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社会保障審議会・医療保険部会(11月28日)のご報告

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年11月30日 @ 5:23 PM In 協会の活動等,審議会 | No Comments

 厚生労働省は11月28日、社会保障審議会の医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)を開催し、当会からは武久洋三会長が委員として出席しました。主な議題は、(1)協会けんぽの財政対策、(2)健保組合における準備金の見直し、(3)70~74歳の患者負担特例措置、(4)健康保険と労災保険の適用関係の整理──などです(資料は厚労省ホームページ)。
 

(1) 協会けんぽの財政対策について
 

 財政悪化のため、国庫補助率の引き上げなどで保険料率の上昇を抑えている支援策(特例措置)を来年度以降も継続するかについて、11月28日の会合でも引き続き議論しました。中小企業の加入者が多い協会けんぽは、保険料率の上昇を食い止めるため、国庫補助率のさらなる引き上げなど支援策の拡充を求めていますが、委員の多くは否定的です。

 この日、厚労省は協会けんぽの財政見通しについて、11月7日の会合で示した保険料率の推移を示すシミュレーションに加えて新たに4つのケースを示し、今後の対応策について意見を求めました。協会けんぽ理事長の小林剛委員は、現在の「保険料率10%はすでに限界」として、これ以上の上昇を抑えるため国庫補助率を20%に引き上げることなどを改めて要望しましたが、7日の会合と同様、「当面は現行の国庫補助率16.4%を継続しながら、準備金の取り崩しなどで対応すべき」との意見が相次ぎました。

 意見交換を踏まえ遠藤部会長は、「協会けんぽの財政状況が厳しいことは共通の認識だと考える」とした上で、今年度で期限が切れる協会けんぽへの特例措置について、「16.4%の国庫補助率や、高齢者支援金の3分の1を総報酬割にしている現行の延長はやむを得ないと受け止めたが、いかがだろうか」とまとめました。反対意見は出ませんでした。
 

(2) 健保組合における準備金の見直しについて
 

 財政状況の悪化は、協会けんぽだけではなく、大企業の加入者が多い健康保険組合も同様です。11月7日の会合で白川修二委員(健康保険組合連合会専務理事)は、法定準備金について「協会けんぽは1か月だが、健保組合は3か月。健保組合も非常に財政が厳しくなっており、3か月というのはあまりに長過ぎる」と指摘しました。積み立てておかなければいけない金額が多すぎるとの主張です。これを受け、28日の会合で厚労省は現行の3か月分から約2か月分に減らすことを提案しました。

 厚労省の説明では、準備金の中には解散時のリスクに備える分として、「医療給付費相当分2か月分」が含まれています。大企業が突然倒産して、保険料収入がなくなった時に診療費の支払いを賄うための準備金です。白川委員は、「1か月で十分ではないか。リスクの大小をもう一度検討してほしい」として、この2か月分を1か月分に減らす方向で検討するよう求めました。

 また、実施時期について白川委員は、「健保組合は赤字が膨らんで資金繰りに苦労しているので、ぜひ来年度から実施してほしい」と要望しました。厚労省の担当者は、「今回の取り扱いを運用して状況を把握した上で、引き下げが可能かを考えたい」と回答。実施時期については、「来年度から適用できるよう手続きを早くしたい」と応じました。[→ 続きはこちら]

 


 

 

(3) 70~74歳の患者負担特例措置について
 

 現行法上、高齢患者の自己負担は、65~69歳(3割)、70~74歳(2割、現役並み所得者は3割)、75歳以上(1割、同)──と設定されています。ただ、70~74歳の負担割合は2008年、後期高齢者医療制度の「円滑な施行」のため特例措置が設けられ、毎年約2,000億円の予算措置で1割負担に抑えられています。そのため、70~74歳に対する特例措置を今後も継続するか、それとも法定2割に戻すかが問題になっています。同部会では「法定2割」の意見が多数です。現在の主な焦点は、何らかの「激変緩和措置」を設けるか、すなわち新たに70歳になる人から順次実施する「段階的施行」にするか、という点です(資料は厚労省ホームページ)。

