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【第9回】 慢性期医療リレーインタビュー 伊豆敦子氏

Posted By 日本慢性期医療協会 On 2012年6月14日 @ 2:32 PM In インタビュー | No Comments

 社会福祉法人・平成福祉会が運営する介護老人福祉施設「ヴィラ四日市」の理事長で、日本慢性期医療協会の医療保険委員会委員長を務める伊豆敦子氏は、医師になることを父親に反対されたたため農学部に進み、社会経験を積んだ後に医師の道に入ったという経歴の持ち主で、「女性は医療や看護職などにすごく適性がある」と話します。
 

■ 医師を目指した動機
 

 あまり崇高な使命感などはなく、まず父が医師だったということが挙げられます。ただ、父は女医がすごく嫌いでした。もう亡くなりましたが、考え方が古い人間で、女性が4年制大学に行くことも嫌いという、私には兄がおりますが、いわば「長男至上主義」でした。

 ですから、私が医師になることは全く期待されていませんでした。高校3年生のころ、医学部に進学しようと思った時期もあったのですが、父に反対されましたので農学部に進みました。そして、卒業後は民間の出版社に就職しました。

 当時は男女の格差が激しい時代で、社会に出ますと、「なぜ男性ばかりこんなに有利なのか」と思うことが多々ありました。そこで、私は次第に「女性は資格を持っていないと社会でやっていけない」と思うようになりました。医師の家庭で育ったこともあって、医療という世界が身近にありましたから、「やはり医師になろう」と思って医学部に入りました。実はその時、父はすごく喜んでくれました。

 つまり、女性は資格を持っていたほうがいいと思ったこと、そして資格ならば医療関係がいいと思ったこと、この2つが医師を目指した主な動機です。私が医学部を卒業したのは昭和59年ですから、もう28年目になりますが、女性が自立して、社会に役立つ仕事をしていく上では、医療や福祉などの分野がいいと今も思っています。女性は医療や看護職などにすごく適性があります。当時はさほど意識しませんでしたが、医師になってみると特にそう思います。
 

■ 慢性期医療に携わって思うこと
 

 私は、慢性期医療に携わってすごく良かったと思います。それはなぜかと言いますと、人生の先輩から多くのことを学べる機会が多いからです。高齢の患者さんから本当にいろいろなことを教えてもらいました。私は高齢者の方々に接することがとても好きなので、慢性期医療との関わりはとても良かったと思っています。

 高齢化が進み、慢性期医療の守備範囲がすごく広いということが今、強く意識されています。慢性期医療イコール高齢者医療ではないのですが、慢性期医療と高齢者医療はかなり近いものがあります。今後、高齢化がますます進んで慢性期医療の重要性がさらに広く認識されると思います。私は、時機を得た分野で仕事ができることはラッキーだったと言いますか、慢性期医療に携わってきて良かったなと思います。
 

■ これからの慢性期医療はどうあるべきか
 

 健康な老年期を過ごせる社会になればいいと思います。病気になるのは仕方ありませんが、QOLを保ったまま、ある程度健康な老後を過ごせるような社会作りを目指していきたいと思います。

 慢性期病院の中には、患者さんが終身入っている施設もあります。何もできないし動けない、意識もあるかどうか分からないような高齢者の皆様方がたくさん入院されている病院もあります。確かに、そういう病院も必要なのですが、やはり病院というからには、治療して少しでも改善してもらって、地域に帰していく機能が必要です。そして、地域の施設や自宅でたくさんサービスを受けながら、家族や仲間と過ごせる社会にして、私もそこで過ごせるようになることを望みます。

 最近、退院して自宅に戻っていただこうとすると、「うちで介護するのは無理です」と、家族が入院の継続や施設入所を希望するケースが増えています。現実的には、十分な在宅サービスシステムができていないので、無理もありません。しかし、そうではなくて、家族も地域社会も高齢者を受け入れ、患者さんが置かれた状況を一緒に共有できるような地域社会ができていけばいいと考えます。

