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介護医療院の受け入れ、「要介護度にギャップ」── 7月24日の定例会見
Posted By araihiro On 2025年7月25日 @ 11:11 AM In 会長メッセージ,協会の活動等,役員メッセージ | No Comments
日本慢性期医療協会は7月24日の定例記者会見で、「介護医療院における急性期病院からの受け入れに関する調査」の結果を公表した。当会常任理事で日本介護医療院協会の猿原大和副会長(介護医療院湖東病院理事長)は、急性期病院から受け入れた入所者の要介護度と実際の要介護状態との間に「ギャップがある」と指摘。施設の持ち出しになるケースでも受け入れている現状を伝え、「現場の皆さまが非常に努力している」と述べた。
日本介護医療院協会は当会の会内組織として平成30年4月に創設。学会におけるセミナーや記者会見などで調査結果を定期的に公表し、介護医療院の現状や課題を提示している。
この日の会見には、同協会の鈴木龍太会長、猿原副会長が出席。今回の調査目的について鈴木会長は「要介護度の変更申請が間に合わないまま、介護医療院で亡くなる事例が近年、多く発生している。その実態を把握するため、今回の調査を実施した」と説明。こうしたケースが多く見られる病院併設型ではない介護医療院Ⅰを運営している猿原副会長が調査結果を報告した。
続いて、橋本康子会長が「慢性期医療とICT・DX ~寝たきりゼロへの有効活用~」と題して見解を示した。橋本会長は医療・介護情報に関する現状を伝えた上で、医療ICT・DXやマイナ保険証の課題などを提示。システム導入への支援に謝意を示しながらも、ランニングコストの負担などへの支援も必要であると指摘した。
猿原副会長、橋本会長の会見要旨は以下のとおり。なお、資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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[矢野諭副会長]
定刻となったため、令和7年7月の日本慢性期医療協会定例記者会見を開催する。本日の会見内容は二点である。はじめに、今回の調査について日本介護医療院協会の鈴木龍太会長から説明していただく。
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[鈴木龍太会長]
当会が本年4月に実施した「介護医療院における急性期病院からの受け入れに関する調査」について報告する。
急性期病院から介護医療院へ入所する際、比較的要介護度が軽度とされる状態で入ってくる方も見受けられるが、実際には末期のがん患者であったり、病態が進行して要介護度が実際には高い状態となっている場合も多い。
このようなケースでは、要介護度が軽度とされたまま介護医療院に入所するものの、実際のケアにおいては高い要介護度に相当する対応が必要となる。ところが、要介護度の変更申請が間に合わないまま、介護医療院において亡くなる事例が近年、多く発生している。その実態を把握するため、今回の調査を実施した。
当会副会長の猿原氏が、病院併設でない介護医療院Ⅰを運営しており、その施設では、先ほど説明したような入所者が多く見られるため、詳しくは副会長の猿原氏より説明していただく。
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[猿原大和副会長(介護医療院 湖東病院理事長)]
介護医療院における急性期病院からの受け入れに関する調査の集計結果を報告する。調査対象は、介護医療院を運営する会員施設313施設であり、これらに対してアンケート用紙を送付した。その結果、62施設から回答を得ることができた。回答率は19.8%。比較的高い回答率であると受け止めている。
回答して頂いた全国における介護医療院の療養病床数は総計6,243床であり、このうちⅠ型が5,667床を占めており、全体の90.8%に達している。Ⅰ型介護医療院は医師の宿直が義務付けられており、そのためⅡ型と比較して医療ニーズが高い方を受け入れることができる。また、看取りに関しても高い実績を持つ介護医療院である。
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スライドの2-1を参照されたい。2024年9月1日から2025年2月28日までの6カ月間における急性期病院(併設病院を除く)から新規に入所した入所者数および要介護度の状況についてのデータである。なお、ここでいう「新規入所者」とは、過去に介護医療院に入所しており、急性期病院等に入院した後に、再度介護医療院に入所した者を除外している。
