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慢性期医療を、次の時代の中核へ ── 定例会見で橋本会長

Posted By araihiro On 2026年1月9日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments

 日本慢性期医療協会は1月8日の定例記者会見で、令和8年度診療報酬改定に関する基本方針等を踏まえた「慢性期医療の役割」を示した。橋本康子会長は「寝たきり高齢者を作らない・増やさない」を冒頭に掲げ、井川誠一郎副会長は「超高齢社会における『地域多機能型病院(ごちゃまぜ病院)』への進化」などを挙げた。

 会見で橋本会長は「慢性期医療を、次の時代の中核へ」と題し、慢性期医療の役割を提示。「寝たきり高齢者を作らない、増やさない」と改めて強調した上で、「医療区分や要介護度の構造改革」を挙げた。橋本会長は「要介護度や医療区分の改善に取り組むほど報酬が下がるという矛盾が存在しており、努力が正当に評価されない状況にある」と指摘し、現場のモチベーションを向上させる仕組みへの転換が不可欠であるとした。

 また、「医療療養病棟」という名称を「慢性期治療病棟」へ改め、慢性期医療が治療を担う医療であることを明確にすべきと改めて問題提起した。慢性期医療は、軽症救急への対応、医療と介護の橋渡し、在宅を含めた「治し支える医療」の中核として、「慢性期医療は単なる急性期医療の受け皿ではない」と述べた。

 続いて井川副会長は、2040年を見据えた地域医療構想と令和8年度診療報酬改定の方向性を軸に、今後の慢性期医療の役割を体系的に示した。井川副会長は新たな地域医療構想に示された「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担を評価した上で、リハビリ・栄養・口腔などを一体的に提供する包括期機能が慢性期医療の主軸になると位置づけた。

 令和8年度改定については、30年ぶりにプラス3%超となった点を評価しつつも、物価上昇に十分追いついていない現状を課題に挙げ、物価に連動した改定の必要性を強調した。さらに、慢性期病院は医療と介護をつなぐ中核として、「地域多機能型病院」「ごちゃまぜ病院」への進化に期待を込め、「地域共生社会形成への貢献」などの役割を挙げた。

 この日の会見要旨は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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私たちが頑張らなければいけない

[矢野諭副会長]
 ただいまより令和8年1月、本年最初となる日本慢性期医療協会定例記者会見を開催する。通常はWebを通じて画面上での開催としているが、新年の記者会見は対面形式で行っている。本年もどうぞよろしくお願い申し上げる。本日は、橋本会長および井川副会長のお二方からプレゼンテーションしていただく。

[橋本康子会長]
 本日は新年最初の記者会見であり、年頭という節目でもある。今年の診療報酬改定の詳細については、後ほど井川副会長から説明する予定である。現時点では、改定内容の細部まで明らかになっているわけではない。しかし、全体の改定率など大枠は示されており、今後、病院経営や慢性期医療がどのような状況に置かれるのか、その方向性は見え始めている。

 診療報酬改定は前回に引き続き6月実施となっているが、改定実施までの期間に、医療現場がどのような状況にあり、何が課題となっているのかについて、本日は皆さまにお伝えしたいと考えている。井川副会長の説明に先立ち、まず私から年頭所感として、簡単に申し上げたい。

 本日は、「慢性期医療を、次の時代の中核へ」というテーマで述べる。これは、日本慢性期医療協会だけの課題ではない。急速な高齢化の進展に加え、医療・介護技術の進歩によって、人々は長く生きる時代となっている。その結果、慢性期医療は、患者と長期間にわたり関わる医療であり、かつ量的にも大きな比重を占める分野となっている。まさに今後の医療提供体制を支える中核的な役割を担う分野である。

 こうした時代において、慢性期医療に携わる私たちが果たすべき役割は極めて大きい。今こそ、責任を持ってこの分野を支え、次の時代へとつないでいく必要がある。「私たちの時代」というか、私たちが頑張らなければいけないと考えている。

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現場の実態や努力が評価されるか

 現時点で把握している診療報酬改定率について申し上げる。今回の診療報酬改定率は3.09%であり、そのうち賃上げ、いわゆる処遇改善に充てられる部分は1.70%とされている。改定率が3%を超えるのは、約30年ぶりであると聞いている。

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 今回、3%を超える改定率が示された背景には、総理や厚生労働大臣、財務省をはじめ、関係者の尽力があったものと受け止めている。しかしながら、それでもなお、物価の高騰や人件費の上昇に十分追いついていないのが現実であり、依然として赤字経営に陥っている病院が多い。この改定によって、どこまでその状況が改善されるのかが問われている。その意味では、医療現場の実態や日々の努力が、必ずしも十分に評価されていないのではないかという印象を持たざるを得ない。

