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【第35回】慢性期医療リレーインタビュー 鈴木龍太氏

Posted By araihiro On 2014年1月30日 @ 12:09 PM In インタビュー,役員メッセージ | No Comments

 「変化を進化に、進化を笑顔に」をモットーに日々の診療や病院経営に取り組むのは、神奈川県秦野市にある医療法人社団三喜会・鶴巻温泉病院院長の鈴木龍太先生。リハビリテーションに注力し、高齢者医療や緩和ケアなど地域の幅広いニーズに対応しています。医療を取り巻く環境が急速に変化するなか、時代の要請に応える必要性を強調し、「進化する病院で働いている職員は笑顔になり、その笑顔が患者さんの笑顔につながる」と話します。
 

■ 医師を目指した動機
 

 祖父が医師で、母も医師でした。祖父は横浜で病院を経営していましたが、空襲で病院の建物が焼けてしまいました。その後、開業はしましたが、病院としては再建できませんでした。

 一方、息子である父は建築家になり、医師の母が嫁いで祖父の手伝いをしていましたが、暫くして独立し開業しました。叔父や、従兄弟にも医師がたくさんいましたので、「医者になるのは自然かな」と考えていました。ただ、なんとなく「別の仕事もやってみたいな」と思っていたこともあり、医師になることに少し抵抗感があったことは確かです。

 そんな中、1960年代に大学紛争があり、大学紛争の名残が高校まで波及してきました。1969年、私が高校2年生のときに高校でバリケード封鎖があり、警察が入るという事件がありました。そのときちょうど生徒会長をしていたので、大変でした。国立の高校でしたが、その後は全く機能しなくなり、授業も進まなくなりました。何もしないでぶらぶらしているような高校生活ですね(笑)。

 そのため、受験勉強もできなくなり、日本史も世界史も終わらないという状況で、進路のことは全く考えられませんでした。そんな中でとりあえず受験した医学部に合格しました。祖父に相談したところ大変喜んでくれましたので、そのまま医学部に進むことになりました。結局のところ、私が医師を目指した動機というのは、代々医師をやっている家系でしたので、そういう環境に慣れていたからだろうと思っています。
 

■ 慢性期医療に関わって思うこと
 

 大学では、好きな授業に出ればいいという環境でしたので、皮膚や骨の授業はほとんど出ずに脳の授業ばかり出席していました。1年生の時には脳の模型をつくりましたし、脳に強い関心がありました。そのため、脳外科に進み、つい5年前まで大学病院で脳外科医をしておりました。その間、脳の障害で麻痺が起きたり記憶障害が出たりした患者さんを多く診てきました。

 そんななかで、手術をした後、この患者さんはどうなるのだろうと思うことが多くなりました。リハビリテーション病院の外来も担当するようになり、急性期後の患者さんを多く診るようになりました。そこで、急性期後の医療は大事であると考えまして、リハビリテーションの専門医資格を取りました。

 それがきっかけで、リハビリテーション分野で広く知られる現在の病院に移ることになりました。当初はかなり戸惑いました。今まで勤めた急性期の大学病院と全く違う考え方で動いていました。私はリハビリテーションの専門医はもっていましたが、大学病院の脳外科医でしたので、今まで常識だと思っていたことがそうではないことに気づくことが多くありました。

 一番大きな違いは、慢性期病院では臓器別ではないということです。急性期病院では、肺や心臓など臓器別で患者さんを割り振りますが、慢性期の病院では症状の重症度別に分かれることです。臓器別の専門医を持っていても、それだけではなかなか診られません。慢性期病院には高齢者の患者さんが多いからです。つまり、慢性期病院では、1人の患者さんが1つの病気を持っているよりも多病を抱えていることが多いため、臓器別の医療だけでは対応できないことが分かったのです。

 回復期リハビリテーション対象患者さんでも同じことが言えます。脳卒中や大腿骨頚部骨折などの患者さんが糖尿病を持っていることもありますし、がんや認知症の場合もあります。従って、リハビリテーション医や療養を担当する医師は、総合内科的な知識、視野が必要だと思います。
 
 慢性期ではチーム医療が大切です。では、チームで取り組む目的は何でしょうか。急性期病院では、患者さんの病気を治療(Cure)することが主な目的になります。しかし、慢性期では、病気を治すという目的だけに限定されません。がんの末期、終末期などを想像してみてください。「場合によっては治療をしないという選択もある」という点が、慢性期医療の特長であると考えています。回復の見込みがない重症の場合には、本人や家族の意思を尊重して、「治療しない」という選択もあります。患者さんやご家族の心のケアにも対応できるのが慢性期医療ではないでしょうか。
 つまり、患者さんの病気を診るのではなく、患者さんのQOLを良くすることをみんなで考えて、医療・ケアを提供することが目的になります。「神の手」を持つ有名な外科医がいても、慢性期の病院は成り立ちません。医師、看護、介護、リハビリ、薬剤、栄養、検査、MSW、事務、こうしたすべての職員が参加して、患者さんやご家族とチームを組んで、患者さんのQOLの向上のために力を合わせて取り組むことが慢性期医療だと思っています。
 

■ これからの慢性期医療はどうあるべきか
 

 患者さんやご家族から、「ありがとう」と言ってもらえるような医療・ケアをこれからも目指していきたいと思っています。当院では、患者さんが退院された後、アンケートをお送りしています。また、院内に「ご意見箱」を置いています。そこには、患者さんやご家族の声があり、時には貴重なご批判を頂くこともありますが、「ありがとう」と感謝してくださる患者さんやご家族がとても多く、私たちの励みになっています。当院では、そうした患者さんやご家族の声を小冊子にまとめています。毎年1冊ずつ発行して16年になります。すでに16冊発行しました。