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調査結果によれば、要介護4および5の入所者が全体の64.7%を占めており、最も多い層であった。一方で、「未認定又は要支援1又は要支援2(要介護認定を申請中)」「要介護度1」「要介護度2」に該当する要介護度の低い入所者も18.5%を占めていた。
この18.5%に含まれる低要介護・要支援の入所者のうち、入所時に「認定された要介護度」と「実際の利用者の状態」にギャップがあった。すなわち、施設側が介護報酬とケア負担が見合わないと判断した入所者は、全体の65.4%に上った。例を出すと、入所時には要介護1と認定されていたものの、実際には要介護4または5に相当する状態であり、「想定以上のケアが必要であった入所者」や「想定を超える医療行為が必要となった入所者」などが該当する。
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次に、スライド2-3を参照いただきたい。要介護度にギャップがあったと考えられる入所者について、入所前にすでに要介護度の変更申請が行われていたか否かを調査した。
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調査結果によれば、急性期病院等において、すでに要介護度の変更申請が行われていた入所者は48.2%であった。すなわち、残りの半数においては変更申請がなされていなかったことになる。また、「認定されている要介護度」と「実際の利用者の状態」にギャップがあった入所者のうち、入所から30日以内に死亡退所となった事例は18人、すなわち21.7%に上った。
当院は静岡県に所在するが、同県における直近のデータによれば、要介護度の変更申請には30日以上を要するケースが約4割あるという。したがって、この21.7%という数値は大きな意味を持つ。実態に即した要介護度への変更が行われないまま、看取りに至った入所者が一定数存在した可能性がある。
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スライド3に関する設問では、2024年9月1日から2025年2月28日までの6カ月間において、急性期病院からの新規入所依頼のうち、「認定されている要介護度」と「実際の利用者の状態」にギャップがあったことを理由として、受け入れを断念した事例があったか否かを尋ねた。
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その結果、要介護度と実態との間にギャップがあったことを理由に入所を断ったことがあると回答した施設はゼロだった。すなわち、要介護度が低いからといって、入所を拒否するような介護医療院は1つもなかったことは、とても誇らしく思う。介護医療院が果たすべき役割が現場において着実に浸透し、現場の皆さまが非常に努力している結果であると感じている。以上をもって、結果報告とする。
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[矢野諭副会長]
引き続き、橋本会長より本日の会見内容についてご説明をいただく。
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[橋本康子会長]
本日は、「慢性期医療とICT・DX」に関する見解を述べたい。副題に掲げたとおり、「寝たきりゼロへの有効活用」をテーマとし、日本慢性期医療協会として長年掲げてきた「寝たきりゼロ」という目標が、医療DXの推進とどのように結びつくかについて述べたい。
まず、医療におけるICT化・DX化の目的は、医師・看護師・介護職等が医療、ケア、看護に専念できる環境づくりをすることにある。その実現のためには、「プロセス」として、情報共有のための仕組みの構築や、ICT導入に伴う費用への公的支援が不可欠であると考える。
「アウトカム」としては、要介護者や寝たきり高齢者の減少を目指すことが重要であり、それによって結果的に社会保障費の抑制にも資するものと期待している。
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まず、医療機関におけるICTとはいかなるものであるかについて整理したい。医療機関では、患者情報のみならず、現場業務や事務業務においてもICT化が進んでいる。