 今後、具体的な点数配分など細部は明らかになってくるが、診療報酬改定のみに依存する姿勢であってはならないことも事実である。その上で、最も重要なのは、慢性期医療が果たすべき役割を明確にし、私たち自身が何を担い、何を実践していくのかをはっきりと示すことである。日本慢性期医療協会として、その責任を自覚し、着実に取り組んでいく必要があると考えている。

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寝たきり高齢者を作らない・増やさない

 慢性期医療の役割については、これまでも繰り返し述べてきたとおり、「寝たきり高齢者を作らない・増やさない」という点が最も重要である。

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 今後、人材不足は一層深刻化する。人口減少に伴い就労人口も減少していく中で、他産業も含めて人材確保が困難となる。こうした状況下で、医療・介護分野だけが人材を増やせると考えるのは現実的ではない。

 一方で、高齢者人口は確実に増加していく。元気な高齢者が増えるのであれば大きな問題は生じない。しかし、寝たきり高齢者が増加すれば、医療・介護の現場に大きな負担がかかり、特に介護人材の不足はさらに深刻なものとなる。だからこそ、私たちは寝たきり高齢者をつくらない、増やさない取り組みを進めていかなければならない。この点については、日本慢性期医療協会として、2年、3年前から一貫して訴えてきたところである。

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医療区分や要介護度の構造改革

 次に、慢性期医療の役割として、「医療区分や要介護度の構造改革」を挙げたい。現在、医療療養病床には医療区分が設定されており、あわせて介護保険制度に基づく要介護度が用いられている。介護保険法が施行されてすでに26年が経過した。

 寝たきり高齢者をつくらないためには、自立支援や重症化予防を進めることが不可欠である。これは厚生労働省も掲げている重要な課題の一つである。その具体的な取り組みとしては、例えば要介護度3や4の状態にある人を、要介護度1や2、さらには要支援の状態へと改善していくことが求められる。

 そのためには、リハビリテーションの実施、適切なケアの提供、栄養状態の改善など、さまざまな取り組みを積み重ねる必要がある。要介護度5の状態からの改善は容易ではないかもしれないが、少なくとも要介護度3や4の人については、歩行能力の回復や経口摂取の再獲得などを目指し、機能改善を図っていくことが重要である。

 しかし、こうした取り組みを進めると、従来から指摘してきたとおり、現行制度では報酬が下がる構造となっている。すなわち、要介護度の改善に向けて努力を重ねるほど、経営上は不利になるという矛盾を抱えている。この点について、「医療者であればボランティア精神で取り組むべきだ」という考え方があることも承知している。確かに、その理念自体を否定するものではない。しかし、病院経営がこれほど厳しい状況に置かれている中で、無償に近い努力を求め続けることには限界がある。

 経営的にも人材的にも余裕があれば、積極的なリハビリ体制を整え、改善に取り組むことは可能である。しかし、余裕のない状況下で、報酬が下がることを承知の上で人材を追加配置し、機能改善を進めることは、現実的には困難である。やりたくても、できないというのが実態である。

 だからこそ、努力し、成果を上げた医療機関が正当に評価され、報酬として報われる制度へと転換すべきである。この点こそ、構造改革の必要性を強く訴えたい理由である。介護保険制度が創設されてから、すでに四半世紀が経過した。制度全体を見直すべき時期に来ていると考える。療養病棟入院基本料における医療区分についても同様の課題を抱えており、抜本的な再検討が必要である。

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急性期医療の受け皿ではない

 次に、「医療療養病棟から慢性期治療病棟へ」という考え方について述べたい。この点については、当協会としてこれまで一貫して主張してきたところである。現在用いられている「医療療養病床」という名称は、「療養」という言葉から、結核療養所のような受動的なイメージを想起させやすい。こうした印象を改めるためにも、「慢性期治療病棟」という名称へ変更すべきであると考えている。

 私たちは、慢性期医療の現場において、明確に「治療」を行っている。その実態を正しく伝えるためにも、名称は重要である。慢性期医療が治療を担う医療であることを社会に示す意味で、「慢性期治療病棟」という呼称への転換を強く望んでいる。

