骨折・転倒を防ぐ「攻めのリハビリ」 ── 定例会見で橋本会長
日本慢性期医療協会は7月23日の定例記者会見で、「骨折・転倒を防ぐ攻めのリハビリ」をテーマに見解を示した。橋本康子会長は、骨折・転倒が要介護化や重度化の大きな要因になっていると指摘。要介護状態になる前から、身体機能、生活環境、栄養、服薬、骨粗しょう症などを総合的に評価する必要性を訴えた。
会見で橋本会長は、「転倒させない」「骨折させない」「寝たきりにさせない」という3段階の予防モデルを提示。高齢者を対象とした「転倒リスク健診」の導入やPT・OTの活用、ICT・AIによる自宅環境評価、予防的リハビリテーションを評価する制度の創設を提言した。
橋本会長は、「転倒・骨折を防ぐことは健康寿命の延伸だけでなく、救急搬送や病床逼迫の緩和にもつながる」とし、「攻めのリハビリ」は医療提供体制全体にとっても有益な戦略であると結んだ。橋本会長の説明は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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本日の内容
[矢野諭副会長]
ただいまから、令和8年7月の日本慢性期医療協会定例記者会見を開催する。
[橋本康子会長]
本日は、「骨折・転倒を防ぐ攻めのリハビリ」をテーマに説明する。副題は、「寝たきり・要介護を防ぐ、これからの予防的リハビリ」である。今回、このテーマを取り上げる背景には、最近公表された「骨太の方針」や「地域医療構想策定ガイドライン」など、国が示している今後の政策の方向性がある。これらの中では、予防医療や予防的リハビリテーションについて言及されている。そこで、こうした動向も踏まえながら説明したい。
現在は、平均寿命だけでなく、健康寿命を延ばすことが重視されている。一方、健康寿命の延伸を妨げる要因の1つが骨折・転倒である。骨折・転倒を予防することは要介護化や重度化の防止につながる。そのためには、要介護状態になる前からリハビリの介入が必要である。本日は、その考え方を「攻めのリハビリテーション」として説明する。
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攻めの予防医療
健康寿命の延伸に向けて、予防や健康増進による「攻めの予防医療」が掲げられている。これは、寝たきりゼロや要介護者の減少につながる取り組みである。
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スライド上部の赤い点線で囲んだ部分に示されているように、わが国の健康寿命は近年、その伸びが停滞している。平均寿命は延びている一方で、健康寿命の伸びは十分とはいえない。平均寿命と健康寿命の差は、現在もおおむね9年から10年程度ある。
これまで私たち慢性期医療に携わる者は、この差を縮め、元気で長生きできる社会を目指す必要があると訴えてきた。寝たきりを増やさず、むしろ減らしていかなければならない。しかし、その健康寿命の伸びが近年停滞している。これは、改めて対策を考えなければならない課題である。スライド下部には、健康寿命を延ばすためのさまざまな対策が示されている。その中で、リハビリテーションも重要な対策の1つに位置付けられている。
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攻めのリハビリテーション
「攻めの予防医療」を進める上では、「攻めのリハビリテーション」が重要な役割を担う。予防領域においても、PTやOTなどのリハビリテーション専門職の活躍が期待される。
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「攻めの予防医療」を進めるためには、「攻めのリハビリテーション」が必要であり、その役割が期待されている。予防医療の領域においても、PTやOT、すなわち理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション専門職が活躍することが求められる。
こうした中、厚生労働省に「リハビリテーション統括調整室」が設置された。大臣官房審議官、医政局医事課長、老健局老人保健課長、保険局医療課長など、関係部局の幹部が構成員として名を連ねている。今後は、リハビリテーション専門職の活躍の場を医療や介護にとどめず、予防や健康増進の分野にも広げていくことが考えられる。「攻めの予防医療」を具体的に進める上で、リハビリテーション専門職が果たす役割は大きい。
こうした背景を踏まえると、スライド右側に示した「理学療法士及び作業療法士法」についても、制度的な見直しが必要になるかもしれない。同法では、理学療法や作業療法の対象を、「身体又は精神に障害のある者」としている。一方、障害のない人や健康な人に対する予防的な介入については、明確に位置付けられていない。予防の段階では、対象者はまだ健康である。そのような人に対して、理学療法士や作業療法士が評価や指導を行えるようにするためにも、制度のあり方を見直していく必要があるのではないか。
