患者でもよいというような基準である。もちろんこのような非常識な解釈はないと思うが、平成28年度の改定では、20%または25%くらいまで引き上げられるであろうことは想像に難くない。

 平成26年度の改定では、「DPCデータ提出加算」の対象がすべての病棟となった。このことが療養病床にとっても大きなターニングポイントになろう。なぜなら、すべての医療機関の機能や役割は、診療している患者の病態や実施した医療行為の内容によって分析・評価していくという厚生労働省のメッセージだからである。このメッセージを受けて、先ほどもお話ししたが、すでに100あまりの会員病院が必要となるデータを提出している。療養病床では現在、医療区分とADL区分を用いた包括評価のため、どのような注射をしたか、どのような検査をしたか、どのような処置をしたかという医療行為の内訳はレセプト上には一切表れない。「DPCデータ提出加算」は、医療行為をすべて網羅した出来高データの提出を評価するという制度である。したがって、もう間もなくすれば、療養病床についても集計に値するDPCデータが揃うのである。にもかかわらず、「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」では、「慢性期」の機能分類を入院受療率の検討だけでやり過ごそうとしている。このようなことが許されるのか。療養病床が提出するDPCデータによって、7対1や10対1よりも密度の濃い医療を行っているケースがあるということが白日の下となるのはもう目の前である。一方では手間のかかる出来高のDPCデータを求められ、もう一方では診療報酬について包括の医療区分に基づかなければならない。医療療養病床は今、そのような理不尽な境遇にある。このような二重の負担をいつまで強いるのか。診療報酬については、療養病床も一般病床と同じスケールで評価するのが筋である。我々としては、医療区分の廃止を強く訴えていく。

 リハビリテーションについては、「出来高から包括への全面転換」と「算定日数制限の撤廃」を主張したい。本来、リハビリテーションは、3か月くらいで成果を出さなければならないものである。在宅復帰の見込みのある患者の初期段階には、集中的なリハビリテーションを実施する。そして、6か月経過後についても断ち切ってしまうのではなく、2単位ないし1単位程度の実施を可能とする。包括であればそれができる。従来の維持期リハビリテーションのように、1か月13単位を2日に1回のペースで漫然と実施していたのでは、在宅復帰は覚束ない。在宅復帰を推し進めるのであれば、それが実現可能な仕組みにしていただきたい。患者一人ひとりの必要性に応じたリハビリテーションを実施できるよう、現場の医師や療法士の自由裁量を求めたい。

 平成28年度診療報酬改定では、20対1と25対1との間に大きな差が設けられることになるのは間違いない。25対1には、懲罰的ともとれる点数が提示される可能性が非常に高い。当協会の会員病院には、25対1から20対1への転換を徹底していきたい。

 また、「15対1看護の療養病床」の新設を要望したい。15対1看護は現在一般病棟であるが、地域包括ケア病棟が10対1、13対1看護となった以上、より多くの医療の提供が求められる急性期病床において15対1看護が存在し得るのか。過疎地での一部救済策として以外、存在し得ないであろう。

 以上が、地域医療構想策定ガイドラインへの対応を中心とした当日本慢性期医療協会の今後の方向性である。本日は、年初の定例記者会見に多くの記者の方にお集まりいただき、感謝申し上げたい。



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