認知症患者を支える体制整備 ── 定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

橋本康子会長_2026年4月9日の定例記者会見

 日本慢性期医療協会は4月9日の定例記者会見で、「認知症患者を支える体制整備」と題して見解を示した。橋本康子会長は「今後増加する認知症への対応は不可避。療養病棟では既に多くの認知症患者を受け入れている。身体的拘束を実施しないなど、必要な機能を満たす療養病棟での受け入れは可能」と述べた。

 会見で橋本会長は「認知症治療に必要な3つの機能」として、①精神症状治療、②内科的治療、③尊厳を守るケア──を挙げた。

 これらの機能について橋本会長は「療養病棟や回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟も備えているが、認知症治療病棟は精神病床をベースにしている」と指摘。「今後の増加に十分対応できない」との認識を示し、「認知症患者を支える体制整備」の必要性を訴えた。

 同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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本日の内容

[池端幸彦副会長]
 ただいまより、2026年4月度の日本慢性期医療協会定例記者会見を始める。それでは早速、橋本会長から挨拶ならびにプレゼンテーションをお願いする。

[橋本康子会長]
 本日の内容は「認知症患者を支える体制整備」であり、認知症について述べたい。主な項目は3点。1つ目は「認知症患者の推計」である。現在も多くの患者がいるが、今後も増加していくという点である。

2つ目は「認知症治療の3機能」である。皆様も承知のとおり、精神症状の治療、すなわちBPSDなどの行動・心理症状への対応に加え、高齢者に必要な内科的治療、そして最も重要な尊厳を守るケアを適切に行うことが必要である。

 3つ目は「認知症治療」について。現在、認知症治療には精神科の「認知症治療病棟」という枠組みがあるが、患者数が増加しているため、療養病床など他の病床での受け入れも必要である、という点について述べる。

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認知症患者の将来推計

 では、まず認知症患者の将来推計について説明する。認知症患者数、認知症有病率ともに増加するとされている。認知症は発症後、数年をかけて進行し、重度化していく疾患である。
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 左の棒グラフをご覧いただきたい。これは、2022年から2060年までの65歳以上における認知症およびMCI患者数の推計である。MCIとは、認知症のごく軽度な初期段階を指す。MCIを含め、認知症の有病率は2060年に向かって増加していくとされている。

 右側の図は、アルツハイマー型認知症の自然経過を示したものである。 横軸は罹病期間、縦軸は認知症症状の強さを示している。認知症は進行性の疾患であることを、ぜひ認識していただきたい。

 図には、「軽度2年」、「中等度1.5年」、「高度5年」という平均的な期間が記されているが、この間に適切な治療やケアを施せば、進行や重症化を遅らせることができるとも言われている。

 最初の軽度の段階では、同じことを何度も言う、しまい忘れや置き忘れが目立つ、買い物などで失敗するといったことが起こる。さらに進行すると、入浴したことや食事をしたことを忘れる、家の近所で道に迷うといった状況がみられるようになる。

 その後、さらに進行すると、服を着る際に手助けが必要になる、ボタンを留められない、入浴や排泄の際に介助を要するなど、身支度が困難になる。加えて、トイレの水を流し忘れる、失禁するといった状態も生じるようになる。

 以上が自然経過であるが、これに加えてBPSD、すなわち行動・心理症状が表れることがある。大声を上げる、暴力を振るう、放尿、異食、昼夜逆転、徘徊などがみられるが、これらは適切なケアによって徐々に落ち着いていく場合もある。

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認知症治療病棟(精神病床)

 次に、認知症治療病棟について述べる。精神病床が減少する一方で、認知症治療病床は増加している。認知症患者の在院日数は長く、今後の受け入れ先の確保が課題となる。
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 現在、認知症治療病棟は精神病床の中にのみ設けられている。こちらの棒グラフが示すとおり、精神病床全体は2015年の33万6千床から、2024年には31万6千床へと減少している。

 しかし、認知症治療病棟の病床数は約3万5千床から約4万床へと増加している。稼働率も約88%と高く、多くの認知症患者が入院している。精神病床が減少する一方で、認知症治療病床は増加しているのが現状である。また、緑の棒グラフが示すとおり、認知症治療病棟の入院延患者数も増加している。

