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【第1回市民公開講座】 「明るい病院を」 ─ 水谷豊氏

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年7月22日 @ 4:15 AM In 協会の活動等 | No Comments

 日本の医療は今後、どのような方向に進むのでしょうか。多くの方々が共に医療について考えるきっかけをつくろうと、日本慢性期医療協会は市民公開講座をスタートしました。医療現場の最前線で活躍されている安藤高朗氏(永生病院理事長)が、さまざまなゲストをお迎えして語り合います。第1回は7月3日、俳優の水谷豊氏をお迎えして開催しました。会場には、一般市民や医療関係者らが多数詰めかけ、報道関係者も熱い視線を注ぎました。
 

■ 在宅で看取るということ
 

【司会─竹川勝治氏(愛和病院院長)】
 みなさん、大変お待たせいたしました。これから日本慢性期医療協会の第1回市民公開講座を開催いたします。「安藤たかおと医療の未来を語る」と題して、さまざまなゲストをお迎えして、日本の医療・介護が抱える問題点や今後の課題などについて話し合い、国民1人ひとりが医療を考え、支えるきっかけにしていただきたいと考えています。今回は、俳優の水谷豊さんです。

 最近、水谷さんが単独主演された映画「HOME 愛しの座敷わらし」がとても感動する内容でした。高齢女性が初期の認知症になるシーンがあるなど、医療や介護に携わる者として、深く考えさせられる場面がたくさんありました。認知症をはじめ、医療や介護をめぐる問題は多くの国民にとって最大の関心です。私たちもいずれ迎えるかもしれないし、もう既に迎えている方もいるかもしれません。

 日本はいま、人類がかつて経験したことのない高齢社会が急速に進んでいます。核家族化や少子化などを背景に独居のご家庭が増え、お年寄りの面倒を見る人が少なくなっています。実は、水谷さんのご両親は……。

【水谷豊氏】
 そうなんです。父が昨年、母は一昨年に他界いたしました。4人兄弟ですので、私や兄たちが協力して両親の面倒を見まして、最期は2人とも自宅で看取りました。

【竹川氏】
 ご家族で在宅医療を支えたのですね。それは大変素晴らしいことだと思います。ご自宅で療養生活を続ける中で、困ったことや課題などはございましたか。

【水谷氏】
 介護ヘルパーの方々が頻繁に訪問してくれました。母は車いすの生活を余儀なくされていましたので、ヘルパーさんのほか、リハビリの方も来てくださって支えてくれました。医師や看護師の方々にも手厚い支援を頂くことができまして、本当によかったと思います。

【竹川氏】
 それは本当によかったと思います。地域医療のオピニオンリーダーとしてご活躍されている安藤さんは、「在宅で看取る」ということについて、いかがお考えでしょうか。

【安藤高朗氏(永生病院理事長)】
 水谷さんのように、ご両親お二人とも在宅で看取られるケースというのは非常に珍しいと思います。ご兄弟が多く、また在宅医療・介護を支えるスタッフの方々が充実していたのだと思います。

 特に、水谷さんのご両親がお住まいの地域は在宅ケアのシステムが整っていることで知られていますので、そうした地域性も関係しているかもしれません。さまざまなプラス要素が重なっていたからこそ、在宅での看取りが可能になったという見方もできると思います。

 全国どこの地域でも同様のケアが可能かと言われれば、それはまだまだ難しいのが現状ではないでしょうか。やはり、最期は水谷さんのご両親のように、在宅でお看取りできるようなシステムづくりを進めていくべきだと考えます。アンケート調査などを見ましても、「最期は自宅で」という希望が多いように思います。

【水谷氏】
 日本は平均寿命が世界一ということで、私の両親は平均寿命を超えてから逝きました。父は90歳を過ぎていました。ある日、面倒を見ていた兄が、「おやじが電器屋さんに行って勝手にテレビを買ってきた」と言うんです。父は、「テレビが付かないから」と言うのですが、よく見たらコンセントが外れていたみたいで……。(会場、笑い) 

 在宅医療や介護は大変だと言われます。私の両親の場合も、こんなことが日常当たり前のように起こっていました。でも、笑い話にしながら楽しく過ごせましたので、我が家は恵まれていたのかなと思っています。
 
第1回市民公開講座(2012年7月3日開催)
 

■ 「明るい病院を目指して」─水谷氏
 

【水谷氏】
 私は今月60歳になります。もう還暦です。先ほど、安藤さんに「日本の4分の1以上が65歳以上になる超高齢社会の到来だ」と言いましたら、安藤さんは「いやいや、10歳引いてください」と言うんです。「今の60歳は昔の50歳です」と言う。

【安藤氏】
 そうです。現場でいつも感じるのは、「最近の60歳は本当に元気だ」ということです。学生時代にさまざまな活動をしていたことも関係しているのでしょうか、とてもパワフルに感じます。70歳、80歳でもまだまだお元気ですので、実際の年齢から10歳引いて考えたほうがいいかもしれません。

【水谷氏】
 いつまでも元気であるということは素晴らしいですね。さまざまな活動を通じて社会に貢献できます。高齢化は決してマイナスではなく、逆に日本の元気の源であると思います。

【安藤氏】
 企業においても、団塊の世代は強い発言権があるようですし、若い社員らをしっかりリードしている存在でもあります。ただ、そういう世代がこれから慢性期病院や介護施設に入所してくると、受け入れる側にも相当の覚悟が必要になります。

【竹川氏】
 そうですね。高齢世代はとても元気です。そうした中で、慢性期病院や介護施設を運営する側には、どのような役割が求められているのでしょうか。水谷さん、何か慢性期医療や病院などに期待することはございますか?