 自分が動けなくなったとき、慢性期の病院にポンって放り込まれて、そこにずっといるのはやっぱり嫌じゃないですか。「ちょっとでも良くなったら帰りましょう」という病院があり、在宅ではお医者さんや看護師さんがすぐに来てくれるようになるといいですね。こうした地域密着型の医療を厚生労働省も目指しているとは思いますが、なかなかまだそこまで行っていませんので、今後の大きな課題ではないでしょうか。
 

■ 若手医師へのメッセージ
 

 私は農学部を出て2年間仕事をしてからもう一度大学に入りました。最近では、看護師にしてもリハビリスタッフにしても、これまでの人生の路線を変えて入ってくる人が多いように感じます。そういう方々は一度社会経験を積んでいますから、その経験を仕事の上で生かすことができます。

 もちろん、若い人の方が向いている職種もありますが、医療や福祉に携わって人の役に立ちたいという気持ちがある人は、年齢にかかわらずどんどん入ってきてほしいと思います。これからますます高齢者人口が増えますので、就職難になることはないと思います。

 自分が仕事をすることで役に立てたときには、仕事をしていてよかったという実感があります。相手も嬉しいし、「ありがとうございます」と感謝されます。たいてい、商品などを売って「ありがとうございます」と言うのは売る側ですよね。ところが医療や福祉ではお客さんの方から「お世話になって本当にありがとうございます」と言ってもらえます。これは本当に嬉しいです。患者さんやご家族の方々の笑顔を糧に、またがんばろう!と思えます。

 役に立って感謝されて、資格があるのでどこに移っても働けます。そういう仕事ってなかなかないですよね。特に女性の場合は、「ワーク・ライフ・バランス」を保ちやすいので、医師に限らず、ぜひ医療や福祉の分野に来てほしいと思います。
 

■ 日本慢性期医療協会への期待
 

 私は医師になってから間もなく慢性期医療の分野に入りました。高齢者は、若い人とはその生理・代謝などが全く異なっていますので、慢性期医療というのは、高齢者医療についての専門的な勉強と、幅広い視野が必要な分野で奥が深いと思います。

 これからの医療では、もっともっと慢性期医療のウェイトが大きくなると思いますので、若いドクターが慢性期医療について学ぶ機会がもっと増えればいいと思います。各診療科で専門的な力を付けたドクターたちがたくさん慢性期医療に入ってきてくれたら、その医療レベルはもっと上がります。

 私は日本慢性期医療協会の医療保険委員会の委員長なのですが、今年度の診療報酬改定を見ましても、慢性期医療への流れを感じます。高度な医療がしっかりしなければいけないということはもちろんですが、最近では急性期段階を終えたらすぐに慢性期の病院に患者さんが流れてきます。

 急性期病院の平均在院日数がどんどん短縮していますので、急性期を終えた患者さんは、回復期などを含めた慢性期医療に移行せざるを得ません。どこからどこまでを慢性期と考えるかはいろいろな立場がありますが、「ポスト・アキュート」を慢性期と考えています。また、介護施設や在宅などから救急患者を受け入れる機能も備える必要があり、これから日本慢性期医療協会はもっと発展していかなければなりません。

 慢性期医療に携わるスタッフはものすごく幅広いことをやらなければいけないため、各職種間の協力が重要です。慢性期医療の現場では、まさにチーム医療が中心になっていくと思います。その根本にあるのはチームで患者さんを支えるという考え方です。患者さん本位の姿勢を持ちながら、協会と共に慢性期医療をどんどん良いものにしていきたいと考えています。(聞き手・新井裕充)
 

【プロフィール】

社会福祉法人平成福祉会 介護老人福祉施設ヴィラ四日市 理事長

京都大学農学部農林生物学科を卒業後、出版社勤務を経て千葉大学医学部入学
昭和59年 千葉大学医学部卒業 呼吸器内科入局
昭和62年 平成病院開院 院長就任
平成11年 東浦平成病院開院 院長就任
平成12年 社会福祉法人平成福祉会 介護老人福祉施設ヴィラ四日市 理事長就任
平成23年 平成医療福祉グループ 医療部長就任

趣味は社交ダンス、中国語・韓国語ドラマの観賞
毎日、笑顔を忘れず、明るく楽しく過ごすことを心がけています。

所属:日本リハビリテーション医学会、日本内科学会、日本糖尿病医学会
 



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