 最後に、「慢性期医療を単なる急性期医療の受け皿ではない医療として位置づける」という点について述べたい。

 その役割は大きく3つに整理できる。第一に、軽症の疾患、例えば肺炎などの救急患者を、高度急性期病院ではなく、慢性期医療を担う病院で受け入れ、治療する役割である。回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、認知症病棟、そして療養病床などにおいて、十分な治療を提供し、回復へと導いている。私たちが担っている慢性期医療は、決して急性期医療の「受け皿」にとどまるものではない。治療が終わった後に静養する場ではなく、現在進行形で医療を行い、治療を実践している分野である。

 第二に、医療と介護をつなぐ橋渡しの役割である。この機能を慢性期の病棟や病院が担うことにより、患者の生活を見据えた切れ目のない支援が可能となる。第三に、慢性期病院は在宅医療や介護サービスと一体となって機能している点である。多くの慢性期医療機関では、介護保険サービスも含めて総合的に提供しており、いわゆる「治し、支える医療」の中心的役割を果たしている。これらの役割を明確にし、社会に示していくことこそが、日本慢性期医療協会に求められている使命であると考えている。

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今後の慢性期医療に向けて

[矢野諭副会長]
 続いて、本日の2つ目のテーマに移る。令和8年度診療報酬改定について、井川副会長から説明していただく。
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[井川誠一郎副会長]
 私は、中医協「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の委員を約6年間務めている。次期診療報酬改定に向けた議論の詳細については、昨年10月末まで中医協委員を務めていた副会長の池端幸彦先生というベテランがいるが、本日は私から説明させていただく。
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 これまでの地域医療構想は、病床の機能分化と連携を中心に進められてきた。2025年に団塊の世代がすべて75歳以上となることを見据え、病床機能ごとの必要量を推計し、地域ごとに調整を行ってきた点は一定の成果を上げている。

井川誠一郎副会長_20260108_日慢協会見 しかし、2040年に向けて85歳以上人口がさらに増加する中、病床だけに着目した議論では、地域の医療・介護ニーズに応えきれなくなっているのが現場の実感である。今後は、入院医療に加え、外来医療、在宅医療、介護との連携を含めた医療提供体制全体を視野に入れる必要がある。

 こうした問題意識を踏まえ、本日は令和8年度診療報酬改定の方向性を概観するとともに、今後の慢性期医療が果たすべき役割について述べたい。あわせて、2040年を見据え、慢性期医療をどのように位置づけ、どのように展開していくべきかについて、日本慢性期医療協会としての考え方を示すこととする。

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進化した地域医療構想

 3ページ目をご覧いただきたい。この資料は、2040年を見据えた新たな地域医療構想の全体像を整理したものである。
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 85歳以上人口の増加と人口減少が同時に進む中、すべての地域・世代の患者が、必要な医療・介護を受けながら生活し、回復後は日常生活に戻れる体制を構築することが目標とされている。そのため、入院医療に限らず、外来、在宅医療、介護との連携を含めた医療提供体制全体を対象とする点が大きな特徴である。
 
 特に、赤い線の箇所。新たな地域医療構想では、「治す医療」だけでなく、「治し支える医療」を担う医療機関の役割を明確化する。従来の回復期機能に加え、高齢者の急性増悪や慢性疾患を支える医療機能を位置付け、地域完結型の医療・介護提供体制を構築する考え方である。

 また、病床機能ではなく医療機関機能に着目し、各医療機関が地域で果たす役割を整理する。その内容は都道府県への報告を通じて可視化され、構想区域や協議の場において実効性ある議論を行う仕組みとされている。
 
 新たな地域医療構想は、単なる病床再編ではない。地域の暮らしを支える医療・介護提供体制を再設計する枠組みである。入院医療だけではなく、外来、在宅医療、介護との連携等も含む医療連携体制全体の課題解決を図るための地域医療構想という形で進化している。特に、「治す医療」を担う医療機関と、先ほど橋本会長が説明したように「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化するという点が重要である。

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包括期機能が主軸になる

 4ページ。新たな地域医療構想における「包括期機能」の位置付けが整理されている。
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 包括期機能とは、高齢者等の急性期患者に対し、治療と入院早期からのリハビリを一体的に提供し、早期の在宅復帰を目的とした「治し支える医療」を担う機能である。
 
 単に急性期を脱した後の回復を待つのではなく、発症直後から生活復帰を見据えた医療を提供する点に特徴がある。このため、救急患者を受け入れる体制を整えて、一定の医療資源を集中的に投入して速やかに急性期を終える役割も担う。こういう役割は、主に地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟が担う。