 厚労省は冒頭、11月16日の前回会合で鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)から質問があった「年齢階級別平均収入」について補足資料を示しました。厚労省によると、70~74歳(現役並み所得者を除く)1人当たりの平均年収は193万円で、患者負担額は年4万7,000円です。これに対し、75歳以上(同)1人当たりの平均年収は168万円で患者負担額は年7万7,000円、65~69歳1人当たりの平均年収は234万円で患者負担額は年8万8,000円です。70~74歳の負担が、他の年齢層と比べて軽いことを示す根拠になっています。

 しかし、こうした平均収入や患者負担額の算出根拠として使われた厚労省の「国民生活基礎調査」について、鈴木委員が「抽出調査なのでバラツキがあるのではないか」などと指摘し、厚労省側に詳しい説明を求めていました。鈴木委員は「1割維持」を主張しています。

 28日の会合で厚労省は、「国民生活基礎調査」の調査客体や集計方法などを説明しました。全国の国政調査区から無作為抽出した約3万6,000世帯(約9万5,000人)のうち、回答に応じた約2万6,000世帯(約7万5,000人)を対象に実施した調査との説明です。厚労省の担当者は、「世帯を構成する1人ひとりの収入はいろいろあることや、世帯人数にもバラツキがあるという限界はある」と補足しました。

 鈴木委員は、データの信頼性についておおむね理解を示しながらも、「現役並み所得者とそれ以外とを区分しておらず、医療費については入院と入院外の区別がないという課題は依然としてある」と指摘。「1割になると思っていた人が2割になると受診控えが起こり、症状や状態悪化などが懸念される」として、「1割維持」を改めて主張しました。堀憲郎委員(日本歯科医師会常務理事)も同様に「現状維持をお願いしたい」と求めましたが、他の委員からは前回と同様、「低所得者に配慮した上で、法定2割に戻すべき」との意見が相次ぎました。ただ、2割負担の実施方法については前回と同様に意見が分かれました。

 齊藤正憲委員(経団連社会保障委員会医療改革部会長)は、「高齢者も痛みを分かち合う必要がある」とした上で、「70歳から順次引き上げる経過措置は必要ない」と主張しました。これに対し、岩村正彦部会長代理(東大大学院法学政治学研究科教授)は、「1割から2割に上がると負担感が重いので、これから70歳になる人から引き上げる『段階的施行』と組み合わせるべきだ」と述べ、継続審議となりました。[→ 続きはこちら]
 


 

 

(4) 健康保険と労災保険の適用関係の整理について
 

 仕事中の負傷に対して労災保険も健康保険も適用されないケースを救済するため厚労省は、「健康保険における業務上・外の区分を廃止し、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする」ことを提案しました。意見交換では、労働者災害補償保険法(労災法)と健康保険法(健保法)の適用関係を見直して救済することは合意しましたが、変更の方法(法改正の要否)などで意見が分かれました(資料は厚労省ホームページ)。

 労災保険と健康保険の不適用をめぐっては、シルバー人材センターの会員が仕事中に負傷して治療した場合に、労災保険も健康保険も適用されない問題が起きたことを契機に、西村智奈美・厚生労働副大臣を責任者とする「健康保険と労災保険の適用関係の整理プロジェクトチーム」(PT)が9月28日に設置され、10月29日に一定の結論を取りまとめました。

 それによると、「シルバー人材センターの問題のみならず、働き方が多様化する中、国民に広く医療を保障する」と指摘。雇用関係がない請負契約の人たちが労災法上の「労働者」と認められず、仕事中のけがのため健保法の「業務外」に該当しないような「制度の谷間」に落ちてしまうケースを救済する方針を示しました。その対応策は、「健康保険における業務上・外の区分を廃止し、請負の業務(シルバー人材センターの会員等)やインターンシップなど、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする」としています。

 その上で、「労使等関係者の負担に関わる変更であるため、変更の方法(法改正の要否)、遡及適用の要否、役員の業務上の負傷に対する給付の取扱いを含め、社会保障審議会医療保険部会で審議を行い、結論を得る」としています。これを受け、28日の会合で法改正の必要性などを議論しました。
 
 労災法7条は、「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする」とした上で、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」としています。一方、健保法1条は、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い」としています。さらに同55条は、「被保険者に係る療養の給付(中略)は、(中略)労働者災害補償保険法(中略)の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」という併給調整の規定を置いています。
 

■ 労災法の適用範囲を広げる?
 
