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これからの医療提供体制のあり方 ── 第22回日本慢性期医療学会

Posted By araihiro On 2014年12月27日 @ 12:22 AM In 協会の活動等,官公庁・関係団体等,役員メッセージ | No Comments

 第22回日本慢性期医療学会(学会長=末永英文・医療法人財団聖十字会理事長)の2日目となる11月21日、「これからの医療供給体制の在り方 ──地域包括ケアシステムを機能させるために──」をテーマにシンポジウムが開催され、本学会を締めくくりました。シンポジストに厚生労働省老健局の三浦公嗣局長らをお招きし、地域包括ケア病棟や介護療養型医療施設の今後などについて議論、会場からも質問が相次ぎました。
 
 座長は、日本慢性期医療協会(日慢協)副会長の安藤高朗氏(永生病院理事長)が務め、シンポジストには三浦局長のほか、日本長期急性期病床研究会幹事の副島秀久氏(済生会熊本病院院長)、日慢協副会長の池端幸彦氏(池端病院理事長)、地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏(芳珠記念病院理事長)が参加しました。以下、参加者の発言要旨をご紹介いたします。
 
[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
座長(安藤高朗・日慢協副会長) 最後のシンポジウム、大いに盛り上がっていただきたい。今学会のテーマは「最期まで満足する介護・看護・医療」で、まさに地域包括ケアのシステムの目的そのものではないか。

 今年4月の診療報酬改定では地域包括ケア病棟ができた。6月には医療と介護の総合確保推進法が成立し、地域医療ビジョンを含めて地域での医療と介護の連携、連結ということがまさに求められている。4名のシンポジストの方々に大いに語っていただきたいと思う。

 トップバッターは池端病院理事長で、日慢協の副会長でもある池端幸彦先生に「地域包括ケアシステムで求められる慢性期医療」というテーマでお願いしたい。
 

■「時々入院、ほとんど在宅」がいい
 
[池端幸彦氏(日慢協副会長)]
 地域包括ケアシステムに求められる慢性期医療について、地方の小さな病院を経営している立場も含めてお話ししたい。ご承知の通り、都道府県別の高齢者の増加状況を見ると、これから高齢者の増える人数が首都圏を中心に9都道府県で全体の約6割を占めている。当院は下から二番目に少ない福井県にあり、恐らく厚労省は、福井県の高齢者医療までは目が届いていないだろう。だからこそ、それぞれの地域でその特性に合わせて地域医療・介護の現場に携わる私たちの手で、地域包括ケアを実現していかなくてはならない。

池端幸彦氏(日慢協副会長) これから一気に増える超高齢者への医療は、病気を治すことや救うことよりも、病気を抱えて生きること、病気を支え癒やすこと、そして安らかに看取ることに重きが置かれる。すなわち包括的医療、生活的医療、在宅医療が大切になる。また「住まい」は、自宅だけではない。サ高住、グループホーム、特養などがある。そしてこれからは医療もどんどん地域包括の輪の中へ入らなければいけない。介護も生活支援、予防にも地域に根ざした医療が関わるべきであると考えている。

 そのベースにあるのは、本人や家族の覚悟。QOL(Quality of life)だけではなく、QOD(Quality of death)。これからは「Quality of death」ということも考えねばならない。地域包括の究極の目的はむしろQODではないか。そのためには、在宅ケアが欠かせないが、そこで重要なのは、不安な時にいつでも相談できて、必要な医療を提供できる医師がいてくれること、さらに必要な時、必要な期間入院できるようなベッドが身近にあることではないか。しかもこのベッドは超急性期のベッドではなく、療養病床、地域包括ケア病棟のベッドが大きな役割を果たすことになろう。

 今後の死に場所はどこか。在宅死か、病院死か。私は、在宅死が「○(まる)」で病院死・施設死が「×(ばつ)」と割り切れるものではないと思う。むしろ、在宅ケアの限界点を高めるように努力をしていく必要がある。「時々入院、ほとんど在宅」がいい。更に、高齢者救急が増えており、特に軽症・中等症の救急搬送が増えている。今後、高齢者救急を受け入れるのは、地域包括ケア病棟が中心になるだろう。
 

■ 循環型の連携システムを地域ごとに
 
 介護老人福祉施設(特養)は、「終の棲家」と言われる。しかし、特養は63.7%が死亡退院で、その殆どは医療機関で死亡している。ではなぜ、医療機関に搬送しているのか。本人や家族の希望もあるかもしれないが、スタッフの不安などもあって、看取り機能が不十分であると言われている。特養での看取り加算が増えても、死亡前日、前々日のあたりは増えていない。そこで介護療養型医療施設(介護療養病床)の看取り機能に期待がかかる。介護療養病床の機能を評価する必要がある。

 今後、医療療養病床の20対1は人員配置基準等のハードルが少し上がり、25対1は施設に移行する流れになるだろう。とすると、在宅復帰強化型を取るか、地域包括ケア病棟を目指すかという選択になる。当院では、入院患者の7割が在宅から来て、死亡退院が2割近くだが、6割を在宅に返している。在宅復帰率は89%。たった1病棟の小さな病院でもこれくらいのことはできる。そこで、地域包括ケア病床を目指そうと取り組んでいるが、現状では「正看護師の比率7割」がクリアできないでいる。