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医療機関におけるICTは、大きく分けて「医療情報」「現場情報」「管理情報」の3つに分類される。第一に、医療情報とは、医療の中心となる患者に関する情報である。具体的には、電子カルテ、オーダリングシステム、検査結果、処方データ、レセプトなどがこれに該当する。
第二に、現場情報がある。これは、患者とスタッフ間あるいはスタッフ同士の情報伝達・情報共有に関するものであり、ナースコールやスタッフコール、さらに院内PHSやスマートフォンを通じた情報共有が含まれる。また、患者側からの情報としては、離床センサーやセンサーマットなどもこれに分類される。第三に、管理情報がある。これは病院経営を支える事務系の情報であり、医事会計、シフト管理、人事・労務、経理・財務、さらには物品発注に関する情報などが含まれる。
このように、医療機関におけるICTおよびDXは、医療情報、現場情報、管理情報という3つの領域に大別される。
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医療機関におけるICTやDXの現状について述べる。現在の医療ICTは、すべての課題を解決する「魔法の杖」ではないという現実を直視する必要がある。
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近年、医療ICTおよび医療DXは、学会等でも注目を集めており、重要な議題として取り上げられている。これらの必要性および重要性は、急性期のみならず、慢性期、在宅期、包括期といったあらゆる医療の局面で論じられている。また、リハビリテーション分野においても、ICT・DXの推進が強く求められている。しかしながら、医療ICTやDXが全ての課題を即座に解決する手段ではないという点を十分に認識しておかねばならない。
将来的には、医療DXやICTが飛躍的に進展し、人間に近い高度な機能を備えた人型ロボットの登場も予想される。そのような技術が実現すれば、ケアの領域において、たとえばトイレ誘導、食事介助、排泄ケアなどを担うことが可能となるかもしれない。しかし、現時点においてそのような技術は未成熟であり、医療ICTが対応可能な領域と、現時点では不可能な領域とを的確に見極めて運用する姿勢が求められる。しばしば「ICTの導入によって人員削減が可能になるのではないか」との意見が見受けられるが、それは現実とは異なる。
介護報酬を算定するにあたっては、明確な人員配置基準が定められており、基準を下回る形での人員削減は不可能である。現時点においても、必要最低限の人員体制で運営しているとされており、むしろ介護の質を維持・向上させるためには、さらなる人員の増加が望ましいと考えられる。医療・介護・看護の各領域においては人的資源が不可欠であり、質を損なわずに提供を継続するためには、人員の確保が前提となる。実際のケア現場においては、人手による対応が不可欠である。
ただし、人員を削減するのではなく、業務効率化によって負担を軽減することは可能である。ICTやDXの導入が進めば、将来的には業務の効率化が期待されるが、現時点ではそこまでの水準には達していない。多くの医療機関・介護施設において、依然として電話およびFAXが主たる連絡手段として用いられており、ICT環境は限定的である。
例えば、現時点における病院の医療情報クラウド利用率は16.4%にとどまっており、多くの施設では院内専用のオンプレミス型システムが主流である。このため、外部ネットワークと遮断された環境下での運用が求められ、セキュリティを最優先とした結果、依然としてFAX等の使用が不可欠な状況にある。また、生成AIの活用についてもセキュリティ上の観点から制約を受けている。
さらに、医療ICTの推進には多大な費用が必要である。初期導入費用については一部補助制度が存在するが、それだけでは不十分であり、運用開始後には継続的なランニングコストが発生する。例えば、電子カルテやオーダリングシステムの導入には数千万円から億単位の初期投資を要する。その後も、保守費用、システムエンジニア(SE)採用費用、システム維持費など、多岐にわたる経費が月額で発生する。加えて、診療報酬改定に対応するためのシステム改修・更新等も定期的に求められるため、これらを含めた費用負担についても、今後は十分に考慮される必要があると考える。
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現在、マイナンバーカードを用いた保険証、いわゆる「マイナ保険証」の利用が本年中に広く普及する見込みである。厚生労働省をはじめ関係機関においても、その利用促進に積極的に取り組んでいるが、依然として解決すべき課題が存在する。
