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第1回「入院医療等の調査・評価分科会」(8月1日)のご報告

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年8月2日 @ 1:27 PM In 審議会 | No Comments

 厚生労働省は8月1日、診療報酬改定などを審議する中央社会保険医療協議会(中医協)の調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」の初会合を開催しました。分科会長には、国際医療福祉総合研究所の武藤正樹所長が就任し、厚労省が示した2012、13年度の調査案について議論しました。

 同分科会の前身は、「慢性期入院医療の包括評価調査分科会」(分科会長=池上直己・慶大教授)で、医療療養病床の入院料に関わる調査などを担当していました。12年度改定の答申書に付された意見(附帯意見)では、療養病床の入院医療だけでなく、一般病床の入院医療まで広く横断的に調査する必要性が指摘されたため、同分科会を解消して新たな分科会として設置されました。「7対1入院基本料の見直し」や「長期入院の是正」など、附帯意見に対応する27項目のうち7項目に関わる調査を新分科会が担当します(資料は厚労省ホームページ)。

 この分科会は、医療関係者を中心に12人で構成。旧分科会から引き続き委員となったのは、日本慢性期医療協会(日慢協)会長の武久洋三氏、国立病院機構関門医療センター病院長の佐柳進氏の2人。新たに委員に就任したのは、日本医師会(日医)常任理事の石川広己氏、日本病院会常任理事の安藤文英氏、全日本病院協会副会長の神野正博氏ら10人です(委員名簿:PDF)。この日は、安藤氏、神野氏の2人が欠席でした。
 

「広く今後の入院医療のあり方を検討」─武藤分科会長
 

武藤正樹分科会長 冒頭の挨拶で武藤分科会長は、「非常に広い範囲の調査、検討を行う分科会であり、次期の診療報酬改定に関する中医協の議論に資する基礎資料を出すことだけでなく、広く今後の入院医療のあり方の検討に資することが目的と考えている。このような認識の下、調査、検討にご尽力を賜りたい」と述べました。

 同分科会で検討するのは、(1)病院機能に合わせた効率的な入院医療の推進、(2)医療提供体制が十分ではなく医療機関の機能分化を進めることが困難な地域に配慮した評価の検討、(3)入院医療や外来診療の機能分化の推進や適正化に向けた検討、(4)診療報酬点数表における簡素化の検討、(5)医療機関における褥瘡の発生等の状況の検討───の5項目です。12年度は(1)(2)(4)(5)を、13年度は(1)(3)を調査します。

 第1回の主な議題は、▽入院医療等の調査・評価分科会について、▽同分科会における2012年度と23年度の調査内容の検討(案)について──です。まず、厚労省の担当者が同分科会の目的や今後のスケジュールなどを説明。その後、12年度調査と13年度調査の内容や項目について議論し、厚労省の提案を大筋で了承しました。

 9月初旬に開かれる予定の第2回会合では、今年度の調査票をまとめた後、中医協総会の了承を得て10月から調査を実施し、来年2月の第3回会合で調査結果を取りまとめる予定です。
 

「看護必要度の見直しも含め検討」─厚労省
 

 この日は、入院患者の重症度を測る「看護必要度」をめぐる議論が中心となりました。「看護必要度」は現在、「7対1入院基本料」「10対1入院基本料」の算定要件で、「13対1入院基本料」の加算要件にも用いられています。次期改定で「7対1入院基本料」のハードルを上げる場合、この「看護必要度」の見直しが1つのカギを握ります(続きはこちら)。
 

 「看護必要度」は現在、「血圧測定」「心電図モニター」「シリンジポンプの使用」など9つの項目(評価票A)と、「寝返り」「起き上がり」など7項目(評価票B)」で評価しています。具体的には、A項目が2つ、B項目は3つ(計5点)以上あれば、「看護必要度基準を満たしている患者」(重症患者)と評価されます。「7対1」の病棟には、同基準で「重症」と評価された患者が15%以上入院していることが必要です。
 
看護必要度

 議論の口火を切ったのは、嶋森好子委員(東京都看護協会会長)でした。嶋森委員は、「7対1の病院には、必ずしも重症度・看護必要度が高い患者さんが入っているとは言えない。これが看護界でいつも話題になっている」と指摘、「看護必要度の高い患者がどのような医療機関に入院しているかを調査し、新たな体制を検討すべき」と求めました。

 日慢協会長の武久委員は、現在の「看護必要度」に疑問を呈し、「(評価票Aの9項目のうち)血圧測定と心電図モニターの2つだけやれば重症という評価になるが、1から9までの項目は適切か。(急性期ではない)回復期リハビリ病棟入院料の算定でもこの基準が使われている。この基準の適正化を考えていく必要があるのではないか」と述べました。

 これに対し、嶋森委員は「かなり長い調査と検証を行った項目であり、私自身も京大病院などで使用した。看護界ではかなり使われている」と返しましたが、武久委員は「2項目だけでもいいという基準が問題だ」と反論しました。

