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社会保障審議会・医療保険部会(2012年11月16日)のご報告

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年11月19日 @ 9:13 AM In 審議会 | No Comments

 厚生労働省は11月16日、社会保障審議会の医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)を開催し、当会からは、委員である武久洋三会長の代理として中川翼副会長が参考人として出席しました。議論は、高齢者医療制度の見直しが中心となりましたが、合意には至らず継続審議となりました。ただ、現役並み所得者を除く70~74歳の高齢患者が医療保険で負担する割合を現状の1割から法定通り2割にすることについては賛成意見が多数を占めました。

 現行法上、高齢患者の自己負担は、65~69歳(3割)、70~74歳(2割、現役並み所得者は3割)、75歳以上(1割、同)──と設定されています。ただ、70~74歳の負担割合は2008年、後期高齢者医療制度の「円滑な施行」のため特例措置が設けられ、毎年約2,000億円の予算措置で1割負担に抑えられています。そのため、70~74歳に対する特例措置を今後も継続するかが主な焦点になっています(資料は厚労省ホームページ)。

 厚労省の「高齢者医療制度改革会議」(改革会議)が2010年12月に取りまとめた最終報告では、「70歳から74歳までの方の患者負担について、新たな制度の施行日以後、70歳に到達する方から段階的に本来の2割負担とする」としています。ただ、法定の2割負担に戻すことに対して、「受診抑制につながる恐れがあり、そもそも現役世代の負担割合を含め引き下げるべき」との意見も併記しています。

 その後、今年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」では、「70歳以上75歳未満の方の患者負担について、世代間の公平を図る観点から見直しを検討する」としているほか、「平成24年度は予算措置を継続するが、平成25年度以降の取扱いは平成25年度の予算編成過程で検討する」としています。

 この日の部会で厚労省保険局の横幕章人・高齢者医療課長は、特例措置によって70~74歳の患者負担額が他の世代と比べて不均衡であること(=図表)を指摘。「70歳に到達する者から段階的に2割負担とする」とした改革会議の最終報告を紹介し、「新たに70歳になる人は3割から2割になる。これを5年間続けていくことによって、70~74歳の負担を1割から2割にするので、1人ひとりの負担が増えるわけではない」と説明しました。

70~74歳の患者負担特例措置の状況(厚労省資料)

 その上で横幕課長は、「施行日から対象者全て2割負担とする考え方もあり得るが、負担額が急激に変わる対象者が多くなることや個々人の負担が増加することについて、どう考えるか」と、意見を求めました。
 

受診抑制につながる
 

 日本医師会(日医)常任理事の鈴木邦彦委員は、「70~74歳の負担は増えないとの説明だが、1割を2割に増やすので実際には増える」として、2割負担に反対しました。また、厚労省が示した資料(=上記図表)に対して次のように指摘しました。
 「高齢者の収入や所得は必ずしも正確に予測されていないのが実態。この国民生活基礎調査は抽出調査であり、バラツキのある調査を基にしているのではないか。家計調査は一世帯ごとに集計されるのが基本だが、世帯主が75歳以上でも、同居者が75歳未満の世帯もある」
 さらに、入院と入院外の医療費を合計している点について、「一部負担割合の引き上げによって最も懸念されるのは入院外の受診抑制だと思われるので、入院と入院外は区分して考えるべきだ」と指摘しました。

 その上で鈴木委員は、「70歳以上になると公的年金に頼る人が増え、さらに消費税が今後上がるので、家計が苦しくなって受診が抑制されることが懸念される。自己負担が増えて受診を控えたために症状が悪化したとの調査結果もある。所得格差の拡大によって受診抑制が増えていく恐れがあるので、引き続き1割にとどめるべきだ」と主張しました。
 
 日本歯科医師会常務理事の堀憲郎委員も、「70~74歳で健康寿命が尽きて、その後は何らかの障害あるいは要介護の状態で寿命を全うするという厚労科研の調査もある。歯科で言えば、平均して20本の歯があるのは69歳までで、70歳から20本を割ってしまう」として、70~74歳を「重要な時期」と位置付けました。
 その上で堀委員は、「70~74歳の時期に受診抑制が起きてしまうと、最期まで質の高い生活を送ってもらうというわれわれの望みを達成できなくなる危険がある。現行の3割負担でも受診抑制があるのではないかと懸念しているので、現状の1割を維持していただきたい」と要望しました。[→続きはこちら]
 


 

1割維持か、2割に戻すか

 「1割維持」の主張に対しては、反対意見が相次ぎました。まず、全国後期高齢者医療広域連合協議会会長で多久市長の横尾俊彦委員は、「1割が2割に増えるのではない。現在1割の70~74歳は、75歳になってからそのまま1割に移行していく。69歳から新たに70歳になる人が3割から2割負担になる」と反論しました。

 NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子委員は、「高齢者の負担が増えるのは必ずしも喜んでいない」としながらも、「70代前半は1割が2割になるのではなく、3割だった人が順次2割になり、やがて1割になっていく。世代間公平という意味から、法律通り粛々とやっていただきたい」と述べました。日医の鈴木委員らが主張する「受診抑制」に対しては、「医学的、科学的知見をもって説得してほしい」と反論しました。

 東大大学院教授の岩本康志委員は、「1割と2割のどちらがいいのか、科学的に検証できる状況にはない」とした上で、「意見が集約された姿として、国会で議決された法律に書かれている2割負担がある。何年間も予算措置によって1割にしている現状は、手続的に問題があるので、2割負担に戻していくのが適切だ」と述べました。

 こうした議論に対し、日本労働組合総連合会副事務局長の菅谷功委員は、「確かに法律上は2割負担だが、政府が国会承認を得た予算で1割にしている」と指摘。「政府がそういう政策でやっているのだから、政府がけしからんという議論はここではなじまない。何を議論しろというのか。政府がけしからんという結論をこの審議会で出せるのか」と語気を強めました。
 

順次2割か、直ちに2割か
 

 健康保険組合連合会専務理事の白川修二委員は、「1割か2割か」という議論を「本質ではない」と否定。「平成18、19年ごろに国会で議論されて、現在は『2割負担』という法律が存在する。それを5年間実施してこなかったことこそ問題だ」と一喝しました。
 その上で、「ほかの世代や、70~74歳の現役並み所得の人は法律通り3割負担を続けている。なぜこの層だけに法律が適用されないのか。法治国家である以上、法律が成立すれば定められた手続きで施行するのはごく当たり前の話。5年かけて2割負担にするのではなく、来年度から早急に2割負担を実行すべきだ」と主張し、「順次2割」案に反対しました。

 全国健康保険協会理事長の小林剛委員も、「高齢者医療制度の見直しは喫緊の課題。国の財政が厳しい中で、いつまでもこのような臨時特例的な措置を続けることは全く理解できない。世代間負担の公平を考えれば、とっくに実現していなければならないことであり、これでは保険料負担が重い保険者の理解を得られない」として、2割負担の実施を要望しました。「順次2割」案については、「高齢者の負担に十分配慮した仕組みであるので、私はこの案でいい」と賛成しました。

 委員らの意見を受け遠藤部会長は、「この問題は継続してご意見を頂きたい」と述べ、継続審議となりました。そのほか、「後期高齢者支援金の総報酬割」についても賛否が分かれました。
 この日の議題は、(1)高齢者医療制度の見直し、(2)高額療養費の見直し、(3)調査権限・現金給付の見直し──の3点で、予定した審議2時間のうち約1時間半が(1)に割かれました。

                          (取材・執筆=新井裕充)

 



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