 しかし私は、地域包括ケア病棟を目指すこと自体に意味があると考えている。地域包括ケア病棟の申請に向けて各部門の連携が強まり、院内が活性化した。外来や訪問系、通所系など病棟以外のそれぞれの部門が地域包括ケアの名のもとに新たな動きを始めた。単に病棟だけの問題ではなく、法人全体のものだという問題意識を持ちつつあり、地域連携室もさらに活性化している。

 こうした院内連携が地域連携にも生かされる。私は「循環型地域連携システム」と呼んでいる。「急性期から回復期、慢性期」という上下の連携ではなく、在宅から急性期、慢性期という「循環型連携」がある。もし「上下」があるならば、むしろ在宅がトップで、ぐるぐる回る。どちら回りでもいい。ダイレクトに在宅と慢性期の間を行き来してもいい。こういった循環型連携システムが地域ごとに求められる。
 

■ 長生きをしたから幸せとは限らない
 
 慢性期医療に必要な三大機能として、①在宅復帰・在宅医療支援機能、②リハビリテーション機能、③看取り機能──が挙げられる。今後はさらにもう1つ、「地域包括医療・介護支援センター」(仮称)のような役割が期待される。現在、各自治体に「地域包括支援センター」があるが、1人の患者さんが急性期から回復期、在宅に至るまでの一連をフォローするセンターが各医療圏に必要になる。そこで、「地域包括医療・介護支援センター」(仮称)機能を中心として、地域密着型の慢性期医療がその機能を高める努力をしていくことが肝要である。

 この写真は、施設内によくある休憩室。パーキンソンⅢ型のお母さんと、92歳の誤嚥性肺炎を繰り返すおばあさんがいる。そして、脳梗塞後遺症で高次脳機能障害があり、両膝の手術をしたばかりの方。ある種の「覚悟」があれば、この3人暮らしが、在宅で成り立っている。40代の脳出血後遺症のリハ目的での入院患者では、本人の強い希望があり、単なる在宅復帰ではなく車の運転までできるようにして自宅復帰出来た例。更にただ帰すだけではなく、仕事も見つけてあげる。慢性期の病院には、こういう機能もこれから求められるかもしれない。

 当法人は保育園も運営している。園児を含め、インフルエンザの集団予防接種を地域で展開している。さらに当院のPTやOTが地域に出て支援事業をどんどん展開している。ほとんどボランティアだが、こういう事業を通じて顔を売る。「顔の見える連携」だけでなく、「腹の底が見える連携」をすることで地域に信頼され、愛される病院になっていく。更に最近では、リハ職らをケアマネジャーに同行させてマネジメントに生かしてもらうという事業なども展開している。

 われわれ医療者には、生活を支える視点が必要であり、治療的医療だけではなく生活的医療の提供である。一方で、介護従事者の生活支援の中に医療のマインドを吹き込むことによって、医療と介護を融合していく。医療、介護、福祉、保健の連携(リンケージ)から統合(インテグレーション)へ。これをできるのが、われわれ慢性期医療ではないか。

 最後に一言。「Happy People Live Longer」、すなわち「幸せな人は長生きをする」という研究論文が科学誌「サイエンス」の2011年2月号の総説として掲載された。自分は幸せであると思っている人、不幸と思っている人をどのように集めたかは知らないが、幸せな人の方がなんと6、7年長生きするというデータが出た。幸せな人は長生きする。しかし、長生きをしたから幸せとは限らない。本人、家族の選択、QODという考え方がここに必要なのではないだろうか。

[座長]
 池端先生は福井県医師会の副会長も務められ、地域に根付いた中・小規模多機能な医療を展開されている。ありがとうございました。次の演者は、地元熊本で、全国的に有名な済生会熊本病院病院長の副島秀久先生。副島先生は、LTAC研究会(日本長期急性期病床研究会)の幹事もされている。「急性期病院から見た地域包括ケア病棟への期待」というテーマでお話しいただく。
 

■ 大きな改革、しかし様々な課題がある
 
[副島秀久氏(済生会熊本病院院長)]
 急性期の立場からお話をしたい。また熊本地域は連携が非常にうまくできていることもご紹介したい。まず今回の診療報酬改定、それから病床機能報告制度と、いろいろと大きな改革が進められている。

副島秀久氏(済生会熊本病院院長) 「高度急性期」と「急性期」は、「診療密度」の違いで区分しているが、「回復期」はすべて回復させる機能を持つのか、地域包括ケア病棟はどこに位置づけるのか、病床機能を報告するための定義が若干不明確であるように思える。さらに今後、各都道府県に設置される地域医療構想の協議会はどのような内容になるのか、構想区域と二次医療圏との関係はどのようになるのかなど様々な課題が山積している。

 そうした大きな改革の中で、熊本市内の医療連携は非常にうまく機能している。北に救命救急センターの国立病院、南に済生会、東に日赤という配置で、市内を救急車が交錯することはほとんどない。それぞれの得意分野を生かしながら、地域包括ケア病棟とも連携している。急性期病院とその周辺の回復期や地域包括ケアなどは、配置や病床数の割合などを見てもうまくいっている。

 熊本で早い段階で連携が進んだのは、平均在院日数を短縮させようという急性期病院側の意識があったからだろう。これから超高齢社会になっていくので、医療提供体制の効率化を図らなければいけないという議論が背景にあった。しかし、平均在院日数をどう設定するかによって今後の必要病床数が大きく変わってくる。そこで、今後のインフラ整備をどう進めていくべきか、どのように改善すればいいのか、7対1入院基本料の要件が厳しくなっていくのか、7対1がどのぐらい地域包括ケア病棟に移行するのかなどについて述べたい。
 