 意見交換で小林委員(協会けんぽ理事長)は、「労災保険の対象となる『労働者』が健保法よりも狭い。なぜ労災が適用されないのか、その検討が必要ではないか」と述べ、労災法の適用を拡大して救済する必要性を指摘しました。白川委員(健保連専務理事)も同様に、「業務中の負傷は労災とするのが基本中の基本。健康保険の適用範囲をできる限り少なくすべきだ」と主張しました。

 これに対し、菅家功委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、「PTの結論には異議がある。(業務上・外の)区分廃止はおかしい」と批判。その理由として、「もともと健保法には区分がなかったが労災法ができたので、すみ分けた」ことを挙げ、「区分を変える必要は全くない。労災保険の適用にならないのに、健保適用になっていないことが問題だ。運用の実態に問題がある」と述べました。

 一方、岩村部会長代理(東大大学院教授)は、労災法で定める「労働者」の概念が労基法上の「労働者」と同義であるとした上で、「労基法の『労働者』でなければ対象にならないという意味で労災法と労基法が連結しているため、多くの場合に労働者性が認められない」として、労災法の適用範囲が狭いことを指摘しました。
 

■ 変更に伴う問題点は?
 
 厚労省案では、「労働者の業務災害と疑われる事例で健康保険の給付が申請された場合、まずは労災保険の請求を促し、健康保険の給付を留保することができる」としています。そのため鈴木委員(日医常任理事)は、「医療機関に落ち度がないのに、診療費の支払いが滞ることがあれば問題だ」として、労災保険の優先適用によって支障が生じないように配慮することを求めました。岩村部会長代理も、「労災認定されるまでの間のタイムラグをどうするかという問題は残る。労災をまず適用すると医療機関も患者も困る」と指摘しました。

 厚労省の担当者は、「まず労災かどうかを判断して、労災が認定されなければ健康保険の適用にするが、いたずらに支払いを引き延ばすことがないように検討したい」と応じました。

 一方、小林委員(協会けんぽ理事長)は、健康保険の適用範囲を拡大することに伴う問題点として「労災隠しを助長することになる」と指摘、医療機関から請求を受けた保険者が意見を述べられるような仕組みを求めました。鈴木委員も、「労災隠し」への対策を講じるよう要望。「医師が『労災ではないか』ときいても、『健康保険でお願いしたい』と言われてしまうと、無理に労災申請を勧められないので、医療機関から『労災の疑い』というコメントを付けて保険者が確認すれば『労災隠し』が減少する。ぜひ検討をお願いしたい」と求めました。
 

■ 法改正は必要?
 
 小林委員は、「業務上・外の区分をなくすのは健保法の目的の根幹に関わるので、解釈運用の変更ではなく、明確に法律を見直して実施すべき」と述べ、厚労省案に賛成しました。白川委員(健保連専務理事)は、法改正の要否について明言せず、「労災保険優先の原則が貫かれればいい」と述べました。

 これに対し岩村部会長代理は、「健保法の『業務外』の概念を整理して対応できるのではないか。健保法の『業務外』について、『労災保険における業務上の認定を受けなかった者』と定義すれば、法改正は必要ない」と指摘しました。
 
 こうした意見を受け、厚労省の担当者は「健保法の『業務』が広いので、『業務災害』という言葉を使って明確にして、労災法との区分をなくすほうが混乱は少ない」と述べ、健保法を改正して対応する意向を示しました。これに対し委員から発言はなく、遠藤部会長も「本件はこのぐらいにしたい」と述べるにとどまりました。



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