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医療療養病床には若い患者も多い
Posted By 日本慢性期医療協会 On 2011年8月5日 @ 1:18 AM In 会長メッセージ | No Comments
お年寄りが長期にわたり入院している病院のベッドを「療養病床」と思いがちですが、実際は違うみたいです。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、「医療療養病床をはじめとする慢性期病床の入院患者の病態は多彩になってきており、若い患者も多くなっている。これは医療療養病床の役割が長期の老人収容施設的性格から、積極的治療による在宅復帰を目指すものに変わりつつあることを意味している」と言います。
武久会長がJMC77号に寄稿した「慢性期医療における新しい診療報酬体系を考える」をご紹介します。6月30日に札幌市内で開かれた「第19回日本慢性期医療学会」を振り返りながら、療養病床をめぐる今後の課題について述べています。
長期入院できる急性期機能を持った
「長期急性期病床」の設立を提案
慢性期医療における新しい診療報酬体系を考えるにあたり、現行の医療区分制度について考えてみたい。
医療療養病床は、医療区分が導入されるまで、患者の状態に関わらずすべて包括制であったため、軽症の患者を多く入院させている病院も多くあり、療養病床は、世間から社会的入院の温床であるというマイナスイメージを持たれていたことも事実である。
しかし、医療区分導入後5年が経過し、平均在院日数短縮化傾向などもあって、急性期病院から医療療養病床への紹介入院が多くなり、現在、医療療養病床に入院している患者の状態は明らかに重症化している。
医療区分はご存知のように重度の病態を区分3、中等度の医療必要度を持つ患者を区分2とし、医療区分2、3の37項目に該当しない患者を医療区分1としているが、医療区分1の中には、がんターミナル等の重度な病態も多く含まれている。当協会では医療区分1をさらに1-1から1-5までに分類している。平成18年度と20年度では、1-5の割合が41%も増えている結果も得られている。
また、当協会では、医療処置を評価する医療区分ではなく、患者の病態別に新しい診療報酬体系を提案し大規模な調査を行い、その結果、医療的にかなり重度である病態が、区分1のまま放置されているという現状が示された。
そこで、これらの病態が医療療養病床において、平成24年に慢性期病態別診療報酬体系としてすぐに導入できなくても、最低でもこれらの上位10程度の病態については、診療報酬で評価するべきだという主張をしている。
中医協の慢性期医療の包括評価調査分科会では、医療区分1の見直しに関する議論を始めており、来年の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた準備が進んでいる。
最近では、医療療養病床をはじめとする慢性期病床の入院患者の病態は多彩になってきており、若い患者も多くなっている。これは医療療養病床の役割が長期の老人収容施設的性格から、積極的治療による在宅復帰を目指すものに変わりつつあることを意味していると思われる。
平成22年6月に厚生労働省が実施した横断調査結果をはじめ、当協会において実施した慢性期病態別診療報酬試案の調査結果では、一般病床13:1や15:1の入院患者と医療療養病床の入院患者の状態に大きな差がないことが示されている。
しかし少なくとも一般病床には、慢性期高齢者以外にも急性期に準じる患者も相当数入院していることを考えると、単純に慢性期高齢者のための診療報酬体系である医療区分を押し付けることはあまりに失礼であるので、医療療養病床だけではなく、一般病床13:1、15:1を含めた急性期治療後の病床を包括し、新しい慢性期病態別診療報酬体系が必要となってくる。
そこで今回は、4名の先生方にそれぞれの立場における切り口で、どのような診療報酬体系が慢性期医療にとって最も適切なのかを討議していただいた。
■ 講演
1. 「今後の慢性期入院医療の診療報酬について」
猪口雄二氏(全日本病院協会副会長、医療法人財団寿康会理事長)