■ 医療提供体制のカギを握る「総合医」
 
 当院の2013年度のデータを見ると、転院数が退院総数の28%で3割弱が何らかの形で転院をしており、転院率は比較的高い。重症の疾患を治療するところほど、在宅復帰率は厳しくなる。一方で例えば小児科や眼科、耳鼻科などの患者は治療を終えて自宅に帰るのが通常だが、外傷で入院した患者は自宅に帰るまでに相当の時間が掛かる。転院する割合が多い血管系、呼吸器系、手術や外傷の患者が多いと、在宅復帰率は厳しくなる。つまり疾患構造に大きく左右される。

 2013年のデータでみると入院患者3,812人が転院しており、転院先は253施設のうちわずか11施設で転院患者の50%を占めている。当院で「アライアンス連携」と呼んでいる密接に連携している施設である。退院患者の多くは多重疾患を抱えているので、「総合医」のようなトータル管理ができる施設がアライアンス先として望ましい。高血圧や糖尿病、心不全は最低限できることが必要で、最近では特に認知症も加わり、こうした患者の病態管理ができないと、急性期病院からの転院はスムーズに進まない。

 今改定で新設された地域包括ケア病棟はどうか、どういう医師が担うべきかを考えると私は、やはり総合医であると思う。総合医は、今後の医療提供体制を考える上で一番重要なポイントの一つであり、総合医が医療提供体制のカギを握る。2017年よりようやく「総合診療専門医」がスタートすることになったが、2025年まであと10年しかない。総合診療専門医の養成が間に合うかどうか分からないが、たとえ遅くてもやらないよりはいい。現状は総合医がいないことによって専門医の負担を増大させる一方で、専門性を高めることが困難な状況が生じている。
 

■ 地域包括ケア病棟は「急性期」にカテゴライズ

 われわれ急性期病院の認識はどうかと言えば急性期の医師は慢性期医療をあまり知らない。しかし、これからの急性期病院は慢性期医療のこともよく理解しておかなければいけない。急性期病院だけでは生き残れないし、「地域包括」という言葉は恐らくそういう意味を含んでいると思う。従って急性期病院の医師といえども急性期から地域包括ケア病棟、療養病床、介護施設、在宅、福祉など、これらを包括的に理解しておく必要がある。

 4月1日時点で、11ある「アライアンス病院」の総病床数は計2,111床で一般病床が28%あった。それが10月1日時点で20%に減少、約8%が一般病床から転換した。旧亜急性期の4%と一般病床から移った8%で、地域包括ケア病棟12~14%を構成している。

 病床機能報告制度も始まったが、自院のポジショニングに悩む病院も多いだろう。地域包括ケア病棟はどこに位置づけられるのだろうか。地域包括ケア病棟が仮に、LTAC(Long term acute care、長期急性期病床)をモデルにしていると考えれば「急性期」にカテゴライズすることになろう。いろいろな議論があると思う。高度急性期、急性期、回復期、慢性期などの定義付けが明確ではないことが迷う原因である。議論はこれから始まるのだろうと思う。
 

■ 2025年に向けた医療連携のモデルを各地域でつくる
 
 熊本の医療圏は11あり、多すぎる。救急救命センターへの救急車搬送の地図を書いてみると、きれいに3色に分かれる。3つである。従って、医療圏を同じくらいの人口規模で分けて、守備範囲を決めた方が合理性がある。救命救急は、救急車が生活圏の中で移動する。患者も遠い所へ行ってくれとは普通は言わない。やはり生活圏と一致した医療圏という考え方のほうが計画を立てやすいと思う。

 二次医療圏で考えると、「この医療圏は医者が少ない」「ここは医者が多い」という議論になる。熊本を3つに分けるとほぼ平均化、平準化する。11医療圏だと、最大で3.26倍の格差があるが、3医療圏にすれば最大格差は1.6倍にしかならない。こういう形で考えてはどうか。

 7対1の一般病床から地域包括ケア病棟への転換が進みつつある。しかし、地域包括ケア病棟をはじめ、どの程度の病床が必要かを正確に予測しないと、病床機能報告で迷う。2025年に向けた医療連携のモデルを各地域でつくり、「大都市モデル」「中都市モデル」「小都市モデル」などのカテゴリーで考え、解決方法を見つける必要がある。

 今後、急性期医療の需要は減っていく。代わって地域包括ケア病棟が拡大し、ハブ的な役割を果たす。私は、地域包括ケア病棟が非常に重要な位置づけになると予測している。地域包括ケア病棟をうまく動かすためには、まず病床区分の定義の明確化、それから正確な主要疾患の発生率、平均在院日数の設定、在宅復帰率の設定、総合医の診療範囲の設定、医療圏の再編などが必要だろう。さらに、先述した大都市、中都市、小都市などのモデル設定をして、協議の場で建設的かつ永続性のあるプランを策定する必要がある。
 