 包括期機能は日本慢性期医療協会に所属する病院のほとんどが持っている機能であり、この包括期機能が慢性期医療において主軸になっていくのだろうと思っている。

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高齢者救急、在宅医療等連携、専門等機能

 新たな地域医療構想では、医療機関が担う役割を、地域の特性に応じて整理している。医療機関の役割として、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能が想定されている。
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 このうち、包括期機能を含めた慢性期医療については、右から2つ目の欄の「在宅医療等連携機能」であり、全般的にわれわれの範疇である。さらに、一番右端の「専門等機能」のうちの「高齢者等の中長期にわたる入院医療」もわれわれの範疇である。

 さらに言えば、左から2つ目の黄色い部分「高齢者救急・地域急性期機能」のうち、「高齢者救急の対応」も含まれる。高齢者救急はすでに明らかであるとおり大半が軽症・中等症までの高齢者であるから、例えば、地域包括医療病棟などで十分に対応できる。そういう点から考えると、慢性期医療の範疇ということになろうかと思う。

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病院に手厚い評価になっている

 新しい地域医療構想に沿う形で医療保険部会で基本方針が策定され、診療報酬改定の方向性は決まっている。
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 我が国は、人口減少と高齢化が同時に進行する中で、物価や賃金の上昇、人材不足といった構造的課題に直面している。こうした環境変化の中にあっても、すべての地域・世代の患者が必要な医療を受けられ、医療従事者が持続的に働ける医療提供体制を確保することが基本的な認識である。
 
 今改定の柱の1つは、物価・賃金の上昇や人材不足に対応し、医療現場の経営と人材確保を下支えすることであり、これは重点課題である。ICTやAIの活用、タスク・シェアリングの推進などを通じて、医療の質を維持しながら生産性を高める方向性が示されている。

 2つ目は、2040年を見据えた医療機関機能の分化・連携と、地域包括ケアシステムの推進である。入院から在宅、外来までを切れ目なく支える体制を評価し、地域で患者の生活を支える医療の充実を図る考え方である。
 
 3つ目は、安心・安全で質の高い医療の推進である。医療DXの活用やアウトカムに着目した評価を通じて、患者にとって価値のある医療を実現することが重視されている。
 
 さらに、制度全体として、医療保険制度の安定性と持続可能性を確保する視点も明確にされている。限られた財源の中で、医療の質と提供体制をいかに維持するかが問われている。
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 今回の診療報酬改定は、将来の医療提供体制を見据え、医療の質、働き方、制度の持続性を同時に支えるための方向性を示すものであり、30年ぶりにプラス3%以上の改定率となった。
 
 これまで、改定率が大幅に上がらなかった結果、われわれ病院側としては経営危機ともいえる非常に厳しい状況に追い込まれていたが、今回は病院に手厚い評価になっていることは評価できる。

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物価に連動した改定率が必要

 今回のプラス3.09%の改定率は評価できるが、診療報酬が物価上昇に追いついていない。
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 2014年を100とした場合、消費者物価指数は近年大きく上昇しており、特に2022年以降、その伸びは顕著である。一方で、診療報酬改定率は緩やかな上昇にとどまり、物価上昇を十分に吸収できていない状況が続いている。
 
 この乖離は、医療機関の経営に直接的な影響を及ぼしている。医薬品、医療材料、光熱費、人件費といったコストが上昇する中で、診療報酬が実質的に追いついていないことは、現場にとって極めて深刻である。特に、人材確保や賃上げへの対応が困難となり、医療の質や提供体制の持続性に影響を及ぼしかねない状況にある。これは個々の医療機関の努力で解決できる問題ではなく、制度全体の課題である。
 
 今後は、物価動向や経済環境を踏まえ、医療提供体制を維持するための基盤として捉える必要がある。物価に連動した形での改定率が必要ではないかと考えている。

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Patient flow からみた慢性期病院の位置づけ

 これまで述べた背景を踏まえ、これからの慢性期医療、今後の慢性期病院について述べたい。
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 まず、Patient flowの視点から、慢性期病院が地域医療の中で果たす役割を整理する。
 
 慢性期病院は、医療と介護をつなぐ橋渡しの役割を担っている。高度急性期治療を終えた患者に対し、回復期から中長期の入院医療、慢性疾患管理を提供し、在宅復帰や施設移行へとつなぐ重要な連携拠点である。
 
 また、慢性期病院は多職種連携の拠点としての機能も果たす必要がある。医師、看護師、リハビリ職、介護職、福祉職が連携し、患者のQOL向上を目指したケアプランを作成し、継続的な支援を行う役割を担っている。
 