 右側のグラフは認知症患者の平均在院日数を示したものであるが、血管性認知症、アルツハイマー病のいずれも、およそ1年近くに及んでいる。退院先については、自宅へ戻る方もいるが、病院で亡くなる方が比較的多いと考えられる。

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認知症患者≒高齢者≒多病

 病院で亡くなる方も多いことから分かるように、認知症治療病棟の入院患者のおよそ9割、すなわち88%は75歳以上の高齢者である。高齢者は、認知症以外にもさまざまな合併症を有する、いわゆる「多病」の状態にある。
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 脳梗塞や脳出血の後遺症、パーキンソン病のような難病、廃用症候群、慢性腎不全、慢性心不全、肺炎後の状態など、多様な身体症状を合併している方が多い。加えて、高血圧、糖尿病、脱水、貧血などの疾患や症状も抱えている。

 そのため、精神科病棟に入院していても、精神科の医師だけでは身体合併症のすべてに十分対応しきれない部分がある。

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認知症治療に必要な3つの機能

 認知症治療は、精神科領域だけで完結するものではない。そこで、認知症治療に必要な3つの機能として、「精神症状治療」「内科的症状治療」「尊厳を守るケア」が挙げられる。
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 BPSDによる徘徊、暴言、興奮、妄想、昼夜逆転などに対しては、精神科の専門医が適切な薬物療法を行い、精神症状の改善を図る。これに加えて、慢性疾患の治療、誤嚥性肺炎、脱水、低栄養などに対する内科的治療を、総合診療医や内科医が担う必要がある。精神科医と総合診療医が連携することで、より適切な医療提供が可能となる。

 そして、最も重要なのが「尊厳を守るケア」である。寝たきりを防止し、生活リズムを再構築すること、患者を否定せず、楽しい、うれしいといった正の感情を醸成することが極めて重要である。

 もちろん、身体拘束はゼロを前提とする。さらに、認知症患者であっても自力でトイレに行ける方は多くいるため、ADLを維持する観点から、リハビリテーションをしっかり行うことが必要である。

 以上の3つが、認知症治療に必要な機能である。

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療養病棟は受け皿になる

 療養病棟では、既に多くの認知症患者を受け入れている。身体的拘束を実施しないなど、必要な機能を満たす療養病棟であれば、認知症患者の受け入れは可能である。
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 療養病床には、総合診療の視点で対応できる内科系、外科系の医師が多く配置されている。実際のデータを見ても、療養病棟の入院患者の約60%に認知症があり、約28%にBPSDが、約10%にせん妄がみられる。このように、療養病棟では既に多くの認知症患者を受け入れ、適切な治療やケアを提供している。

 身体拘束についても、認知症のある患者が入院している病棟であっても、30%〜50%以上の病棟では全く実施していないというデータが示されている。

 したがって、療養病床は認知症患者の受け皿として非常に適しており、必要な機能を備えた病棟であると言える。

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認知症は高齢者医療の中心に

 今後、増加する認知症への対応は不可避であり、高齢者医療の中心的課題となっていく。
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 現在の制度では、精神科病床の中に認知症を専門に診る治療病棟が設けられている。

 一方で、精神症状治療、内科的症状治療、そして尊厳を守るケア・リハビリテーションという3つの機能を備えていれば、療養病床に限らず、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟、介護医療院なども、認知症治療に適した場となり得る。

 そのため、今後の認知症治療のあり方として、精神病棟にあるような「認知症を専門に診る病棟」を、療養病床や一般病床などの枠組みにおいても制度上整備していく必要があるかもしれない。

 もう1点、療養病棟における「認知症ケア加算」について述べる。現在は14日目まで高い点数が設定されているが、15日目以降は大きく下がってしまう。BPSDなどの行動障害は、2週間で落ち着かせることが難しい場合も多いため、1~2カ月程度の期間を確保し、適切なケアによって症状を落ち着かせていくことができるような制度設計も検討していただきたい。以上である。
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