[座長]
 ありがとうございました。非常に的確に分析されており、連携の中に、地域包括ケア病棟が13%、また在宅強化型の医療療養病床、そして驚いたのは介護療養病床も8%アライアンスに入っていること、大変勉強になった。続いて、芳珠記念病院の理事長で、地域包括ケア病棟協会の会長でもある仲井培雄先生に、「最大で最強の地域包括ケア病棟」というテーマでお話しいただく。[→ 続きはこちら]
 


 

■ 地域包括ケア病棟が医療提供体制の要
 
[仲井培雄氏(地域包括ケア病棟協会会長、芳珠記念病院理事長)]
 今年5月15日に地域包括ケア病棟協会が発足して約半年。その間、皆さまからいろいろ教えて頂いた。それも含めて本日はお話ししたい。まず医療介護サービスの提供体制について医療介護総合推進法案が通った。都道府県の地域医療ビジョン、市町村の地域包括ケアシステムなど、様々な施策がズラリと並んでいる。そうした背景の下、治療と生活はどうあるべきか。

仲井培雄氏(地域包括ケア病棟協会会長) 私は、「従来型医療」と「生活支援型医療」に分けて考えている。あくまでも私の解釈だが、国際生活機能分類ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)を活用して、方針決定も含め治療を行うプロセスで必要となる生活支援が少ないのが従来型医療で、多いのが生活支援型医療ではないかと考える。生活機能低下と障害は、障害者、障害児等、疾病、外傷、先天的要因いろんなことが原因となっている。中でももちろん老年症候群が一番多いので、生活支援型医療は若者よりも高齢者が圧倒的に多い。

 医療需要の増減率を見ると、2030年に向け75歳以上の医療費が急増する一方で、74歳以下はどんどん下がる。生活支援型医療は不足、従来型医療は過剰と予想されるため、「医療需給のミスマッチ」が起こる。ただし、これはあくまでも全国平均であって、各医療圏では全部バラバラである。ここが今後の大きな課題だろう。

 そこで、医療提供体制のロードマップを私なりに作ってみた。国レベル、都道府県レベル、市町村レベルに分けて考えた。国レベルでは、消費税引き上げ、診療報酬・介護報酬の同時改定、都道府県レベルでは、地域医療構想、医療計画、介護保険事業計画、市町村レベルでは地域包括ケアシステム。そして地域連携型医療法人が成立する可能性がある。われわれ現場では、医療機能の分化や連携を進め、在宅医療・介護の充実を図る。地域医療や介護を進めるうえで、国や都道府県、市町村レベルの施策と現場の取り組みとの整合性を図らねばならない。その要が今回の地域包括ケア病棟ではないか。
 

■ 地域包括ケア病棟には4つの機能がある

 先ほど、従来型医療と生活支援型医療を示した。これを病床機能報告制度の病床機能分類に当てはめてみる。「高度急性期」「急性期」の機能は集中治療センターから一般病床7対1で、ここを担うのは従来型医療であろう。一方、生活支援型医療は急性期の一部と回復期、慢性期が担う。すなわち、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟、療養病床などが中心的に担うのではないか。

 地域包括ケア病棟は様々な条件をクリアしなければならないが、多くの病院では「地域包括ケア病棟をやろう」という強い意気込みで進めていることと思う。地域包括ケア病棟の機能として、①ポストアキュート、②サブアキュート、③在宅生活復帰支援──の3つが挙げられているが、私はもう1つ④その他機能があると考えている。

 地域包括ケア病棟の4つめの機能は、ICFで必要な支援が少ない患者を対象としている。短期滞在手術等基本料3や、慢性期の定期的な抗悪性腫瘍剤の治療のほか、糖尿病教育入院の患者さん等を診ている。
 

■ 生活回復リハビリテーションが非常に重要

 現在ある地域包括ケア病棟を持つ病院のタイプについて、私なりに仮説を立ててみた。まずケアミックス型がある。これはフルラインの病院。それからポストアキュート連携型がある。主に急性期病院での治療を終えた患者さんを受け入れる。そして規模の小さい一般病床や療養病床を中心にした地域密着型がある。都会であれ過疎地であれ、とにかく地域に密着して地域包括ケア病棟や回復期病棟、療養病床を持っている。

 当院の現状はどうか。当法人グループは、予防・医療・介護複合体となっている。医療圏は南加賀と金沢を中心とした石川中央医療圏の狭間にあり、両医療圏にはERに近い拠点病院、周辺には個性的な中小病院がある。当院は9月1日以降に病床構成を変更。亜急性期を廃止して、7:1DPCを4割減らして、HCU10床と地域包括ケア病棟を80床とした。

 9月10月時点で、地域包括ケア病棟の入院患者は、全入院患者の3割で229人。内訳を見ると、サブアキュートは24%にとどまり、その75%が緊急入院、うち2割が救急車による搬送であった。一方、ポストアキュートは34%で、うち10%が紹介である。最も多かったのは、「その他機能」の42%であった。

 地域包括ケア病棟ではリハビリテーションが重要である。疾患別リハビリテーションの要件は「1日2単位以上」だが、当院では4単位前後を実施している。脳血管疾患、運動器、呼吸器、そしてがん患者のリハビリもやっている。生活回復リハビリテーションが非常に重要だと思っている。時間や単位数、場所、個別や集団などに縛られない包括的な生活回復リハビリの提供が初めて可能になったのが地域包括ケア病棟である。