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特に、慢性期医療においては、慢性期病棟が急性期病院の後方支援機能を担っている関係上、急性期病院からの情報提供が不可欠であり、情報連携は極めて重要な要素である。例えば、ある患者がどのような手術を受け、どのような疾患を抱えており、どのような治療経過を経て当該施設に移ってきたのかといった情報が正確に共有されなければ、後方病院において適切な治療方針を立てることは困難である。
また、薬剤に関しても同様である。急性期病院から転院してくる患者が現在どのような内服薬を使用しているのかについて、持参薬を確認することで一定程度の把握は可能であるが、それが実際に現在服用中の薬剤と一致しているか否かについては、判断がつきにくいケースもある。
このように、前方医療機関と後方医療機関の間での医療情報の確実な連携がなされなければ治療の継続性が損なわれ、医療提供に支障をきたす恐れがある。したがって、慢性期医療における質の確保と安全な医療提供体制を維持するためには、ICTを活用した情報連携体制の整備が今後ますます重要となる。
マイナ保険証は、今後の情報連携の有力なツールとなりうるが、現時点では円滑に運用できる状況には至っておらず、使い勝手の面で多くの課題を抱えている。マイナ保険証には、過去5年間にわたる医療情報が蓄積されている。例えば、ある患者が脳卒中や骨折を発症し、急性期病院において入院・手術を受け、その後、リハビリテーションを目的として回復期リハビリテーション病棟に転院するというケースを想定する。この場合、マイナ保険証に記録された診療情報を閲覧すると、数十ページに及ぶ詳細なデータが、医療機関別・日付別に表示される。そこには投薬、手術、処置、点滴、オペ記録など、あらゆる診療行為が網羅的に記載されている。
しかしながら、これらの情報は一切精査されることなく、未整理のまま出力されるため、回復期リハビリ病院のスタッフは「今、飲んでいる薬だけ知りたいのに」と思いながら、一生懸命、探し出さなければいけない。必要な情報を抽出するには、大変な労力を要するのが実情である。
こうした現状から、診療情報のやり取りにおいてマイナ保険証を活用することは、将来的には最も現実的かつ迅速な手段となると期待されるが、現段階では運用面において多くの修正・改善が必要である。情報量の豊富さ自体は評価に値するものの、数十ページに及ぶ情報がそのまま提示されるような現行の仕組みでは、実用性に乏しいため、今後はより情報を整理・抽出しやすいシステムへの改良が求められる。
情報提供におけるタイミングの問題もある。現在のマイナ保険証における情報は、月初から月末までの診療内容をレセプト請求に基づいて集計し、翌月11日以降に反映される仕組みとなっている。例えば、8月5日に患者が入院した場合、その患者に関する7月分の診療情報は、まだ閲覧できない。したがって、患者がどのような病状であったかを即座に把握することが難しく、情報反映までに時間を要する点が課題となっている。
情報の網羅性にも限界がある。令和7年5月時点で、医療機関受診者のうちマイナ保険証を利用している割合は43%にとどまり、いまだ半数に満たない。年末には利用率がほぼ100%に近づくことが期待されるが、現時点では情報の完全な把握には至っていない。
また、マイナ保険証による情報提供には患者本人の同意が必要である。入院患者であっても、「自身の診療情報を閲覧されることを拒否する」との意思を示す者がいる可能性があり、その都度、同意の確認作業が求められる。
以上のように、情報の整理、タイミング、網羅性、そして同意取得の煩雑さといった複合的な課題が存在しており、マイナ保険証を用いた医療情報の有効活用には、今後さらに制度的・技術的な整備が必要であると考える。
それでは、現時点において入院前の患者情報をどのように取得・把握しているのか、実際の運用状況を紹介したい。まず、紹介元の医療機関においては、医師、看護師、リハビリテーション専門職、薬剤師などが診療情報提供書を作成し、それを紹介先の医療機関へFAXで送信する。
紹介先では、FAXで受信した診療情報提供書を印刷し、カルテに添付するという形で情報を取り込んでいる。すなわち、現状においても依然としてFAXが主たる情報伝達手段として活用されている。仮に、診療情報に不明点があった場合には、紹介元の医療機関へ電話で問い合わせる対応が必要となる。