現行の診療報酬制度上の入院基本料、特定入院料の種類を挙げて説明した上で、現在の一般病床、療養病床の病床区分を今後は急性期・亜急性期・慢性期にすべきであるとした。
その中で、亜急性期に分類される病床には、現行の回復期リハビリテーション病棟および亜急性期病床とし、慢性期に分類される病床には、現行の療養病棟入院基本料算定病床をはじめ、一般病床に入院している90日超の特定除外対象患者だけでなく、精神病棟や特殊疾患病床、障害者施設等入院基本料算定病床に入院している長期入院患者も含まれるのではないかと述べた。
また、一般の特殊疾患病棟および精神療養病床、認知症治療病棟に入院している長期入院患者に関しては、特定入院料算定病床としてはどうかと述べた。
また、特殊疾患病床や一般病床の90日超の特定除外規定患者について慢性期に分類するに当たり、入院患者の疾患・状態像の分類等の現状把握を行った上でコスト分析を行い、さらなる検討を重ねて、新たな慢性期入院基本料の支払い方式を決めていくべきであるとした。
2. 「慢性期医療の報酬はどうあるべきか」
関健氏(社会医療法人城西医療財団理事長、総長)
続いて関氏は、ご自身の病院における病床種別、施設別の1人1か月当たりの収入のシミュレーションを比較した表を示された。
そこで現行の診療報酬体系、介護報酬体系では、入院基本料の算定法の根拠が不明である。また、設備(ハコ)、材料(モノ)、人員配置(ヒト)に報酬がつく体系であり、高齢者の慢性期医療には医療費以外に介護・生活支援が必要であるが、その費用が算定されていない。
医療療養病床における医療区分とADL区分のマトリックスにより入院基本料が決まる仕組みは非人間的であると問題点を述べた。そして、新しい報酬算定上の留意点として、慢性期医療の費用分担シミュレーションを示し、医療費の他に介護・生活支援費、リハビリ費、食費療養費、管理費(ホスピタルフィー)を挙げた。
3. 「慢性期医療における新しい診療報酬体系を考える」
高橋泰氏(国際医療福祉大学大学院教授)
高橋氏は、これからの日本の将来像について、大都市部における後期高齢者の人口が急増、高度医療のニーズは15%程度減少し、後期高齢者向け医療(地域密着型医療)のニーズが60%程度増加すると述べた。そして、新たな診療報酬体系について、診療報酬点数表の2本立てを提示した。
まず1つ目は急性期型医療に対応する「DPCをもとにした診療報酬点数表」、2つ目は中長期型医療(仮称)に対応した「医療区分と入院期間、人員レベル、病室の広さをもとにした診療報酬点数表」である。
1つ目の「DPCをもとにした診療報酬点数表」を使用する「高度医療、救急・救命医療、パスに乗る典型的な急性期医療」を提供する病院を急性期型病院とし、それ以外の一般、亜急性期、療養、障害者病棟の患者は、中長期型医療(仮称)に対応した「医療区分・ADL、入院期間、人員レベル・病室の広さをもとにした診療報酬点数表」で支払われる。
回復期リハビリテーション病棟については、①独立して扱う、②生活支援型病棟の中に取り込む、いずれの対応方法も考えられるとの考えを示した。
またさらに、急性期に対する考え方として、地域の高度医療は必要としない(駆け込み寺的)急性期の入院と、急性期からの継続的治療(ポストアキュート)機能を担う病院を在宅療養支援病院とするとし、在宅療養支援病院の急性期対応部分に対して、特定的に病室単位および13:1看護体制のDPC病棟を認めることが望ましいとの見解を示した。
4. 「慢性期医療における新しい診療報酬体系を考える」
池端幸彦氏(日本慢性期医療協会事務局長)
池端氏は、これからの慢性期病床のあり方について、終末期における療養場所についてのアンケート結果において約6割が「自宅」を希望している結果を示し、在宅ケアの基本条件の一つとして「いつでも、必要なとき、必要な期間、入院できるベッドがあること」として、慢性期医療の5大機能の一つである「在宅支援機能」を取り上げ、在宅ケアを行っていくためにも、慢性期医療は必要であると訴えた。
そして、在宅療養支援病院の現状と課題について、在宅療養支援診療所との違い、5つの指針について説明した。
また、日本慢性期医療協会において作成した慢性期病態別診療報酬試案について説明し、平成23年4月に日本慢性期医療協会の医療療養病床を対象として実施した「医療区分の適正な実施に関する状況調査」の集計結果について、現行の医療区分と慢性期病態別診療報酬試案の比較をした結果、病態分類における医療区分1の対象者が増えたと報告した。