 地域包括ケア病棟での包括的な個別の生活回復リハビリ(自称POCリハビリ)は、10月になって前月の約1.5倍増えている。1日当たりの平均人数は22.6人。1件当たり平均12.9分となっている。介護者の方も一緒に訓練し、早く在宅に戻れた方や家族の支援が進んだケースもある。このように、新たなリハビリテーションの始まりが地域包括ケア病棟の中で生まれていく。

 地域包括ケアシステムの数は今後もさらに増え続け「最大」となる。そしてポストアキュートやサブアキュート、在宅・生活復帰支援、その他機能など多彩な機能を持つ懐の深い「最強」の病棟となる。地域包括ケア病棟を中心に、地域のまちづくりが進む。地域医療・介護において地域包括ケア病棟は要となる。
 
[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
 ありがとうございました。仲井先生のすごいところは、自院のデータをきちんと取って分析し、病棟の構成に利用していること。なかなか真似ができないと思う。仲井先生は地域包括ケア病棟協会の会長としても非常に頑張っておられるので、どうか皆さん、ご入会のほどをよろしくお願いしたい。
 
 最後の講演は、「介護保険の産みの親」と言われる厚生労働省老健局の三浦公嗣局長。テーマは「これからの医療提供体制のあり方 ~地域包括ケアシステムを機能させるために~」でお話しいただく。
 

■ 「福岡宣言」から15年、大きな進歩
 
[三浦公嗣氏(厚生労働省老健局長)]
 思い起こせば、日本慢性期医療協会は歴史的に、介護療養型医療施設連絡協議会から、介護療養型医療施設連絡協議会、日本療養病床協会へと発展してきた。いま、この会場で先生方の発表を拝聴しながら、昔の思い出に浸っていた。

三浦公嗣氏(厚生労働省老健局長) 「抑制廃止福岡宣言」があった。「縛らない医療をやろう」という取り組みがあった。介護保険の創設時、縛らない医療だけではなく縛らない介護をやろうと、身体拘束禁止規定をサービスの基本としようという議論が局内であった。私は当時、正直なところ相当難しいのではないかと思った。高齢者、中でも認知症の高齢者がたくさんいる中で、あるいは意識障害の方もいる中で、縛らない介護というものが本当にできるか、実現は難しいのではないかと思っていた人間の一人ではないかと思う。

 しかしその後、介護保険の施行と同時に拘束禁止の規定が運用され、そして介護療養型医療施設連絡協議会でも、これからの医療はそういうやり方をしないということを高らかに宣言した。振り返ってみると、あれから15年ほど経っているが、今さらながらに自分の不明を恥じるばかりである。現場の関係者が必死の思いで高齢者の生活や命を支えてきた。結果的に見てみると拘束をしないというのが我が国においても常識になった。先般も新聞等で一部報道されたような事件があったように、縛って拘束していること自体が問題視される状況が生じてきたのは、この間の大きな進歩だったのではないか。
 

■ ケアで果たす医療の役割が非常に大きい

 先日、認知症の国際会議が東京で開かれた。認知症の患者さんが開会式で発言したほか、世界中から研究者や実際にケアを行っている人が参集した。安倍総理や塩崎恭久厚生労働大臣も会場に来られた。安倍総理からは、平成24年から動いているオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)を見直し、政府一丸となって対応するようにとの指示も出て、オレンジプランの見直しが動くことになった。

 その会場で、外国の方からお尋ねがあったらしい。「今回は『新しいケアと予防』がテーマであるにも関わらず、なぜ日本はこんなに医療の話をするのか」と。ケアの話ではなく、例えば介護をする中で認知症の様々なBPSDなどの症状が出ないようにする話ではなく、そもそも健康をつくるとか、日常生活の改善を通じて認知症のリスクファクターを減らしていこうという議論が行われたことがテーマと一致しないのではないかという。

 考え方は両方あると思う。つまり認知症の予防そのものに果たす医療の役割というものが、日本は非常に大きい。これが日本の大きな特徴だと思った。多くの国は認知症の対応ということになると、主に介護の純粋なケアの中で対応しようとしている中、日本は医療も一体になっている。これはやはり日本の1つの特徴であろう。

 日本の平均在院日数が長かった時代は、一時的にも医療保険の中で高齢者の医療費の負担がゼロになった時期があったということもあって、介護を医療が一生懸命支えてきた過去の歴史もある。我が国においては、医療が介護において欠かせない要素として認識されていることは間違いない。

 今後、その両者の位置付けや役割をどうするのかという議論が出てくるのではないか。それはまさに地域包括ケアの在り方そのものであり、これも先生方から議論があった通り、これからの医療の中で特に高齢者医療、慢性期医療ということになれば「治す医療」ということだけではなく、「支える医療」の重要性が指摘されたということではないかと思う。
 

■ 新しい日本の医療が構築される

 認知症の国際会議で指摘されたことがもう1つある。本日の会場もそれに近い状態なのだが、男性が多いということ。国際的に認知症のケアというのは従来、女性の関心が非常に高く、認知症のケアは女性の問題であると言われることもあったようだ。

 日本の介護保険制度では、介護サービスが給付の対象となっている。つまり介護サービスが事業として成り立っている。従って、家庭の中での女性の役割ということだけではなく経済活動としての一面もあるため、男性の高齢者介護、認知症介護に対する役割が他の国に比べて大きいのではないか。日本の介護は介護保険制度に支えられている。40歳以上のすべての方々からの保険料で介護サービスが成り立っている。その中で新しい産業も生まれている。こうしたことも関係しているのではないか。