 厚労省によると、「看護必要度」の見直しについて厚生労働科学研究「入院患者への看護の必要性を判定するためのアセスメント(看護必要度)項目の妥当性に関する研究」が進められ、主任研究員を筒井孝子委員(国立保健医療科学院統括研究官)が務めています。

 筒井委員は武久委員の発言に対し、「看護必要度の項目は平成9年ごろから10年ぐらいかけて作ったが、武久先生がおっしゃったように、実態として入院医療がこのようになっている。軽度から重度の患者さんまで(一般病床に)入っている」と賛意を示し、「急性期にふさわしい患者像を反映するような調査をしてほしい」と求めました。

 厚労省の担当者は、「看護必要度については現在、厚生労働科学研究などで見直しも含めて研究を行っているので、今回の調査と併せて、実態も含めて検討していきたい」と回答。武久委員は、「(重症と評価するにはAの9項目のうち)少なくとも3項目ないといけない。また、血圧測定は一般的なので除いた方がいい。こういう指標に基づく患者がたった15%入院していればいいとすると、一般国民の感覚として、『急性期医療はめちゃくちゃ軽い状態ではないか』と思われても仕方がない」と述べました。
 

「もう少し的確な基準がある」─石川委員
 

 「看護必要度」の見直しに向け、患者の状態像を把握できるような調査を求める意見がある中、細部にわたる調査に難色を示す声もありました。

 佐柳進委員(国立病院機構関門医療センター病院長)は、「超高齢社会に対応する医療体制をつくるため、機能分化が根底にあると思うが、印象として機能分化がちょっと遅すぎる」と苦言を呈し、「細部にわたる調査よりも、施設としてどう移っているかを調査する必要がある。回収率が悪いと、どの施設がどうなっているのかが全く見えなくなる」と指摘しました。

 これに対し、武久委員は次のように述べました。
 「7対1は、急性期の重症患者が入るための病床なのに、そこに亜急性期や慢性期の患者さんが入っている。ということは、(看護職員ら)人員の数との不整合が起こる。患者像や病態像をはっきりさせるということは、病床の機能分化を行う第一歩ではないか。『慢性期は高齢者が多い』など一般的なことは言えるが、実際の病態像はどうなっているのか、非常に関心がある」

入院医療分科会の初会合 武久委員の発言を受け、筒井委員は「患者像を明らかにすることは今はできない。なぜならば、特定機能病院をはじめ、(急性期病院に)非常に多様な患者さんが入っている」としながらも、「先取りすることはある。現状はこうだが、今後を考えるとこのような患者像が7対1にはふさわしいということを示していくべき」と述べました。

 筒井委員はまた、現行の7対1入院基本料の基準に関連して、「武久先生がおっしゃるように、(重症の入院患者が)15%というのは非常に低いが、実態はそうなっていない。実態を反映するという尺度と、あるべき姿を考えるものと両方必要ではないか」と指摘しました。

 日医常任理事の石川委員は、「患者像を克明に調査するのは難しい」としながらも、看護必要度の見直しについては、「武久先生と全く同意見。もう少し的確な基準があるのではないかと思うので、もう一度考え直した方がいい」と述べ、現在の「看護必要度」基準を見直す必要性について一致しました(続きはこちら)。
 

「亜急性期と回復期を一緒に調査」─厚労省
 

 2013年度調査に関する質疑では、武久委員が「亜急性期と回復期を一緒に調査した方がいい」と述べ、厚労省の見解を求めました。今改定では、「亜急性期入院医療管理料2」と「回復期リハビリテーション病棟入院料1」が同じ1911点になりました。脳血管疾患や運動器リハビリなどを算定した患者がいると「亜急性期入院医療管理料1」(2061点)を算定することができず、1911点(亜急性期入院医療管理料2)に下がります。

 このため13年度調査では、「亜急性期入院医療管理料2」と「回復期リハビリテーション病棟入院料1」の患者像を比較することを厚労省は提案しています。武久委員の質問に対し、厚労省の担当者は「亜急性期と回復期とを一緒に、対象となる患者像を選んで調査する」と回答しました。

 このほか、「入院医療や外来診療の機能分化の推進や適正化」の調査に関連して武久委員は、「特定機能病院や高度医療センターの一般外来が多いと診療に差し支えがある」と指摘し、「診療所から紹介された患者さんをどれだけ開業医に返しているか分かる調査も必要。(病院から診療所に)逆紹介しても(病院に)来ている」と述べました。

 香月進委員(福岡県保健医療介護部医監)も、「どこに戻っているかは重要で、紹介された診療所と違う所に返すのは問題なので調査すべき」と賛同しました。

 この日、厚労省が示した調査案が大筋で了承されたため、近く開かれる中医協総会に報告し、そこで了承されれば、次回9月の会合で具体的な調査項目(調査票原案)に踏み込んで議論する予定です。
 
入院医療分科会02



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