そして医療区分1では不適切と思われる患者の状況について、がんターミナル(余命1か月以内)が40.3%であり、改めてこれらの医療区分の見直しの必要性を訴えた。
■ 討論
討論では、療養環境の整備について、池端氏が「一律の基準が理想的であるが地域特性があり、都市部のように土地代が高すぎてどうすることもできない病院もある」と述べた。
また、社会保障国民会議では、今後300万人増える入院患者に対し、240万人が在宅療養するプランを打ち出している。今後、在宅療養支援をどのようにしていくかという問いに対し、猪口氏は「医師、看護師等の人材不足の問題もある中で、本当に要介護4、5の方々を高専賃等の居住系施設で外部の訪問サービス等を利用しながら療養できるのか疑問である。4.3m2の多床室の有効活用も検討すべきではないか」と述べた。
高橋氏は、「国は、現在6万床しかない亜急性期・回復期リハビリテーション病棟を約40万床まで増やそうとしている。一般病床のDPC、非DPC病床から亜急性期・回復期リハビリテーション病棟へ移行してもらわなければならないだろう」と述べた。
そして、現在の非DPC一般病床、亜急性期病床、療養病床にも適応できる診療報酬体系が必要であり、不足する高齢患者向けの病床について、4.3m2の病室も有効活用できるような診療報酬体系も必要だろうと述べた。
実際に国は、平成23年6月2日に行われた第10回社会保障改革に関する集中検討会議における資料の中で、「平成37(2025)年度の医療・介護サービスの需要と供給(必要ベッド数)の見込み」を、高度急性期病床が22万床、平均在院日数を15~16日、一般急性期病床を46万床、平均在院日数を9日、回復期リハ、亜急性病床を35万床、平均在院日数を60日としている。
高度急性期病院は、重度の患者が入院することを想定すれば妥当かと思われるが、一般急性期病床が平均在院日数9日ということは、現状の約3分の1にしなければならないことを意味している。しかし、46万床もの病床が平均在院日数9日で回るのは、現状ではかなり困難である。
また、高度急性期病院で治療した患者のうち、回復する可能性が高い患者は、回復期、亜急性病床に転院できるかもしれないが、必ずしも全員が回復するわけではない。気管切開や人工呼吸器、また重度の多臓器不全など、回復期ではとても診れないような慢性期ICU患者について、平均在院日数9日の一般急性期病床で受け入れることは難しいだろう。
そこで、私は新たに長期に入院できる急性期機能を持った「長期急性期病床」の設立を提案している。この機能は、ここ最近4年間で急激に入院患者が重度化した医療療養病床と高度急性期機能を維持できなかった地域の中小病院が、この部分を担うことになるであろう。
急性期医療の平均在院日数がますます短縮化されていけばいくほど、そのポストアキュートを引き受ける長期急性期病床が必ず必要であると考えるが、厚労省はあえて、その不可欠な病床機能を過小評価している。これからの医療体制を考えると、最低に見積もっても約30万床の長期急性期病床と約30万床の長期慢性期病床の存在が必要となるだろう。
これからの重要課題の一つである認知症問題について、関氏は、「在宅でもどのような介護サービスを選択し、それをうまく利用していくことで対応可能である。しかし認知症になれば、自分が在宅にいることすらわからなくなるので、必ずしも自宅がよいとはいえないのではないか。きちんとケアをしてもらえるところで過ごしてもらうのが一番ではないか」と述べた。
一般病床において問題となっている90日超の特定除外患者について、項番不明患者割合が、15:1では59%、 13:1では68%を占めている問題も湧き上がっている。
しかし、これらの患者をそのまま現行の医療区分では分類できないだろう。また、一般病床の7:1や10:1の病床にも存在する特定除外患者を、いきなり慢性期病床で治療するというわけにいかない。
来年の診療報酬・介護報酬同時改定では、マイナーチェンジ程度しかできないかもしれないが、十分な調査を行い、早急な改定をしていただきたい。
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