 そんなことを思いながら、今日この会場に来た。この協会が介護療養型医療施設連絡協議会の名称で活動していたときには、まさに介護療養型医療施設の役割は何か、そこでのケアの位置付けをどうするかについて議論された。しかし、本日の議論はもっと大局的だと思う。急性期、サブアキュート、あるいは亜急性期と言うのか、それから回復期、生活期、慢性期、こういう形でまさに一気通貫に急性期から在宅までを一堂に会して議論する場が成立している。これは今までにない画期的な視点である。

 これまでは、慢性期の医療施設に回ってきた高齢者をどう支えるかという議論をしてきたことが多かったと思う。しかし、本日のように急性期医療の在り方にまで議論が及ぶ。これがまさに地域包括ケアの在り方であり、慢性期が変わることにより急性期が変わってくる。そしてその中で新しい日本の医療が構築される。こういうことではないか。[→ 続きはこちら]
 


 

 

■ グッド・プラクティスを世界に発信していく
 
[座長]
 三浦先生、ありがとうございました。本シンポジウムの当初の座長は武久会長の予定であったが、急きょ厚労省の重要な会議出席のため、私が座長をしている。武久会長から三浦先生にメッセージがある。「ぜひ医系技官のトップとして医療・介護をリードしてほしい」とのこと。よろしくお願いいたします。では、討論を始めたい。会場から何か質問はあるだろうか。
 
[会場から(富家隆樹氏・富家病院理事長)]
 日本慢性期医療協会は抑制をしない医療をこれからも進めていく。しかし、医療保険でも介護保険でもインセンティブとしてあまり評価されていないのではないか。
 
[三浦氏]
 抑制禁止が定着し、スタンダードになったことは、まさに日本に対する評価として高いものがあるだろう。諸外国も様々な取り組みを進めている中で、私ども日本も諸外国に負けないように、グッド・プラクティスを世界に発信していくことは非常に重要であると思っている。

討論
 
[富家氏]
 仲井先生が、地域包括ケア病棟はこれから日本で最大、最強の病棟になるとおっしゃった。地域包括ケア病棟について、老健局長という立場からどのように考えているか。
 
[三浦氏]
 地域包括ケア病棟というものが今後評価されていく。そういう中で、より良いものが1つ提案されれば、さらに日本の連携という評価のレベルが上がってくる。実質的に地域における医療の本来の中核的な役割を担っていけるような施設に育っていくかどうかというのが非常に重要な論点ではないか。

 仲井先生を中心とした地域包括ケア病棟協会の先進的な先生方のグループがこれから示す成果というものに対して、非常に大きな期待を持っている。と同時に、それを受けて特に慢性期医療や介護が連動しながらつながりを強く持ったサービスとして提供されるようなシステムが地域包括ケアシステムとして構築されるということになれば、これに越したことはない。

[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
 抑制の問題は慢性期ではだいぶ落ち着いてきたが、急性期病院も非常に高齢者が増えてきたので、急性期病院の身体抑制の問題も良い方向にケアできれば素晴らしいと思っている。ほかにご質問は。
 

■ 行政と話し合いをして様々な方針決定を
 
[会場から(木村宗孝氏・南昌病院院長)]
 私は岩手県の紫波郡医師会長も担当している。地域包括ケアシステムは、学校単位の小さい単位で作れというのが国の方針だと思う。紫波郡は2つの町を統括する医師会で、2町をまとめた地域包括ケアシステムをつくろうと、町長などといろいろ話し合いを持って動いている。

 片方の町は人口2万7,000人で、もう片方が3万5,000人、合わせて6万2,000人という少し大きい単位の地域包括ケアシステムになってしまった。ただし、当院のある片方の町には民間病院がある。片方には精神科病院がある。地域による偏在があり、医療資源が不足している。医療、介護支援で偏在があるので、それを統括すると良い状態になる。ということで、2つの町をまとめて行う方向で動いてはいる。そこで、6万2,000人という大きい単位の地域包括ケアシステムについて問題があるかどうか。

 それからもう1点。医療法人の経営者として、サービス付高齢者住宅などは医療関係者がやるものではないという考えでやってこなかった。ただ、今般の在宅復帰という流れの中で考えると、どうしてもそういったものを持たないと病院からの在宅復帰率、地域包括ケア病棟、そういったところで厳しい部分が出てくるのではないか。今、非常に悩んでいる。サ高住などを作るべきだったのか。医療法人ではあまりやるべきではないと思っていたが、今逡巡している。
 
[三浦氏]
 地域包括ケアシステムは、地域の特性、例えば、その地域での介護・医療に対する資源の状況、介護と医療の連携のあり様、さまざまな文化・歴史・伝統なども踏まえた上で、いわばテーラーメードのシステムとして構築されるべきだと思っている。それぞれの地域のオリジナリティーが優先されるべきだと思っている。

 今、ご指摘があったように身近な自治体である市町村を中心として地域包括ケアシステムの第一義的な取り組みが進むというのが最適ではないかと思うが、先生から指摘があったように1つの医師会が2つの自治体に対応しているというエリアもあれば、1つの自治体の中に3つの医師会があるという例もある。