 さらに、地域の医療資源を効率的に活用する観点からも、慢性期病院の存在は欠かせない。急性期病院のベッド回転率向上を支え、限られた医療資源を地域全体で有効に活用することに貢献している。
 
 慢性期病院は、単に長期入院を受け入れる場ではない。医療・介護・福祉をつなぎ、患者の生活を地域で支えるための中核的な役割を担う医療機関である。地域の医療機関、介護施設、行政との情報共有を促進して、患者の途切れないケアなどを実現することによって地域医療体制の堅持に貢献すべきだと考えている。

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「地域多機能型病院」への進化

 こうした観点を考慮に入れると、2040年を見据えた慢性期病院の役割、方向性が見えてくる。
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 まず、超高齢社会における「地域多機能型病院(ごちゃまぜ病院)」への進化である。超高齢社会の進展により、慢性疾患患者や認知症高齢者は今後さらに増加する。この中で慢性期病院には、単なる療養の場ではなく、医療・介護・生活支援を一体的に担う「地域多機能型病院」へ進化することが求められている。
 
 軽症救急への対応や、在宅医療・訪問看護・介護との連携を強化し、地域全体で患者を支える中核となる役割である。幅広い範囲の医療を供給しなければならない。これを専門病院化で供給するのは極めて効率が悪い。できれば1つの「地域多機能型病院」で在宅復帰が可能な状態にするのが理想的だと考えている。

 「地域ごちゃまぜ病院」というのは、当協会の武久洋三名誉会長が推奨されている考え方である。主に過疎地での複合型の医療・介護施設。同じ病院施設に併設された介護施設がある形態だが、この考え方はもっと大きな地域でも考えられる。

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地域に貢献する「ごちゃまぜ病院」

 大阪では昨年、万博が開催されたが、1970年にも大阪万博が開催されていたことを、若い世代の中にはご存じない方がおられるかもしれない。1970年の万博会場は、現在、太陽の塔が建っている一帯である。この場所は、実は日本で最初のニュータウンとして、昭和37年、すなわち1962年にまちびらきが行われた千里ニュータウンである。

 千里ニュータウンは、開発面積1,160ヘクタール、計画人口15万人という大規模ニュータウンとして整備され、昭和50年、1975年には人口約13万人とピークを迎えた。しかしその後、人口減少が続き、子育て世代を中心に転出が進んだ結果、平成17年、2005年にはピーク時の約70%にあたる約9万人まで人口が減少した。

 その後、豊中市や吹田市といった自治体の取り組みにより、人口回復に向けた努力が続けられ、現在では10万人を超える水準まで回復している。しかし、高齢化率に目を向けると、1975年には3.5%にすぎなかったものが、2010年以降は30%を超える状況が続いている。30%という数字は、大阪府全体の高齢化率である27%を上回る比率であり、千里ニュータウンは、都市部にありながら、高齢化の進んだ地域となっている。

 このような地域においてこそ、かかりつけ医の機能を組み込んだ「ごちゃまぜ病院」や「地域多機能病院」は、地域に大きく貢献し得る存在になるのではないかと考えている。

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2040年を見据えた慢性期病院の役割

 少子高齢化の進む日本で、人材不足は医療界のみならず、全ての産業における課題である。ここでいかにDXを推進できるかが大きな鍵になるが、医療界、特に慢性期病院におけるDXは遅れていると言わざるを得ない。
 
 デジタル化できる多くの部分があるのはわかっていても、そこに予算を配分できない。一般企業と異なり、デジタル化によって効率が良くなっても、それが直接、人件費のカットにはならない。施設基準等で配置人数が決まっているため、なかなか人件費を減らすことができず、直接収益に結びつかない。そのため、設備投資の予算が組めないという実情がある。

 中医協等でも診療側の委員が訴えているが、初期投資に対する公的補助だけではなく、その後の維持・管理にかかるランニングコストへの手当ても必要である。
 
 慢性期病院は地域共生社会の形成にも貢献する存在である。予防医療や健康づくりの拠点として地域住民と関わり、多様な生活背景を踏まえた個別化ケアを実現することで地域全体の医療資源を最適化し、持続可能な医療体制を支える。
 
 住んでいる地域から外れることなく、できれば住み慣れた地域で最期を迎えたいと思うのが人の心だろうと思う。われわれは、それに寄り添った医療・介護を今後も提供していきたい。本日は、日本慢性期医療協会が考える慢性期病院の方向性を述べさせていただいた。
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