このように、現時点においては電話とFAXが情報連携の主要な手段として機能しており、これらに依存した体制からの転換が今後の重要な課題である。マイナ保険証を通じて取得できる診療情報はPDF形式で提供されるが、この形式ではコピー・ペースト等の編集・再利用が困難であるため、運用面での利便性にも課題が残る。したがって、診療情報の取得・共有の在り方については、今後、効率性と実用性を高めるための見直しが不可欠である。
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現在、電子カルテ情報共有サービスの整備が進められており、2025年度中には全国展開が予定されている。この仕組みによって、診療情報を必要なときに必要な範囲で効率的に取得できる体制の構築が期待されている。
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具体的には、診療情報提供書(紹介状)を紹介先の医療機関等に対して電子的に送付できる仕組みが整備されつつある。一般の方がこの事実を知ると、「これまで電子送付ができなかったのか」と驚かれるかもしれない。
実際の運用では、紹介状の送付手段としてはFAXが主流であり、紹介元の医療機関から紹介先の医療機関へFAXで送信されることが一般的である。一部では郵送も行われていたが、郵送では情報伝達に大きなタイムラグが生じるため、実務上はFAXが選択されてきた経緯がある。
電子カルテ情報共有サービスが普及すれば、診療情報の電子化と迅速な情報共有が可能となり、情報の受け渡しが飛躍的に改善されると見込まれる。導入当初は、操作性の難しさやシステム上の不具合が生じる可能性もあるが、それらは運用の中で改善していけばよい。もちろん、現状の仕組みだけで十分とは言えず、多くの課題が残されていることも事実であるが、それでもこの取り組みを起点として前進させなければ、医療情報の円滑な連携は難しいだろう。
これまで説明してきた情報共有の仕組みは、医療機関間、すなわち病院から病院への情報連携を対象としており、電子カルテ情報共有サービスによって対応可能な領域である。しかし、今後求められるのは、医療から介護への情報連携である。これまでの説明には介護保険領域が含まれておらず、医療と介護の情報共有に関しては、現時点ではほとんど進展が見られない。
医療と介護の連携の重要性は以前より指摘されているものの、実際に医療情報と介護情報が統合的に共有される体制は未整備であり、将来的には医療・介護の両分野にまたがる情報連携を円滑に進めるための仕組みづくりが不可欠である。
現在、介護施設においてはインターネット回線を用いた情報通信が一般的である一方で、医療機関においては同様の環境が整備されていない場合も多い。このようなインフラの格差をどのように克服するかが、今後の大きな課題となる。また、必要な情報のみを適切に共有する仕組み、例えば、介護情報の一部を医療情報に統合するといった具体的な運用も検討すべきである。
例えば、ある患者が急性期病院を退院し、回復期リハビリテーション病棟へ転院するケースにおいて、その患者が急性期入院以前に介護保険下でどのようなサービスを受けていたのかという情報は、患者本人または家族からの聞き取りによらなければ把握できないのが現状である。このような情報の空白を解消するためにも、医療と介護を横断した情報共有体制の整備が急務である。
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ICT化の目的と手段という視点から、改めて考えたい。当会では、「寝たきりゼロ」の実現を使命として掲げており、ICT化の目的もまた、良質な慢性期医療の提供を通じた「寝たきりゼロ」の達成にある。ICTはその目的達成のための手段であり、結果として社会保障費の低減も期待できる。
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要支援・要介護度ごとの認定者数の推移を見れば、要介護1に該当する者は平成26年から令和4年にかけて増加の一途をたどっている。高齢化の進行に伴う増加はやむを得ないが、それでも要介護4や5といった重度の要介護者を可能な限り減少させていく取り組みが必要である。そのための一助として、ICT化が位置づけられる。医療ICTを導入しても現場の人員数を削減することはできないが、業務の効率化によって職員の手間を軽減し、結果として本来業務への集中を可能にする。
これにより、介護スタッフがケアに専念できる時間を確保し、業務の質を向上させることができる。医療現場では、看護師は看護業務に、介護士は介護ケアに、リハビリ専門職はリハビリ業務に、それぞれ本来の役割に専念することで、全体としてサービスの質が向上する。例えば、患者のトイレ誘導を行ったり、立位介助を丁寧に実施したりするなど、残業せずとも日常的なケアを的確に行える時間的余裕が生まれる。