 つまり医師会の区域と行政圏域が必ずしも合致しない例は多々ある。その中でそれぞれの地域包括ケアシステムをつくるという場合、それぞれのサービスを具体的に担当する医療や介護、福祉の関係者の人たちがその役割の一端を負うということは間違いないと思う。同時に行政としてこれを進めて行くことが重要である。今までの草の根で出てきているさまざまな取り組みを行政としてしっかり応援、支援していくという仕組みに持って行くというのがこの地域包括ケアシステムの1つの特徴だと思う。

 そういう意味で、2市、2町が連携しながら1つの形としての地域包括ケアシステムを作っていくというのはあり得ると思う。同時に最後はそれぞれの町の行政の責任、役割というのが明確にあるので、それぞれの町の役割は位置づけて行くことが重要だと思う。

 それから、町としてどういう仕組みを考えていくのかという点も忘れてはならない観点ではないか。地域の行政機関との連携や話し合いを進めて行く中で、良い形で資源を開発する。地域包括ケアシステムをつくるための資源を行政から出してもらうことも大事であるとも思う。
 

■ 介護療養病床、廃止のラインが今もある
 
[会場から(長谷川一朗氏・長谷川病院理事長)]
 質問がなかったのでお聞きしたい。介護療養型医療施設が今後どうなっていくのか。看取りをするために存続すべきだという意見が強くなっているが、今ひとつはっきり分からない。

 それから、特別養護老人ホームが地域に小さな規模で少しずつ整備されている。これは今後も続いていくのかどうか。融通の利く施設としてサ高住プラス定期巡回・随時対応型訪問介護看護というものが悪くないと思って整備しようとしているが、これに対してどれくらい期待しているのか、期待していいのか。
 
[三浦氏]
 介護療養型医療施設については、介護給付費分科会で介護報酬上にどう位置づけるかという議論のペーパーが示されたところ。医療に関する機能を強化した場合の評価について議論されている。介護保険法の規定によると平成30年に廃止ということになっており、そのラインというのが今もあることは事実である。制度の見直しということになれば、介護給付費分科会で議論すべきものでもないので、今のところは分科会ではそれ以上の議論は進んでいない。

 特養の整備についても地域の状況というのは様々で、例えば大都市で特養の整備をこれからも進めていくことになると考えている。ただ特養が全てということでもないのも事実で、さまざまな住まいの中にサービス付き高齢者向け住宅のような受け皿もあるので、それぞれの地域における資源の整備の状況をよく見た上で考える必要があるだろう。日本全国での議論というものも確かにあるが、最後はその地域の状況に合わせてとなるわけなので、それぞれの地域の中でどう考えるかということが重要だ。

 平成27年4月から市町村が介護保険事業計画を施行するので、その点の議論が各市町村で行われている。また特養は都道府県の支援計画の中で位置づけられることになると思うので、そういう意味でそれぞれの地域の特性というのがそれぞれの計画に反映されたものになるのではないか。
 
[池端氏]
 介護療養病床の機能が当初とは違ってきている。どうしても残さざるを得ない機能というものがあると感じている。今後はわれわれがアウトカムをきちんと出していかなければいけない。
 
[仲井氏]
 当院では介護療養型にしか行けない方が介護療養型に入院している。急性期から直接在宅復帰できない。地域包括ケア病棟の対象でもない。医療療養でもない。かつ医療は必要であっても必要度が少ない方、その方が介護療養型医療施設に入っている。

 自分たちでも療養機能強化型の要件についてシミュレーションしてみたが、ターミナルケアという言葉の定義が若干難しいところもある。重篤な身体合併症認知症高齢者、一定の医療処置、ターミナルケア、生活機能の維持改善リハビリテーション等の機能を強化していくということは在宅復帰を考える事が難しくなってくると思うが、やっていかねばいけないと思っている。ただ、その中でどうしても診られない方もいるので、どうしていけばいいのか考えなくてはならない。
 

■ 「総合医」が地域包括ケアの担い手になっていく
 
[座長]
 急性期の神様である副島先生がいらっしゃるので、副島先生に何か質問はないか。

[池端氏]
 総合医の話をされた。先生がイメージしている「総合医」について教えていただきたい。
 
[副島氏]
 当院では、「救急医」と「総合医」という2つの部署が一緒に「救急総合診療部」というものをつくり、救急などに対応している。アメリカではホスピタリストという病院総合医がある。病院の管理を一手に引き受けてやる。それは専門医が必ずしもすべてを診るわけではなく、病棟の一般的管理も総合医が担う。

 地域包括ケアを考えると、総合医的な位置付けの医師、総合内科を中心にした、あるいは老年医学、そういうところを一通りできる医師が地域包括ケアの担い手になっていくのではないだろうか。もちろん、それぞれ得意なところはあっていいと思うが、主要疾患に対して全てとは言わないが、ある程度対応できるという能力の医師を養成する必要がある。

 しかし、総合医の養成は大学ではなかなか養成が難しい。従って、私は地域の基幹病院、特に救急、救急総合診療部を持っている病院が教育の担い手となって、地域包括ケア病棟を持つ病院と連動しながら教育体制もつくっていくというのが一番現実的かつ早いと思う。
 

■ 老健施設、在宅復帰の旗が降りることはない
 
[会場から(猿原孝行氏・湖東病院院長)]
 老健の類型化が進んでおり、かなり複雑になっている。老健が将来的にどうなるのかよく分からない。介護療養病床を持って不安を感じている方々は、老健の将来の姿がよく分からないから不安があるのではないか。

