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日米ジョイントフォーラム2013 開催のご報告

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2013年2月24日 @ 11:15 PM In 協会の活動等 | No Comments

 社会医療研究所と日本慢性期医療協会の共催する「日米ジョイントフォーラム2013 日米ヘルスケア最新事情」が、東京では2月23日(土)に開催されました。フォーラムには、医療関係者約60名が出席しました。
 
Dr. Lee Pickler はじめに、ボールドウィンワラス大学教授のLee Pickler氏が、日米ジョイントフォーラムの意義と交流の成果について講演を行いました。
 まず、社会医療研究所所長の岡田玲一郎氏の主催で行われてきた「北米医療視察」「日米ジョイントフォーラム」「研修医プログラム」の3つのプログラムが紹介されました。
 北米医療視察は医療従事者・病院経営者を対象とし、アメリカの最先端の医療現場を見学して、ロボットを使った最先端の手術や医療制度における病院経営戦略を学ぶものです。
 日米ジョイントフォーラムは、20年以上に渡り開催されており、アメリカで活躍する専門家を日本に招き、医療最新情報を提供しています。過去に扱われたテーマでは、長期急性期病院(LTAC)や急性期病院と急性期後のケアの連携などがあります。
 研修プログラムとは、研修医を日本からアメリカに1~2週間、1~2施設に派遣するプログラムです。派遣される医師の興味のある分野でプログラムが組まれ、過去には内科や神経外科、精神科などの分野へ研修医が派遣されました。
 Lee Pickler氏は、「今後も質を維持しながらこれらの3つのプログラムを継続していき、欧州など米国以外での研修の機会を模索し、医学面の最先端や、医療経営面でのベストプラクティスの知識を共有する機会を広げていきたい」と、今後の展望を語りました。

Dr. Michael J Jordan Michael J. Jordan氏は、Walter & Haverfield法律事務所の共同経営者から独立して、Jordan Resolution LLC法律事務所を設立し、一派企業訴訟/仲裁や、医療・バイオサイエンス分野訴訟を担当されている弁護士です。本フォーラムでは病院と勤務医の関係、アカウンタブル・ケア・オーガニゼーション(Accountable Care Organizations;ACO、責任あるケア機関)について講演されました。
 アメリカでは医師が病院とは別に開業をしていることが通例であり、病院と勤務医の協力関係をどのようにして保つかが重要となります。病院理事会は医師に対し、病院での診療資格の付与や、医局員として迎え入れるかどうかの決定を行います。
 また、医師の能力・技術面の適性に問題が生じた場合、理事会は診療資格の規制・剥奪を行います。病院によって規定の差はありますが、調査や医師管理委員会で解決できない場合は、聴聞会にて医師の措置に対する最終的な判断が下されます。
 また、診療特権剥奪などの措置を受けた医師は全米医師データバンクに報告されるため、ピアレビューでの悪評を恐れるあまり、医師は病院を批判・内部告発できにくくなっているのではないかと、医学界では議論が生じています。

 患者保護及び医療費負担適正化法の一環であるACO(Accountable Care Organizations、責任あるケア機関)は、病院と医師が協力しながらコスト削減に努め、質の高いケアを提供する仕組みです。65歳以上の高齢者はメディケアと呼ばれる連邦政府管掌保険に加入していますが、過去のメディケア制度での医療費支払い体系は出来高払いが中心でした。ACOを取り入れたことで出来高払いがなくなってしまうわけではありませんが、コストを削減しながら質の基準に合致すれば政府からボーナスが支払われる仕組みであるため、財務的なメリットが見込まれます。
 医師側の動機付けとしては、ACOにより病院や在宅ケアなどが共通の組織の中で協力しやすくなるため、ケアの調整・管理がしやすくなることや、ACOに加わることで医師もボーナスを受け取ることができるため、ACOに加わらない独立した医師は競争に太刀打ちできにくくなることがあげられます。
 また、ACOが質の基準を満たさない場合にも、出来高払いの償還を受けることができますが、ボーナスは支給されないため、特殊医療機器の導入やスタッフ増員など、質の向上に必要な投資が行いにくくなります。また、医師はACOと契約関係にあり、医師個人としても一定の基準を満たす必要があり、基準を満たせない場合には契約が打ち切りになる可能性もあります。
 今後ACOがどのような道をたどるかははっきりとはしませんが、医師がACOの中で診療行為を行うようになると、個人開業医の数はさらに減少する可能性があります。