こうしたICTの活用によって得られる環境整備は、結果として「寝たきり」期間の短縮につながり、アウトカムとして社会保障費を低減させる可能性がある。要介護2や3の段階での重度化を抑えることができれば、要介護4や5への移行を防ぐことができる。仮に、要介護2・3のうちの重度化を半分に抑制できた場合、月額で約100億円の介護費用削減が見込まれるという試算もあり、その効果には大きなインパクトがある。
したがって、要介護2・3の状態にある者を、1人でも多く要介護1や要支援の状態に改善する努力が求められる。高齢化により、要介護状態のまま年月を重ねることは避けられないが、たとえ最終的に死亡に至るとしても、それまでの期間における要介護4や5のような寝たきり状態の期間を可能な限り短縮することこそが、ICT導入の真の目的であると考える。
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現在、ICT化促進を目的とした補助金制度が設けられており、これにより医療現場におけるICT導入の加速が期待されている。ただし、ICT導入には初期投資のみならず、月額利用料をはじめとするランニングコストも継続的に発生するため、導入後の運用に対する支援策の充実が求められる。
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「生産性向上・職場環境整備等事業」に基づく支援では、病院および有床診療所には、許可病床数に4万円を乗じた額が支給され、無床診療所に対しては1施設あたり18万円が交付される。支給対象期間は令和6年4月から令和8年の3月末までとなっている。この制度を活用し、ICT機器やアプリケーション等を導入することで業務の効率化が期待される。初期投資に対して一定の補助がある点は非常に有意義であり、経営的にも歓迎される。
しかし、経営者の立場からは、導入後の運営費用、すなわちランニングコストに対する懸念も大きい。ICT機器を導入した後は、保守・メンテナンス費用、システムの更新費用等が毎月発生し、その総額は決して軽微なものではない。このため、せっかく導入したものの、運用の継続に不安を感じる医療機関も少なくない。こうした現実を踏まえ、ICT導入後のランニングコストに対する支援についても、制度的な手当てを講じていただきたい。
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最後に、本日の内容をまとめる。現在、人材不足が深刻な課題として懸念される中で、医療・ケア・看護に専念できる環境を整備し、それぞれの質を向上させることが求められている。その環境整備の手段として、ICTの導入は極めて有効である。
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「寝たきりゼロ」を実現するためにも、ICTの活用は重要な手段であり、その継続的な推進には、導入後の運用を支える費用支援が不可欠である。ICTの活用によって要介護者や寝たきり高齢者が減少すれば、その結果として社会保障費の抑制にもつながることが期待される。
今回、医療DXやICTについて言及したのは、「DXを進めれば人員を削減できる」という誤解を正したいという思いがあった。確かに、今後ますます医療・介護人材の不足が見込まれる中、ICTの活用は対策の一環として有効である。しかしながら、例えばベッドサイドにセンサーマットを導入し、業務負担を軽減するような取り組みはあっても、それが即座に人員削減につながるというような過度な期待を抱くべきではない。ICTはあくまでも業務効率化や質の向上を図るための補助的手段であり、人の役割を完全に代替するものではないという認識を共有していただきたい。
また、初期投資に対する補助があることは非常にありがたいが、それのみでは十分とは言えず、今後はランニングコストなどの継続的な支援策がなければ、ICT導入を持続可能なものとすることは困難である点を強調したい。以上である。
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[矢野諭副会長]
本日は、介護医療院における急性期病院からの受け入れに関する調査について鈴木龍太会長、猿原大和副会長から説明していただいた。また、学会をはじめとする様々な場で議論されているICT・DXについて、特に慢性期医療の現場でいかに推進していくかというテーマに焦点を当てて、橋本康子会長よりご説明をいただいた。
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