 これを読みますと、「職員が毎日、顔を見せてくれて嬉しい」とか、「職員の『おはよう』という挨拶が元気をくれる」、「家族がすごく癒される」といった声がよくあります。職員のちょっとした態度が患者さんやご家族にとって大事なことで、癒しにつながるということがよく分かります。患者さんやご家族から頂く感謝の言葉のなかで、一番嬉しいのは「ありがとう」です。明日への勇気になります。

 当院には、緩和ケア病棟もありますので、お亡くなりになられた患者さんのご家族からご意見を頂くこともあります。そのなかで、ご家族から「鶴巻温泉病院に入院できてよかった」と言ってくださることも多くあります。「最後の親孝行をすることができました」という声を頂くこともあります。

 病院でお亡くなりになった後に、病院に対して「ありがとう」とは言ってくださらないと思いがちですが、決してそうではなく、ご家族が「良い環境で最期を迎えさせてあげられた」と思えると、悲しみを少し乗り越えることができるのだと思います。鶴巻温泉病院は、これからも患者さんやご家族に「ありがとう」と言ってくださることのできる病院でありたいと思っています。
 

■ 若手スタッフや医師へのメッセージ
 

 たくさんの職業があります。仕事をして、心から「ありがとう」と言っていただける職業は数少ないと思います。医療職は、心から感謝されることがたくさんあります。その時、自分が選んだ職業がすばらしいものだと思えると思います。その気持ちを忘れないで仕事を続けてほしいと思っています。

 若手医師に対しては、幅広い視野を持つように努めてほしいと思います。若手医師の多くは、急性期医療の勉強しかしていない傾向があります。しかし、患者さんの人生は、急性期の治療に要した時間よりも、その後のほうがずっと長いのです。慢性期医療の期間のほうが長いわけです。ですから、ぜひ急性期の治療をする時に、その後のことにも目を向けて、患者さんやご家族のQOLを考えた治療をしてほしいと思っています。慢性期の医療やリハビリテーションがどんなものなのか、そうした勉強もしてほしいと願っています。

 当院はリハビリテーションがメインの病院で、回復期や維持期のリハビリには力を入れていますが、最近は「終末期のリハビリ」にも取り組んでいます。ですから、リハビリに興味のある方々は非常に良い経験ができると思います。難病の病棟などもありますので、医療や介護について幅広く身につけることができます。当院の医師から「自分のQOLが良くなった」という言葉をよく聞きます。深夜に急に呼び出されることがありませんので、プライベートな時間が確保されますし、研究などに取り組むこともできます。子育て中の女性が働きやすい環境も整えています。
 

■ 日本慢性期医療協会への期待
 

 現在、日本慢性期医療協会は武久洋三会長をはじめ、役員の先生方が非常に頑張っておられて、慢性期医療の認知度を非常に高めていると思います。武久会長がおっしゃる「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」という言葉は、全くその通りだと思います。これからますます慢性期医療の質を向上させていくことが重要であると思っています。

 たくさんの病気があるなかで、慢性期特有の疾患があります。先ほど申し上げたように、慢性期医療は急性期医療とは違うものです。急性期は臓器別ですが、慢性期は症状別です。また、1人の医師が多病を扱わなければなりません。診療報酬上の違いもあります。

 急性期の医療関係者は、慢性期医療の分野で使われている言葉や、制度上の違いを知らないことが少なくありません。例えば、「医療区分1、2、3」の違いや、医療療養病棟や障害者施設などにどのような患者さんを入院させたらいいのかなど、様々な知識や言葉をほとんど知らないのが現状です。ですから、慢性期医療協会では、これからの慢性期医療の重要性を伝えるだけでなく、「慢性期医療とはこういうものですよ」というような、慢性期医療の理解を深めるための啓蒙活動をお願いしたいと思っています。

 私も、日本慢性期医療協会と共に歩んでいけたらいいと思っています。私自身は、「変化を進化に、進化を笑顔に」という標語を掲げて、日々の診療などに取り組んでいます。うまくいっている事があると、人はつい、それを守ろうとします。でも、それを5年間続けていると、時代遅れになりガラパゴス化してしまいます。うまくいっている事を基本にしつつも時代の要請に合わせ、変化を恐れずに対応することが大切で、そうしないと進化できないと思っています。進化する病院で働いている職員は笑顔になり、その笑顔が患者さんの笑顔につながると思っています。

 2025年に向けて日本の医療は変わろうとしています。慢性期医療は急性期医療の後方を担う「ポスト・アキュート」として、亜急性期だけでなく回復期、長期療養、終末期医療など幅広い領域を担っていくことになると思います。在宅療養を必要とする患者さんが急増しますので、病院との行き来を容易にしていく必要があります。

 当院では、在宅支援として、訪問リハビリや訪問栄養指導、訪問歯科診療などを充実させていますし、短期入院として介護休暇入院であるレスパイト入院や、ショートステイ、さらに「在宅応援入院」と呼んでいますが、短期集中リハビリ入院も多く実施しています。緩和ケアでもレスパイト入院を進めています。こうした取り組みのなかから、他の病院にも役立つ情報を提供し、また他院の先進事例から私たちが学ぶことも多いと思います。日本慢性期医療協会は、こうした現場からの声や情報などを生かし、慢性期医療のプラットフォームであり続けてほしいと願っています。(聞き手・新井裕充)
 

【プロフィール】
 
 鈴木龍太 すずきりゅうた
 
 1977年  東京医科歯科大学医学部卒。医学博士。
 1980年  米国NIH留学
 1995年  昭和大学藤が丘病院脳神経外科准教授を経て、
 2009年  医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院院長

 日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医
 日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医
 日本脳卒中学会専門医
 日本慢性期医療協会理事
 日本リハビリテーション病院・施設協会理事
 



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