Dr. Gary S Clark ケースウェスタンリザーブ大学教授のGary S. Clark氏は、メトロヘルスメディカルセンターの研修医指導部長、医療メディカルディレクター、リハビリテーション研究所所長としても活躍されており、昨年1月に開催された日米ジョイントフォーラム2012でも講演をされました。
 講演の冒頭、Clark氏は「日米の医療制度は、似ている点もあれば違う点もある。Jordan氏の講演からも、規制の多い国であると思われたのではないだろうか。この機にどのような制度が日本に当てはまり、活用できるのか検討してほしい。今回の来日では、世田谷記念病院(東京都世田谷区)を訪問した。非常に近代的な急性期後のケアを行っている新発想の病院で感激した。」と話されました。
 アメリカの急性期後のケア段階として、長期急性期(Long Term Acute Care)病院、入院リハビリ施設(Inpatient Rehabilitation Facilities)、スキルドナーシング施設(Skilled Nursing Facilities)、在宅ケア(Home Health Care)、外来リハ(Outpatient Therapies)があげられます。様々なケア段階の背景には、短期急性期が高コストのため、その後の施設を有効活用することでコストを削減し、適切なケアを行うことができるということがあります。
 長期急性期病院に入院する患者像は、重症度が高い、症例が医学的に複雑、医師の介入・関与が頻回に必要、24時間体制の高度な看護ケアが必要、25日以上の在院が必要な場合、となっています。長期急性期病院には、一般的な病院と同様に単一な建物で長期急性期病院の施設として運営されているもののほか、HIH(Hospital within Hospital)という形式で運営されているものがあります。

 HIHは、短期急性期病院の建物の一部が長期急性期病院として運営されている形式です。また、同じ建物に2つの機能の病院が入っていますが、短期急性期病院と長期急性期病院を運営する組織は、それぞれ別の組織となります。

 入院リハビリ施設は、日本の回復期リハビリテーション病棟と近い性質を持っています。患者像は、集中的・包括的なリハビリが必要となる、卒中や四肢骨折等の重大な障害がある、医師の介入が毎日行われる、ケア計画による管理が必要、24時間体制でのリハビリ看護ケアが必要、となっています。また法的な面からは、集中的リハビリに耐えられ、かつその恩恵を享受できる患者が対象とされており、リハビリは1日に3時間以上行われます。

 スキルドナーシング施設は、入院リハビリ施設の制限から外れた患者にサービスを補填するような施設になっています。
 患者像は、継続的に医学・看護ケアが必要、集中的リハビリの必要がない、集中的リハビリに耐えられない、四肢骨折や肺炎など残存する障害により在宅に戻れない、定期的(1~3ヶ月毎)に医師による診察が必要、創傷ケアなど高度看護ケアが必要、必要に応じて機能改善リハが行われる、となっています。
 リハビリの時間は患者に応じてフレキシブルに設定されます。また、肺炎や感染症、廃用症候群などの病態の患者は亜急性期医学に、大腿骨骨折や四肢切断などの障害のある患者は亜急性期リハに、それぞれ特化したケアのプログラムが設定されます。

 在宅ケア(Home Health Care)はHome Based Careとも呼ばれ、生活支援・介助を必要とする人もサービスの対象に含まれます。患者像は、在宅に戻ることができるが外出ができない、創傷ケアのドレッシング交換や薬剤治療で看護ケアあるいはリハビリが必要、とされます。

 外来リハは自宅に戻ることができる状態で、自宅からリハビリに通うことができ、さらに筋肉強化や可動性訓練、微細運動能力やセルフケア、嚥下障害などのリハビリが必要となる場合に適応されます。在宅ケア・外来リハともに診療頻度やサービスの期間は個々のニーズに応じて様々です。