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健康寿命を縮める要因
要介護状態となる主な原因の1つに「骨折・転倒」がある。女性では複数回答で27%にのぼる。骨折・転倒は、リハビリテーションの介入によって予防できる可能性がある。
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健康寿命の延びを停滞させている要因は何か。健康で長生きできる期間はこれまで延びてきたが、近年はその延びが頭打ちになっている。円グラフには、介護が必要となった主な原因が示されている。認知症や脳血管疾患に加え、骨折・転倒も大きな割合を占めている。このほか、高齢による衰弱や関節疾患なども挙げられている。
ここで示されているのは、それまで介護を必要とせず自立して生活していた人が、介護を必要とする状態になった主な原因である。男女別に見ると、特に女性で骨折・転倒の割合が高い。単独の原因としては17.8%であるが、複数回答では27%に達している。複数回答とは、例えば、関節疾患によって膝に痛みがある人が転倒して骨折した場合や、認知症のある人が転倒して骨折した場合など、複数の要因が重なっているケースである。高齢による衰弱や脳血管疾患、認知症などが重なっている場合もある。
このように、女性では3割近くの人にとって、骨折・転倒が介護を必要とする状態になる要因となっている。その背景には、女性に骨粗しょう症が多いことがある。骨粗しょう症の有病率は、70歳代では約3人に1人、80歳代では約2人に1人とされている。そのため、転倒した際に骨折しやすい状態にある。男性は女性に比べて骨粗しょう症が少ないため、同じように転倒しても骨折に至らないケースが多いと考えられる。
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要介護の重度化要因
骨折・転倒は、要介護度の重度化を招く要因にもなる。施設内でのリハビリだけでなく、自宅環境や疾患管理を含め、生活全体に介入することが必要である。
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先ほどは、それまで自立して生活していた人が介護を必要とする状態になる主な原因について説明した。では、すでに要介護認定を受けている人の要介護度が重度化する要因はどうか。例えば、要介護1であった人が要介護3や4になる場合などである。
今回、このテーマを記者会見で取り上げようと考えた最大の理由が、スライドに示した「デイケア1年間利用者の要介護度変化と重度化要因」の調査結果である。これは、当院の通所リハビリテーションセンターの利用者を対象に調べたものである。デイケアには、通所リハビリテーションを数年間利用している人もいる。今回は、そうした利用者について、1年間で要介護度がどのように変化したかを調査した。
それによると、1年前と比べて要介護度を維持していた人は72.7%、軽度化した人は5.7%、重度化した人は20.6%であった。利用者は高齢であり、加齢に伴って要介護度が重くなる可能性はある。そこで、重度化した人について、その要因を調べたところ、重度化した人の半数以上で、転倒・骨折が要因となっていた。
転倒・骨折が起きた場所を調べると、自宅での発生が多く、特にベッドサイドや庭などでの転倒が目立った。退院時や訪問時には住宅環境を確認しているが、時間の経過とともに生活動線や利用者の身体状態は変化する。そのため、自宅の環境設定をより細かく、定期的に見直していく必要があることが、この結果から分かる。
スライド右側には、転倒・骨折につながる要因を示している。1つは身体機能であり、バランス能力の低下、筋力の衰え、歩行速度の低下などが挙げられる。 もう1つは環境設定である。段差、照明、手すり、家具や硬い障害物の配置、生活動線などが転倒の要因となる。さらに、疾患管理も重要である。骨粗しょう症、低栄養、サルコペニアのほか、睡眠薬の影響でふらつくことなども転倒につながる。
疾患管理には医師の関与が大きい。一方、身体機能の改善や生活環境の調整については、PTやOT、すなわち理学療法士や作業療法士の関与が極めて重要であり、その専門性が期待される。
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なぜ「攻めのリハビリ」なのか
骨折・転倒は、具体的な介入点とアウトカムを設定しやすい。要介護状態になる前から取り組む「攻めのリハビリ」として期待できる。
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なぜ、「攻めのリハビリ」なのか。主な要介護化の原因には、認知症や脳血管疾患、骨折・転倒などがある。認知症や脳血管疾患は疾患であるのに対し、転倒・骨折は事故であるという違いがある。疾患についても予防は重要である。しかし、高齢者の認知症や脳卒中を完全に防ぐことは容易ではなく、さまざまな要因が関係する。
一方、転倒・骨折は、身体機能の改善、生活環境の調整、疾患管理など、具体的な介入方法を設定しやすい。また、転倒や骨折が減少したかどうかを確認できるため、介入による成果も可視化しやすい。