 それから人材不足の問題。先日、静岡県看護協会との話し合いがあった。高齢者施設の看護師の平均年齢が非常に高く、若手看護師が非常に不足しているという。介護士も枯渇してきている。そういう中で高齢者がどんどん増えている。そういう人材不足をどのように補っていくのか。
 
[三浦氏]
 2000年の介護保険制度施行に向けて介護報酬をいろいろ検討した時のことを思い出せば、当時は簡素簡明な報酬をめざして、まだ措置で行われていた福祉施設の支払いをどうやって保険の給付の形に変えていくのかということで結構な量の作業があったことを記憶している。その後、14年、15年経つうちに、報酬体系も複雑になってきて、老健施設1つを取っても加算などいろいろな形で多様な機能を老健施設に期待しているという状況になってきているのではないか。

 施設を特徴づけるもの、例えば人員配置や設備や施設の要件などがある一方で、それぞれの地域の中で多様な使われ方、利用の仕方が存在しているというのは事実だろう。いわば実態を踏まえた報酬の体系というものにならざるを得ない。そういうことで老健施設も多様な加算などが出てきているので、若干、「老健施設とは」と言った時に、一概に定義し難くなってきているということは否めないかもしれない。それでも中心的なメッセージは在宅復帰、そもそもの中間施設としての役割、こういうことがあることは間違いないので、これからもその旗が降りるということはないと思っている。

 人材不足については、看護師不足は医療全体に言えることで、別に慢性期だけの話ではない。介護福祉士に代表される介護職員の確保というものが非常に難しくなってきているということも、いろいろなところで聞いていることであり、今般の介護報酬の見直しにあたってもこの人材の確保が、いわばいくつかの視点の1つに位置づけられているのではないかと考えている。

 そのための報酬をどう考えるかとなると、例えば手厚く配置されている場合についての評価を高めるなどの方法もあるが、介護福祉士の方々の働きやすい環境を作っていくことも重要である。

 そのために、働きやすい環境をそれぞれの施設で検討していただくことをお願いしたい。その場合、キャリアラダーの作成なども入ると思われるし、また研修体制など様々なものが要素として入ると思う。
 
[座長]
 ありがとうございました。元日本医師会副会長の岩砂先生に最後のご質問をお願いしたい。
 

■ 金太郎飴のような地域包括ケアではなく
 
[会場から(岩砂和雄氏・元日本医師会副会長)]
 日本全国にはたくさんドクターがいる地域もあるが、岐阜県は医者が少ない。岐阜市の田舎で開業しているが、やはり在宅復帰と言われている。在宅でいろいろな世話をしてもらいながら、介護を受けながらこの世を全うすることは素晴らしいことだと思うが、田舎では24時間対応しきれない。

 国家予算は少ない、高齢者はどんどん増えてお金が掛かる。「効率的」という言葉は良くないかもしれないが、効率的にやっていくには、24時間体制で看護師らが出向いて行くよりも、ある程度集めてもらうことも必要ではないか。ご意見を頂きたい。
 
[三浦氏]
 地域包括ケアの中で、住み慣れた地域でどう過ごすかという論点は非常に重要であることはご指摘の通り。一方で、一朝一夕にそういうことができないということも現実を見ればある。それに向けてどう歩を進めていくかが重要である。明日はできないからといって目標を下げるということではなく、将来に向けて一歩一歩進んでいく。

 地域包括ケアはいわば手段であり、それによって高齢者が安心して最後まで過ごせる地域をつくっていくことが何よりも重要。そのための道具としての地域包括ケアであるので、先生が指摘したような地域の実態というものもよく見据えた上で、どこを切っても金太郎飴のような地域包括ケアではなく、それぞれの地域の特性を生かしながら、しかし最後の目的を忘れずに一歩一歩、先生方にご指導いただけるとありがたい。
 

■ 最終目的は、まちづくり、人づくり、思い出づくり
 
[池端氏]
 仲井先生に質問したい。地域包括ケア病棟のリハビリによって、初めてリハが包括化された。今後、20分で1単位などの出来高はそろそろやめた方がいいのではないかと、個人的に思っている。超急性期から在宅までリハをある程度のレベルで包括的にやって、あるところまで行ったら在宅復帰率であるところまで出るわけだから、そういう流れがあればいいと感じている。ご意見を頂きたい。
 
[仲井氏]
 リハビリ包括について、最初は「どうかなあ」と思っていたが、実際にやってみてリハの療法士たちは良い成果が出る手応えを感じている。患者やその家族が一緒にリハビリをして、そして非常に安心感を持って在宅へ帰る。生活回復リハビリはなかなかいいものだと感じている。包括的なリハビリが少しずつ進んでいくだろう。

 生活支援型の医療がどの分野にも入ってきて、たとえ高度急性期であろうともその部分が終わったら、すぐに生活支援が始まる。これはもう絶対に切っても切り離せない。本日は、様々な立場の関係者が同じことを違う切り口で話すことができたのではないか。
 
[座長]
 ありがとうございました。名残惜しいが、そろそろ時間になった。私としては、地域包括ケアの最終目的は、医療や介護を通じた街づくり、人づくり、そして今学会のテーマである「満足」も含めた想い出づくりではないかと思っている。演者の先生方、どうもありがとうございました。
 



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