 2008年のデータで、重症度を4段階に分けると、長期急性期病院全体の入院患者のうち、43.3%が最も重症度の高い患者で、次に重症度の高い患者と合わせると、81.3%が重症度の高い患者となりました。施設の件数はスキルドナーシング施設が最も多く15,053施設で、長期急性期病院が最も少ない432施設でした。また、短期急性期病院はおよそ5,000施設ほどでした。
 短期急性期病院から在宅に復帰するまでには、その間に長期急性期病院やスキルドナーシング施設でケアを受けるなど、複数の段階を踏まえることもあります。適切なケアの流れを決定するには、臨床面、ポストアキュートケア施設、患者の状態、紹介元などの面からも考え、どのルートが患者にとって適切か考える必要があります。
 入院リハビリ施設においては、「医学的状態が相対的に安定」、「集中的リハビリ」、「多職種のチーム関与」などの入院基準があります。また、基準のうち「重要な実用的改善」については、改善ゴールは「実用価値(機能レベルでの改善)」的なものであるべきで、妥当な期間内に達成可能なものでなければならない」ともされています。
 入院リハビリ施設の償還体系は米国保健福祉施設内の期間の管理下にあり、出来高払いではなく定額償還方式が取られています。17分類の機能障害グループが基本となり、その複雑性によりFIM運動機能スコアを活用して修正が加えられます。この際、場合によってはFIM認知機能や年齢も含めた修正がなされます。評価基準の臨床的ケースミックスグループは95で、特別な状況ではさらに5つが加わります。適正に治療・判断することが、適正な医療費の償還を受けることにつながります。
 償還額決定において併存疾病や地域の賃金水準、地域性などが考慮されますが、在院日数が基準より長い・短いなどした場合には、減額される可能性もあります。
 アメリカの入院リハビリ施設と日本の回復期リハビリ病棟の比較(2008年版)では、在院日数(アメリカ16日:日本74.2日)と卒中による入院(アメリカ6%:日本44.4%)で大きな差が出ていますが、Clark氏はこの差を、アメリカでは集中的なリハビリで在院日数を減らしていると説明した上で、2012年のデータではアメリカの入院リハビリ施設での卒中の入院は22%になっていることを示しました。
 アメリカの急性期後のケアの今後の課題としては、ACOへの移行や償還額の低下、「団塊の世代」にあたる世代の高齢化に伴い、慢性期的疾患や生涯を抱えるようになるため、急性期後のサービスの増強などがあげられました。特に「団塊の世代」の高齢化への対応は社会的な急務で、医療以外にも高齢者の就職口など、別の問題も出て来ています。