このように、転倒・骨折の予防は、疾患の予防とは異なる視点で考える必要がある。介入すべき点が明確で、結果も評価しやすいことから、要介護状態になる前に取り組む「攻めのリハビリ」に適した領域である。
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攻めのリハビリモデル(案)
「攻めのリハビリ」のモデルでは、「転倒させない」「骨折させない」「寝たきりにさせない」という3段階の対策が必要である。各段階において、慢性期医療や慢性期リハビリのノウハウが活かせる。
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これは、健康寿命を延伸するための3段階のリハビリモデルである。まず、「転倒させない」ためには、身体機能の改善、生活環境の見直し、疾患管理などが必要である。
一方で、極端に言えば、「転倒しても骨折しなければよい」という考え方もある。骨折を防ぐ上で重要なのは、転倒した際に身体へ加わる衝撃を軽減することである。例えば、転びそうになった時に身体が浮き、衝撃を受けずに済めば、骨折は防げる。現時点では夢のような話に聞こえるかもしれないが、衝撃を吸収するスーツなどを活用するという発想である。
すでに、骨折リスクの高い高齢者には、ヒッププロテクターが用いられている。ヒッププロテクターを装着することで、転倒時に加わる衝撃を和らげ、骨折を防ぐ効果が期待できる。基本的な考え方は、これと同じである。今後は、AIやIT、ロボット工学などを活用し、転倒時の衝撃を軽減する仕組みを開発することで、骨折を防げる可能性がある。こうした技術的な対策も必要である。
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転倒リスク健診の制度化
転倒リスクを評価し、要介護化を予防するための制度設計が必要である。PTやOTなど、高齢者のリスクを評価できるリハビリ専門職が関与することで、制度の実効性を高めることができる。
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転倒リスク健診では、PTやOTが身体機能や生活環境を評価し、医師が疾患や服薬状況などを確認することが必要である。評価の結果、転倒リスクがあると判断された人には、早い段階から短期集中型のリハビリテーションや生活環境の調整、必要な治療を行う。
短期集中型のリハビリテーションは、すでに一部で実施されている。こうした支援に早期につなげることで転倒や骨折を防ぎ、要介護状態への移行を予防することが期待できる。
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攻めのリハビリ戦略(提言)
まとめとして、「攻めのリハビリ戦略」を提言する。骨折・転倒を防ぐ「攻めのリハビリ」は、要介護者の減少と寝たきりゼロ、すなわち健康寿命の延伸に向けた現実的な戦略である。
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「攻めのリハビリ」に関する1つ目の提言は、高齢者を対象とした「転倒リスク健診」の導入である。現在、各自治体や地域では、短期集中型リハビリテーション、在宅リハビリテーション、フレイル予防など、高齢者を支援するさまざまな取り組みが行われている。転倒リスク健診を導入する際には、健診結果をこうした既存の取り組みにつなげることが重要である。
2つ目は、転倒リスク健診の担い手として、PTやOTを位置付けることである。 先ほど説明したように、現行の「理学療法士及び作業療法士法」では、PTやOTの業務は、身体または精神に障害のある人を対象としている。要介護状態になる前の健康な高齢者に対しても、PTやOTが専門性を生かして評価や指導を行えるよう、制度上の位置付けを明確にする必要がある。
3つ目は、ICTやAIを活用し、自宅環境の評価を簡便にすることである。現在、各施設では利用者の自宅を撮影した写真などを用いて、生活環境を評価している。今後はAIをさらに活用し、自宅の写真を撮影するだけで段差の高さや転倒リスクのある場所を抽出し、安全な環境を整えるための改善策を提示できるような仕組みを開発してもよいのではないか。
4つ目は、要介護状態になる前に行う予防的リハビリを評価する制度の創設である。予防的な介入を制度として位置付け、診療報酬などで適切に評価する仕組みが必要である。会見前の理事会でも、当会の会員から「転倒・骨折による高齢者の救急搬送が非常に多い」との意見が出された。特に冬場は搬送が増え、病床が満床となり、新たな救急患者を受け入れられない事態も現実に生じている。 転倒・骨折を減らすことは、高齢者の要介護化や重度化を防ぐだけでなく、救急医療や病床の逼迫を緩和する上でも重要である。
以上である。ご清聴に感謝申し上げる。
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2026年7月24日