【水谷氏】
 昔に比べて医療がどんどん進歩して、入院環境も非常に改善していますが、「入院する」と聞くと、やはりちょっと暗いイメージを持ってしまいます。ですから、ぜひ「明るい病院」というものを目指してほしいと思います。病院の建物だけ明るくても、中で働いている人が暗かったらいけませんよね。「ここに入院して良かった」と思えるような病院がもっともっと増えればいいですね。
 

第1回市民公開講座(2012年7月3日開催)
 

■ 「介護施設で恋をしよう」─安藤氏
 

【安藤氏】
 「明るい病院」というのはいいですね。それに関連しますが、当グループは2005年、東京の新宿区内に「マイウェイ四谷」という介護老人保健施設を開設いたしました。その時のお話をしたいと思います。

 この施設は新宿区の公募案件でしたので、30~40の医療法人などが手を挙げました。書類選考がありましたので、申請書類に何を書こうかと考えまして、当初は高齢者介護のあり方などについて難しいことをいろいろ書こうと思ったのですが、それはちょっと夢がないなと思ったのです。そこで、「介護老人保健施設で恋をしよう」と書いたら、合格してしまいました。(会場、笑い)

 高齢者施設というものは決して暗いものではなく、ワクワク、ウキウキするような、そんな施設を目指したいという思いが新宿区の担当者に伝わったのだと思います。

【水谷氏】
 それはいいお話ですね。

【安藤氏】
 「My Way」という名曲の名前を使わせていただきました。入所されるみなさまが遠く旅してこられた道、すなわち人生を尊重し、ご利用者様1人ひとりが自分の信じる道を楽しみながら、語らいながら、おもしろく過ごしていただける施設です。

 次の施設名は、(ドラマ「熱中時代・刑事編」の主題歌)「カリフォルニア・コネクション」で……。(会場から拍手)

【竹川氏】
 これから、たくさん建つわけですね(笑)。「マイウェイ四谷」には、ビリヤードやゲームセンターなどもあり、とても楽しそうな雰囲気です。今後は、漫才師さんをお呼びするなど、さらに楽しい施設を目指してほしいと思います。明るい施設、楽しい施設に関して安藤さんはオピニオンリーダーですから、ぜひ期待しています。

【安藤氏】
 「オピニオンリーダー」というよりも、「怖い者知らず」です(笑)。

【水谷氏】
 いえいえ、病院や介護施設に対する今までのイメージをどんどん変えていると思います。素晴らしいですね。
 

第1回市民公開講座(2012年7月3日開催)
 

■ 「1つひとつの場面を大切に生きて」─竹川氏
 

【武川氏】
 最後に、お二人の夢をお聞かせいただきたいと思います。

【水谷氏】
 常日頃、思っていることがあります。いつか自分もこの世を去る時が来るだろう。いずれ終わりが来る。よく聞く話では、最期の時に「ああすればよかった」とか、「こうすればよかった」と反省するらしいのです。今までの人生が走馬燈のように頭の中を駆けめぐって、一瞬にしていろいろな出来事を思い出して反省するそうです。

 でも、私は最期の瞬間には、「自分の人生は悪くなかったな」と思いたい。そのためにはどうすればいいのだろうかと、日々考えます。それは、「今日という日は悪い1日ではなかった」と思うことの積み重ねではないだろうか、そう思うのです。

 いつか、自分の身体は自由に動かなくなるかもしれない。誰かのお世話になる日が来るかもしれない。そうなった時、私はいい人と出会いたい。施設に入ることになったら、いいケアをしてくれる人がいる施設に入りたい。「今までいい人に出会えた」という印象が残っていれば、最期の瞬間に「自分の人生は悪くなかった」と思えるような気がします。ですから、私の夢は、たくさんの素晴らしい方々と出会い、最期に「悪くない人生だった」と思うことです。

【安藤氏】
 かつて、高齢者が長期入院している病院は「老人病院」などと言われ、慢性期病院には暗いイメージが付きまとっていました。私は、明るくて元気が出るような病院をつくることが夢です。

 先ほど、「マイウェイ四谷」の開設に関連して、「介護老人保健施設で恋をしよう」というお話をしました。介護施設だけでなく病院も、スタッフの方々をはじめ、そこにいる多くの人々が笑顔で毎日を過ごせるような場を提供したいと思います。

 最期まで恋ができるような医療機関や介護施設をつくって、最終的には医療や介護を通じて、町づくりや人づくり、それから思い出づくりができるような活動を今後も続けていきたいなと思っています。

【竹川氏】
 ありがとうございました。最後に、私からも一言。「HOME 愛しの座敷わらし」という映画の中で、「家族でいられる時間は短い」というようなセリフがありました。この言葉が強く胸に残っています。

 自分が子どものころの家族、それから自分が世帯主になっているときの家族、そして親を見るような状況になったときの家族がある。それぞれ状況が違う中で、1つひとつの場面を大切に生きていかなくてはいけないんだということを、このセリフを聴いてすごく感じました。教えていただきました。

 余談になりますが、まだ観ていない方は、ぜひこの映画を観ることをお勧めします。レンタルビデオ店にあるでしょうか。

【水谷氏】
 いつかテレビでやると思いますよ。(会場、笑い)

【竹川氏】
 ということです(笑)。みなさん、よろしくお願いいたします。それでは時間になりましたので、第1回市民公開講座を終了いたします。水谷豊さん、安藤高朗さん、今日は本当にありがとうございました。
 

第1回市民公開講座(2012年7月3日開催)
                            (取材・文=新井裕充)



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