 日本慢性期医療協会会長の武久洋三氏は、「日本の病院連携と機能の明確化」について講演されました。
 「高度急性期から慢性期、在宅への流れに一本の幹線道路がひかれた」と、平成24年度の診療報酬・介護報酬同時改定の評価をしました。2025年に向かって慢性期医療の対象者が急増することが予測されています。急性期病院の平均在院日数の国際比較では、諸外国が概ね6日前後であることに対し、日本は3倍の18.5日となっています。この日数には特定除外患者が含まれていないため、実態はもっと多いとされています。
 また、都心の一般病床のうちには療養病床の基準を満たすことができず、古い基準の一般病床として運営されている病院もあります。厚生労働省は、一般病床は急性期病床の範疇と考えていますが、実質は慢性期高齢患者が多い病院でも自称急性期病院として運営されているのが現状です。
特定除外患者の問題については、平成24年度の同時改定において13:1、15:1の特定除外は療養病棟入院基本料1の医療区分が適応されることになりました。今後の調査の結果では7:1、10:1も同様な扱いを受ける可能性は大いにあります。
 看護必要度について、2012年の療養病床機能情報の報告・提供の具体的な在り方に関する検討会において提示されたデータでは、A項目の一般病棟全体の平均点が1.11とされました。しかし、同データの入院患者一人当たりの平均得点の分布では、0点が1.5%、1点未満が33.0%、1点が27.7%のところ、無回答が30.3%もあったことから、A項目の一般病棟全体の平均点の実態は1.11を下回ることが予測されます。療養病床や回復期リハビリ病床などで同様の調査を行ったところ、A項目が2点以上の割合が30%を超える病院が3分の1ほどありました。これらから、療養病床に軒並み重症患者が入院していることがわかります。
 2025年に向けてより医療施設が必要となる中では、4.3㎡、6~10人の部屋のままでも入院治療が可能となる基準が必要です。
 また武久氏は、慢性期病床は短期急性期より長期になるものの、急性期機能をもった病床と考えると、療養病床の役割は、急性期治療後を受け持つ「長期急性期病床」と、難病や重い後遺症を受け持つ「長期慢性期病床」の2つに分けられるとしています。
長期慢性期病床の入院基本料については、医師の基準については48:1と16:1の間となる32:1の基準を提案しています。病床面積などを満たさない場合はわずかに環境減算を行う基準をつくることで、都市部の中小病院を閉鎖させないようにすることを提案しています。
 急変患者の動向について、救急車で運ばれる患者は現状では、高度急性期と一般病床に運び込まれます。武久氏はこれを長期急性期病院に搬送し、手術などより高度な処置が必要となる場合には高度急性期病院へ搬送するようにしてはどうかと提案をしました。
 また、東京では急性期病院での入院期間は31日~60日が最多ですが、徳島では15~19日が最多となっています。東京は特に高度急性期病院が多く、急性期医療を継承する病床が極端に少ないため、高度急性期病院にも長期慢性期患者が多く入院していることが伺えます。東京の急性期病院は急性期の形をなしておらず、現状の高度急性期病院では、本当に高度急性期機能を有している病院は半分程度かもしれません。
 患者が在宅にいる間に急性増悪した場合には、速やかに後方病院に支援を求め、画像診断や検査を行い、症状の治療のために短期間の入院をして、改善後は再び在宅療養に戻ることで長く快適に在宅療養を継続することで可能です。しかしながら、在宅医療連携拠点には薬局や看護協会、行政など入院できない施設も含まれています。
 武久氏は、在宅療養後方病院の機能には、在宅緊急入院機能(軽度救急機能)、地域外来機能、疾患パス連携機能、チーム医療機能、デリバリー機能に合わせて、急性期治療機能20%、長期急性期機能30%、回復期機能20%、長期慢性期機能20%、障害者入院機能10%が求められるとしています。つまり、慢性期ケアミックス的な機能をもつ病院が在宅医療連携拠点となるとのことです。

岡田玲一郎先生 おわりに、社会医療研究所所長の岡田玲一郎氏よりセミナーのまとめと感想として「日本型LTAC病院の経験と療養病床の『病床』とはなにか」という講演が行われました。
 岡田氏は、DPCについて、ベッドを空けるより入院させておく方が、病院に利益が出ることについて、「『ベッドが空いているから退院を延ばせ』なんてもう駄目でしょう。」と話されました。
 アメリカにおいては、短期急性期病院への平均在院日数は5日、長期急性期病院への平均在院日数は25日で、合計で30日間が平均入院期間となります。現在日本では、急性期医療に対応できる療養病床と対応できない療養病床があります。しかし、日本の短期急性期病院と長期急性期病院在院日数は単に合計で30日になるようにすればいいというわけではありません。
亜急性期病床において、平均在院日数が90日から60日に短縮されました。そこで日本での平均在院日数は、短期急性期病院が10日、長期急性期病院は60日と、アメリカのおよそ倍にあたる計70日を目標にしてはどうかと話されています。連携についても、コバンザメのような経営ではなく、共生魚のように短期急性期病院で困っている患者を受け入れる長期急性期病院との連携で、急性期病院をより円滑に運営することができるとしています。
 介護療養病床について、「病床」は入院医療を必要とするものと岡田氏はしています。また、入院医療の必要性はないため、介護療養病床を「療養床」として変えてもよいのではないかと話されました。
 また、日本型長期急性期病院と短期急性期病院の連携の実際の諸データを示しました。

 岡田氏の講演終了後、各講義に関する質問が多く上がり、フォーラムは盛況の中、終了となりました。
 
会場の様子
 



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